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いざ5Gへ 進化が続くモバイルネットワークに25年挑み続けてきたエンジニアの情熱とは?

いざ5Gへ 進化が続くモバイルネットワークに25年挑み続けてきたエンジニアの情熱とは?

スマートフォンが普及し、あらゆる場面でインターネットを利用できるようになったことで、モバイルネットワークは常につながることが当たり前の、生活に欠かせないものとなりました。

このモバイルネットワークは、どんな思いでつくられ、今後どのように進化していくのでしょうか。ソフトバンク モバイルネットワーク本部で無線技術開発を担当している安藤高任(あんどう たかとう)に話を聞きました。

進化が続くモバイル業界、今も挑む課題

2020年、日本で5Gの商用サービスが開始されますね。

はい、私は今、無線ネットワーク作りを担う部署で、通信機器ベンダー各社のエンジニアと一緒に無線装置の機能開発を進めています。モバイルシステムは、最初から完成しているものではなく、日々、機能を更新しながら全国に展開しますので、サービス開始当初の5Gネットワークをどういった機能にするか、そしてその次はどう改良していくのか、増えていくであろうユーザーや利用シーンを想定し、技術の展開を計画しています。

モバイルネットワーク技術は音声、メール、ウェブ、動画と変化してきた携帯電話の発展と共に、1G・2G・3G・4Gと変遷し、情報をいつでもどこでも、誰とでもさまざまな手段でつなげるため、より高速でより大容量へと進化してきました。

モバイルシステムの歴史

モバイルシステムの歴史

私は、PHS初期からモバイル技術の開発に携わってきたのですが、技術が進歩しても、挑むべき課題はいまだにあります。例えば、朝夕の通勤時間に高速な通信品質を維持することはかなり難しいです。これは、通勤電車や駅でたくさんの人が同時にスマホを使うためで、一つの基地局に接続される端末数が多くなってしまい、通信速度が低下してしまうからです。

こういった課題を解決するための技術として、2016年にMassive MIMO(マッシブマイモ)の商用サービスを世界で初めて提供しました。この技術は、混雑した状況でも速度を低下させず、接続する端末ごとに電波を最適化して、通信速度を維持しやすくすることができます。当たり前のことなのですが、身近なところから最新技術を取り入れています。

Massive MIMO(マッシブマイモ)とは?

数十~数百の多数のアンテナ素子を用いて信号品質を向上させることで、通信容量を極大化する技術。マルチアンテナによる空間多重という技術を用いて通信容量を拡大する「MIMO」の発展型。4x4MIMOでは最大4倍の通信容量となる。8x8MIMOでは最大8倍の通信容量に達する。5Gでは、直進性の高いミリ波帯を利用するが、マッシブマイモによるビームフォーミング技術を用いてモバイルでの利用を可能としている。

4Gネットワークの可能性はまだまだある

4Gネットワークの可能性はまだまだある

時代の推移とともに、携帯電話もさまざまな使い方ができるようになりました。そのような中でユーザーが満足するサービスの開発に変化はありますか?

今、4Gから5Gに移り変わろうとしている中で、「4Gは完成したのか」と聞かれますが、私はそうは思っていません。まだまだやるべきことは山のようにあります。私は携帯電話のエンジニアとして仕事をしていますが、その一方で皆さんと同じユーザーでもあります。スマホを利用する中で「こうでないと困る」という視点を持ち、改善していくことで、お客さまに「ソフトバンクでよかった」と思ってもらえる4Gネットワーク作りをしていかなくてはいけないと考えています。

5Gは、周波数の帯域幅が100~400MHzと幅広く、一度により大容量のデータトラフィックを運ぶことができますが、通信電波の信号品質が悪くなると、通信速度が低下しその実力を発揮できません。つまり、ネットワークの容量とは、使える周波数帯域の幅を確保するだけでなく、いかに電波の信号品質を良好に使えるかが重要な要素となってきます。

信号品質を上げるには、基地局をユーザーの近くに設置する必要があります。

基地局のアンテナは鉄塔だけではなく、このように身近なビルの何気ない場所に設置されています。

先ほどのMassive MIMOもマルチアンテナ技術を用いて、特定の端末に向けて電波を照射するビームフォーミングを行うことで信号品質を上げており、これらを駆使してネットワークのキャパシティーを上げる技術開発も行っています。

通信技術が進化すると、ユーザーの利便性が向上して快適に使えるようになります。すると、今度はさらに通信容量を向上しなければならない。いつでもどこでも、いかに快適な通信速度をお客さまに提供できるかということが、われわれの永遠のテーマであり、5Gでもこれを継続していかなくてはならないと考えています。

なるほど。安藤さんのお仕事をユーザーの皆さんが体感できるのはどういったシチュエーションですか?

