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通信ネットワーク復旧へ奮闘。台風19号襲来の裏側で、何が起こっていたのか。

2019年10月6日に発生した台風19号(のちに正式名称が「令和元年東日本台風」へ)。被害総額3,500億円超といわれる被害をもたらした巨大台風だ。長野県や神奈川県、埼玉県、千葉県、福島県などで記録的豪雨による河川の氾濫や土砂災害が発生。死者・行方不明者が100名を超えるなど、東日本を中心に甚大な被害をもたらした。

ソフトバンクでも広範囲にわたり、多数の基地局が水没や停電などによりダウン。通信ネットワークにも大きな影響が出た。復旧作業の裏側で何が起こっていたのか。対応の全容を振り返る。

台風襲来に備え、異例の早さで「災害対策本部」を設置

台風19号が発生したのは2019年10月6日。同年9月8日から9日にかけて、千葉県を中心に甚大な被害をもたらした台風15号(令和元年房総半島台風)の教訓から「過去最大級」として気象庁も異例の事前警戒を呼びかけていた。

10月10日14時「台風19号 災害対策本部」を設置

通常、災害対策本部が設置されるのは、自然災害などにより通信ネットワークに大きな影響が出たことが確認された直後である。

しかし、今回の台風19号では異例の対応が取られた。台風15号の影響で、千葉県の房総半島を中心に基地局の支障が継続しており、さらに広範囲での被害が予想されたからだ。ソフトバンクでは、代表取締役 副社長執行役員 兼 CTOである宮川潤一 災害対策本部長の下、台風19号が襲来する前に災害対策本部が設置された。

「台風15号の被害が記憶に新しく、台風19号では体制を整えて臨まなければならないと考えていました。災害対策本部内は緊迫した雰囲気で、常に被害予想や情報収集に当たっていた記憶があります。台風19号は広範囲に支障を与える可能性が伝えられていたので、災害対応のためのメンバーを事前配置し、各地域の機材の配備状況なども確認して、来るべき災害に備えました」

災害対策本部(統制担当) 杉本 篤史

災害対策本部で統制担当を務め、社内の体制検討や被害規模の把握などに携わった杉本は、当時の状況をこのように語った。

全国から保守メンバーが東日本各地域に集結

設置された災害対策本部の指示の下、被害が予想される東日本に、全国各地から通信ネットワークの保守業務を行っているメンバーが集結。台風襲来前または襲来直後に現地入りして、すぐに復旧対応に着手できる体制が構築された。

また、全国から集めた保守メンバーとは別に「応援要員」と呼ばれる有志社員の募集も始まった。普段は別業務をしているテクノロジーユニット(技術部門)の社員が、暫定的に復旧対応に参加。社員を総動員して被害に備えた。

衛星アンテナ、発電用の燃料など、復旧に必要な機材を準備

基地局の復旧に必要な機材についても、配備状況の確認や台風19号に備えた準備が進められた。その1つが衛星アンテナだ。災害対策本部の運営担当として会議体運営などを担当した井藤は、通常の業務として災害対策用に可搬性の高い衛星アンテナを全国に配備していた。台風19号では、その新型衛星アンテナが初めて実戦投入された。

「通信ケーブルが断絶された時に衛星回線を用いて臨時の通信回線を構築するための機材で、一人で持ち運べるくらいまで軽量化した最新の衛星アンテナの配備を進めていました。山奥など、少人数でしか登っていけない場所にある基地局では、既存の衛星アンテナは運ぶことが難しいことも考えられます。台風19号では、日々の準備を生かすことができると思いました」

災害対策本部(運営担当) 井藤 幸二郎

また、災害対策本部で支援担当だった中原は、発電機用の燃料配置を計画・指示。台風で停電が発生すると、基地局に必要な電力が途絶えてしまう。基地局ごとに非常用のバッテリーはあるものの、停電が継続するとバッテリーからの給電がなくなるため、発電機を持ち込み、電力を供給しなければならない。台風19号は広範囲で停電が見込まれており、発電機の設置は復旧の要とされていた。

「災害対策本部が設置された直後から、燃料を供給いただく会社との調整を始めました。台風によって停電が発生すると、ガソリンスタンドも営業できないため、事前に燃料の供給計画を立てておくことが不可欠です。台風19号では初動が早かったため、かなり緻密な供給計画を立てることができました」

災害対策本部(支援担当) 中原 良輔

広範囲に被害が。最大72市区町村に影響が及ぶ

台風19号は強い勢力を保ったまま、10月12日19時前に静岡県伊豆半島に上陸。発達した雨雲により強い雨が降り続け、神奈川県箱根町では10月12日21時までの24時間降水量が全国歴代1位となる942.5ミリを観測した。台風は関東地方へと北上。東京都心も大雨・暴風となり、東京都江戸川臨海では観測史上1位となる最大瞬間風速43.8メートルを観測するなど、関東地方の7カ所で最大瞬間風速40メートルを超える暴風を記録した。

