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燃え殻さんに聞く、ニューノーマル時代の相談事への寄り添い方や相談相手の見つけ方

燃え殻さんに聞く、ニューノーマル時代の相談ごとへの寄り添い方・相談相手の見つけ方

新型コロナウイルスの影響で、大きく変わりつつある私たちの生活。オンライン化やテクノロジーの活用によって、仕事に求められるスキルやマインドにも大きな変化が、今求められています。

そこでソフトバンクニュースでは、さまざまな分野で活躍する達人たちに、ニューノーマル時代のビジネスパーソンのヒントとなるような話を毎回お聞きします。第5回は、ホッとするけれども真理をついた人生相談が話題の作家・燃え殻さんに、部下や同僚からの相談ごとへの寄り添い方、さらに、自身の悩みとの向き合い方について教えてもらいました。

今回の達人は、相談のプロフェッショナル

燃え殻さんに聞く、ニューノーマル時代の相談ごとへの寄り添い方・相談相手の見つけ方

燃え殻(もえがら)

都内のテレビ美術制作会社に勤める会社員でありながら、作家、コラムニストとして活躍。2017年、「cakes」での連載をまとめ出版された初の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)がベストセラーに。近著に、文春オンラインで連載された人生相談を書籍化した『相談の森』(ネコノス)など。3月23日に、最新作『夢に迷って、タクシーを呼んだ』(扶桑社)が刊行。

「小説から人生相談の依頼まで。僕はTwitterでいろんな人や仕事に巡り合ったんです」

燃え殻さんに聞く、ニューノーマル時代の相談ごとへの寄り添い方・相談相手の見つけ方

取材はZoomで行いました

燃え殻さんのこれまでの経歴を簡単に教えていただけますか?

今もなんですが、僕はここ20年くらいテレビの美術制作の仕事をしています。そこであるとき、新規事業立ち上げのために、テレビ以外の業界へ営業をすることになって。

「自分ができることの中で、まだ人がやっていないことをやろう」って心掛けていたから、お客さんの会社のビルの清掃員になったり、ビル近くのコンビニでアルバイトをしてみたり、ちょっと変わった方法でお客さんと距離を詰めながら、仕事を取っていました。

そんな飛び込み営業時代に、まだ始まって間もなかったTwitterを社員みんなで使っていたある会社から、「君もやれば?」と言われてTwitterを始めたんです。

Twitterは最初、営業のためのものだったんですね。

はい。ぶっちゃけ最初は、Twitterの面白さが分かんなかった。「パスタなう」の良さが分からなかった(笑)。でも、お客さんが自分をフォローしているから、「仕事を取るために、面白い人間だと思われないと」と思って、もともと好きだったラジオの投稿ネタを書くようなノリでツイートしてみたんです。

そうしたら、だんだんそれをお客さんが面白がってくれるようになって。営業に行っても絶対に折れない頑固な部長さんや課長さん、会ったこともない人たちとネットだけで最初につながるという、不思議なことが起き始めたんですよ。

「直球よりカーブを投げたほうが、みんな安心してくれる」

そこからいろんな人とつながっていったんですね。

当時は、Twitterでそういう投稿をやっている人があまりいなかったので、めずらしがられて、フォロワーが少しずつ増えてきたという感じです。Twitterのおかげで、テレビ局以外の業界からの仕事も増えましたね。

結局、飛び込み営業のような、いわゆる「直球」を投げるよりも、Twitterの投稿からつながりを広げていくような「カーブ」を投げたほうが、みんなが安心してくれるということに気付きました。今だったら、この気付きをオンラインサロンで話せるのに(笑)。うそです。

小説を書くことになったのも、Twitterがきっかけだとお聞きしました。

はい。あるとき、新潮社の編集の方からDMで「何か書いてみませんか?」と連絡がきて。小説なんて書いたこともなかったし、本をよく読む方でもなかった。でも、「こうしたら読む人が喜んでくれるんじゃないか」ということを一生懸命考えて書くのは好きでした。それから本当に書くまでには数年かかりますが。

