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消したくても消えない過去の投稿。IT弁護士が解説する「デジタルタトゥー」の危険性

消したくても消えない過去の投稿。IT弁護士が解説する「デジタルタトゥー」の危険性

SNS上での投稿、友人や知人に送ったDM、会社のウェブサイトなど、インターネット上のあらゆる場所で残り続ける「デジタルタトゥー」。SNSでの炎上のみならず、有名人のスキャンダルなど、場合によっては人生を狂わせることにもなりかねません。今では、一般人のちょっとした発言がインターネット上でさらされることもあれば、入試や就職活動で採用担当者が受験者のSNSを検索することも…。

私たちにとっても他人事ではないデジタルタトゥー案件を手がけるIT弁護士の河瀬季さんに、その意味や事例、対処法を教えてもらいました。

目次

デジタルタトゥーについて教えてくれるIT弁護士

河瀬 季(かわせ・とき)さん

モノリス法律事務所 代表弁護士 河瀬 季(かわせ・とき)さん
元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャー企業まで、100社以上の顧問弁護士等を務める傍ら、イースター株式会社代表取締役、oVice株式会社監査役、株式会社TOKIUM最高法務責任者などを務める。著書に「デジタル・タトゥー──インターネット誹謗中傷・風評被害事件ファイル」「Q&A実務家のためのYouTube法務の手引き」などがある。

デジタルタトゥーとは “未来の自分に不利益なインターネット上の刻印”

デジタルタトゥーとは、Digital(デジタル)とTatoo(刺青、タトゥー)の2つの単語を組み合わせた造語で、デジタル情報(文字や画像、動画など)がSNSやブログ、検索エンジンを含むインターネット全般に公開され、“将来の自分にとって不利益な情報が残り続けてしまうこと”。情報をアップした、もしくはアップされたときは問題がなくても、あとあとになって問題になることに気付いていくこともあり、自分では容易に消せないところが問題になっています。

デジタルタトゥーについて簡単に解説しています。

どこに残る? デジタルタトゥーの種がある場所

デジタルタトゥーの元となる情報は、インターネット空間だけに限らず、サーバーの中やパソコン・スマホなどの履歴・画像フォルダ・バックアップデータなどのあらゆるデータ空間に存在します。

最近よく話題になるのは、過去のツイートのスクリーンショット(以下、スクショ)を撮られてさらされること。でも、SNSのスクショだけがデジタルタトゥーではありません。過去に所属していた団体のウェブサイト(大学のゼミ、会社、習い事、任意団体など)に、自分が所属していたときの情報が残っていることもありますし、自分が忘れている過去のSNSがあるケースも…。

デジタルタトゥーの種類にも変化。文字に画像に動画、GPSの位置情報まで…

そもそも、デジタルタトゥーにはどんな種類があるんですか?

河瀬さん

「もともとデジタルタトゥーは“文章=テキスト情報”が中心でしたが、最近では画像や動画でのデジタルタトゥーも多くなってきています。InstagramやTikTokの広がりを見ても、それはきっと分かるでしょう。

これからはさらに、GPSによる位置情報のデジタルタトゥーも問題になってくると考えています。『今、ここにいるよ!』と、友達同士でGPS情報を使って現在地を共有するようなアプリが流行りはじめていますが、GPS情報には詳細や場所だけでなく日時も含まれますから、行動パターンが読まれてしまうのです。

『このとき、あの場所にいた』という自分の行動履歴やライフログのようなものがインターネット上に残っていけば、不利益を生むこともあるでしょう。安易に自分の行動をネット上に残さない方が賢明ですし、弁護士の視点としては、今後はGPS情報がプライバシーに該当するのかを主張する裁判もしていくことになりそうだなと思っています」

GPS(Global Positioning System)

複数の衛星からの信号を受け取り、その時刻差と電波の到達速度を計算することで、緯度・経度を特定することができる。現在は自動車のカーナビ、スマホ、カメラなどさまざまな電子機器に搭載されている

消すと増える? 隠ぺいによって拡散が加速するストライサンド効果とは

誤投稿や黒歴史のような過去投稿を編集・削除して、隠ぺいを行おうとすることで拡散が広がることもありました。これは、「ストライサンド効果」といって、ある情報の隠ぺいや除去を求める行動が、かえって拡散につながってしまう現象を意味するインターネット・ミーム(インターネットを通じて模倣によって人から人へと広がっていく行動のこと)です。

大元の情報を1つ削除できたとしても、ウェブサイトやキャッシュなどに履歴は残るため、多くの痕跡を完全に削除することは非常に困難。さまざまな思惑を持った第三者がそれを探し当てて、コピー&拡散につながるため、「消すと増える」とも言われています。

