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“次世代電池” こそが、イノベーション進化のキーテクノロジー。ソフトバンクが電池を開発する理由

“次世代電池” こそが、イノベーション進化のキーテクノロジー。ソフトバンクが電池を開発する理由

スマホやパソコンに限らず、モバイル機器の多様化に欠かせないのが電池。リチウムイオン電池やニッケル水素電池など、電池開発の分野は長らく日本が世界をリードしてきましたが、CO2削減を目標に各国がEVにシフトを宣言する中、電池開発での覇権争いは戦国時代に突入しているそうです。

そんな厳しい市場に「常識を覆す」と、次世代電池の開発に挑んでいるのがソフトバンク。「通信事業会社が、なぜ電池を開発しているの? 」と不思議に思いますよね。そこで担当者にどんな取り組みをしているのか、インタビューしてきました。

ソフトバンクで次世代電池の開発に取り組んでいる人たち

ソフトバンク テクノロジ―ユニット 技術戦略統括
先端技術開発本部 先端技術研究室 エネルギー推進課

齊藤 貴也(さいとう・たかや)

担当部長 齊藤 貴也(さいとう・たかや)

大手電池メーカー数社で車載用途のリチウムイオン二次電池の研究開発・量産立ち上げに携わった後、2018年にソフトバンクに入社。現在は、HAPSモバイル株式会社の電池開発業務を兼務しながら、次世代電池の調達および開発業務に携わっている

高柳 良基(たかやなぎ・ よしき)

高柳 良基(たかやなぎ・ よしき)

2019年新卒入社。入社後、リチウム空気電池の研究業務に携わる。その後、HAPSモバイル株式会社の電池開発業務を兼務しながら、次世代電池の調達および開発業務に携わっている

最優先課題は高重量エネルギー密度化の実現。あえて独自の可能性を探る、ソフトバンクの電池開発

“次世代電池” こそが、イノベーション進化のキーテクノロジー。ソフトバンクが電池を開発する理由

いわゆる乾電池などの化学電池は、カテゴリーが二つに分かれており、現在、二次電池の中で最先端といわれるのがリチウムイオン電池です。

電池の主な性能指標は次の4つ。

① 高エネルギー密度化(軽量化)

② 電池寿命

③ 安全性

④ コスト

これらの性能面が大幅に向上、改善できる電池が “次世代電池” です。その中でもソフトバンクは、特に①高エネルギー密度化(軽量化)にこだわった、リチウムイオン電池の先の「リチウム金属電池」の開発に取り組んでいるそうです。

齊藤 貴也(さいとう・たかや)

現行のリチウムイオン二次電池は、負極にエネルギー密度の低い黒鉛が主材料として使われていますが、次世代電池は負極にエネルギー密度が非常に高いリチウム金属素材が使われるため、より軽量になります。さらに、理論的に高エネルギーが期待される有機系(炭素・水素・酸素など軽元素を主とした化合物)や空気極を、正極で使用できるような取り組みも始まっています。

“次世代電池” こそが、イノベーション進化のキーテクノロジー。ソフトバンクが電池を開発する理由

高柳 良基(たかやなぎ・ よしき)

日本の電池開発は、②電池寿命と③安全性を中心に開発が進んでいますが、ソフトバンクは、従来の電池よりも半分の重量でエネルギー(Wh)が同じという電池開発にこだわっています。今ある電池の重量エネルギー密度は250Wh/kgほどですが、われわれは1,000Wh/kg、1,000Wh/Lの高いエネルギー密度の開発を目指しています。また、電池の正負極に使われる最適な材料を見つけ出すのも、次世代電池開発の取り組みです。

Wh/kgとWh/Lの違い

電池の重量の重量や外径サイズの比較に、重量エネルギー密度と体積エネルギー密度という単位が使われ、どちらもエネルギー密度をあらわします。

  • Wh(ワットアワー)電力量、つまり1時間につかう電気の量のこと
  • Wh/kg(ワットアワ パー キログラム) 電池の重量あたりのエネルギー
  • Wh/L (ワットアワ パー リットル)電池の体積あたりのエネルギー

 -Wh/kg、Wh/Lはそれぞれ単位重量、単位体積当たりの電池の容量を示しています。

例えば、リチウムイオン電池の重量エネルギー密度と体積エネルギー密度は、他の電池に比べて最も大きく、ニッケル水素電池の約 2.5倍になります。

“次世代電池” こそが、イノベーション進化のキーテクノロジー。ソフトバンクが電池を開発する理由

リチウムイオン電池は、同じエネルギーに対して最も小さく、最も軽い電池であり、小型軽量でエネルギー密度の大きい電池として構成できるので、モバイル機器の電源として使用されています。

電圧や電流といった電気の基本から充電の仕組みまで、スマホのバッテリーについて詳しくはこちらで紹介しています。

「mAh」ってどんな単位? 知っておきたいスマホバッテリー容量の基礎知識

電池は新たな産業の “カギ” となるテクノロジー。電池が進化すると優れたアプリケーションが生まれる

次世代電池は、どのようなことを可能にするのでしょうか?

