2021年4月1日、ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)の社長に就任した宮川潤一に、今後の注力事項や目指していきたい企業像についてインタビューしました。
ソフトバンク株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO
宮川 潤一(みやかわ・じゅんいち)
インターネット企業の経営者を経て、2002年に現・ソフトバンクに入り、2006年4月に取締役専務執行役(CTO)に就任。主にテクノロジー領域の事業統括責任者を務める。2018年4月に代表取締役副社長執行役員 兼 CTOとなり、2021年4月1日に代表取締役 社長執行役員 兼 CEOに就任。
社会のデジタル化を推進。増収増益にもこだわりたい
始めに、社長として今後注力しようと考えていることを教えてください。
一言で言うなら「AI(人工知能)」です。AIに関する取り組みを加速させていきたいし、事業会社であるソフトバンクならではの向き合い方をしなければならないと考えています。
2016年10月、私が米国スプリントでの仕事を終えて帰国して、当社のCTOに就任したとき、当時社長だった宮内から「AIとIoTを本格的に立ち上げてくれ」というオーダーをもらいました。それからいろいろな取り組みをスタートさせて、現在では竹芝本社ビルのAI・IoTプラットフォームなど、具体的なかたちにすることができています。
また、2018年10月に設立を発表して、現在も代表を務めているMONET Technologiesなどで手掛けている自動運転分野でもAIは活用されており、自動運転社会の実現に向けた社会の動きも本格化する時期になってきました。
DX(デジタルトランスフォーメーション)、そしてスマートビルディングやスマートシティの実現においてAIは不可欠です。世の中でデジタル化の必要性が叫ばれている中、ソフトバンクはAIを駆使した「総合デジタルプラットフォーマー」として、企業や自治体のデジタル化を推進しなければならないですし、それはわれわれが掲げるSDGs戦略にも合致するものだと考えています。
また、今年は5Gネットワークの本格展開が始まります。通信事業者として負けられない分野ですので、スピード感を持って、安定したタフな5Gネットワークを構築していきます。世界最高レベルの強靭な5Gネットワークにしますので、ぜひ期待していただきたいですね。
就任1期目となる2021年度で、特に意識していることはありますか?
増収増益の継続です。携帯料金値下げの影響も多少受けると思いますが、前任の宮内がBeyond Carrier戦略として取り組んできたZホールディングスとの連携や法人事業などを伸長させ、増収増益につなげていきます。有言実行できるよう全力を尽くす所存です。
“総合”デジタルプラットフォーマーを目指す
先ほど登場した「総合デジタルプラットフォーマー」について、もう少し詳しく教えてください。
“総合”は少し分かりにくい言葉ですが、あえて付けているんです。
ソフトバンクは自社の携帯電話ユーザーに加えて、ヤフー、ZOZO、LINEなど、多数のユーザーがいるサービスをグループ内に抱えています。コンシューマのタッチポイントとしては、間違いなく日本で最大級でしょう。その1つ1つがAIを搭載した「デジタルプラットフォーム」であり、常に最適化に励んでいるわけです。ただし、まだ個別最適なんですね。
AIの個別最適というものを、ソフトバンク竹芝本社ビルを例に挙げて説明しましょう。竹芝本社ビルには、顔認証とエレベーターの行き先階をマッチングさせる機能があり、入場ゲートで社員の顔を認証すると、エレベーターの行き先が社員の執務フロアに設定されるようになっています。この機能にはAIが使われていて、常に最適化が行われています。
ところがビル全体の最適化を考えると、2つの要素だけではいけない。空調も、照明も、二酸化炭素濃度も測りながら、全体最適で判断を下す必要があります。それをしているのがマザーAIで、各AIの判断を取得して「これとこれを組み合わせた方がいい」とレコメンドをしているんです。
今後はビルだけではなくて、町、国、世界、そしてサービス同士で全体最適化が広がっていくでしょう。ソフトバンクはそれを推進していく役割を担っていきます。
「総合」は全体最適という意味を含んでいるんですね。
「総合デジタルプラットフォーマーになる」を言い換えるなら「マザーAIの代わりをする」ということ。さまざまなデジタルプラットフォームを最適化していく役割です。これまで多くの仕掛けもしてきましたし、グループ内に多数のデジタルプラットフォームを有するソフトバンクは、十分にその景色が見えています。
どんなときでも、明るく乗り越えていく社長になる
ソフトバンク社長に就任した今の心境を教えてください。
昨年の10月に前任の宮内から「これからは技術でソフトバンクを引っ張っていけ」と社長就任の打診をいただき、創業者の孫からも「サラリーマン経営者になるなよ」とたくさんのアドバイスをもらいました。
社長という重責のプレッシャーも感じていますが、この半年間、自分なりにいくつかの打ち手も考えてきたので、4月以降に実践に移していくつもりです。
2人から継承しようと思っていることはありますか?