河瀬さん

「デジタルタトゥーとの関係では、いわゆる『再炎上リスク』に気を付けなければならない事例もあります。例えば、誰かが何年も前に公開したブログ記事に自分に関するデジタルタトゥーがあり、削除を求めた場合。ブログ投稿主はすでにこの記事のことを忘れていることも多く、法的に成立していない主張などを行って強硬に削除を求めた結果、逆鱗に触れてしまうケースもあるのです。

記事削除に失敗するだけでなく『意味のわからない主張で削除を求められた』などと新しい記事を投稿され、それがSNSで拡散してしまう可能性も考えられます。これが再炎上リスクです。

法的に『正しい』主張であれば、最終的に裁判所を通じた手続きで削除が実現できますが、『脅せば削除に応じてくれる可能性があるなら、試しにやってみよう』といった不用意な削除請求である場合、ストライサンド効果を生じさせるリスクが出てきてしまいます。実際に、私たちの実務上でもたびたび問題になる点です」

なぜ生まれた? デジタルタトゥーの原点は匿名掲示板にあった!?

1990年代の終盤に生まれた匿名掲示板が生まれた後に、2000年代にまとめサイト(インターネット上の情報を集めて、まとめられたウェブサイト)やコピーサイトなどが作られるようになり、匿名掲示板に書き込まれた情報が “拡散する構造” が完成。その後、2010年代に入ってFacebookやTwitterの普及率が上がることで、シェアやリツイートによる拡散スピードが加速していった。

なぜ生まれた? デジタルタトゥーの原点は匿名掲示板にあった!?

SNSが普及し始めた2010年代からデジタルタトゥーは加速

有名人と一般人の境界線が曖昧に。デジタルタトゥー被害事例

有名人と一般人の境界線が曖昧に。デジタルタトゥー被害事例

弁護士としてデジタルタトゥー問題を扱う上で、今どんなことが問題になっていますか?

河瀬さん「SNSは潮流の変化が速く、それに伴って問題化する内容も急速に変わっていきます。ここ1年で “有名人” と “一般人” の境界線がなくなってきています。これまで、デジタルタトゥーが問題になるのは、芸能人や上場企業の社長などの著名人が中心でしたが、ユーチューバーやインスタグラマー、未上場のベンチャー企業の経営者といった、これまでメディアが “有名人として扱ってこなかった人たち” からの相談が増えていますね。

数千人ほどのフォロワーがいる『インフルエンサー』などの場合でも、彼らの不適切な投稿が有名人と同じように炎上する事例も見られます。 過去の発言が掘り起こされる、プライベートでやりとりしたスクショなどが流出する、有名企業の社員というだけでターゲットにされるなど、デジタルタトゥー問題は動画を含めSNSで発信するどんどん一般人にも迫ってきています。『私は無名の一般人だから大丈夫』とは、言えなくなっていると思いますね」

デジタルタトゥー被害事例

①誹謗中傷・デマ

  • 某IT企業に関して言及した第三者のブログ記事やTwitter投稿を削除したことで、Twitterユーザーがそれに気付き、収束するばかりか事態が悪化。削除したブログ記事も再表示されるようになった

②悪ふざけ・いたずら

  • 高校時代に友人と運営していたブログで喫煙や飲酒の写真を公開していた。 “バカッター(Twitter利用者がツイートを通して自らの犯罪、嘘などの反社会的行動を世間にさらけ出す行為)” などの問題が起きて、削除したいと考えたが管理者権限を持っていた友人とは音信不通で為す術がないことに不安を抱える

③個人情報

  • 有名企業経営者と結婚した女性。何年も前に一時期水商売で働いており、その際に本名や枕営業疑惑などを匿名掲示板に書き込まれていた。氏名検索でも上位には表示されなかったため本人も含めて特に誰も気付いていなかったが、結婚のニュースが流れた際、本名が突き止められてその投稿が蒸し返され、同じ掲示板やTwitterなどのSNSで話題となってしまった
  • 激務が続いた医療関係者が医療用麻薬を自ら使用して逮捕。刑罰で社会的な責任を果たしても、逮捕時のニュース記事がインターネット上に残り続け、職に就こうとしても周囲から理解が得られない

④リベンジポルノ

  • 性的な意図のある盗撮をされた経験を持つ女性アスリート。動画や写真は、自分で撮影・公開したものではないため消すことが困難で、今後のキャリアに悪影響を与えるのではと不安を持つ

デジタルタトゥーは完全に消せるのか? 拡散時の対処法と普段から気を付けておきたいこと

デジタルタトゥーは消せる。とはいえ、拡散されてしまっていたら…? 現実的に起こりうる問題とともに、この先、自分のデジタルタトゥーが広がらないように、対処法や心構えに迫っていきます。