齊藤 貴也(さいとう・たかや)

高容量・軽量という特長から、ヒトの活動領域を拡大する新しい機器などが開発されると考えています。走行距離増加、CO2削減、低コスト化によるEVの大幅普及が見込めるほか、電池の軽量化によって例えば空を飛ぶ車とか。これができれば、渋滞抑制、患者の緊急搬送問題の解決などにもつながりますよね。

それから長時間飛行が可能なドローン。ドローンで移動する距離が延び、今まで届けることができなかった過疎地や離島へ届けられるようになります。

今ある電池の最大エネルギー量は250Wh/kgだけ。われわれが目指す1,000Wh/kgの軽量電池が搭載される機器や製品(アプリケーション)が増えると、もっと大きなイノベーションが起こるはずだと考えています。

他にはどんな使い方が想定できますか?

高柳 良基(たかやなぎ・ よしき)

電池が軽くなることで、ウエアラブル端末との親和性が高くなります。重量の関係でこれまで設置できなかった場所への搭載ができるようになり、分散型電池の設置箇所を増やせます。また、バックアップ電源の作動時間を延ばすことが可能になるので、防災設備の準備などの災害対応に貢献できますね。

ソフトバンクがEnpower Greentech Inc.と共同開発した要素技術を用いた電池の試作品。

正負極が積み重ねられた薄型の形状で、外装がラミネート加工のため、従来の電池よりも軽量化を実現している。

EVだけじゃない。重量エネルギー密度が高い電池が実現する、社会を変えるほどのイノベーション

そもそも、なぜソフトバンクが電池を開発しているのでしょうか?

齊藤 貴也(さいとう・たかや)

ひと言でいうと “端末があるから” ですね。良いサービスを提供するには、良いアプリケーション(製品)が必要。例えば、インターネットは光ファイバーによって容量が増えデータ速度が飛躍的に上がることで、さまざまなサービスが生まれました。同じようにスマホやEVにはリチウムイオン電池が大きな役割を果たしています。つまり、優れたアプリケーションの進化は、優れたデバイス(部品)の進化によりもたらされているわけで、電池はそのキーデバイスのひとつ。

ところが、次世代電池はまだ種類が限定的です。そこで、次世代電池の選択肢を増やそうと、ソフトバンクも取り組んでいるというわけです。

なるほど。新しいサービスを開発するには、電池が重要なのですね。

高柳 良基(たかやなぎ・ よしき)

はい。加えてソフトバンクの子会社であるHAPSモバイル株式会社が成層圏通信プラットフォーム(HAPS)に取り組んでいます。HAPSはいわば「空飛ぶ基地局」なので、軽くて高容量の電池が必須。われわれが高いエネルギー重量密度にフォーカスして軽量化電池を開発しているのは、HAPS事業があるというのも大きな理由です。

  • 成層圏に飛行させた航空機などの無人機体を通信基地局のように運用し、広域エリアに通信サービスを提供するシステムの総称。

どのような電池を開発するのか、具体的に教えてください。

齊藤 貴也(さいとう・たかや)

ソフトバンクは電池の軽量化、つまり重量エネルギー密度を高めることに特化した電池の開発に、材料開発まで踏み込んで取り組んでいます。これは、非常に難しいターゲットへの挑戦です。

日本の電池開発は、電池の性能指標4つを全て満たそうと、欠点のない電池を求めすぎているが、われわれはその反対。欠点より一つでもずばぬけた特性があればそれを延ばし、他は後から改善を検討するという方法です。あえて参入者が少なく、有望度が高くなりそうなところを攻めています。

あえて違うマーケットを狙っているのはなぜでしょうか?

齊藤 貴也(さいとう・たかや)

日本は新しい技術が開発されると、右へ倣えで同じような研究開発する傾向があると感じています。しかも 電池開発は投資産業なので、規模が大きいほどコストが下がり市場に勝つような構造。そのため、諸外国に追いつかれるとコストや投資の競争が激化し、日本がこれまで強かった材料研究さえも他国に奪われているのが現状です。私は次世代電池に勝負の場を移すべきと考えているので、あえてメーカーとは同じ土俵で勝負しないようにしています。

また、高容量・軽量の次世代電池は、環境問題の解決やSDGs達成にも貢献できるんですよ。

次世代電池とSDGs達成にはどんな関係があるのでしょうか?

