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スマホのバッテリーでも大活躍! 「リチウムイオン電池」の仕組みや長持ちさせる使い方を解説します

スマホのバッテリーでも大活躍! 「リチウムイオン電池」の仕組みや長持ちさせる使い方を解説します

スマホからテレビのリモコン、ノートパソコン、車のバッテリーにいたるまで、私たちの現在の生活には電池が欠かせません。

その中でも広く普及しているのが「リチウムイオン電池」。2019年に旭化成の吉野彰名誉フェローが「リチウムイオン電池の開発」の功績によりノーベル化学賞を受賞したことも、まだ記憶に新しい出来事でしょう。

今回は、いまや生活に不可欠な「リチウムイオン電池」について、開発や普及の歴史に触れながら、仕組みや特長を解説。また、リチウムイオン電池を長持ちさせる使い方も紹介します。

リチウムイオン電池は身近な存在

2019年の12月10日、ノーベル化学賞が、米テキサス大学のジョン・グッドイナフ教授、米ニューヨーク州立大学のスタンリー・ウィッティンガム教授、そして旭化成の吉野彰名誉フェローに授与されました。さまざまなメディアで受賞が報じられるとともに、リチウムイオン電池というものが広く取り上げられました。

リチウムイオン電池の開発は、1970年代にウィッティンガム教授がリチウム金属を用いた電池を考案したことに始まります。1980年代初頭にはグッドイナフ教授がコバルト酸リチウムの使用を提案。そして1980年代半ば、吉野氏がコバルト酸リチウムと炭素系材料を用いた電池を考案し、リチウムイオン電池の原型となる構成を生み出されました。

リチウムイオン電池は身近な存在

主に80年代は携帯電話やノートパソコンの開発が盛んに進められ、小型軽量かつ大容量の電池の需要が高まっていた時期でした。その後90年代に国内の企業が相次いで商品化。2000年代に入ると、携帯電話やノートパソコンから、デジタルカメラや音楽プレイヤー、2010年代にはスマートフォンやスマートウォッチへというようにさまざまな電子機器に普及していきました。現在ではドローンや電気自動車、人工衛星や潜水艦にも搭載されています。

ノーベル賞と聞くと、とても複雑で難しいものに思えるかもしれません。ですがリチウムイオン電池は、このように吉野氏らの研究に始まって、いまや私たちの社会に欠かせない存在となったのです。

電池のキホン! 電気はどうやって作られる?

リチウムイオン電池の仕組みを知る前に、まずは電池の基本を押さえておきましょう。電池は、化学反応により発電する「化学電池」と、熱や光などの物理エネルギーを利用して発電する「物理電池」に分かれます。

電池のキホン! 電気はどうやって作られる?

化学電池のうち、乾電池のように充電できない電池を「一次電池」と呼びます。充電できるものは「二次電池」と呼び、その代表格がリチウムイオン電池です。その他に、酸素と水素の反応を利用する「燃料電池」があります。

では、電池はどのように電気を作り出しているのでしょうか。電池は「正極(プラス)」「負極(マイナス)」「電解質」の3つの要素で成り立っています。この構成は基本的にどの電池も同じ。各部位にどんな材料を使うかによって、電池の種類や性能が決まってくるのです。下の図から、電池内で起こる化学反応を順番に見ていきましょう。

電池の基本の仕組み

まず負極では、負極に使われている物質が電解質と反応し、①マイナスの性質を持った「電子」が放出されます。電子を失った物質の原子は、プラスの性質を持った「イオン」として電解質に溶け出します。簡単にいえば、プラスとマイナスを持っていた原子から電子(マイナス)が抜けたため、プラスの性質が残るイオンとして溶け出すイメージです。

放出された電子は、②導線を通って正極へと移動します。このとき、電子の移動とは反対方向に電流が流れ、電気エネルギーが発生(=放電)します。

正極に到着した電子は、③電解質内のイオンと結びつきます。イオンとくっついて正極から電子がなくなると、また負極から電子が移動してきて、イオンとくっつきます。そうしてこの反応が続くと、やがて電子を放出する原子がなくなります。つまり、原子がなくなって電子の流れが止まってしまうと電気を作れなくなり、電池切れの状態になるのです。言い換えると、負極に原子がたくさんあれば、電池を長持ちさせられるというわけです。

電池の仕組みを簡潔にまとめると、

  • 化学反応により、電子とイオンが発生する
  • 電子とイオンの移動によって電気エネルギーが作られる
  • 電子が流れなくなると電池切れになる

となります。この3点を覚えておいてくださいね。

ココがすごい! リチウムイオン電池の特長

ここまで電池の基本を説明しましたが、リチウムイオン電池は他の電池と何が違うのでしょうか。先に説明すると、リチウムイオン電池とは、電極に「リチウム」という金属を含んだ化合物を使い、「リチウムイオン」の移動によって放電する電池のこと。先ほどと同じ図を使って、仕組みを解説します。

リチウムイオン電池の仕組み

負極には、ある元素(A)とリチウム(Li)の化合物(ALi)を用います。Aには、まず負極では、電解質との反応により①電子が放出。Aと結合していたリチウムは、リチウムイオン(Li⁺)として溶け出します。ALi→Aという反応が起こり、負極にはAだけが残ります。