山手線の駅周辺やスタジアムのような、お客さまが一カ所に集中している場所でも安定した通信を目指しているので、そういった場所で、効果を体感していただけると思います。

5Gでは将来“人間が感知できない”高速通信が行われる

5Gでは将来“人間では感知できない”高速通信が行われる

今年は5Gサービスが開始する年です。どのようなところを目指しているのでしょうか。

5Gの主な特長は「高速大容量」「低遅延」「多接続」の3つですが、サービス開始時点では「高速大容量」を実際に体感いただけるようになります。

動画などダウンロードが10倍の通信速度に

通信の応答速度は1/10に

あらゆるモノがネットに接続し10倍の同時接続に

その中で将来導入される「低遅延」はどのようなところにニーズがあるのでしょうか。

「低遅延」は人同士のコミュニケーションというよりもモノとモノのコミュニケーションに必要な要素です。例えば、クルマを運転中に危険を察知し、急ブレーキを踏むまでの人間の反応は200~400msほどだといわれています。これに対して5Gネットワークの遅延は1ms以下です。「低遅延」により人間では感知できないレベルのコミュニケーションを実現できます。

5Gネットワークの送受信の構造は、LTEよりも高速化されます。加えて、既存の周波数もうまく使うことによって低遅延の実現を試みようと技術検討しているところです。

モバイル業界の今後の展望を教えてください。

「多接続」につながってきますが、2~5年後、IoTデバイスが本格的に普及し始めるとデータ通信のトラフィック量は膨大なものとなるでしょう。そうなった時に膨大なデータトラフィックを運べるだけの周波数帯域を確保しなくてはなりません。もちろん新たな周波数を増やしていくことも必要ですが、既にある周波数をいかにうまく使うかということは重要な要素です。

米国や英国など一部の国で5Gがスタートしていますが、日本の状況を比べて焦りはありませんか?

あまりないです。確かに海外では5Gサービスが展開されている国も出てきましたが、全国規模で5Gを体感できるだけのスループットが出せるのはこれからだと思います。当社のネットワークや日本の4Gは、世界的にみても高速ですよ。私たちが5Gをやるからには、世界最速の5Gネットワーク作りを目指します。

また、これから先、ドローンやクルマなどに対応するネットワークは設計が全く異なります。4Gまでは、人が使うデバイスを想定したネットワーク作りをしてきましたが、ドローンはビルの上を飛びます。また、IoT機器は地下にある場合もあります。電波カバーエリアの作り方も変えていく必要がありますし、それを実現する技術開発も必要です。

これまではスマートフォンのために作られてきたネットワークでしたが、今後はありとあらゆる使い方、利用シーンを想定する必要があります。ビジネスシーンも変化する中で、あらゆる産業・企業が5Gに携わることになるため、ネットワークの作り方も多様化することでしょう。

テクニカルマイスターを通して世界各国のエンジニアと手を組む活動をしていきたい

2019年9月にAustin Convention CenterInternationalで開催されたWireless Industry Consortiumでの講演の様子

2019年9月にAustin Convention CenterInternationalで開催されたWireless Industry Consortiumでの講演の様子

安藤さんは、この業界に入って25年になるんですね。

私がこの業界に入った1994~1995年は携帯電話・PHS加入者が激増し、料金値下げ合戦が始まり、モバイルが一気に拡大していく激動の時代でした。
当時の携帯電話やPHSは、音声サービスしか存在しませんでした。私は、音声に続く、テキスト通信、モバイルデータ通信、モバイルインターネット開発など、新機能や新サービス開発の中心にいましたので、苦労も多かったですが、面白いことに関わることができたと思っています。

今も昔も技術開発を行うにあたって変わらないことは、お客さまが一番喜んでくれるネットワークやサービス作りに結びつけるという点です。

安藤さんが25年間担当したモバイルシステムと主な担当業務

モバイルシステムの歴史と、25年間の担当業務

「Technical Meister(テクニカルマイスター)制度」の認定を受けていると聞いていますが、直接仕事と結びついたものでしょうか?

お客さまへのメリットに結びつかない活動では意味がありません。以前から国内外で先進技術開発のための取り組みはしていたのですが、テクニカルマイスターになったことで、より活動しやすくなりました。

国内外で講演させていただく機会も増えたのですが、常にお伝えしているのは、「名前に惑わされるような技術開発ではなく、真面目に一歩一歩開発をしていこう。今、エンジニアが努力しないと、これから進化する5Gや1Tbpsの通信速度が可能なBeyond 5Gあるいはさらなる次世代通信6Gの技術につながらない」ということです。通信機器ベンダー各社のエンジニアだけではなく、LSI(高密度集積回路)、デバイス素材、材料、テスト機器など、業界全体のエンジニアとの意見交換の場が増えたことは、テクニカルマイスターとしてのメリットだと思います。

※ 「Technical Meister制度」について

専門分野において、突出した知識・スキルを持ったエンジニアに与えられるソフトバンクの社内認定制度。さらなる能力の飛躍と活躍の機会を提供するために、本業と並行して自身の専門分野を自由に研究・開発することが認められる。2018年度に制度がスタートし、2019年12月時点で認定者は21人。

テクニカルマイスターとして、今後はどのような展開をお考えですか?

これまでも情報収集や技術的なディスカッションを行い、実際にそれらを開発のアイテムとしてフィードバックしてきました。しかし、5Gが始まる現段階では大手のベンダーさん以外、5Gシステム作りに関わっていません。5G市場の本格化には、既存の機器ベンダーさんだけではなく、今まで関わってこなかった分野の方々とも手を組んでいかなければなりません。真の5Gシステムを目指し、今までの枠組みを超え、さまざまな分野のエンジニアとも手を組んでいきたいと考えています。

(掲載日:2020年1月28日)
文・写真:北川研斗(インプレス)
編集:関口聖(インプレス)、ソフトバンクニュース編集部

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