文春オンラインで行った人生相談の仕事も、DMで依頼がありました。引き受けた理由は、僕が好きな小説家の中島らもさんが新聞で「明るい人生相談」という連載をしているのを読んでいたから。らもさんみたいな人生相談を自分もできたらいいなあと思って、引き受けました。

なるほど。

テレビの美術制作だけをしていたら出会わなかったような人たちと、Twitterでつながったから、いろんな仕事に巡り合えました。Twitterって、矢が飛んで来ることもあるんですが、僕の場合はTwitterのおかげでいい目にもあった、ということを言っておきたいです。

「同じ時代に生きている者同士だから、たぶんそこまで変わらない。話は通じる」

燃え殻さんに聞く、ニューノーマル時代の相談ごとへの寄り添い方・相談相手の見つけ方

燃え殻さんは、もともと人から相談をされやすいタイプですか?

そうだと思います。たぶんそれって「こいつに話しても、怖いことにはならないだろうな」って思われてるからなんですよね(笑)。相談する人って、相談をしにきている時点で半分弱ってるじゃないですか。それなのに「お前さあ」っていう説教臭いことを強く言われたら、くじけかねない。

だから「こいつに言っても俺よりダメな人間なんじゃないか」と値踏みされて相談されることが多いです。まあ、確かにダメなんですけど(笑)。

相談を受ける際に、気を付けていることはありますか?

相手は「傷ついてる」「心から血が流れているんだ」と思って答えるように心掛けていました。あと、相談って、“話す相手がいたらいいんだ論”もあると思うんですが、「こいつ他人事かよ」となってしまうと終わりなんで。なるべく全部“自分ごと”として自分に置き換えて相談に乗っていたつもりです。

相談をしてくる人って、今同じ時代に生きて、同じような機器を使って、総理大臣交代のタイミングなんかも共有している。別に平安時代の人と話しているわけじゃないし、「たぶん自分とそんなに変わらないはずだから話は通じる」「自分ごと化できる」って言い聞かせてましたね。

燃え殻さんの回答は、正論を振りかざしたりせず、相手を一度丸ごと受け止めている感じがして、とても心地良いですよね。

ありがとうございます。その人の悩みの後ろには、僕が知らない背景があると思うんですよ。例えば、「大学に落ちました。でもやっぱり大学に入りたいです」って相談だったら、普通は「受験勉強を頑張ろう」という答えしかないんですが、「お金の問題で1校しか受けられなかった」とか「大学は落ちましたが、プロ棋士テストには合格してます」とかは、短い相談文の中だけでは分からない。その人のすべてが分からない以上、僕が世間一般の常識で言い切ってしまうと、ズレる可能性がある。

答えってそんなにはっきりとしたものではなく、グラデーションの中にあると思っていて。だから、「僕はこんな風にやってきて商売になった」とか「悩みはあるけど、あなたは今死んでない、それは死に直結するような悩みではない、までは分かってほしい」とかいうことだけは伝えられるというか。まだらに納得してもらいたいなって思います。全部は無理なんで、親でも親友でも恋人でも。

「自分がダメだったエピソードこそ、覚えておくべき」

燃え殻さんは、現在の会社で人事のお仕事もされていると聞きました。部下や同僚から相談を受けたときに意識していることはありますか?

まるで自分が昔から偉かった、優秀だったかのように振る舞わないことですかね。つい最近リリースされたばかりの某音声SNSをちょっとの間だけ聞いていたんです。そうしたら、めちゃめちゃ新しいアプリなのに、率先してそういうものを生活に取り込んでいくタイプの人が「僕たち、30年前からこのアプリやってますんで」みたいな顔で使ってたんですよ(笑)。

そういう人って「30年前から自分は立派だった。それなのにお前はダメだな」みたいな感じで接してくる。でも、全然そんなことはなくて。彼らも、ついこの前まで知らなかったのに、それを封印して、切って貼って、改ざんしてるだけなんですよ。