電子は導線を通って、②正極へ移動。このとき反対方向に電流が流れ、電気エネルギーが発生します。正極では、③移動してきたリチウムイオンが電子を受け取り、正極材料であるBと結びつきます。負極とは反対に、B→BLiという反応が起こります。これが、リチウムイオン電池が電気を作る仕組みです。

また、充電時は電源から電流を流しますが、このとき電流は放電時と逆向きに流れます。すると、正極から電子とリチウムイオンが放出(BLi→B)。負極に移動してきたリチウムイオンが電子を受け取り、負極材料と結合します(A→ALi)。つまり、放電時とは逆の反応が起きているのです。

なお、電極に用いられる材料はさまざまです。負極材料のAには、一般的に炭素系材料が用います。正極材料のBには、コバルトやニッケルなどの金属が使われますが、複数の金属を組み合わせた化合物として用いられることもあります。

このように、リチウムイオンが電極のあいだを行ったり来たりして放電と充電を行うことから、リチウムイオン電池と呼ばれています。しかし、他の物質でもいいはずなのに、どうしてリチウムが使われているのでしょうか。それは3つの大きなメリットがあるからなんです。

ココがすごい! リチウムイオン電池の特長

まず、リチウムは金属の中で最も軽い部類に入る原子です。周期表を見るとわかりますが、「H、He、Li、Be、B、C、N、O、F、Ne…」と全体でも3番目に出てきます。「水兵リーベぼくの船…」の“リー”ですね。

電子を放出してイオンになる原子がたくさんあれば電池が長持ちすることは、電池の基本で説明しました。リチウムは軽くて小さいため、リチウム原子を多く含んでいても、小さくて軽い電池を製造できます。たとえば、同じ1時間で使いきるリチウムイオン電池とニッケル水素電池を作る場合、リチウムイオン電池のほうが小型軽量化しやすいので、体積(または重量)あたりのエネルギー効率を高められます。だからこそ、携帯機器のバッテリーとして最適なんですね。

また、イオン化傾向が大きい点もリチウムの特徴。イオン化傾向とは、イオンへのなりやすさを表します。電池には、正極材料と負極材料でイオン化傾向に差があるほど、起電力(電圧)が高くなる性質があります。したがって、イオン化傾向の大きいリチウムを使えば、電池の電圧をぐっと高められるのです。

一般的に二次電池は、電池を使いきる前に充電する「継ぎ足し充電」を繰り返すことで容量が減ってしまう「メモリー効果」という現象が発生します。ですが、リチウムイオン電池は他の二次電池と比べてもこの現象が起きにくいという特長があります。そのため、継ぎ足し充電をしても、バッテリーの寿命に影響が出にくいのです。

小さくてもパワフル! でも使い方には要注意

小型軽量でありながら高い電圧で電気を供給する点がウリのリチウムイオン電池ですが、それだけエネルギー密度が高いということでもあります。加えて、電解質に可燃性の高い溶媒を使用するため、バッテリーが高温になったり内部でショートが起きたりすると、発火してしまう恐れがあるのです。

小さくてもパワフル! でも使い方には要注意

たとえば、直射日光下の窓辺や車のダッシュボードの上に放置したり、充電したまま出かけたりすると、バッテリーは高温状態に長時間さらされることになります。また、充電中の機器の使用もバッテリーの温度上昇を招きかねません。詳しくはこちらの記事でも紹介しています。

対策として、バッテリーには発火を防ぐ「セパレーター」が設置されています。通常は電解質内で正極と負極を隔てており、イオンが通れる大きさの穴が空いているのですが、万が一発熱するとこの穴が閉じて過剰な反応を抑え、放電/充電をストップさせる役割があります。とはいえ、温度の上昇がバッテリーにとって大きなダメージになることに変わりありません。高温状態にならないよう、温度に気を配りながらスマホを使用しましょう。

過度な放電や充電によって容量が低下してしまう点もリチウムイオン電池のデメリットの1つ。たとえば、電池が0%になるまで使い、100%になるまで充電する(あるいは100%になっても充電を続ける)という使い方を繰り返すと、リチウムイオン電池は劣化してしまうといわれています。

小さくてもパワフル! でも使い方には要注意

電池の劣化を防ぐには、ある程度(20%)まで使ったら、満充電(100%)までいかない程度に充電するのがおすすめ。バッテリー自体にも、過度な放電や充電を防ぐための保護回路が搭載されています。さらに最近のAndroidスマホは、自動で過充電を防ぐ「いたわり充電」機能に対応する機種も増加。iPhoneも80%まで充電した後は充電スピードを制御する機能を搭載するなど、スマホにも安全に使うための対策が施されています。

このように発火や劣化の危険性はありますが、リチウムイオン電池の性能は年々向上しており、安全対策も施されています。しかし、何より大切なのは、ユーザー自身が正しい使い方を心がけること。リチウムイオン電池の特徴を覚えておくと、機器を長く安全に使い続けられるはずです。

(掲載日:2020年3月30日)
文・編集:友納一樹(ゴーズ)
撮影:高原マサキ