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総距離 約9,400km! アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

インターネットやスマホの普及により、海外との通信が当たり前になった現代。ところで、そのような海外との通信がどのように行われているか、皆さんは仕組みをご存じでしょうか。

その答えのひとつが「海底ケーブル」。「衛星通信」を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、実は国際通信の99%以上が海底ケーブルを経由していると言われています。

ソフトバンクは、通信インフラを支える企業として、アジア6カ国を結ぶ海底ケーブルプロジェクト「ADC(Asia Direct Cable)」を現在進行中です。プロジェクトの概要をはじめ、海底ケーブルの仕組みや意義について、プロジェクトに携わる社員たちに話を聞きました。

水深 約8,000mの水圧にも耐える「海底ケーブル」の基本

インターネットやスマートフォンの普及で通信トラフィックが急激に増大する今、衛星通信と比較して通信容量や速度、帯域に優れる「海底ケーブル」の存在が重要になっています。衛星通信の場合、地上から衛星まで約3万6,000kmの距離がありますが、海底ケーブルなら日本ーアメリカ間で約1万km。単純な距離を比較しても、通信スピードに大幅なメリットがあるのです。

錨(いかり)の衝突やサメが噛んでも耐えられるように設計した海底ケーブル

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

(写真提供:NEC)

海底ケーブルの通信力向上に寄与している要因の一つが、光ファイバー技術の進歩です。海底ケーブルは、中心部分に光ファイバーを何本か通し、その周囲を水圧で破損しないよう頑丈な素材で何層もカバーしています。海底を這うように敷設するケーブルは、水深約8,000mもの海溝を通ることも。そうした深海では、ときに陸上で自動車を親指で支えるほどの水圧がかかるとも言われます。

一方、水深の浅い箇所では船の錨(いかり)が衝突したり、サメが噛んだりするようなトラブルも起こり得ます。だからこそ、何トンもの重力に耐えられ、容易に切断されない頑丈なケーブル構造が必要不可欠なのです。

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

DA(ダブルアーマー)ケーブル(写真提供:NEC)

今回の光海底ケーブルは今までのスペックの100倍に!

ソフトバンクの新海底ケーブル「ADC」プロジェクトで採用されたケーブルの通信容量は毎秒140Tb(テラビット)以上。2000年代初めに建設されたアジアの海底ケーブルと比べても、容量は100倍ほど進化しています。光海底ケーブルの中を通る光ファイバー上で信号の送受信に使用する2芯の単位をFP(ファイバーペア)と呼びますが、「ADC」では現時点でアジア最大級のFP数と通信容量を実装する予定です。

ケーブル「敷設船」の船員たちは数カ月にわたり海上で生活

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

ときに深海を通る海底ケーブルですが、ではどのように敷設するのでしょうか。これを行うのが、巨大な「敷設船」です。深海の地形図や過去の障害データを踏まえて、あらかじめ綿密なルートを策定。何千キロ分ものケーブルを船に積み込み、速度やケーブルの角度を調整しながら、決められたルートにケーブルを落としていきます。大規模な作業になるため、一度船が出ると船員たちは数カ月にもわたり船上で生活することになります。

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

ちなみに光ファイバー内の信号は距離とともに減衰するため、増幅させる中継器を60〜100kmほどの間隔で設置します。そうすることで、長距離でも安定して信号を届けることが可能になります。

総距離は地球半周分!? 世界をつなぐ、2つの海底ケーブルプロジェクト

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

(取材はリモートで実施しました)

ソフトバンクは、過去にいくつもの海底ケーブルプロジェクトに従事してきました。その内、2020年から本格始動する「ADC」と、今年運用開始予定の「JUPITER」、2つの大規模ケーブルプロジェクトに携わる社員に話を聞きました。

話を聞いた2つの海底ケーブルプロジェクト

アジア6カ国に新たな海底ケーブルを通す「ADC(Asia Direct Cable)」
2020年から敷設へ向けて本格始動する、ソフトバンク主導の海底ケーブルプロジェクト。日本、中国、香港、フィリピン、ベトナム、タイ、シンガポールをケーブルで結ぶ。ケーブルの全長は約9,400kmで、2022年末の完成、運用開始を目指す。

日本・アメリカ・フィリピンを結んだ海底ケーブル「JUPITER」
2017年に始動し、2020年に運用開始予定のプロジェクト。アメリカ(ロサンゼルス)から日本(千葉県、三重県)、フィリピン(ダエト)を結ぶ。全長は約1万4,000km。6社共同によるグローバル企業のコンソーシアムで建設を進め、ソフトバンクは建設グループの共同議長を務めている。ここで培ったノウハウが「ADC」にも生かされる予定。

