2011年3月11日に発生した東日本大震災で被災した地域では、インフラなどの復興が進む一方で解決すべき課題もまだまだたくさんあり、被災地域の未来を見据えた取り組みが必要とされています。
このような中、東日本大震災から10年の節目を迎える2021年3月10日、今後の被災地復興をサポートする取り組みが発表されました。
- 東日本大震災の復興に向けた人材育成と事業創出を目指す「Next Action→ Social Academia Project」が始動(2021年3月10日 一般社団法人パイオニズム、ソフトバンク株式会社、ヤフー株式会社)
被災地復興の次の10年をサポートする「Next Action→ Social Academia Project」がスタート
一般社団法人パイオニズム、ソフトバンク、およびヤフーは、2030年までの10年間で多くの事業を創出することと、世界に通用し活躍する多数の人材を輩出することを目標として、将来福島県内に拠点を置いて起業を志す満16~29歳(募集開始時点)の支援を行う「Next Action→ Social Academia Project」を2021年3月10日に発足させ、参加者の募集を開始。3者が持つこれまでの起業・事業化のノウハウなどを最大限に活用し、人材育成と事業創出を目指します。
このプロジェクトは、一般社団法人パイオニズムが運営主体となり、コワーキングスペース「小高パイオニアヴィレッジ」を拠点に、オンラインとオフラインの両面から参加者をサポート。ソフトバンクは、講師の派遣や「つながる募金」を通して、このプロジェクトに関わる募金活動を実施し、ヤフーは「Yahoo!ネット募金」や震災10年のチャリティー企画「検索は、チカラになる。」を通じた運営資金の支援の他、「エールマーケット」を活用した商品の販売活動のサポートなどを行います。
小高パイオニアヴィレッジを運営する一般社団法人パイオニズムの和田さんと、ヤフーおよびソフトバンクの担当者に、本プロジェクト立ち上げのきっかけや、参加者に期待することなどを聞きました。
一般社団法人パイオニズム
和田 智行(わだ・ともゆき)さん
福島県 小高出身で、「Next Action→ Social Academia Project」の活動拠点となる小高パイオニアヴィレッジを運営。
ヤフー株式会社 SR推進統括本部
鈴木 哲也(すずき・てつや)さん
Yahoo!ネット募金・Yahoo!ボランティア サービスマネージャーとして被災地への支援活動を担当。
ソフトバンク株式会社 CSR本部
箕輪 憲良(みのわ・のりよし)
ソフトバンクの募金サービス「つながる募金」や、被災地の次世代育成事業に従事。
募金や被災地に根付いたこれまでの10年の支援
ヤフーおよびソフトバンクでは東日本大震災後から、さまざまな形で被災地への継続した支援を行っています。
ヤフーは、これまでどのような支援を行ってきたのでしょうか?
大小さまざまな支援策を続けてきましたが、「Yahoo!ネット募金」や「Yahoo!ボランティア」などを通じて継続的な支援の他、販路をなくした生産者の方々の商品をPRして売るという「復興デパートメント」(現「エールマーケット」)を2011年に立ち上げ、2012年には「ヤフー石巻復興ベース」という形で宮城県石巻市に拠点を置いて、現地に根付いた復興支援を行ってきました。
その中で生まれた、東北の被災地を自転車で巡って地元の状況を分かっていただくという「ツール・ド・東北」や、これからの漁業を作っていくことを目的に立ち上げられた漁業従事者支援の団体「フィッシャーマン・ジャパン」を支援しています。
また2014年からは、毎年3月11日に合わせて、被災地の現状を伝える記事を発信したり、3月11日にYahoo! JAPANで「3.11」と検索していただくと、ヤフーが東北の団体に1人につき10円を寄付するという企画も行っています。
ソフトバンクも、募金や被災地域での支援活動を続けてきましたよね。
はい。さまざまな形で継続的に支援をさせていただいていますが、主なところではまず、ソフトバンクのユーザーの皆さまを中心に寄付をいただき、被災地で活躍するNPOに募金という形でサポートする「つながる募金」があります。
他にも、震災により部活動が思うようにできない、また大会に参加できないなどの課題を抱える小・中学生のスポーツの活動を応援するため、「SoftBank 東北絆CUP」を開催して、バスケットボールやサッカーなどの大会を開催してきました。
さらに、「TOMODACHIソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」(以下「TOMODACHIプログラム」)では、岩手・宮城・福島の高校生を対象に、地域課題を解決するようなリーダーを育てていくことを目的に、カリフォルニア大学バークレー校への留学プログラムを続けていまして、これまでの参加者は1000人を超えました。
そのような支援を通したつながりが、「Next Action→ Social Academia Project」立ち上げのきっかけになったのでしょうか。
