2019年12月より、道路交通法が改正され「ながら運転」の罰則が強化されます。「ながら運転」を原因とする事故の増加を受けて実施された今回の改正。ドライバーには、今まで以上の安全運転が求められることになります。
しかし、車の事故の原因は「ながら運転」だけではありません。大きな話題となったあおり運転、マナーを無視した運転など、予期せぬトラブルに巻き込まれて発生することも。そんなときに役立つのがドライブレコーダー。有事の際に動かぬ証拠になるため、個人だけでなく、導入を検討する企業も増えているそうです。
今回は、企業で導入が進んでいるAIによる画像認識機能を搭載したドライブレコーダーをご紹介します。
万が一のためのドラレコ。企業でも導入が進んでいるが……?
企業がドライブレコーダーを導入するのには、大きく分けて3つのメリットがあります。
まずは、有事の際に映像で動かぬ証拠が残せること。そして、GPSを用いることで、車両の運行管理ができること。さらに、記録した映像を見返すことで、事故を起こさないためドライバーの安全運転指導も行えるのも、大きな利点の1つです。
しかし、ドライブレコーダーを導入したものの「それを活用できるか」というのはまた別問題。実際には、データを利用した安全運転指導まで手が回っていない企業が多いようです。
運転中の映像をすべて観て、危険運転が行われた箇所をピックアップし、ドライバーに合わせた安全運転指導をするのは非常に手間と時間がかかる作業。それをドライバーの人数分だけ……と考えると、担当者の手が回らなくなってしまうのは想像に難くありません。
映像の録画だけでなく、ドライバー自ら安全運転を身につけられるドライブレコーダーはないものか……。
「それ、ありますよ!」
ということで今回は、AI技術を活用した法人向けドライブレコーダー「ナウト」を提供している、ナウトジャパンの新保さんに話を聞いてみたいと思います。
ドライブレコーダーが活躍するのは、その機能上、どうしても「有事の後」。危険を事前に知らせる、記録した映像から運転の問題点を洗い出すといった「事故の予防」には活用しきれないのが現状でした。
新保さんが言う通り、本来ドライブレコーダーは「事故が起きてから」役に立つものです。もちろん事故を起こさないのが一番なのはわかっていても、それはあくまでも理想論。ドライブレコーダーで、どうやって事故を未然に防ぐのでしょうか?
ナウトは、ドライバーの動きを察知した危険防止や、運転の安全記録やフィードバックをスムーズにできる、いわば「ドラレコを超えたドラレコ」です。とりあえずドライブに行って、運転の様子を録画してきましょう!
そう促され、テスト用車両に同乗。新保さんいわく、まずはドライブの記録を取る必要があるとのこと。車両のフロントガラスに設置されているのが、ドライブレコーダー「ナウト」。こちらで車内や運転の記録を収集していきます。
ドライブは豊洲・有明方面を走行。
東京湾岸エリアを一周し、夕焼けがきれいなレインボーブリッジを渡りました。
ちょっとしたデートコースのようなドライブでしたが、これで運転の記録収集はバッチリだそうです。
AIの画像認識で「事故を防止する」ナウトのドライブレコーダー
まず気になるのが、ドライブ前に新保さんが言っていた「ドライブレコーダーが事故防止に役立つ」という言葉の意味。どのような機能が備わっているのでしょうか?