自分のデジタルタトゥーが広がってしまったら、どこに相談すればいいのでしょうか? そもそもデジタルタトゥーが完全に消せるのかも疑問です。

デジタルタトゥーは完全に消せるのか? 拡散時の対処法と普段から気を付けておきたいこと

河瀬さん「相談先の1つである行政によるホットラインは、基本的に“被害者本人による削除請求の方法をサポートする”という役割です。

被害が大きい場合や自分自身による削除請求に失敗してしまった場合や、自分自身による削除請求では再炎上のリスクがある場合は、専門の法律事務所に相談してください。というのもデジタルタトゥーを消すといった手続きは、法律上、本人かその代理人である弁護士にしかできないからです。

弁護士以外の者が本人に代わって削除交渉を行うことは、法律上できません。プロバイダ責任法に則って、プライバシー侵害など何らかの法律違反を指摘して、サイト運営元などに手順を追って削除依頼を行えば、デジタルタトゥーは消せます。

法律事務所に相談というと『裁判をするのか…』と思われるかもしれませんが、裁判所を利用した手続きが必要になるのは、しかるべき手順で削除依頼をしても対応してもらえなかった場合のみ。実際に裁判になるまで発展するケースは、数%もありません」

プロバイダ責任制限法

インターネット上に公開されている情報で権利侵害があった場合、プロバイダの損害賠償責任の制限と発信者情報の開示を請求する権利を定めた法律。「プロ責法」とも呼ばれる

複数のサイトに拡散されてしまっていた場合も消せるのでしょうか?

河瀬さん

「はい。1つは、弁護士が手順を追って削除依頼を行う方法です。根絶を目標に、どこに掲載されているかを地道に探し出して、1つずつ削除依頼を出していきます。インターネット上の情報をすべてリストアップするのは専門性の高い業務ですが、まとめサイトでどんどん拡散され続けてしまっているような事例であっても、達成されるケースは多いですね」

実際にデジタルタトゥーを消すには、どのくらいの時間が必要になるか教えてください。

河瀬さん

「掲示板の書き込みを1つ消すだけなら数日で終わることもあります。有名人からの『過去に活動した情報を全て消したい』といった案件ですと、半年以上にわたる大きなプロジェクトになることもありますが、一般の方であれば1~2カ月といったところでしょう。費用も数万円〜4桁円台まで、費やす期間や労力に応じてかなり幅があります。

ただし、リベンジポルノなどが海外サイトに拡散してしまった場合は、海外のプロバイダを相手にしなければならないため、難易度は上がりますね。とはいえ、一つひとつ対処していくという流れは国内も海外も変わりません」

もしも、自分の情報がさらされていると気付いた場合、どのタイミングで相談をすればいいのでしょうか…?

河瀬さん

「拡散が現在進行形で行われている・行われる可能性があるならば、少しでも早く相談してください。インターネットの情報はねずみ算的に増えていくので、遅くなれば遅くなるほど収束までの時間がかかるようになってしまいますし、費用も数倍~数十倍という単位で変わってきます。一方で、現在進行形で拡散されているのでなく、『10年前の情報が残っているのを消したい』という相談であれば、必要になったタイミングでいいと思います」

デジタルタトゥーによる被害を避けるために

私たちはどんなことに気を付けて発信していけばいいのでしょうか?

河瀬さん

「SNSの影響はこれからも大きくなり続けていき、それに伴ってデジタルタトゥーの問題が拡大していくことは間違いありません。世間の風潮や社会情勢の変化によって、『昔はよかったけど、今はNG』となっているテーマがあることを実感している人も多いはず。有名人から一般人まで炎上のターゲットが広がっていますし、今後はますます、どの情報なら出してOKでどの情報はNGなのかをよく考えてプライベートでも発信していく必要があるでしょう。

とはいえ、自分のことを発信するから楽しいのがSNSです。全てをシャットアウトしてしまうとSNSを楽しめなくなってしまいますから、リスクを考えた上で自分なりの距離感を考えておくといいでしょうね」

世の中が変わっていけば、リスクの形も変わっていく。だからこそ、発信の一つひとつを考えなければいけない――。

難しい世の中になったものだと思いますが、河瀬さんの言う通り、発信するのもSNSやインターネットの楽しみのひとつですから、安易な発言をしないように気を付けつつ、上手に付き合っていきたいですね。


デジタルタトゥーが拡散すると身バレの危険性も…。覚えておきたい、プロに教わる身バレの防止策

(掲載日:2023年1月18日)
文:大久保太郎
編集:木谷宗義(type-e)、ヤスダツバサ(Number X)

インターネットやスマホを安全・便利に使うために、親子で活用したいスマホ入門ガイド

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