ガバメントクラウドとは?自治体が得られるメリットや仕組みを解説

2023年10月24日更新
2022年3月29日掲載

ガバメントクラウドとは?自治体が得られるメリットや仕組みを解説

「ガバメントクラウド」をご存じでしょうか?端的にいうと政府が提唱しているクラウド活用を前提とした大規模なIT基盤のことで、行政に関わるサービスのデジタル化を推進するものです。

本記事では、現時点で公表している政府のレポート内容に沿って、ガバメントクラウドの概要や自治体が得られるメリット、仕組みを分かりやすく解説します。

目次

ガバメントクラウドとは?

ガバメントクラウドとは、国の全ての行政機関(中央省庁・独立行政法人など)や地方自治体が共同で行政システムをクラウドサービスとして利用できるようにした「IT基盤」のことです。「ガバメント」は日本語で政府を意味することから「政府クラウド」や「Gov-Cloud」とも呼ばれています。

現状、行政機関や各自治体は独自に業務システムを開発・運用しています。そのためシステム要件やデータフォーマットがそれぞれで異なっていたり、自前でシステムの保守・監視運用する必要があるなどの課題がありました。

こうした行政に関わる業務システムをまとめて、ひとつのクラウド上の基盤に構築し、共通化・標準化した上で監視運用できるようにしたものが、「ガバメントクラウド」です。

今後の情報システムにおいて、政府はクラウドサービスを優先的に活用することを検討する方針(クラウド・バイ・デフォルト原則)を決定しており、全ての市町村が住民票や地方税など標準的な業務システム(2022年に17業務から20業務へ拡充)を2025年までにガバメントクラウドに移行する予定です。

ガバメントクラウドの仕組みとは?

ガバメントクラウドでは、最新の技術水準に基づく標準的なクラウド環境を提供することにより、行政機関や自治体のアプリケーション開発を「モダン」にしていくことをサポートするとしています。

ガバメントクラウドの仕組みを簡潔に示したものが以下の図です。

ガバメントクラウドとは_仕組み

各開発ベンダは、標準仕様に準拠して開発した業務アプリケーションを、最新のクラウド技術を最大限に活用したインフラ上に、自動で、柔軟かつ迅速に構築できるようになります。

ガバメントクラウドには複数の同一アプリケーションが存在し、自治体はそれらアプリケーションの中から自らの裁量で最適なサービスを選択できるようになります。具体的にどういったアプリケーションになるのか、その要件や構築の際のマニュアル・ドキュメントなどは、今後検討・提示されていく予定です。

また、従来はアプリケーション・各自治体ごとに異なる形式で保持していたデータも、クラウド上に標準化して格納することで、異なるアプリケーションから参照できるようになります。

ガバメントクラウドの目的・メリット

ガバメントクラウドの目的やメリットについて自治体の視点で見ていきましょう。

●  各自治体のサーバ導入・運用コスト削減

●  自治体システムの標準化・共通化

●  システム開発基盤統一化

各自治体のサーバ導入・運用コスト削減

サーバを自庁舎内に設置する必要がないため、設置に伴うさまざまな関連するコストを省くことができます。従来のように、自前でサーバなどのハードウェアやOS・ミドルウェア・アプリケーションなどのソフトウェアを所有する必要もなくなります。

また、クラウド化でテンプレートに基づいた適切なマネージドサービスを利用し、構築と運用の自動化を実現することでインフラコストの削減が達成できるほか、インフラ稼働状況の可視化・透明化により、コストに対する適切な評価も可能になります。

さらに、ベンダが共通的な基盤上で開発したアプリケーションを自治体が選べるようになることでベンダ間競争が発生し、コスト削減や使い勝手、性能の向上が図れます。

自治体システムの標準化・共通化

各自治体のシステムを標準化することでバラつきをなくすことができます。

国全体としてデジタル化を進める観点からも、バラつきのない標準化されたシステムを各自治体が保有していることが望まれます。こうした理由から、標準化・共通化の必要性は高く、早急な取組みが求められています。

特に、住民基本台帳や税務などの分野の基幹系システムは、自治体の情報システムの中でも非常に重要な位置を占め、その維持管理に加え、法令・制度の改正による対応の負担が大きいため、ガバメントクラウドによるシステムの共同利用によって、自治体間の情報システムの差異の是正が進むとともに各種の負担軽減が期待されています。

また、ベンダロックインを防ぎ、ベンダ間のシステム更改を円滑にする目的があります。システムの機能要件や様式などについて、法令に根拠を持つマニュアルを整備し、各ベンダはそのマニュアルに則したシステムの開発を行い、全ての行政機関や自治体で利用可能な形として提供することになります。

  • ベンダロックイン:特定ベンダの技術に依存した製品やサービスなどを採用した情報システム構成にすることで、他ベンダの同種製品への乗り換えが困難になること。

データ移行や連携の柔軟性向上も、ガバメントクラウドの目的としてあげられます。従来はアプリケーションごとに異なる形式で保持していたデータを標準化・共通化してクラウド上に格納することで、異なるアプリケーションからも参照しやすくなります。

