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若きイノベーターたちが切り拓く農業の可能性。「アグリテック甲子園」で姫路市が育む未来の農業

農業を変革するアイデアを。学生がアグリテックのビジネスプランを競う「アグリテック甲子園2022」を姫路市で開催

皆さんは、これまで自分で野菜を育てたり収穫したりといった農業を体験したことはありますか?
現在、国内では高齢化による後継者不足により農業従事者が減少しています。農家の減少は、食料自給率の低下にもつながるなど、私たちの生活に最も身近な「食」に影響を与える深刻な問題。

そういった課題解決に向け農業分野の変革が必要とされる中、さまざまな自治体や企業が農業人材の育成や農業にテクノロジーを活用するアグリテックへの取り組みを始めています。兵庫県姫路市では、農業デジタル人材の育成を目指し全国の高校生・大学生を対象に農業分野のビジネスコンテスト「アグリテック甲子園」を開催しています。
どのような大会なのか、姫路市の担当者にお話をお伺いしました。

目次

話を聞いた人

柿本 英夫さん

姫路市役所 農政総務課長
柿本 英夫(かきもと・ひでお)さん

平成元年姫路市役所入庁、総合福祉通園センター、文化財課、情報政策課、観光交流推進室、企業立地推進課などを経て、2019年4月から現職。内閣府の地方創生推進交付金に2019年4月に「ハーブの里山プロジェクト」、2020年4月に「スマート市民農園事業」の2件が採択されている。

テクノロジー×イノベーションで未来の農業を変革。学生がビジネスアイデアを競う「アグリテック甲子園2022」開催

「アグリテック甲子園」とはどのようなイベントなのでしょうか?

テクノロジー×イノベーションで未来の農業を変革。学生がビジネスアイデアを競う「アグリテック甲子園2022」開催

「アグリテック甲子園」は、全国の高校生・大学生などが参加してアグリテックのアイデアやビジネスプランを競うコンテストです。

農業用ロボットの活用や農業の事業創出につながるアイデアなど、テクノロジーを使って農業課題を解決するアイデアを募集し、書類選考により選ばれたチームは「アグリテック甲子園」会場で発表・審査が行われます。初開催の昨年は全国から集まった学生たちが、試行錯誤を経て練り上げたビジネスプランを熱量高く披露してくれました。

なぜこのようなイベントを始めることになったのでしょうか?

最近は、ベンチャー創出の取り組みを行う自治体が増えてきていますが、農業分野に特化したものは非常に少ないんです。社会人向けでは、一部の自治体や農水省が開催している農業分野のビジネスコンテストがあるのですが、高校生や大学生が対象のものはなかった。

そこで、未来を担う学生にもアイデアをみんなの前でプレゼンテーションする機会を作り、それがゆくゆくはベンチャー創出にまでつながれば、という思いから始めたのが「アグリテック甲子園」です。

テクノロジー×イノベーションで未来の農業を変革。学生がビジネスアイデアを競う「アグリテック甲子園2022」開催

昨年開催された第1回大会で最優秀賞に輝いた岩見沢農業高校

テクノロジー×イノベーションで未来の農業を変革。学生がビジネスアイデアを競う「アグリテック甲子園2022」開催
テクノロジー×イノベーションで未来の農業を変革。学生がビジネスアイデアを競う「アグリテック甲子園2022」開催
テクノロジー×イノベーションで未来の農業を変革。学生がビジネスアイデアを競う「アグリテック甲子園2022」開催

今年で2回目となる「アグリテック甲子園」ですが、どんなところに注目してほしいですか?

今年のテーマは、「10年後の農業にイノベーションをもたらすアイデア」です。

ベンチャー創出が目的の一つではありますが、学生なので今すぐにビジネス化できそうなアイデアというのはなかなか難しい。しかし、学生の方が従来のしがらみに縛られない考え方や発想ができると思うんです。そういう発想こそ将来の農業を作ると思いますし、実現性よりもむしろ夢や希望を感じるアイデアを期待したいですね。

また、今年は審査員もさらに充実しており、東京大学大学院の郭教授やカルビー株式会社など、スマート農業をけん引する第一人者による特別講演も予定しています。

昨年に引き続き、出場チームにはSBイノベンチャー株式会社の社員にメンターとして付いてもらい、本番に向けてアイデアやプレゼンテーションのブラッシュアップをサポートします。

世界遺産の城下町 姫路市が取り組むスマート市民農園事業

世界遺産の城下町 姫路市が取り組むスマート市民農園事業

姫路市がアグリテックに取り組み始めたきっかけを教えてください。

最先端のロボットトラクターなどもメーカーさんで数多く研究されているのですが、一方で姫路市を含めそれを使いこなす、いわゆるデジタル人材が少ない、という問題があります。

2020年からプログラミング教育が必修化されましたが、農業を意識した題材での学習はありません。実際に農業機械メーカーの技術者も、メーカーに就職するまで農業には触れたことがない方も居たりするなど、いきなり農業の現場にマッチした実用的な機械を開発するといってもなかなか難しい部分があります。

農業知識のあるデジタル人材を育てていかないと農業のスマート化は進まず、衰退してしまうのではないかという課題感から、農業デジタル人材育成を目的に2019年に「スマート市民農園事業」を内閣府に申請し、2020年よりスタートしました。「アグリテック甲子園」もその一環の取り組みとなります。

姫路市が取り組む「スマート市民農園事業」とはどのような取り組みなのでしょうか?