ドライバーがスマホを見たり、カーナビを長時間注視したり、「ながら運転」をするとカメラで検知してドライバーにアラートで警告を送ります。あらかじめ注意喚起することで事故を防止する安全運転支援システムが、ナウトの一番大きな特徴です。
ポイント1. 「ながら運転」のリアルタイム警告
「ながら運転」を検知できるのは、AIの画像認識機能のおかげです。「ながら運転」をしているときの目や顔の動きや姿勢をディープラーニングという技術で解析することで、一つひとつの動きが「ながら運転」なのかを瞬時に判断しています。
ナウトのAIによる画像認識の精度は非常に高く、「左折時の巻き込み確認」「(注視にならない)短時間のカーナビチェック」など、運転時に必要な目や体の動きではアラートを鳴らさずに、危険な行為だけを検知することができるのだとか。新保さんによると「検知の正確性」には特に気を配っているそうです。
ちょっとした動きをすべて「わき見」と検知してアラートが鳴ると、ドライバーがアラートに慣れたり、精度を信用しなくなり、音を聞いても何も感じなくなってしまうんですよ。そうなると、本当にわき見をしているときに鳴るアラートに意味がなくなってしまいますよね。ナウトは6億キロ以上の走行データを持っていて、AIの精度を常に向上させているんです。
ポイント2. 運行ルートや危険な運転のチェックができる
アラートが鳴った前後は、録画映像に自動的にタイムスタンプなどの情報が付加されるので、後から映像を見直す際もスムーズ。該当箇所の映像は、管理画面上で並べて表示されます。
「ながら運転」だけでなく、急ブレーキや急ハンドルなど、運転に何かしらの危険があったと予想される箇所にも、自動で映像がクラウドにアップされます。アラートが鳴ったときの運転の映像と一緒に表示されることで、危険な運転を一目でチェックすることができるんです。
ポイント3. 運転傾向を分析して安全運転度を評価
そして、ドライバーがどれだけ安全に運転できていたかを数値化する「安全運転評価レポート」の機能も。わき見や急ブレーキ・急発進の回数、速度超過といった運転の内容を精査。独自の規格でスコアを算出し、ドライバーの運転リスクを数値化します。こちらも映像と一緒にウェブアプリ上で閲覧可能です。
企業がドライバーへの安全運転指導を行うにあたっては、ドライバーの安全運転の度合いを可視化し、ドライブ中の情報を映像データとして収集しておくことが必要不可欠なのだそう。
これだけデータが揃っていれば、「あなたは3時間の運転中にこれだけの回数のわき見をしているので、これからは絶対にしないようにしてください」と、数字や自分の危険運転の映像をベースにした具体的な指導ができるようになるんです。自分の映像を見るのに抵抗感があるかもしれませんが、ドライバーからは「無自覚だった危険運転習慣に気づいた」といった声も多くいただいています。
ハンドルを持つ人のドライビングを記録・数値化して、客観的に見直すことができるナウトのドライブレコーダー。マナーを守った良いドライブをするよう社員に働きかけることで、万が一のケースが起きたときの保険になるだけでなく、事故そのものの「防止」にも役に立つのですね。
ナウトは、従来の「有事の際に見返す」ためのドライブレコーダーとは、そもそもの目的が違うんです。私たちも便宜上「ドライブレコーダー」と呼んでいるのですが、それ以上に「事故防止」と「安全運転支援」の目的が強い。「ドライブレコーダーを超えたドライブレコーダー」とは、そういう意味なんですよ。
「進化するドライブレコーダー」で運転自体を変えていく
企業がナウトのドライブレコーダーを導入することについて、新保さんは「間接的な損害までを考慮したら、事故防止に投資する方が最終的なメリットは遥かに大きい」と言います。
多くの人は「交通事故による損害」と聞くと、加害者から被害者へ支払う損害賠償や、保険会社との金銭のやりとりを想像します。しかし、事故による「間接的な被害」はそこにとどまりません。
例えば、事故を起こした車を稼働させることができなかったり、事故を起こした社員が怪我をして働けなくなってしまったりすることもあるでしょう。他にも会社の評判に傷がついてしまうことや、事故対応で普段の業務が圧迫されてしまうことも間接的な損害の一部です。
このように、実際には想像以上の損害が企業に発生しているにも関わらず、その負担があちこちに分散されてしまうため、最終的な損害の範囲が具体的にわかりにくいのだとか。
事故防止の他にも、ナウトを導入することの大きなメリットが、「マナー運転が身につく」ことですね。例えば、会社のロゴが大きくプリントされたトラックが荒い運転をしていたら、会社のイメージは悪くなってしまいますよね。レコーダーの映像を見返し、安全運転を日頃から意識することで、意図しない損失を未然に防げるんですよ。
そんなナウトジャパンの最終的な目標は、「事故がない社会を作ること」。今後もドライブレコーダーから収集された膨大なデータをもとに、AIの画像認識機能の向上や、新しい機能の開発を行っていく予定です。
ちなみに、直近のアップデートでは「前方車両との距離を検知して、車間距離が近すぎたらアラートを鳴らす機能」が追加されました。これは、ドライバーが意図せずあおり運転を“してしまう”場合に備えたもの。「自分はそんなことしない」と思っていても、急いでいるとついつい前方車両との距離を詰めてしまう人が多いそうです。
「前方車両との車間距離」を検知した際に、ドライバーに警告音で知らせます。ナウトの強みは、本体を買い換えなくても常に最新の状態のドライブレコーダーが使えることなんですよ。ソフトウエアさえ更新すれば、ながら運転を検知するAIの機能も向上し、新しい機能が追加されていきます。「進化するドライブレコーダー」として、安全運転や事故防止の方法をこれからも提案していきたいですね。
関連記事
AIによる事故予防の“今”の話をしよう。“不完全”自動運転時代のドラレコ「Nauto」
(掲載日:2019年11月28日)
文・編集:ノオト
撮影:二條七海