高柳 良基(たかやなぎ・ よしき)

デバイスの進化には電力増加が伴います。情報革命とエネルギー消費量は比例し、CO2排出量も増加。そこで電池の高容量化、つまり高エネルギー密度化が重要なのです。

例えば、携帯の基地局に次世代電池を搭載すれば、非常時の際は電力源としてより長時間使用することが可能になります。高容量という特長を生かすことで、既存のアプリケーションのパフォーマンスを上げることができるためです。より多くの基地局の非常時電源が48時間以上の耐用になりますから、これらが普及すれば、災害対策にもつながる可能性も。

このように高容量電池が実現すれば、新しいテクノロジーが実現できるだけではなく、環境問題の解決や災害対策につながり、新しい社会の実現に貢献できると考えています。

“次世代電池” こそが、イノベーション進化のキーテクノロジー。ソフトバンクが電池を開発する理由

今までの常識を疑い、既存の技術も見直す。門外漢だからこそできる挑戦

2018年から始まった、ソフトバンクの電池開発。これまで国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)と共同で「NIMS-SoftBank先端技術開発センター」を設立し、基礎研究から始めていろいろ手法をとりながら次世代電池を開発しています。

開発は、どのように行っているのでしょうか?

齊藤 貴也(さいとう・たかや)

まず、リチウム金属や有機正極などの次世代電池材料のポテンシャルを確認するような基礎研究については、大学や研究機関・メーカーと共同で推し進めてきました。ここでは、技術の種類や開発段階に応じて必要な人材や設備が異なるので、ケースに応じて最も優れる人材・設備がある機関と組むことで、フレキシブルに開発できる体制にしています。

次世代のデバイスやアプリケーションでは、既存のEVやスマホなどとは大きく違った電池の使い方や要望が出てくるので、今までの常識を疑い、既存のアプリケーションではNGと判断された技術も見直すようにしています。そういった技術は、全固体電池などの新しい技術と組み合わせることで改善できる可能性があったりしますからね。

基礎研究でいい結果が出てポテンシャルがあると分かれば、応用研究の段階へ移ります。応用研究では、使用環境下に近い条件での試験や、電池サイズのスケールアップなどに取り組んでいきます。その後は材料メーカーなど企業と協業し、進めていくことになると思います。

“次世代電池” こそが、イノベーション進化のキーテクノロジー。ソフトバンクが電池を開発する理由

今後の開発スケジュールについて教えてください

齊藤 貴也(さいとう・たかや)

毎年、材料の完成、セルの完成などの成果が出るように、いくつかの技術開発に並行して取り組んでいます。次世代電池の開発は1社ではできません。アプリケーションを提供する企業側もサービスを実現するための要望があり、そこから電池メーカーだけでは思いつかない新しい検討材料が出てきたりします。そのため 、電池メーカーだけでなく電極の材料研究や電池に関する基礎研究を行っている機関など、さまざまなプレーヤーと一緒になって取り組んでいきたいと考えています。

また、6月には専用の研究所であるソフトバンク次世代電池Lab.を設立して、これからさまざまな基礎技術の評価・解析をしていきます。ここでは技術課題を早く特定し、研究機関やメーカーにフィードバックすることで、次世代電池の開発加速を目指したいと考えています。開発した電池の要素技術の有望度を上げていき、電池分野はもちろん、それ以外の分野からの開発参入者を増やし、最終的にはこの活動を通じて、次世代電池の開発加速を支援するプラットフォームを構築したいと考えています。

ソフトバンク次世代電池Lab. について

ソフトバンクは、次世代電池の研究開発および早期実用化の推進に向けて、世界中のさまざまな次世代電池の評価・検証を行う施設「ソフトバンク次世代電池Lab.(ラボ)」(栃木県宇都宮市)を、2021年6月に設立予定。

世界中のメーカーのセルを同一環境下で評価・比較や、共同研究先と開発した要素技術の検証により得られたノウハウを参画メーカーと共有で、次世代電池開発のベースアップに貢献するなど、次世代電池の開発促進を支援するプラットフォームを目指す。

“次世代電池” こそが、イノベーション進化のキーテクノロジー。ソフトバンクが電池を開発する理由

ソフトバンクの事業を支える先端技術

先端技術で日常生活が劇的に変わる時代へ

「5G」によって、人と人だけでなく、あらゆるモノとモノがつながるIoT時代が本格的に到来します。

先端技術を用いた新たなサービス・ソリューションの実現に向け、さらなる技術開発に取り組んでいます。

ソフトバンクのサステナビリティ

サステナビリティ

ソフトバンクは、すべてのモノ・情報・心がつながる持続可能な社会の実現に向け、企業活動や事業を通じて、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいきます。

サステナビリティの取り組み

(掲載日:2020年3月22日)
文:ソフトバンクニュース編集部