「スマート市民農園事業」は、「アグリテック甲子園」を含めた3つの事業で構成されています。

世界遺産の城下町 姫路市が取り組むスマート市民農園事業

遠隔で水やりや除草ができる農業用ロボット「ファームボット」を使って野菜を育てる農業体験を、養護学校との農福連携で行っているのが「スマート市民農園事業」です。

車いすでは畑に入れないなど、これまで身体障がい者の方はなかなか農業に携わる機会がありませんでした。そういった障がいを持つ方に直接畑に行かなくても遠隔でロボットの操作を行うことで農業体験を提供したい、という目的で始めた事業です。

世界遺産の城下町 姫路市が取り組むスマート市民農園事業

また、小学高学年の親子などを対象に農業とプログラミングを組み合わせたSTEAM教育を行う「農業版STEAM教育」も行っています。農業をテーマに自ら課題を発見し解決する力を養うことで、将来農業分野で活躍するデジタル人材の育成を目指しています。

e-kakashiの活用で、スマート市民農園のさらなる発展を

ファームボットを利用した農業体験とはどのような取り組みを行っているのですか。

先ほどお話した「スマート市民農園」「農業版STEAM教育」の取り組みを「仁色ふるさと農園」で行っています。いずれも、世界的な環境負荷軽減や脱炭素の流れを踏まえ、農薬・化学肥料不使用を基本とし、さらに不耕起栽培にも一部取り組んでいます。ファームボットの除草が追いつかないくらい雑草が生えて大変ですけどね(笑)
子どもたちには、従来の化学肥料を使った農業ではなく、未来志向の農業を体験し、学んでもらいたいと思っています。

農園内には、「スマート市民農園」「農業版STEAM教育」それぞれ5つずつファームボットを備えた畑があります。水やりなどの作業はファームボットを使って行っていますが、土壌水分量などのデータ取得には「e-kakashi」を活用しています。

e-kakashiの活用で、スマート市民農園のさらなる発展を

e-kakashiについては、こちらの記事で詳しく紹介しています

ファームボットだけでなく、e-kakashiも導入されているのですね。

ファームボットにも、水分量などを測るセンサーが搭載されているのですが、計測のたびに土に挿してデータを取得する必要がありました。

e-kakashiの活用で、スマート市民農園のさらなる発展を

e-kakashiであれば、常にセンサーを挿しっぱなしで土壌体積含水率がどう変化していくのかが分かりますし、含水率が一定以下になったらAI機能で「水やりしたほうがいいですよ」と通知を出してくれる。現状は、e-kakashiが取得したデータに応じて、生徒たちがファームボットを操作するという流れですね。

ファームボットはオープンソースに基づく農業用ロボットで誰でも改善・改良ができます。スマート市民農園の取り組みとしては、今後、オープンイノベーションにより、アグリテック甲子園の参加者や関心を持っていただける企業の協力を得ながらファームボットの機能向上を図っていきたいと考えています。「e-kakashi」の導入もその一環として行なったものです。

e-kakashi

ファームボットの機能強化・改善に向け、ソフトバンクでは「e-kakashi」の取得データの活用やファームボットとの連携についてのサポートを行なっています。

スマート市民農園事業を通じてどのような成果を期待していますか?

「スマート市民農園事業」の1年目に参加してくれた養護学校の生徒が、将来プログラマーになりたいと言ってくれるなど、一定の成果が出てきていると思っています。この生徒は現在も後輩の指導などで関わってくれています。

今後も単なるアイデアコンテスト、単なるデジタルを使える人材ではなく、DXで未来の農業を変えていける人材を輩出することを目指していきたいですね。主催しているわれわれ自身も、学生さんたちにばかりプレゼンテーションの場に立ってもらうのではなく、内閣府が主催する企業版ふるさと納税マッチング会において企業の皆さんに向けて何度もプレゼンを行って修行してきました。アグリテック甲子園に参加される学生の皆さんの成長に少しでも寄与できるよう努力していきたいと思います。

(掲載日:2022年10月5日)
文:ソフトバンクニュース編集部

集え! 未来の農業イノベーター。「アグリテック甲子園2022」エントリー受付中

集え!未来の農業イノベーター。「アグリテック甲子園2022」エントリー受付中

昨年の開催に続き第2回となる「アグリテック甲子園2022」が2023年1月22日に開催されます。

今年のテーマは“10年後の農業にイノベーションをもたらすアイデア”。姫路市では、2022年10月24日までアイデアやビジネスモデルのエントリーを受付中です。エントリー方法は、「アグリテック甲子園2022」の公式ページでご確認ください。

アイデアを応募しなくても、本選の様子を会場やオンラインで観覧することもできます。若きイノベーターたちが描く農業の未来、ぜひお見逃しなく。

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