話を聞いたソフトバンク社員たち

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

グローバル営業本部 グローバルソリューション部 部長 石井 宏司(いしい・こうじ)さん
「ADC」「JUPITER」両プロジェクトのプランニング・全体戦略担当。20年以上にわたりさまざまな海底ケーブルプロジェクトに従事。

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

IP&トランスポート技術本部 国際ネットワーク技術課 課長 藤井 一男(ふじい・かずお)さん
「ADC」「JUPITER」両プロジェクトの「調達・建設グループ共同議長」として、ケーブル建設全般を管理する役割を担う。

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

IP&トランスポート技術本部  国際ネットワーク技術課 ネットワークエンジニア 高橋 正和(たかはし・まさかず)さん
「ADC」のプロジェクトマネージャー。コンソーシアムにおける各社との調整業務や実務部分を担当。

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

IP&トランスポート技術本部 国際ネットワーク技術課 ネットワークエンジニア タンギラン・エドウィンさん
「JUPITER」のプロジェクトマネージャー。コンソーシアムにおける各社との調整業務や実務部分を担当。

 

今回の「ADC」プロジェクトにはアジア有数の通信事業者が各国から参画すると聞きました。これだけの大プロジェクトが生まれた背景を教えてください。

藤井

「まず、5Gをはじめ、IoT、AI、クラウドサービスなど、国をまたいだ通信のトラフィック需要が増大しているためです。スマホの利用人口が急激に増えていると同時に、最近ではドラマや映画など大容量のコンテンツをグローバルに配信することが当たり前になっています。トラフィック量は、世界規模で毎年1.4倍ほどのペースで増加しているというデータもあります」

石井

「そうしたトラフィック量の増加を考えると、これまで使っていたアジアの海底ケーブルだけでは2020年以降に容量不足に陥る可能性がありました。また、海底ケーブルの寿命は一般的に25年前後と言われます。海底ケーブルや光ファイバーの技術も年々発達しているので、新たなケーブルを敷き直すことは不可欠だったのです。グローバルに通信インフラを提供する企業として、海底ケーブルの敷設はソフトバンクの使命だと捉えています」

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「ADC」の敷設経路イメージ図

プロジェクト期間も長い! 2015年の立ち上げから5年の軌跡を振り返る

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「JUPITER」プロジェクトのケーブル

「ADC」プロジェクトが動き出したのはいつ頃からですか?

石井

「企画・構想を始めたのは2015年で、正式にプロジェクトを立ち上げたのは2018年です。海底ケーブルのプロジェクトは、とても長いスパンになります。大まかには4つのフェーズがあり、まずはケーブル敷設の構想を立ち上げて、各国から参画企業を募る『企画』フェーズ。

次に、参画企業が集まり敷設ルートなどを固める『プランニング』フェーズ。プロジェクトの大枠が固まったら、参画企業の間で契約書を締結します。『ADC』は今この段階ですね。ここまで来るだけでも5年ほどかかっているわけです。その後、実際にケーブルを敷く『敷設』のフェーズがあり、完成後はケーブルの保守・点検などを含めた『運用』フェーズに移ります」

藤井

「海底ケーブルのプロジェクトは、技術やテクノロジーの進化を見越して、つねに数年先を見ながら動いていく必要があります。一度敷いたケーブルは、20年程度は使用することになるわけですから。新ケーブル建設の構想を始めた2015年は、通信容量が格段に増加する技術的に大きなブレイクスルーがあり、新しいプロジェクトを立ち上げるのに適したタイミングでもあったのです」

石井

「それだけ長大なプロジェクトということで、プロジェクトに携わるメンバーは、まさにファミリーのような存在です。15年近く前に別の海底ケーブルプロジェクトで協力した懐かしいメンバーと、新しいケーブルの計画で再会することもある。当時若かった人が15年後にはその世界の主力になっていたりもする。それもまた、海底ケーブルプロジェクトのおもしろいところです」

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

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「JUPITER」の安全祈願/陸揚げ

すでに陸揚げが完了している海底ケーブル「JUPITER」についても聞かせていただけますか?

