特定の企業に依存しない次世代インターネット「Web3(ウェブスリー)」ですが、Web3の活用が普及することで、私たちの生活にどのような変化をもたらすのでしょうか。
NFTやメタバースなど、Web3関連サービスは注目されつつありますが、生活との関わり方はいまいちイメージできないという方も多いのではないかと思います。今回は、経済産業省「Web3.0時代におけるクリエイターエコノミー創出に係る研究会」や総務省「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」の委員でもある弁護士の増田雅史さんに、Web3の生活への影響や現状の課題についてお話をうかがいました。
- Web3の基本はこちらの記事をご覧ください。
目次
お話を聞いた人
増田 雅史さん
弁護士・ニューヨーク州弁護士(森・濱田松本法律事務所)。スタンフォード大学ロースクール卒。理系から転じて弁護士となり、IT・デジタル関連のあらゆる法的問題を一貫して手掛け、業種を問わず数多くの案件に関与。特にゲームおよびウェブサービスへの豊富なアドバイスの経験を有する。金融庁でのブロックチェーン関連法制の立案経験もあり、コンテンツ分野、ブロックチェーン分野の双方に通じる。経済産業省「Web3.0時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る研究会」や総務省「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」の委員にも就任。
Web3によって私たちの生活はどう変わる?
Web3とは、ブロックチェーン技術を用いた分散型インターネットのことをいいます。特定の管理者がいない非中央集権的なコントロールが可能で、企業のサーバーに個人情報を記録する必要もありません。
Web2.0はWeb3に置き換わっていく?
インターネットが普及した1990年代はテキストが主体でコミュニケーションが一方向の「Web1.0」でしたが、2000年代はインターネットの通信速度が高速になり、SNSや動画配信サービスの普及で双方向のコミュニケーションが可能な「Web2.0」へと変化しました。
Web2.0はGAFAMに個人情報や行動履歴、ユーザーの好みといった多くのデータが集まっています。そこで、個人情報の漏えいやプライバシーの侵害といったリスクから、特定の企業に依存しないWeb3という概念が生まれました。
「Web3はWeb2.0に対する問題意識から生まれた概念です。ただし、Web2.0からWeb3に一気に置き換わることはないと思います。それは、現状ではWeb3には一般層にリーチするサービスがないからです。また、Web2.0的なサービスにもさまざまな良い側面もあるため、おそらくWeb2.0とWeb3はこれから共存していくことになると思います」
Web3が今後急速に広まるきっかけになるのは?
Web3は国も推進しており、メタバース(仮想空間)やNFT(非代替性トークン)を活用したWeb3サービスの利用拡大に力をいれています。増田さんも、今後Web3の利用が広まる可能性は大いにあるといいます。
「インターネットやスマートフォンが世の中に登場した初期の頃は、自分ごととして捉える方が少なかったかと思います。ですが、今はインターネットがない生活は考えられないですし、スマートフォンも幅広い世代の人が使っていますよね。新しいインターネットとして一般の方も利用しやすいようなUX、UIを伴ったキラープロダクトが出現すれば、一気に普及して潮目が変わると思います」
Web3が急速に広がるきっかけとして、増田さんが最も有力視しているのが、若者に人気の「ゲーム」だそう。
「Web3が真っ先に広がるとしたら、有力なのはゲームだと思います。近年、ゲームは若い世代が多くの時間を割く分野です。例えば、メタバースなどの仮想空間を活用したゲームでは、従来のSNSとは異なる形で自分の居場所となるコミュニティーを見つけることができたり、アバターに服を着せて自分を表現したりと、他者とコミュニケーションをしつつ、お金を使う人も増えてきている分野です。ゲームはWeb3が最初に広がっていく入り口の一つになると思います」
Web3の活用が期待されている分野
Web3にはブロックチェーン技術が採用され、デジタル上でのデータの改ざんができない仕様になっています。その特性を生かし、既に以下の分野をはじめとするさまざまな分野でWeb3が活用されています。
- ゲーム市場
- 音楽市場
- 小売・EC業界
- アニメ・漫画市場
- アパレル
- 不動産業界
Web3を手軽に体験する手段は?
Web3はさまざまな分野で活用されていますが、まずは手軽に利用してみたいという方はこのようなものから試してみると良いでしょう。
- 暗号通貨やNFTを購入してみる
- メタバース(仮想空間)を体験してみる
- ゲーム
「メタバースは、ZoomやTeamsなどのように仕事で使わざるを得ない状況が起こった場合、一気に普及する可能性もあると思います。あとは、特定の好きなコンテンツがメタバース空間を活用したゲームになったり、もともと好きだったゲームの新バージョンがオンラインによるメタバース空間での提供となれば、そうしたコンテンツのフォロワーが自然に流入して、Web3を体験する機会も増えていきますよね」
Web3の現状の課題
さまざまな分野での活用が期待されるWeb3ですが、もちろん課題もあり、下記のようなものが挙げられます。
- 法整備が整っていない
- 手数料(ガス代)がかかる(ブロックチェーンの利用にはガス代が発生)
- 利用するハードルが高い(ブロックチェーンに関する知識が薄い人だと使いにくい)
- 使いづらいUIが多い
- トラブルはすべて自己責任
- 一般向けのサービスが少ない
「一般の方がWeb3に触れるには、2つのハードルがあります。1つはUI、利用環境が整うかどうかという問題と、もう一つはキラープロダクトの存在、すなわち需要が喚起されるかという点です。Web3は非中央集権で、自分の情報や財産は自分で管理します。Web3の方が便利だったり、使いやすかったり、有用性が高いと判断したりする場合には使う方もいるかと思いますが、そうでない場合は従来のWeb2.0型サービスのままのほうが良い、ということになります。
Web3では、原則として企業に個人情報を管理されるということはありませんが、その分ユーザー自身ですべてを管理する必要があります。ブロックチェーンを活用していることを意識させないような便利なUIを備えたサービスが普及すれば、UXも向上し、自然と利用者が増えると思いますが、現時点では一定のリテラシーがないと利用の開始すら難しいと思います」
徐々にひろがりつつある次世代インターネット「Web3」
2022年現在はWeb2.0が主流ではありますが、NFTやメタバースの認知度が上がり、Web3のようなブロックチェーン技術の活用に注目が集まっています。ゲームや芸術分野、ファッション業界など、Web3を取り入れる企業は増えつつあり、日常生活でWeb3サービスを利用するシーンは今後も広がっていくことが予想されます。
(掲載日:2022年11月2日)
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