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答えのないAI時代に向けて、子どもの生き残る力を育む「STEM教育」。その現状と教育スクール「ステモン!」の目指す先とは

答えのないAI時代に向けて、子どもの生き残る力を育む「STEM教育」。その現状と教育スクール「ステモン!」の目指す先とは

英語やプログラミングの必修化など、2020年度以降は新しい学習指導要領によって子どもたちへの教育が大きく変わろうとする中で、新しい教育メソッドとして「STEM(ステム)」が注目されています。

STEM教育スクール「ステモン!」を主催する、株式会社ヴィリング代表の中村一彰さんと、2019年6月からSTEM教育事業に参入し「ステラボ」を運営するSB C&S株式会社 の引地広明さんに、今後社会で必要とされる能力や、このAI時代を担う子どもたちへの教育はどのようなものが求められているのかを語ってもらいました。

STEM(ステム)とは?

科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の4つの領域を横断的に学習することで、生活や社会を通じて総合的な能力を高めていく教育システムの総称。IT社会とグローバル社会に適応した人材育成人材を育てる21世紀型の教育システムとして注目されています。

アメリカ経済がこれからさらに成長するために欠かせない人材育成としてオバマ前大統領が提唱したほか、イギリスやシンガポールなどでも子どもたちがこれからの時代を生き抜くために必要不可欠なものとして推進されています。

モノづくりを通して「探求力」が身につく、つくって試す新しい学習メソッド「STEM」

プロフィール

株式会社ヴィリング代表 中村 一彰(なかむら・かずあき)さん

教育実習にて公教育の画一的な集団形成に違和感を抱き民間に就職。株式会社ゴールドクレスト株式会社エス・エム・エスの2社に勤務。株式会社エス・エム・エスでは、創業期からマザーズ上場、東証一部への市場変更までの7年間で、新規事業・人事の責任者を歴任。2012年株式会社ヴィリングを設立。STEM教育スクールの「STEMON」、探究型学習スクール「BOKEN」などを運営している。

SB C&S株式会社 引地 広明(ひきち・ひろあき)さん

新卒でSB C&Sに入社後、流通部門でコンシューマ営業、営業推進を担当。2015年からロボット関連の新規事業立ち上げを推進し、STEM製品の売り場、コンテンツなどを企画。現在は、STEM・ICT・プログラミングスクール「STELABO」のプロジェクトに従事している。

それぞれ運営されているSTEM教育スクールについて教えてください。

中村:STEM教育はまだ日本での認知度が低く、ロボット教育やプログラミング教育と勘違いされることがあります。それらもSTEM教育の一部ですが、主催しているSTEM教室「STEMON(ステモン!)」では、手を使ってモノを「つくる」ことを重視したカリキュラムが中心です。

モノを「つくる」ことで仕組みを学び、テクノロジーを活用して“創造する力”と“表現する力”を身につけることを目指しています。

引地:私たちが運営するSTEM教室「STELABO(ステラボ)」は、「ステモン!」のカリキュラムをベースに「ものづくり学習法」で子どもが自ら考え協力して学んで創造し、表現する力を育むことを目標にしています。中村さんは自ら教育事業に参入するにあたり、どんなところを重視されたのでしょうか?

中村:教師を目指していましたが、大学卒業後は大手とベンチャー2つの民間企業に勤務しました。それぞれ求められる能力が異なることを学び、学力と仕事のパフォーマンスは比例しないことを実感したんです。そこで、本格的なAI時代を迎え、従来の知識が役立つサイクルが激変する時代には、ひとつの正解を導き出す既存の日本の教育方法はそぐわないのではないか?という問題意識を持つようになり、新しい教育事業を立ち上げることを決めました。

AIでなくなる職業も。先の見えない未来をどう生き残っていくか

引地:AIによって職業が変化し、なくなる職業もあると言われていますよね。

中村:イメージを膨らませたり、複雑な事象を関連づけて理解したり、豊富な経験に基づいた知識を組み合わせることはAIが苦手とする分野。知識も大切ですが、子どものうちは五感を主に刺激する体験を通じて「感性」と「探求力」を身につけることが重要です。