タンギラン

「『JUPITER』はソフトバンクが共同建設に携わった、日本・アメリカ・フィリピンをつなぐ太平洋横断光海底ケーブルです。6社共同の大型プロジェクトで、今年から本格運用がスタートする予定です。そこで培ったノウハウを存分に『ADC』プロジェクトに活かしていければと考えています。

私は、『JUPITER』のプロジェクトマネージャーとして、計画の推進や契約書の作成など実務作業に携わってきました。2年以上の建設期間を経て、『JUPITER』は今年運用開始される予定です。アメリカから日本、フィリピンまで約1万4,000kmをつなぐケーブルで、これまでの通信容量から10倍ほどに進化しています」

石井

「『ADC』と『JUPITER』を合わせると、2つのケーブルの総延長は約2万4,000km。これは地球半周分を超える距離です。そして、これら2つの海底ケーブルの接続拠点になるのが、ソフトバンクが所有する『ソフトバンク丸山国際中継所』です。

丸山国際中継所は、首都圏から近いことはもちろん、アメリカとアジアの直線上に位置するなど地理的に非常に恵まれています。『世界のMaruyama』として、国際通信のハブとなるデータセンターとして重要な役割を担っているわけです。2019年12月には新たな局舎を建設して施設を拡張し、ここで『ADC』の陸揚げを行う予定です」

光海底ケーブルの接続拠点「ソフトバンク丸山国際中継所」

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

千葉県南房総市にある、ソフトバンクが所有・運営する海底ケーブルの陸揚施設。2001年に「Japan-USケーブル」を陸揚げ、以降多数の海底ケーブルが陸揚げされている。「JUPITER」と「ADC」の陸揚げにより、ますます国際通信にとって重要拠点となる。

文化や商習慣の違い、自然や天候との戦い…… さまざまな難題も。その先の未来は、私たちの暮らしを大きく変える

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

長期間かつ国をまたいで参画する企業も多い大規模プロジェクトということで、大変な部分はどんなところですか?

高橋

「参画企業はそれぞれの国の通信インフラを背負っているので、当然それぞれの立場からの主張があります。ソフトバンクは、プロジェクトを統括する議長の立場として、全体の利益を考えつつ、バランスを取って意見を調整していく必要があります。そこでは当然、各国の文化や商習慣なども尊重しなければいけません」

石井

「海底ケーブルプロジェクトは、参画企業と交渉がまとまらず、契約直前に計画が頓挫してしまうケースがあるんです。だからこそ、そのあたりの調整が非常に重要になってきます」

タンギラン

「無事に契約を締結してケーブルを敷設する段階では、自然や天候との戦いが待っています。『JUPITER』のときには、高波の影響で船の設備が損傷を受けて、修理を余儀なくされたこともありました。雨や台風で危険な状況にさらされることもありますし、常に細心の注意を払う必要があります。本当に現場の作業員の尽力なしには成し遂げられませんでした」

5Gサービスや8K放送……。次世代通信はもちろん、海底ケーブルが私たちの暮らしを大きく変える

アジアと日本の5Gサービスの生命線、海底ケーブルプロジェクト「ADC」に迫る

「JUPITER」プロジェクトケーブル陸揚げ時の写真

石井

「私は入社以来、さまざまなケーブルプロジェクトに携わってきましたが、そうした苦労を乗り越えてケーブルが開通した瞬間は、言葉で言い表せないような感動があります。20年くらい前に初めて携わった海底ケーブルプロジェクトの陸揚げの日には家族も現場に連れて行って、一緒に見届けましたね。海底ケーブルは、言うなれば地図に乗る仕事でもあります。プロジェクトに携わる社員にも、そのような誇りとやりがいを感じてもらえたらうれしいですね」

「ADC」でも、そのような開通の瞬間の喜びを味わえるといいですね。

藤井

「そうですね。アジア太平洋地域の通信インフラを担う要として、絶対に成功させたいプロジェクトです。新型コロナウイルスの影響で各国大変な状況ではありますが、各社力を合わせて、一丸となって進めていければと思います」

石井

「今、世界中で5Gの本格的な普及が始まっており、テレビ放送も4K、8Kが普及してきています。そうした背景もあって、国をまたいだ通信需要は増大しており、そしてそれを支える海底ケーブルはますます重要性を帯びてくるはずです」

藤井

「今まで難しかったことが、新しい海底ケーブルのキャパシティーを使ってできるようになるかもしれません。海外発の高画質なコンテンツを、より手軽かつスピーディーにスマホで楽しめるようになったり、VRを使用した遠隔医療が一般的なものになったり」

石井

「海外との通信が飛躍的に進歩すれば、アジア、アメリカ、ヨーロッパの離れた地域と、大量のデータのやりとりが必要な研究などをもリアルタイムに連携して進めることが可能になるかもしれません。海の向こうの国や人がより近くなり、新しい働き方も増えるでしょう。私たちの暮らしはもちろん、社会全体のインフラを支える使命感を持って、必ず成功させます」

普段、何気なく使っているスマホやインターネット。その裏側には、長い年月をかけて、多くの人が協力しながらつくり上げる海底ケーブルの存在がありました。海底ケーブルプロジェクト「ADC」はこれからも続きます。

(掲載日:2020年6月11日)
文:有井太郎
編集:エクスライト