10年という区切りの中で、TOMODACHIプログラムに参加いただいた皆さんの次の活躍の場を作っていきたいと思っていました。彼らは本当に素晴らしい子たちばかりで、彼ら自身すでに力もあり、とにかく思いが強いので、彼らが次の世代の福島や日本、さらに世界の課題を解決しようと思ったとき、その一歩踏み出せるようなフィールドを作りたいという思いがありました。
今後の支援のあり方を考えていく上で、住民がゼロになってしまった地域の課題というものがすごく大きいと感じました。これまで続けていたネットでの販売などももちろん大事ですが、やはり今後の10年を考えた時に、町づくりが重要で、そこには次世代を担う若者たちの力が必要だと考えました。
「Yahoo!ネット募金」や「エールマーケット」でのネット販売を通じてつながりがあった小高パイオニアヴィレッジでは町づくりにフォーカスした活動をすでに始められていたこと、またソフトバンクでは若者の活動を支援する取り組みをしていたので、今回のプロジェクトを一緒にやっていこうとお声がけしました。
避難区域に人を呼び戻し、自走できる町づくりを
被災地では実際に今どのくらい復旧が進んでいるのでしょうか。
震災から10年たってインフラが復旧したり新しい建物ができたりと、見た目では復興が進んでいるように見えるかもしれないですが、特に福島の避難区域に関してはまだまだ帰還できないエリアもありますし、小高のように避難指示が解除されて帰還が始まっているところでもなかなかその動きは鈍いですね。
国が大きな施設を造ったりしながら何とか体裁を保っているのが実情ではないかと思います。国や行政の予算はいつまでも続くものではないですし、やっぱりそこで暮らしている住民が事業を作って自走していく流れを作っていかなければならないと思います。
そのような地域の未来のために必要なのは、どのようなことだと思いますか?
避難区域であった地域が、今後も持続可能な町として成り立っていくためには、地域課題解決のために事業を起こしたり、地域の資源を使ってビジネスをしたり、そういった人たちが生まれていく状態を作らなければいけないと思っています。
震災当時、私は小高に住んでいて、自宅が原発から近かったため避難生活を送っていました。自宅に帰れるようになるということが分かってきた時、私自身は小高に戻って何をしょうかなということを考えていましたが、周りのほとんどの人は戻らない選択をしてたんですね。
店がない、仕事がないといったような課題がたくさんあって戻れないと皆さんが話していて、その声を聞くうちに、課題ってビジネスの種なのでそれを解決するビジネスを作っていきたいと思うようになりました。
そして、2014年に株式会社小高ワーカーズベースという会社を創業して、まだ居住が認められないうちから食堂を作ったり、南相馬市から委託を受けて仮設のスーパーを作ったり、ガラス工房を作って地域の方々を雇用するということをやってきました。ただ、立ち上げから「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」という思いで取り組んできたものの、自分たちだけでは難しいと思うようになって、この地域に起業家を呼び込んで同じような志の仲間を増やしていこうということを考えるようになりました。そのためのハードとして小高パイオニアヴィレッジを構想し始め、2019年3月にオープンしました。
そこが「Next Action→ Social Academia Project」の拠点となるわけですね。小高パイオニアヴィレッジはどのような場所ですか?
目的は、地域の中に起業家のよりどころとなるようなコミュニティーを作ろうというところに重きを置いています。小高のようにハンディを負ったエリアで起業するのは結構大変なことで、私も経験しましたが、最初は「そんなことやったって無駄だよ」などと言われることもありました。
でもその時にチャレンジした人の心が折れて諦めてしまわないよう、同じような価値観の起業家たちが自分たちの先を走っていたり、並んで走ったり、足りないスキルを補いあったり、そうやって地域の中で事業を生み出していくコミュニティーを作ることを目的に作りました。
施設の機能としてはコワーキングスペースや、起業家たちが中期的に滞在できるようなゲストハウスも併設してます。また、ガラス工房も併設していて、モノづくりとデスクワークをする人が同じ空間で仕事をすることで、なかなか普段出てこないアイディアが生まれたり、外の人と中の人が自然にコミュニケーションを取ることによって、コラボレーションが生まれたり、そういうことが起こりやすいような工夫を設計に入れました。
参加者の目的に応じた三つの階層で若者の起業活動を支援
「Next Action→ Social Academia Project」は、出身地に関わらず、募集開始時点で満16~29歳で被災地の課題解決を目指す人であれば、誰でも参加申し込みできます。
参加者は具体的にどのような体験ができるのでしょうか?