情報社会(Society 4.0)に続く、成熟した新たな社会(Society 5.0)では、従来AIに置き換えられない人間ならではの力、創造力や表現力、協調性が求められているにも関わらず、日本の学校教育はまだ工業社会(Society 3.0)を前提とした時代の寺子屋の延長線でしかない。STEM教育はSociety 5.0にどう関わるかのソリューションだと考えています。

「ステモン!(STEMON)」について

STEM教育をベースにアートの要素を加え、「テクノロジーを活用したアート教室」というコンセプトの次世代型総合教育スクールです。独自のカリキュラムと講師メソッドで、「AI時代でゼロからイチをつくる人を育む」という理念のもと、2013年10月より幼児・小学生向けに開校し、全国73教室を展開。プログラミング教育と工学的な考え方を身につけるとともに、子どもたちの個性を重視した創造力や表現力を育む教育を実践しています。

ステモン!についての詳細はこちら

「日常」が学びの場に変わり、日々の学業にも積極性が加わる。テクノロジーを活用したアート教室

クラスでは、具体的にどのようなことを教えるのでしょうか?

中村:STEM教育の醍醐味は、4つの領域を横断的に、モノを作りながら学ぶこと。プリントや問題を繰り返すという学習法とはまったく違います。これは、「コンストラクショニズム」という学習理論を参考にしています。

  • 科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)
「Constructionism(コンストラクショニズム)」とは

アメリカのマサチューセッツ工科大学のシーモア・パパート教授が提唱した学習理論。モノ作り活動を子どもの学習の中心におくという考え方で、モノの仕組みを知るとテクノロジーを活用する力がつきます。

引地:当初、私は文系・理系の枠組みからSTEMを理系の取り組みと捉えていましたが、中村さんを通じてステモン!を知る中でその固定概念がなくなりました。

中村:ステモン!では子ども達が試行錯誤しやすいように、モノづくりの完成予想図や設計図を用意していません。その日つくるモノの課題を設定し、どんな仕組みを使うかを説明しますが、その後は専用のブロックを使って子どもたちは自由にモノづくりに取り組みます。どちらかというとステモン!は自由度の高い造形教室に近く、“テクノロジーを活用したアート教室”とも呼んでいます。

引地:ステモン!のメソッドの中には「コンストラクショナリズム」だけではなく「シックス・シーズ」理論も取り入れられていますね。そういう教育メソッドが印象的で面白いなと思いました。

中村:そのほかにステモン!のユニークな点と言えば、物理とエンジニアリングを教えるメソッドを取り入れているところかな? 物理でいうと、テコの原理や貨車の原理、力の向きの仕組みをモノづくりで体感することで、日常の中でもその仕組を発見して、さまざまな知識を蓄積することができます。例えば、三角形は図形の中で一番強いから、スカイツリーは三角形の集合体なんだ、とか。

現代の子どもに必要な6つの力「6Cs」(シックス・シーズ)とは?

21世紀を生き抜くため に必要とされる6つのCから始まるスキルの総称として、学習科学、発達心理学のそれぞれ世界的権威であるロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ教授と、キャシー・ハーシュ=パセック教授が共著の中で提唱しています。

  • 「Collaboration」協力してつくる力
  • 「Communication」伝える力、周りと意思疎通する力
  • 「Content 」知識、学力
  • 「Critical Thinking」情報を見分ける力、批判的に考える力
  • 「Creative Innovation」創造する力
  • 「Confidence」自信を持って取り組む力、失敗を恐れない気持ち

情報を知識として頭に詰め込む力ではなく、情報が氾濫する現代社会を生き抜く能力(優れた意思決定能力や思考)が、これからの子どもに不可欠だと言われています。

正解がないから難しい、感性の評価方法

引地:普通の学習は正解がありますが、ステモン!は違う。ひとつの正解だと褒めやすいし到達度がわかりやすいのですが、スキルを伸ばして楽しんでもらうのは大変でした。

中村:ステモン!の講師は、子ども達が迷ったり、どう作っていいのかわからなくなるときは寄り添って、学びの目的からそれたりしないように軌道修正していきます。答えがない作業への評価の判断基準はむずかしくて、大人の感性で作品を評価することはしません。

子ども達は新しいことを知ること、つくることが大好き。評価されるのが苦手な子は教室自体が嫌いになってしまいます。成績をつけたり比較されない限り苦手意識は生まれないですからね。放課後のステモン!は、のびのびと自分なりに発見していく“安心、安全の場”になってほしいんです。

カラフルなブロックを使ったモノづくりを通して、さまざまな仕組みを学ぶ

AI時代を生き抜ける大人に育てる秘訣。どう、変化し続ける社会に適応していくか

これから変化が激しい社会の中で、子ども達をどう育てていけば良いのでしょうか?

