これまでの自治体クラウドの取り組みとは?目的や効果、導入における今後の課題

2022年3月29日掲載

これまでの自治体クラウドの取り組みとは?目的や効果、導入における今後の課題

近年、クラウドコンピューティング技術の進化に伴い「電子自治体」「スマート自治体」といったキーワードが注目を集めています。

自治体において「クラウド」の導入が積極的に推進されることで、自然災害からのデータ保護や住民サービスの向上が期待されています。

一方で、自治体によるクラウド導入推進の過程には、さまざまな課題があるのも事実です。

そこで本記事では、「自治体クラウド」についての概要と目的や効果、導入における今後の課題について解説いたします。

目次

自治体クラウドとは?

政府では、2013年度の閣議によって「自治体クラウド」を以下のように定義しています。

「地方公共団体が情報システムを庁舎内で保有・管理することに代えて、外部のデータセンターで保有・管理し、通信回線を経由して利用できるようにする取組。複数の地方公共団体の情報システムの集約と共同利用を進めることにより、経費の削減および住民サービスの向上などを図るもの。」(2013年度閣議決定)

「クラウド」といえば、一般的に民間企業で導入されるイメージが強いですが、今や自治体などの公的機関でもクラウド導入が進んでいます。

クラウド導入の特質としては、「システムを所有する」から「サービスとして利用する」になることです。

従来の自治体の情報システムでは、ハードウェア(サーバ)などは自庁舎内に設置し、業務システム(アプリケーション)は、独自開発あるいはベースとなるパッケージに追加開発やカスタマイズを行い、さらに自治体職員が主体的にシステム運用を行うといった、いわゆる「所有型」でした。

一方でクラウド導入の場合、システム本体を地方自治体側では所有せず、ベンダ側が提供するサービスを利用する形となります。

サーバなどのハードウェアは、ベンダ側のデータセンターに設置、業務システムはベンダ側で用意するパッケージをそのまま使用あるいは一部をカスタマイズして使用し、システム運用もベンダ側が行います。コストに関してもクラウドの場合は「サービス利用費」としてベンダに支払われます。

自治体によるクラウド導入の形態

クラウド導入の形態として以下2通りあります。

  •   自治体が単独でのクラウドシステム化
  •   複数の自治体が協力してクラウド化

単独クラウド

自治体が単独でクラウドを導入、システムを構築し利用する形態です。主に政令指定都市といった大規模自治体において実現されています。

自治体クラウド

複数の自治体が協力してクラウドを導入し、システムを構築し共同で利用する形態です。本記事では、こちらの形態をメインに解説していきます。

自治体クラウドイメージ

自治体クラウドの目的と効果

「なぜ自治体がクラウドを導入するのか」その目的と導入による効果について見ていきましょう。

  •   重要なデータを自然災害から守る
  •   情報セキュリティ水準の向上
  •   情報システムの構築・運用コストの削減
  •   業務を共通化することで住民サービスの質が向上する

重要なデータを自然災害から守る

災害時においてデータを守ることは重要になります。自然災害によってデータが損失すると、行政サービスが滞るためです。

クラウド化によって複数のデータセンターに業務システムとデータを分散することで、災害時に素早い復旧が可能になります。

特に東日本大震災や台風・豪雨などの被害を受けて、BCP※(業務継続計画)の重要性に対する認識が年々高まっており、住民情報をベースとする基幹系業務システムでは、BCPへの対応が不可欠となっています。

※BCP(業務継続計画)・・・自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合に、中核となる業務の継続あるいは早期復旧を図り、業務が執行できるようにするための計画。

クラウドは、データセンターの耐震・耐久性の確保のほか、バックアップデータの遠隔地・分散保管、自治体間の相互ネットワーク支援が可能なため、BCP対応の観点からも最適といえます。

情報セキュリティ水準の向上

自治体が自前でシステムを構築して所有するよりも、すでに完成されたクラウドのシステム・パッケージを導入する方が、安全なセキュリティ水準を担保できる可能性があります。

クラウドの場合、24時間365日の有人監視および最新のセキュリティ技術を導入し、厳重な入退室管理を行っているデータセンターにデータを委託することになるため、個人情報を含む行政情報を高いセキュリティで保管できます。

また、アクセスログの取得・分析による不正アクセスのリアルタイム検知や、定期的な情報セキュリティ監査の実施によってセキュリティを確保することで、インシデント発生時の原因調査が図れます。

情報システムの構築・運用コストの削減

システムを構築するには、多大なコストがかかります。大規模な自治体であればまだしも、小規模でかつ利用範囲が限定されているような自治体では、自前で大きな予算をかけてシステムを構築するのは困難です。

自治体クラウドを複数の自治体で共同利用する場合、「割り勘効果」などにより、クラウド導入の各フェーズで発生する1団体当たりのコスト負担を削減できます。

特に人件費に関しては、職員やベンダの人件費、外部コンサルタントなどのコストは、複数自治体でプロジェクトを一本化することにより、大幅な削減が見込まれます。

運用作業も複数の自治体が共同利用により一括して行えるため、作業が効率的になり、運用のランニングコストを削減できます。

また、サーバを仮想化することによってハードウェアを削減でき、かつアクセスピーク時の処理量を踏まえてハードウェアの構成が決まるため、大量一括処理などの分散実施によりコスト低減効果が期待できます。