台風は関東地方や福島県を縦断し、13日未明に東北地方から太平洋へと抜けたが、大雨によって多数の河川が氾濫。特に長野県や福島県では堤防が決壊するなど、大きな傷跡を残した。

サービスエリアを速やかに復旧せよ

台風上陸直後からソフトバンクの基地局にも影響が出始めた。災害対策本部が想定していた通り、基地局の被災により通信できないエリアが広範囲に及び、その影響は最大72市区町村に及んでいた。これほどまでに被災場所が広範囲に及ぶケースは、非常にまれである。そして、災害対策本部から「エリア復旧本部」へと速やかな復旧対応の指示が出た。

エリア復旧本部は災害対策本部と連携して、サービス支障が起きている基地局の復旧対応や臨時基地局の設営などを統制する臨時部署だ。災害対策本部と同様に、台風上陸前の10月10日に設置された。エリア復旧本部で復旧作業を統制した伊藤に、復旧計画の方針と対応内容を聞いた。

「台風19号では水没した基地局が多数ありました。また、土砂崩れや暴風によって設備が倒壊したほか、電源や回線などの伝送設備に支障が生じた基地局も非常に多く見受けられました。特に被害が甚大だったのは、河川が氾濫した長野県長野市をはじめ、埼玉県川越市や神奈川県、千葉県など。復旧の方針はシンプルで、まずは携帯電話がつながるエリアを示した「サービスエリア」で使えない場所がないようにすることです」

エリア復旧本部(復旧作業の統制担当) 伊藤 悠貴

ソフトバンクのサービスエリアマップ(2020年2月末時点)。基地局が被災すると、通常は携帯電話がつながるオレンジ色のエリアの一部でつながらないエリアが発生してしまう

「また、お客さまにご不便がないように、携帯電話から基地局へのアクセスが集中してデータ通信のトラフィックがあふれそうな場所には、可搬型基地局を設置して通信容量の面でもカバーします。家族や身内の安否確認が欠かせない被災地域で、通信インフラが使えないという事態は一刻も早く解消しなくてはなりません」

復旧作業の第一歩として、ベースキャンプに機材を集約

サービスエリア復旧に向けた第一歩は、物流拠点の確保だった。移動電源車や可搬型基地局、衛星アンテナ、発電機など復旧作業で使用する機材を集約させ、基地局復旧の最前線のベースキャンプにする。しかし、台風が襲来した直後は機材を運ぶのも容易ではなかった。

「事前に用意していた大量のブルーシート、カッパ、食料、簡易トイレなどを物流拠点に届ける必要がありましたが、台風直後は配送業者も身動きができない可能性があります。そのため資材は自分たちでトラックを運転して届けました。交通規制や通行止めなどもあり、多少時間を要しましたが、最速の対応だったと思います」と語るのは、応援要員として車両・物資の手配をした山部。こうして復旧作業を行うための準備が整っていった。

後方支援(車両・物資担当) 山部 恭裕

基地局復旧作業スタート。しかし実際の現場は…

被災した基地局の復旧作業は、大きく2つに分けることができる。1つは光ファイバーの断線など、伝送設備に支障が発生している基地局の復旧だ。このケースでは、衛星アンテナや基地局と接続するための機器を搬入。PCを使って現地で設定作業を行い、通信テストなどを経て暫定的に基地局を復旧させる。

基地局の復旧で使用された可搬型衛星アンテナ(新型)

もう1つは、停電地域での基地局の復電作業だ。まずは電源確保のため、小さいもので20kg、中規模のもので80kg以上ある発電機を基地局まで搬入。発電機を稼働し、基地局に電力を供給して復旧する。

給油専門チームが組織され、燃料が切れないように巡回を行う。倒木や土砂崩れで車が通行できない場所では、発電機や燃料を担ぎ基地局へ徒歩で向かわなければならず、肉体的にもかなり負担がかかる作業だ。

「倒木や土砂崩れが非常に多く、基地局にたどり着くのに苦労したのをよく覚えています。倒木の情報はエリア復旧本部に連絡。自治体を経由して自衛隊に除去してもらいました。そのような現場で、特に意識したことは作業員の安全面です。非常に危険な仕事に従事しているので、過度な作業にならないように細心の注意を払うようにしていました」と話すのは、千葉県の被災地で復旧作業を担当した島崎だ。島崎は、復旧作業をしているときにお客さまから掛けられた言葉が忘れられないという。