2人の共通点は、何よりも明るいことですね。本当に明るいんです。
私がソフトバンクに入って、これまで何度も「会社がつぶれるかな」と思うような大きな壁にぶつかったことがありました。普通は萎縮してしまうものなのですが、二人はそれを明るく乗り越えようとするわけです。逃げずに、目の前に立ちはだかる壁を徹底的に分析して、自分たちの打ち手を本気で議論する。
打ち手が決まったら、周囲を巻き込んで一点突破する。役員しか出席しない会議で意思決定できるのは、プレーヤーの意識を忘れていないから。普通は大企業になると消えているものですが、ソフトバンクにはまだ残っている。私自身もはんこを押すだけの役員はいらないと思っているので、こうした文化は継続していくつもりです。
昔、『だんご三兄弟』という楽曲がはやった後に、孫、宮内、自分の3人でよく笑う三兄弟と呼ばれていた時期があったのを思い出します。3人でケラケラ笑いながら「やるぞ! 」と決めた内容が大きな投資を伴うものだったりして、周囲からは「あの会議がなぜこんなにでかい単位の会議になっているんだ。まあ、三兄弟だから仕方がない」と言われたりしていました。明るくビジネスに取り組むという姿勢、楽しみながら事業をやるという姿勢はカルチャーとして私自身も体現していきたいですね。
立ち止まらない。これからも挑戦と進化あるのみ
ご自身で信条にしていることはありますか?
挑戦と進化を継続していくことです。ソフトバンクは大企業と言えるかもしれませんが、全社員に改めて「このままでいいのか?」と問いたいし、全員が「いやだ!」と答えてくれる会社であってほしいと願っています。
守りに入るのは簡単ですが、守りに入れば進化が止まります。進化するためには、どうしても挑戦が必要で、失敗を恐れてはいけない。10個挑戦して1個成功すれば元が取れるくらいの心意気で十分です。私も社長として、社員がチャレンジをし続ける会社にしなくてはいけないと考えています。
最後に改めて、ソフトバンクをどのような会社にしていきたいか教えてください。
目指しているのは「日本で一番必要とされる企業」です。総合デジタルプラットフォームを通して、多くの方にソフトバンクという会社の存在意義を感じていただけるようにしたいですね。
私がソフトバンクに入る前、名古屋でADSL事業をしていて、資金繰りに苦労した時期がありました。35歳くらいの若者が2カ月に1回、5億円ずつ増資を繰り返さないと資金が持たない。技術そっちのけで集金マシンになって、何とか乗り切りました。
つらいこともありましたが、そのとき感じたのが「日本でいまADSLが無くなったら困る」と思っている人がたくさんいて、常に自分を支えていただいたこと。会社を上場させようとしたら「あとは引き受けるから、ソフトバンクに来い」と誘ってくれた孫もその一人です。世の中で必要とされる事業に取り組めば会社はなくならないし、会社自体も社会から必要とされるものになるのだと実感しました。
繰り返しになりますが、今は目の前に「デジタル化」という社会課題が存在している状況です。日本をアップデートするという大きな役割を担うことができるよう、ソフトバンクとして、そしてグループ一丸となって、挑戦と進化を続けていきたいと考えています。
(掲載日:2021年4月1日)
文:ソフトバンクニュース編集部
「Beyond Carrier」戦略 〜通信キャリアの先へ〜
コア事業である通信事業をさらに成長させながら、5G、AI、IoT、ビッグデータを駆使した新規事業の創出を目指すとともに、構造改革にも徹底的に取り組んでいます。