中村:今、親御さん達の多くは「このままで良いのか?」という漠然とした不安をお持ちです。親御さん達のSTEM教育の認知度は低く、学歴重視の風潮は一般的にはまだ高いのもありますね。

引地:ステラボでも保護者向けの説明会で、職業環境も大きく変わる中で、社会にうまく対応できるようなスキルを身に着けるのが重要という話に、熱心に耳を傾けていただきました。

中村:新卒一括採用の見直しや雇用の流動性が高まらない限り、良い大学を目指すアドバンテージはなくならないので、受験を重要視する傾向は変わらないでしょう。

その一方で、2020年度から変わる学習指導要領は「何を学ぶか」「何時間学ぶか」のほかに、「学び方」が改定されることになりました。文科省は変化の早い現代社会を見据えて探究型の学びに方向転換し、子ども達の疑問を大切にし、そこから主体的に学び続ける能力を伸ばしていくことを目標にしました。

学校教育は基礎学力をつける意味で重要ですし必要です。受験も避けて通ることはできません。なので、学校の教科教育をきちんとして、放課後はSTEM教室のクリエーティブな活動を組み合わせるのが良いと思います。STEM教育で身についた探究心は、教科学習にとても有効です。興味をもったことを自分で探究する力があれば教科の学力もつきますから。

ヒトだからこそできる、創造する力と表現する力

引地:これからのAI社会に備えて何をすればいいか? という答えは誰もわからないし、未知の領域に対して、自分なりにたくさん実践する中で法則性を見つけるトレーニングをするのが大切ですね。

中村:ステモン!は日本を代表する学習サービスを目指しています。日本の子ども達につくる場所、表現する場を増やしていきたい。子育てに悩む親御さんが多い現代ですが、子ども達が社会に出た時にHappyになれるようにしていきたいと願っています。

コンピュータが苦手な、“創造する力”と“表現する力”を身につけ、AIが得意とする事とコラボすることで、子ども達にはこれからの新しい社会をイキイキと生き続けてほしいと思います。

「ステラボ」を見学してきました!

SB C&Sが運営するSTEM教育スクール「ステラボ」で行われている、小学4年生から6年生を対象にした「プログラミング & ロボティクスコース」の授業を見学してきました。

それぞれにノートPCが配布され、プログラミング学習用ソフト「Scratch(スクラッチ)」を使った授業が始まりました。今日は「Scratch」を使って画面上にあるイラストのネコを動かすプログラミングに挑戦します。

「先生これどうやるのー?」最初は先生の助けを借りていた子どもたち。次第に使いこなせるようになると、イラストのネコを高速回転させたり、ほかの動物のイラストを取り込んだり、自分なりのアイディアでプログラミングを行い始めました。

子どもたちの集中力が高まり夢中になってくると、賑やかだった教室が次第に静かに。終盤では、カラフルなイラストを組み合わせた大作を披露した男の子の作品に先生の驚嘆の声が教室に響きました。

参加した子ども達に授業の感想を聞くと「一番工夫したのは、恐竜を大きくしたところ」「体験教室でやったプログラミングが面白かったので通うことに決めたの」「いろんなプログラミングができて楽しい!」と、笑顔いっぱいに答えてくれました。

「ステラボ(STELABO)」について

「STEM教育を通じて夢を叶える人を育む」ことを教育理念とし、プログラミング教育への対策はもちろん、AI(人工知能)やIoTの分野など未来に向けて、子どもたちが必要とされる能力を育むことを目指し、2019年6月に東京汐留校を開校。カリキュラムと指導ノウハウは「ステモン!」のメソッドを採用。使用する教材はSB C&Sが厳選した先進のSTEM教材を使用します。

「ステラボ」についての詳細はこちら

(掲載日:2019年7月30日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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