さらに、自庁舎内にサーバ室を設置した場合と比較すると、将来的にかかっていく設備(保安・消火設備など)の更新費や電気料金(空調・電源など)も削減できます。

業務を共通化することで住民サービスの質が向上する

クラウド化による業務効率化だけでなく、新たな住民サービス創出の視点も重要です。

自治体間での業務の共通化・効率化により住民サービスの質が向上します。さまざまな業務負担を減らすことによって、サービスの質の向上に業務を集中できるようになるためです。

また、自治体間でのシステム的な結び付きが深くなると、各種の行政手続きにおいて連携が取りやすくなります。

自治体によるクラウドの導入状況

すでに数多くの自治体でクラウドの導入が進んでいます。

以下の図を見ても分かるように、年々導入団体数は増え続けており、2020年の調査では、1279もの自治体がすでにクラウドへの移行を果たしています。

自治体クラウドの導入状況

参照:​​総務省「クラウド導入市区町村数の推移」より作成

また、2019年に閣議決定された政府のIT戦略である「世界最先端デジタル国家創造宣言」の中では、「2023年度末までに単独クラウドを合わせで導入団体を約1,600団体、自治体クラウド導入団体を約1,100団体にする」との目標を設定しており、今後も自治体システムのクラウド移行が一層進むと見込まれています。

自治体によるクラウド導入事例

ここで、自治体によるクラウド導入事例を複数ご紹介します。

【奈良県下7市町】クラウドを活用した基幹系業務システムの共同利用

平成以降の自治体合併の動きの中において、奈良県内の市町村合併がなかなか進まず、各自治体の業務は依然としてそれぞれが独自に運用管理している状況でした。

そこで、広域連携を模索する2市5町(香芝市・葛城市・川西町・田原本町・上牧町・広陵町・河合町)では、「システム関連経費の削減」を最大の目的として、クラウドを活用した基幹系業務システムの共同利用を短期間のうちに実現。共同利用の対象となっている業務は住民基本台帳や住民税、選挙、国民年金、子ども手当など22にものぼります。

最終的に削減されたコストや職員のリソースは新たな住民向けのサービスの拡充に割り当てられています。

【豊橋市・岡崎市】国保・年金システムの共同利用

愛知県の豊橋市と岡崎市では、業務継続性の向上やITシステム全体にかかるコスト低減を実現する方法として、両市が共同でシステムを調達・利用しています。

豊橋市と岡崎市はともに人口が約38万人で、中核市の基幹業務におけるクラウドサービスの利用は全国で初といいます。

両市のシステムでは、自然災害やセキュリティへの耐性が高いデータセンターに国民健康保険と年金システムを設置し、両市の職員が市役所に設置されたPCから専用回線やVPNを介してデータセンターにアクセスします。

同システムを利用することで、災害時の業務継続性の向上や法改正に基づくシステム変更に対して柔軟に対応するほか、両市で共通のサービスを利用することでコストの低減も図っています。

導入の課題

一方で自治体クラウドの導入には課題もあります。

  • 自治体間のコンセンサスが難しい
  • システム構築から運用までに多大な時間とコストがかかる
  • スペシャリスト人材の不足

自治体間の事前検討とコンセンサスが難しい

事前検討から自治体間で念入りに協議する必要があり、コンセンサスに達するまでの過程が難しいといいます。

合意形成にあたっては、推進組織の形態、規約、役割分担、予算など広範囲に及んだ議論が必要となるためです。

また、自治体ごとの人口規模、現行ベンダの状況の差、基幹系・内部情報系などシステムの違いによっては業務の標準化が難しい場合もあります。業務間のデータ連携にも留意し、できるだけ多くの業務システムを対象に標準化の協議が必要です。

さらに、クラウドの提供形態に関しても「SaaS」「PaaS」「IaaS」「PaaS」と多様なため、より最適な形態を選択できるように検討する必要があります。

システム構築から運用までに多大な時間とコストがかかる

ベンダの選定からシステム設計、実際の開発から運用に向けての現場トレーニングなど、多大な時間とコストがかかります。

例えば、データ移行に関してフォーマットの違いによる移行作業の負担や各団体が管理している外字の同定作業などが想定され、クラウドを推進する上で課題となっています。財政が厳しい自治体にとっては、それらを含めたコストの発生は自治体運営の中で大きな負担となります。

一方で、コストに関しては「自治体クラウド導入団体支援事業」による助成金を受けることで負担を削減する方法もあります。

スペシャリスト人材の不足

情報システムに精通したスペシャリスト人材が職員にいない点も課題として考えられます。

対策として、自治体クラウドをこれから導入あるいは検討する団体に対し、国および自治体が運営する地方公共団体情報システム機構では「自治体クラウド支援アドバイザー」を派遣して、自治体クラウドの導入に関する技術的な支援等を実施しています。

一方で、導入によって自治体外に事務局が設置され機能した結果、情報システム担当の職員が育たなくなるという課題もあります。

開発運用をベンダに依存しつつも、情報システム担当者となる職員の育成は自治体内で継続して行っていく必要があります。自治体グループによっては共同での研修を実施している事例もあるようです。

民間企業との人材交流によって育成を図る方法も人材不足への対策として考えられます。

まとめ

本記事では、自治体クラウドについての概要と目的や効果、導入における今後の課題について解説いたしました。

今後ますます導入・推進されていくといえますが、一概に自治体クラウドといっても千差万別でクラウドによって扱う業務の領域が異なります。それぞれの自治体の事情に沿ったクラウド導入を推進していく必要があります。

また、自治体クラウドではセキュリティや自然災害などからのデータ保護、コスト削減は大前提です。住民が本当に求めているITサービスを提供できるのかどうかも非常に重要になります。

本記事が、自治体におけるクラウド導入取組みの一助となれば幸いです

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