なるほど……。

人間って、相手の欠点や失敗を聞くことによって、救われるってことがほとんどだと思うんです。だから、例えば、落ち込んでいる部下には、自分の似たような失敗談だとか、同じくらいの年のときに自分は何に悩んでいたのかを話すのが一番、立ち上がれる気がするんです。必勝法とか嫌ですよ、堕ちてるときに。

だから、自分がダメだったエピソードって、すごく覚えておくべきことだと思うんですよね。上司・部下という肩書に引っ張られて「上司的に答えるぞ」と気張らなくていい。“人間と人間のコミュニケーション”だということを前提として話すことが、重要なんじゃないでしょうか。

「僕の相談相手は、喫茶店のオーナー。まったく利害関係がないから気軽に話せるんですよ」

燃え殻さんに聞く、ニューノーマル時代の相談ごとへの寄り添い方・相談相手の見つけ方

燃え殻さんは、人に悩みを相談することはありますか?

じゃんじゃんありますよ。僕はわりと誰かに相談をしたい派です。でも、相談する側にも技術がいるなと思っていて。誰彼構わず相談してはいけない。例えば、自分の会社の社長に「この会社辞めたいんですよね」って相談をしちゃダメじゃないですか(笑)。

確かに(笑)。

相談相手を見つけるセンスってすごく大切ですよね。もちろん、先輩とか友だちとか親とか、顔を知っている人に相談をすることもあるけれど、そうじゃないケースを持つことが大切な気がします。

テレビの美術制作だけをやっていたとき、僕の相談相手は、仕事場からちょっと離れたところにある喫茶店のオーナーだったんです。お互い、まったく利害関係なし。でも、まあ同じ年くらいで、歩んできた道は全然違うけど、同じ時代を生きてるんだからそんなに変わらないよね、分かり合えるよねっていう。それくらいの関係性の相手の方が、お互い気楽に話せたりしますよ。

特定の相談相手を持っておくことは大切なんでしょうか?

それはすごく大切だと思う。今の時代って、人間関係も悩みもどんどん面倒くさくなっているんですよね。例えば、昔は「いじめ」って学校から帰ってきたら解放されたけれど、今は家にいてもSNSの中で学校のいじめが続いてしまっていたり。

そのとき、今は味方だけど今後どうなるか分からないような学校の友人に相談するよりも、全然関係のない、SNSの中の猫アイコンの誰かとかに相談した方がいいこともある。何人か、そうやって悩みごとを遠くに飛ばして、キャッチボールできる人がいるといいなって思うし、今ってそれができる時代かなって思う。キャッチボールでなくても、そんな人の日常を追ってるだけでもいいですし。

「一番の相談相手は、未来の自分」

自分の中での悩みの消化の仕方、みたいなものはありますか?

なんだか、そのときすぐに怒ったり泣いたりできないことってありません? 僕はこの前、お風呂に入っていて、1年くらい前に言われた言葉に対して、いきなり怒りがこみ上げてきたんですよ。言われた当時は全然平気だったのに。けど、もうそのときのことなんて、言った本人はとっくの昔に忘れている。怒りの賞味期限が切れてるじゃないですか。でも、お風呂から出てもまだムカついてて(笑)。

なんだかちょっと分かる気がします。

怒りがめちゃめちゃ後になってからこみ上げてくる人がいるように、悩みをすぐに伝えられない人もいると思う。僕は、日記のように手帳にそのときの気持ちを書いておくんです。そうすると、後から見返して、少し先の成長した“未来の自分”が答えをくれることがある。「このときこんなことに悩んでいたのか」と笑えることもある。

もしまだ同じことで悩み続けているんだとしても、昔よりも整理されて他人に相談しやすくなっているはずです。賞味期限が切れた悩みもあるけれど、まだ続いているような悩みは、当時よりも程度が増して、人に相談できるようになっているんですよ。

「相談」として磨かれるんですね。

でも、やっぱり「人に相談する」ってなんか恥ずかしいし、そう簡単にはできないじゃないですか。だから、できれば将来の自分が答えるのが一番いいんですよね。

今は、これだけいろんなものが溢れて、スピード感もある時代だから、失敗も成功も早く経験して、みんな嫌でもどんどん成長している。そうすると、ものすごく先の自分じゃなくて、数カ月後の自分が答えられる状態になっていたりするんで。