被災地での復旧作業を担当 島崎 真

「『携帯使えるようになったの? ありがとう』と声を掛けていただきました。肉体的にも精神的にも大変な作業をしている中で、その一言は本当に励みになりましたね」

宿泊予約は直前で入れる

長期間にわたる大規模災害の復旧作業では、休息も重要だ。台風19号では現地作業メンバーがしっかりと休めるよう、現場に近い宿泊先を確実に確保することを徹底。その日、最後の作業現場が決まるタイミングを見計らって、後方支援を行う社員が全員分の宿泊予約を行った。

「これは、被災地のホテルに迷惑をかけないためでもありました。ただでさえ予約変更などが相次いでいる状況。キャンセルが発生しないようにして協力を依頼しました。その日に泊まる場所がギリギリまで分からず、メンバーには少し負荷がかかったかもしれませんが、概ねスムーズだったと思います」と富岡。台風で被災したホテルが「復旧作業のためなら」と協力してくれたケースもあったという。

後方支援(人員管理・宿泊手配) 富岡 由香里

通信ネットワークを復旧させる。共通の目的を完遂するために必要なこと

台風19号の復旧対応には、全国各地から通信ネットワークの保守メンバーが集まっただけでなく、有志社員で構成される応援要員も多数参加した。普段とは違う環境下で働く社員が多い中で「通信ネットワークを復旧させる」という共通の目的を完遂するためには、緻密なコミュニケーションが不可欠だった。復旧作業計画の立案、現地作業のサポートを担当した黒島は次のように話す。

「当然ですが、復旧作業は基地局の支障状況によって異なります。復旧作業計画は、基地局の特性や被害状況、現地作業メンバーのスキルなど、複合的な要素から最善策を検討しました。私は基地局を直接見ることができないので、作業メンバーから基地局や周辺環境の情報を収集して、現地の様子をイメージする。そして、暫定的に復旧させるべきなのか、それとも時間をかけて恒久的な災害対策を施すべきなのかなどを判断し、復旧作業計画に落とし込んでいきました」

復旧作業計画・現地サポート担当 黒島 睦志

有志社員も応援要員として復旧作業に奮闘

復旧対応に参加した応援要員は、人が集まる避難所などに可搬型基地局を設置する作業も行った。技術部門では、災害を想定した訓練を年2回実施している。今回はその訓練の成果が試される場となった。

「通常業務で災害を想定した基地局設置訓練を担当しています。フレームを組み上げる15メートルくらいの『やぐらタイプ』とルーフ型のアンテナを車両に設置する『レンタカータイプ』という2つの基地局があり、訓練でこれらを設置する準備をしてきました。今回、私は東京拠点からの応援要員が可搬型基地局を設置する作業のサポートをしたのですが、日々の訓練のおかげで、現場での作業も予定通りに行うことができました」と横田は話す。

応援要員のサポート担当 横田 直大

しかし、すべての作業が順調に進んだわけではない。機器の不具合など、イレギュラーな事態が発生した際は、作業に精通した社員が遠隔でサポートを行った。

「横田と同様に、可搬型基地局を設置する応援要員をサポートしました。もちろん設置マニュアルはありますが、実際の災害現場では想定通りにいかないケースも珍しくありません。現場から対処方法の相談を受けた際は、リアルタイムで的確な指示を出す必要がありました。現場で対応する作業班は、過酷な非日常環境の中で作業をしています。彼らが少しでもスムーズに作業できるように分かりやすく説明することを意識しました」と池側。

応援要員のサポート担当 池側 祐輔

そして、ついに「復旧宣言」へ。

基地局の復旧活動と並行し、ソフトバンクでは台風19号の災害支援措置を次々と展開した。

台風上陸の前日、2019年10月11日には1都12県で公衆無線LANサービス「ソフトバンクWi-Fi スポット」を無料開放。台風が通過し被害状況が見えてきた翌10月13日には、追加データ購入料金の無償化や利用料金の支払期限を延長する通信サービスにおける「支援措置」を発表したほか、ソフトバンク・ワイモバイルショップや避難所での無料充電サービスを提供するなど、まさに全社一丸となって災害対応を行った。

2019年10月16日20時33分、ソフトバンク「復旧宣言」

台風の上陸からおよそ4日後、10月16日20時33分にソフトバンクは「復旧宣言」を発表した。移動基地局車や可搬型基地局、可搬型衛星アンテナ、移動電源車、可搬型発電機など合計696台の機材を投入。災害対策本部の設置から7日間で延べ3,142人の社員が携わった復旧作業に、ようやく一区切りがついた形だ。

被害が広範囲に及び、また復旧作業が困難を極める中、4日間で復旧宣言に至ることができた要因を担当者たちに尋ねると、同じ答えが返ってきた。それは「備えること」。

ソフトバンクはこれからも、通信インフラを守る強い使命感を持ち、災害に立ち向かうことができる万全の備えを続けていく。

ソフトバンクの災害への備え

(掲載日:2020年3月9日)
文:ソフトバンクニュース編集部