参加方法は三つの階層に分かれています。一つ目の「Apollo 」クラスは、具体的な事業計画があり、一年をめどに起業を目指す起業家向けで、私たちが伴走したり、小高パイオニアビレッジを利用している起業家たちとコミュニケーションをしながら起業を目指していただけるような場の提供です。
二つ目の「Rocket」クラスは、起業とまではいかなくても、福島に行って何かアクションを起こしたいという方に対して、「さとのば大学」のプログラムを提供し、一歩踏み出すためのメンタリティや、やりたいことを見つけるにはどうしたらいいのかといったプログラムを受けていただきながら、実際に現場でやりたいことを見つけて形にしていく場を提供します。
三つ目の「Booster」クラスは、福島に行くことはできなくても、企業を目指す人たちをサポートしたいと考える方にオンラインコミュニティーに参加していただき、情報交換をしたり、さまざまな講座を受けていただきながら、起業家や仲間たちをサポートしていくプログラムになっています。
「Next Action→ Social Academia Project」のクラス
なんでも気軽に相談できる20代のメンバーが参加者をサポート
「Next Action→ Social Academia Project」に参加される方が安心して取り組めるよう、ソフトバンクから、10代の頃に震災を経験したメンバーが運営に参加予定です。
ソフトバンク株式会社 CSR本部
岩田 萌
岩手県出身。小学5年生当時東日本大震災を経験、その後2016にTOMODACHIプログラムに参加。現在大学3年生で、長期インターンとしてソフトバンクに勤務し、「Next Action→ Social Academia Project」の運営に従事。
運営に携わることになったきっかけとプロジェクトでの役割を教えてください。
私は高校2年生の時にTOMODACHIプログラムに参加し、そのつながりで今はソフトバンクの長期インターン生をしていて、自分が何かやりたいと思ったところに賛同してくださる大人の方や企業のありがたみをすごく感じることができました。そうした中で、自分も協力してもらうだけではなく、何か貢献したいという思いから、今回このプロジェクトに携わりたいと思ったのがきっかけです。
私は岩手県出身ですが、福島にはTOMODACHIプログラムに一緒に参加した大切な仲間も住んでいて、震災を一緒に乗り越えてきた仲間として福島を守りたいという強い思いもあります。
役割としては学級委員というような立場で、参加者の身近な相談役として活動する予定です。参加してくださる方が何でも相談しやすいような空気感を作っていきたいなと思っています。
「Next Action→ Social Academia Project」をチャレンジの場として活用してほしい
最後に、参加者の皆さんに期待することなどを教えてください。
課題解決をしていく上で、その土地で「こういうことをやりたい」とか、「日本や世界に向けてこんなことがやりたい」などの思いがあると思うんですよね。そうした時に、チャレンジとして一歩踏み出してくれることが非常に重要で、そのためにこのプロジェクトをうまく使っていただきたいです。そこで自分がやりたいことや、やるべきことを社会と一緒にやっていくと大きな力を発揮するというところをまず感じていただければと思っています。
東日本大震災で揺れたのは地面だけではなく、東日本に生きる人々の価値観も揺さぶられたんじゃないでしょうか。そしてその価値観が揺さぶられた先に新しいものとか、新しい価値観、新しい幸せが作れるんじゃないかと思っています。震災当時10代だった皆さんは、本当に強い思いと力を持っていると思っていて、それはTOMODACHIプログラムを通して確信しています。そんな皆さん同士がつながりあい、思う存分チャレンジできる場を提供します。自信を持ってそのチャレンジの場を生かし切っていただきたいと思います。
何かをしたいという思いがあってもなかなか一歩踏み出せなかったり、一歩踏み出したいけど、受け皿がなくて諦めたり、そういう思いをしてきた子たちに、ぜひ思い切って参加してみてほしいと思います。そして、そういった一歩踏み出せた子たちが、どんどん地域の中で躍動していって、事業に踏み出して、それが避難区域になってしまったこの福島 小高や日本の課題を解決していくような事業に発展していけばいいなと思っています。それこそ若い人たちがやるからこそ周りの視点も変わっていくと思うので、どんどん成果を出して福島という場所のイメージも変えて、その中心にこのプロジェクトがあるといいなと思っています。
(掲載日:2021年3月10日)
文:ソフトバンクニュース編集部