なるほど。

だから、なんでもすぐにその場で解決しなくていい気がします。ていうか自分にはできない。長期的な視野で向き合うというか。未来の自分が一番の相談相手だと思って、悩みをちらっと書き留めておくといいと思います。

本当にバカみたいな言葉で言えば、最終的に自分は信用できる。結局、自分は自分ができることしかできない。だから、相談相手としても、まあ、自分が一番いいんですよね。未来の自分。

「オンラインって、うまく使えば心の距離が縮まるんじゃないか」

燃え殻さんに聞く、ニューノーマル時代の相談ごとへの寄り添い方・相談相手の見つけ方

3月23日に刊行される『夢に迷って、タクシーを呼んだ』(扶桑社)

オンラインでの関わり方が増えたニューノーマル時代を、燃え殻さんはどのように捉えていますか?

今日の取材も、もしオンラインではなく喫茶店で行われていたとしたら、真面目な話をしつつ、メニューを見て「たまごサンド食いたいなあ」って考える時間もある。でも、オンラインってそれができませんよね。画面を見ていないと話を聞いてないみたいになるから。それって、疲れるなあと。なんだかテレビのワイプ芸みたいで、気が抜けない。

それに、会社から帰宅しても「オンラインでちょっとだけ打ち合わせしよう」とか、そういうことが可能になってしまって、すごくキレが悪い。

便利である反面、やっかいなことも起こりがちですよね。

今って、いろんなことが複雑な時代だから、そんなに人とつながらなくていいんじゃないか、そんなにモノは必要ないんじゃないかと。少し意識して、情報に対して無頓着にならないといけない気がします。

「え、まだやってないの?」「まだ食べてないの?」とか、そういうものにいちいち付き合わなくていい。全てに満遍なく触れるんじゃなくて、もう少し厳選していかないと、物理的に時間が足りない。自分にとって何が大事で、何がいらないのか多少順番をつくっていかないと、横に並べていかないで、縦に並べて順番を整理する感じがないと、時間なくなりますよね。

「自分で探す面白さが、もうちょっとあってもいい」

今の時代は、情報との上手な付き合い方を考えなくてはいけないですね。

僕が高校生の頃は、深夜にテレビで見る映画とかで、B級どころかD級の作品に、交通事故みたいに出会う可能性があった。前提としてネットがない。映画館に行くにしても、上映作品の情報がなさすぎて「アクション映画」ということしか分からずに、いちかばちかで見に行ってみるとか。

でも今は、動画アプリで「あなたとのマッチ率○%」って紹介されて見たり、映画館に行くにもネットで調べられたりする。そうすると、まず大事故は起きない。「自分で見つけた感」がなくて、少し熱が下がってしまいませんか。

あらゆるサービスが過剰にオススメしてくる。もうちょっと「自分から探しに行く面白さ」のあるジャンル、時間をつくるしかない。長年ずっと自分の中に残っているのって、マッチ率100%の作品よりも、意外と深夜にテレビで偶然見た映画とかだったりしませんか。

オンラインでの関わりをプラスに使うにはどうしたらいいと思いますか?

家にいる時間が多くなって、SNSを見たり、家の話をしたりする人が増えています。それによって、以前よりも相手のパーソナルな情報を知ることができますよね。

オンラインでのミーティングで、「かわいい犬を飼っている」とか「家ではあんな服装してるんだ」とか、部屋の雰囲気とかが分かることもある。オンラインを介してでしかできないコミュニケーションを通して、これまで知らなかった相手の一面や背景を知ることができるのは、プラスの要素だなと。

だから、物理的な距離は離れているけれど、心の距離を縮めることは、意外とできるんじゃないかなと思います。

燃え殻さんに聞く、ニューノーマル時代の相談ごとへの寄り添い方・相談相手の見つけ方

(掲載日:2021年3月24日)
編集:エクスライト

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