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なぜ高島屋が教育用ロボットを売るのか? 2020年プログラミング必修化に向け、学習を支える百貨店の役割

なぜ高島屋が教育用ロボットを売るのか? 2020年プログラミング必修化に向け、学習を支える百貨店の役割

2020年から小学校のプログラミング教育が必修化となる。

背景には、IT系の人材不足解消の必要性や、理数系教育に本腰を入れて取り組むインドの躍進などがある。テクノロジーが産業構造を大きく変え、AIによって労働の価値を問われる時代が近づく今、教育における技術の役割は着実に大きくなってきている。

プログラミング教育
文部科学省が発行している「諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究」によれば、2014年時点で世界23カ国の先進国で初等〜高等教育の中でプログラミングを教えるコースを設けるなど、先進国を中心にその重要性が注目されている。

その影響から、プログラミングの考え方を学べる教材やプロダクトも次々と登場。それぞれユニークな特徴や機能を持ち、教育に関心の高い層から注目を集めている。

そんな中、2017年10月に百貨店大手の高島屋は、ロボットをコンサルティング販売する売り場「ロボティクススタジオ」を新宿タカシマヤ内にオープン。プログラミングや英語などの教育をはじめ、コミュニケーションやエンターテインメントなどさまざまな用途のロボットを取りそろえている。

高島屋「ロボティクススタジオ」

10年以上前からロボット分野に取り組んできた高島屋

高島屋は2000年代前半、AIBOやASIMOが登場し始めた頃からロボットをいち早く取り扱い、店頭で活用するなど、ロボティクス領域にはかなり積極的に取り組んできた歴史がある。その中で、大きな転機となったのは2014年に発表されたPepperだったという。

ロボティクススタジオを担当する、株式会社高島屋MD本部 子ども・情報&ホビーディビジョン課長 セントラルバイヤーの田所博利氏は当時を以下のように振り返る。

株式会社高島屋MD本部 子ども・情報&ホビーディビジョン課長 セントラルバイヤーの田所博利氏

株式会社高島屋MD本部 子ども・情報&ホビーディビジョン課長 セントラルバイヤーの田所博利氏

田所氏「漫画やアニメで見た未来が、手の届くところに近づいている。その象徴がPepperだと思いました。これまでのロボットはおもちゃの延長のようなものでしたが、Pepperは多様なコミュニケーションができる。ロボットの可能性を感じました」

加えて、「STEM教育」の注目など、教育の領域にも大きな変化が出ている。

STEM教育
Science, Technology, Engineering and Mathematicsの略。科学、技術、工学、数学の4領域を横断的に学ぶ理工系教育。米国ではハイテク産業従事者の不足から2000年代より注目され、教育に取り組む人が増えはじめた。

ロボット市場および教育市場の変化に向けた対応を考え、新宿タカシマヤでは2016年に「暮らしとロボット展」という約100体のロボットを集めた催事を開催した。

田所氏「暮らしとロボット展では、非常にたくさんの方に来場いただき、ロボットを体験していただきました。催事の中で、ロボットに対する期待感を強く感じ検討を重ねた結果、昨年10月の売り場化へと至りました」

また、ソフトバンク コマース&サービス株式会社(以下「ソフトバンク C&S」)が流通面などでサポートを行った。ソフトバンク C&Sはこれまで長年にわたり、法人向けにロボティクスやICT、IoTソリューションなどの流通面のサポートを、コンシューマ向けではSoftBank SELECTION オンラインショップを通じたユニークなIoT製品や豊富な種類のスマホアクセサリーなどの販売も実施。中長期的にロボットの取り扱いを行っていきたいと考えた高島屋の目指す方向性と合致し、今回の取り組みとなった。

百貨店だから提供できる3つの価値

ロボティクススタジオを立ち上げるに当たり、高島屋は3つのポイントを重要視した。

(1)触れて体験できる

ロボットは実際に触ることができ、どう生活のシーンになじむかをイメージできなければいけない。それにもかかわらず、実機を体験できる場所が非常に少ないという。直接触れて体験できることは大切な要素だった。

(2)幅広い品ぞろえを用意する

ロボット市場はまだまだ黎明期で、販売されている種類も限られている。しかし、多種多様なロボットが揃っているリアル店舗はほとんど見受けられない。そんな中、高島屋の限られた面積の中でもバランスよく日本最大級のラインナップを用意できた。

(3)“コト”の提案を行う

ロボットは新しいものだからこそ、モノ自体への興味喚起へつながりづらい。そこで、ロボットに興味を持つきっかけづくりのためにイベントやプログラミング教室を実施。学びの機会提供という“コト”の提案を行っている。

田所氏「われわれは百貨店なので『これを使うと、どんな新しい暮らしをできるか』という“シーン提案”をできる。加えて実店舗であるという強みから考えて、何をすべきかを整理し軸に置いたのがこの3つでした」