さらに、他のベンダが提供するアプリケーションへの移行が容易になるほか、アプリケーション間でのデータのやり取りのハードルも標準化・共通化によって下がります。

システム開発基盤の統一化

アプリケーションの開発ベンダは、その標準仕様に準拠して開発した基幹業務※などのアプリケーションを、ガバメントクラウドの基盤上に構築できるようになります。

  • 基幹業務(標準化対象の業務)20業務
    (住民基本台帳、戸籍、戸籍の附票、固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税、印鑑登録、選挙人名簿管理、子ども・子育て支援、就学、児童手当、児童扶養手当、国民健康保険、 国民年金、障害者福祉、後期高齢者医療、介護保険、生活保護、健康管理)
ガバメントクラウド標準化対象の業務(20業務)

複数のベンダが、基幹業務などのアプリケーションをガバメントクラウドに構築し、自治体はそれらの中から選択が可能になることで、情報システムの迅速な構築と柔軟な拡張を行いやすくなります。

また、スケーラビリティが高いのもガバメントクラウドのメリットとなる点です。住民に新たなサービスを逐次、素早く届けられます。

さらにアプリケーションのユーザ体験を向上させ、世の中の状況変化に応じて柔軟に変更できるようなモダンな開発環境によって、柔軟かつ迅速にデジタル化された行政サービスの提供が可能となります。

ガバメントクラウドのセキュリティ要件は?

住基や地方税などの重要なデータを取り扱うことから、ガバメントクラウドでは万全なセキュリティ対策が求められています。クラウドベンダが提供する最新技術を活用することで、高いセキュリティと可用性・スケーラビリティを利用できます。

ガバメントクラウドでは、複数のクラウドベンダが提供する複数のサービスモデルを組み合わせて、それらを相互に接続することになっており、「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」のリストに登録されたサービスから次の要件を満たすクラウドサービスを調達します。対象クラウドは後述しますが、現時点では4サービスのみ選定されており、厳しい基準を適用しています。

  1. 不正アクセス防⽌やデータ暗号化などにおいて、最新かつ最高レベルの情報セキュリティが確保できること。
  2. クラウド事業者間でシステム移設を可能とするための技術仕様等が公開され、客観的に評価可能であること。
  3. システム開発フェーズから、運⽤、廃棄に⾄るまでのシステムライフサイクルを通じた費⽤が低廉であること。
  4. 契約から開発、運⽤、廃棄に⾄るまで国によってしっかりと統制ができること。
  5. データセンタの物理的所在地を⽇本国内とし、情報資産について、合意を得ない限り国外への持ち出しを⾏わないこと。
  6. ⼀切の紛争は、⽇本の裁判所が管轄するとともに、契約の解釈が⽇本法に基づくものであること。

ISMAP(イスマップ)について

ISMAP(イスマップ)は、「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(Information system Security Management and Assessment Program)」の略称です。

政府が求めるセキュリティ要件を満たしているクラウドサービスを評価・登録することにより、クラウドサービス調達におけるセキュリティ水準の確保、かつ円滑な導入を進めることを目的とした制度です。

他国と比べた場合、日本ではクラウドサービスのセキュリティを評価する仕組みがこれまでに整備されていなかったため、共通の評価制度に則ってクラウドサービスを評価する制度を新たに検討することとなり、正式にこのISMAPが発足されました。

なお、ソフトバンクにもISMAPを取得したホワイトクラウド ASPIRE(アスパイア)があり、SLA99.999%を保証した高い安定性の国産クラウドです。

ガバメントクラウドに採用されたクラウドベンダ

クラウドベンダについては、2021年10月に大手グローバルIT企業である Amazon 社の「AWS」と Google 社の「Google Cloud」の2社が採択され、2022年10月にはMisrosoft 社の「Microsoft Azure」、Oracle社の「Oracle Cloud Infrastructure」が追加されています。

不特定多数が利用できるインターネットを通じてデータを共有する「パブリッククラウド」と呼ばれるインフラで、民間利用において世界的に広く普及が進んでおり、低コストでかつ使い勝手が良く長年の実績から評価の高いサービスとなっています。

データセンターに関しても、政府による「データセンターの物理的所在地を⽇本国内とする」というセキュリティ要件を満たしており、高い可用性の確保が可能です。

(2023年10月追記)
上記4つのパブリッククラウドに加え、令和5年度も引き続きクラウドベンダを募集しています。前回からの変更点として、複数社によるクラウドサービスの組み合わせやサードパーティ製ソフトウェアなどを利用することで要件を満たすことも可能としました。これにより国内企業によるガバメントクラウドの採択が行われる可能性もでてきました。

ガバメントクラウド先行事業とは

ガバメントクラウド先行事業とは、自治体がガバメントクラウドを活用した標準準拠システムを安心して利用できる環境を構築するために、先行して実施する事業のことです。2021〜2022年度にかけて、ガバメントクラウドへの移行に係る課題の検証を行う自治体を国が公募していました。