百貨店だから提供できる3つの価値

店舗があるから、「買わない理由」が分かる

オープンから半年ほど、百貨店として先進的な取り組みである「ロボティクススタジオ」はさまざまなメディアから取り上げられ、多くの顧客が訪れた。多くの反響を得られたが、特に反応がいいのは、目的意識を強く持った人という。

田所氏「例えばシニアの方で話し相手が欲しい、単身赴任している方で遠方にお住まいのご家族とコミュニケーションを取りたい、といった『ロボットに何を求めるか』が明確な方には、『今のロボットはここまでできるの!』という声をいただけることが多いです。今のロボットは特定の用途に特化した観点で言えば、かなり進化している。われわれは『こういうことに役立ちますよ』というソリューション提案が必要になっていると強く感じています」

加えて、百貨店のような実店舗の場合、「顧客の声を直接聞ける」という利点もある。

田所氏「ここが使いづらい、ここが不便といった課題は、ロボティクススタジオを通し、お客さまから直接拾い上げられます。しかも、ネットだと買った人の声だけになってしまいますが、われわれの場合『なぜ買わないか』という声も集められる。その声は、顧客視点で売り場を改善していく上で、非常に参考になります」

オンラインでのコミュニケーションでは知ることができない「なぜ売れないか」を知ることができる貴重な店舗。それも百貨店ならではのお客さまに寄り添った接客があるからにほかならない。ここでの気づきや学びはソフトバンク C&Sにもフィードバックされ、製品ラインナップの改善に役立てられている。

論理的思考力の育成から、プログラミング、英語まで学べるプロダクト

ここで、ロボティクススタジオで取り扱っているロボットを5つほど紹介。いずれもプログラミングの学習や、論理的思考力の向上につながる、STEM教育の観点で注目されるロボットだ。

Makeblock mBot

Makeblock mBot

ロボットキットのmBotは、グラフィカルなインターフェースでプログラミングを体験できる。プログラムを通してロボットに搭載されたセンサーやモーター、LEDやブザーなどを動かし、プログラミングの仕組みを学べる。光の三原色や音階の学習にも活用可能。

for Our Kids PETS for Home

for Our Kids PETS for Home

手でブロックを組み合わせることで、ロボットを動かすことが可能。パズルのような課題をルールに従って解決していく中で、思考力や関係整理力、異なる視点から物事を捉える力を鍛えられる。

MakeBlock Airblock

MakeBlock Airblock

Airblockは、モジュラー方式の知育ドローン。六角形のブロック(モジュール)を自由に組み合わせることで、ドローンやホバークラフトなど、自分だけのオリジナルのプロダクトをつくることができる。専用のアプリから操作し、グラフィカルなインターフェースでプログラミングを学べる。

Sphero SPRK+

Sphero SPRK+

色や動きをプログラミングで制御できる透明なボール型のロボット。自分が作ったプログラムによってSPRK+の内部がどのように動き、反応するかが見えるため、ものごとの原理に対する関心を高めることが可能。グラフィカルインターフェースでのプログラミングで簡単に操作でき、テキストベースのコードビューアで、SPRK+を動かすリアルなプログラミング言語も確認できる。

Musio X

Musio X

プログラミングではないが、英語学習で活用できるコミュニケーションロボット。機械学習の専門家・データサイエンティスト・自然言語研究の専門家によるチームによって開発された。AI(人工知能)に特化したコミュニケーションロボットで、使えば使うほど学んで賢くなり、成長していく。Musioとの会話のなかで英語を学習、専用アプリから振り返りや会話ログのチェックも行える。

2020年に向け、ロボット・プログラミング教育市場をどう盛り上げるか

半年間の新宿タカシマヤでの運営の成果から、すでに次の店舗への展開の話も進んでいる。

田所氏「2018年秋に大阪店でロボティクススタジオを予定しております。ただ、われわれが用意できるのはあくまでも『売り場』。そこにお客さまの期待に応えられるロボットが市場にあるか、とは別の問題になってしまう。そこがうまく連動し、新たなロボットがもっとお客さまの生活に浸透していくように、発信していくことが重要だと考えています」

今後、百貨店は何に挑むべきか。田所氏は「マーケットの認知拡大」「製品力の強化」「ソリューションの提案力」をあげる。

田所氏「まず、マーケット自体をもっと注目あるモノにしていかなければいけません。プログラミング的思考やSTEM教育の重要性の認知を広げ、市場全体を盛り上げることは必要です。そのためには製品が拡充され、幅広い課題にアプローチできる状態でなければいけません。われわれも取り扱う製品の拡充は今後とも必要だと感じています。その前提がそろった上で、高島屋の強みである高いソリューションを提案していく。この3つを今後強めていきたいですね」

2020年に向け、ロボット・プログラミング教育市場をどう盛り上げるか

これからさらに注目を集めることが期待されるロボットを用いた学習。ゴールデンウィークにはぜひ、ロボティクススタジオでさまざまなロボットを手に取って体験してみていただきたい。

ロボティクススタジオ
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プログラミング教育やロボットに関する記事

(掲載日:2018年4月27日)
文:小山和之(フリーライター)