以下の自治体がガバメントクラウド先行事業(市町村の基幹業務システム)として選定されています。

  • 神戸市
  • 倉敷市
  • 盛岡市
  • 佐倉市
  • 宇和島市
  • 須坂市
  • 美里町
  • 笠置町

これら自治体は地域性や人口規模の違いで偏りがないように選定されており、特に政令指定都市である神戸市では、「2021年度よりネットワーク環境の構築、開発環境の整備、本番環境の設計・仮サーバの評価を進め、2022年度中に現行システムのクラウド上での動作検証、データの移行、その他のテストまで完了させる」想定をしています。(2021年10月27日神戸市発表より)

(2023年10月追記)
デジタル庁のガバメントクラウド先行事業の中間報告によると、「令和4年度において、システムのリフト、データ移行、動作検証等のテストまで完了させ、令和4年度先行事業終了後の本番稼働を予定していたが、先行事業でリフトしたシステムの本番稼働は実施せず令和5年度も継続して先行事業として検証を実施しており、標準準拠システムの令和7年度末の本番稼働」を目指しています。

迫る2025年への対応

2025年度末までを目処に、行政サービスの基幹業務システムをガバメントクラウド上に構築し移行せねばならないことから、各自治体は基幹業務システムの統一や標準化に関する検討を関連する事業者と進めています。

(2023年10月追記)
今までは、令和7年度(2025年度)までに、ガバメントクラウドを活用した「標準準拠システムへの移行を目指す」と標準化の基本方針を出していたものの、全自治体の移行スケジュールおよび移行に当たっての課題を把握し、令和5年(2023年)9月の閣議決定により「基幹業務システムを令和7年度(2025年度)末までに移行」することとしました。

移行期限については法的な拘束力はありませんが、2025年度までにガバメントクラウド上に構築された標準準拠システムへの移行に関しては、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に移行支援として基金が設定されています。多くの自治体はこの補助を受けるために期限内の移行を目指しています。

 

なお、「地方公共団体情報システム標準化基本方針」では、ガバメントクラウド以外のクラウドも条件付きで認められています。

そこで選択肢の一つとしてあげられるのが国産クラウドです。上記であげたホワイトクラウド ASPIREのようにISMAPを取得している国産クラウドもあり、海外製のクラウドサービスと併用することも可能です。国産クラウドを活用している自治体の導入事例を「ガバメントクラウドの現状と国産クラウドでできること」でご紹介しています。ぜひご覧ください。

まとめ

ガバメントクラウドは、クラウドサービスの利点を最大限に活用することで、柔軟、迅速かつ高セキュリティでコスト効率の高いシステムの構築を可能とし、ユーザにとって利便性の高いサービスをいち早く提供・改善していくことを目指しています。

デジタル庁発足以降、このガバメントクラウドの推進が一層加速しているように見受けられます。一方で、未だ検討すべき課題が多いことも事実です。ガバメントクラウドやデジタル・ガバメントに関する実行計画は政府主導で進めている面が大きいですが、自治体の情報システム担当者にとって決して人ごとではなく、避けては通れない話です。それぞれの自治体が先頭に立って主体的にデジタル化を推進することで、国・地域全体のデジタル・ガバメントを効率的に進めることにつながるといえるでしょう。

ソフトバンクでは、ガバメントクラウド基盤に最適なネットワークの構築サポートしています。パブリッククラウドのAWSMicrsoft AzureGoogle Cloud国産クラウドASPIREなどの複数クラウドに接続できる閉域接続サービス「Onepot マルチクラウドアクセス」を利用すれば、セキュアに一元管理でき即時開通や増速も可能です。ガバメントクラウドへ移行の際は、ぜひ一緒にご検討ください。

関連資料

ガバメントクラウドの現状と国産クラウドだからできること

自治体におけるクラウド現状と実際に国産クラウドを活用している自治体の導入事例交えてご紹介します。

関連サイト

自治体DX推進による職員業務の合理化、テレワークの推進、ガバメントクラウド上で構築された標準準拠システムへの基幹システムの移行など、様々な課題解決が求められています。ソフトバンクはマルチクラウド活用のノウハウを活かし、最適なクラウド・ネットワーク環境の提供や導入後の運用サポートを行います。

VMwareの仮想化基盤をベースに、ソフトバンクの信頼性の高いネットワークサービスをはじめ、データセンターやマネージドサービスなど多様なサービスとの連携が可能な、SLA99.999%を誇る国産クラウドサービスです。政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)のクラウドサービスリストに登録されています。

AWS、Microsoft Azure、Google Cloud、Oracle Cloud Infrastructure、IBM Cloud、さくらのクラウドなどの複数のクラウドに対応したネットワークサービスです。クラウドごとの回線は不要、オンデマンドな帯域変更や接続先追加が可能になるため、柔軟なネットワークを構築することができます。

おすすめの記事

条件に該当するページがございません