全国の高校生・大学生が農業のスマート化に関するアイデアやビジネスプランを競うコンテスト「アグリテック甲子園」が1月22日に姫路市で開催されました。本大会は、姫路市が取り組むスマート市民農園事業の一環として農業分野のデジタル人材育成を目的に開催されています。
大会までの数カ月間、ソフトバンクグループで起業支援に携わるSBイノベンチャー株式会社の社員がメンターとなり、学生たちと一緒にアイデアの芽をどのようにビジネスアイデアに練り上げるサポートをしたのか? その極意についても話を聞きました。
テーマは「10年後の農業にイノベーションをもたらすアイデア」
アグリテック甲子園のプレゼンテーション発表の前に、姫路市の清元市長は「効率良く、経済的にも納得ができる次世代の農業改革が進むこと、また災害も少なく、温暖な瀬戸内の姫路という地域で新たな農業モデルができることを祈念する」とあいさつを寄せました。
また審査員を務める東京大学大学院 農学生命科学研究科 附属生態調和農学機構郭(かく)准教授とカルビー株式会社の小林氏の特別講演がオンラインで行われました。
郭准教授は農業におけるAIをテーマに、国内外の事例紹介やドローンや収集データを活用した研究開発について講演。カルビー株式会社の小林氏は、カルビー株式会社の子会社であるカルビーポテト株式会社が、ポテトチップスなどに使用するジャガイモ栽培の実証実験にソフトバンクの農業AIブレーン「e-kakashi」を導入し、収穫量を増加させたことについて話しました。
カルビーポテト株式会社での実証実験については、こちらの記事で詳細を紹介しています。
アグリテックの事例紹介や展示ブースも
当日、会場には「e-kakashi」をはじめ、姫路市が取り組むスマート市民農園事業、姫路市の小・中学生から募集した農業ロボットのアイデアコンテストなどの展示ブースが設けられました。姫路市と連携して農業用ロボット「ファームボット」の活用を進める書写養護学校は、ファームボットで栽培した落花生の試食・販売を、兵庫県立大学はカモミール自動収穫ロボットの展示や操作体験も実施し、来場した親子連れや学生、農業従事者などが興味深く参加していました。
「企業版ふるさと納税」大臣表彰を受賞した姫路市のスマート市民農園事業
「アグリテック甲子園」を含む姫路市の「スマート市民農園事業」は、令和4年度「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」で表彰されました。
「デジタル技術を活用した農業」「教育」「障がい者の社会参画」など、多角的な地域課題解決への取り組み、および内閣府主催のマッチング会での企業に向けた情報発信による企業版ふるさと納税活用促進への取り組みが評価されています。
姫路市の農業事業への思いや取り組みは、こちらの記事で紹介しています。
10チームが数カ月にわたり磨き上げたアイデアを発表
書類審査を経て、本選大会に出場した高校生・大学生の各チームは、この日に向けて磨いてきたビジネスアイデアを発表。スマホアプリで野菜を販売し、ドローンが配達するシステムや、自動操縦の除草機で作業を軽減する稲作など、身近な課題をテーマに学生ならではの発想で農業にイノベーションをもたらすアイデアで競い合いました。
学生たちの発表に会場では熱心にメモを取る来場者の姿も見られました。また各審査員からは、審査ポイントでもある実現可能性や事業採算性などに関する鋭い質問が次々と投げかけられ、発案者と議論が交わされました。
全チームの発表後、審査会を経て各企業賞と優秀賞、最優秀賞の発表が行われました。
稲作×きのこの循環型農業。最優秀校のビジネスプランとは
最優秀賞に輝いたのは、「魅力ある農業 稲作とキノコ栽培の循環型農業」を発表した広島県立西条農業高等学「きのこチーム」の3人。
地域の過疎化防止や雇用増加などの課題を解決する「循環型農業」の実現を目指し、水稲農業で発生するもみ殻を原料にきのこ栽培の菌床を作り、栽培後の菌床をたい肥として水稲農業に再利用するというアイデアを発表しました。地元企業と研究開発を進め、きのこの栽培に成功。宇宙での農業を見据え、再生可能エネルギーを用いたゼロ・エミッションの栽培ハウスの構想も披露しました。
最優秀賞に選ばれ「きのこチーム」の3人に、話を聞きました。
最優秀賞を受賞した率直な気持ちをどうぞ!
素直にうれしく思います!自分たちの研究を評価いただき良い結果を残せたので、後輩に引き継いで、循環型農業の実現に向けて一歩ずつ進んでいってほしいと思います。
脈々と引き継がれていってほしいですね。今日までの道のりを振り返ると、どのようなことが印象的ですか?
スーパーサイエンスハイスクール※に指定されている本校では、食品系の研究をいくつか行っています。日ごろの研究を発展させて、10年後の農業にイノベーションをもたらすアイデアとして想像することに最初は苦戦しました。
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文部科学省が、将来の国際的な科学技術関係人材を育成するため、先進的な理数教育を実施する高等学校等を指定する制度
悩みながらも先生方からのアドバイスを参考にしたり、SBイノベンチャーの方との月1回のメンタリングでは、アイデアやビジョンを補うための道筋やプレゼンテーションへのアドバイスをもらうなど本当に助けられた部分が多くありました。
「宇宙農業」にまで発想を昇華させたチームは、どのようなメンタリングを受けたのでしょうか。担当メンターに話を聞きました。
学生たちの伴走者、メンターの役割とは
アグリテック甲子園の本選に向けて、学生たちは事業の実現性を突き詰めたり、プレゼンテーションの精度を高めるために、メンターと一緒にアイデアを磨き上げてきました。学生からはメンタル面でも支えとなったとの声も。どのように学生たちを導いていったのでしょうか? 今回最優秀賞を受賞したチームのメンタリングを担当したソフトバンクグループの社内起業制度「ソフトバンクイノベンチャー」を運営するSBイノベンチャーの山内さん、市川さんにその極意を聞きました。
メンタリングを担当したチームが、最優秀賞を受賞した心境をお願いします。
率直にうれしいですね! 後日、当日の発表の様子を拝見しましたが、立派なプレゼンテーションでした。本当に熱心に取り組まれていたチームだったので、最優秀賞というかたちになって良かったです。
チームの印象を教えてください。
自ら大学にヒアリングに行ったり、地域企業など周りを巻き込んだりと、とにかくものすごい行動力がありました。さまざまな意見や研究を組み込んだり、検証を何度も重ねたり…振り返ってみると「なんとか実現させたい!」という思いが一番強かったように思います。
宇宙で農業というビジョンには驚かされました。われわれの想像していたレベルよりも空間をも超えたものを描いてきてくれたことが印象的です。
3回のメンタリングで、アイデアをどのようにブラッシュアップされたのですか?
あらかじめ準備していたガイドラインに沿って進めました。3回しかチャンスがないため、まずは大会へのエントリー経緯や思いを時間をかけてすり合わせました。そしてワークを通じて、審査ポイントとなる「ビジネス」「実現性」を明確にしていき、最終回はプレゼンテーションでのアピールポイントをアドバイスしました。
どのようなメンタリングを心がけたのでしょうか?
研究活動としては非常によく詰められていたので、「ビジネスプランとして成立させる方法」という点を重点的にサポートするスタンスで臨みました。学生は卒業という区切りがありますが、そこは抜きにして自分たちで主体的に社会をどう変えたいかということを、しっかり考えてもらいました。
また発案者の独りよがりなビジネスプランにならないよう、ターゲット顧客が持つ課題に対してきちんと向き合うこと、顧客目線に立つ意識が大切だと伝えました。
学生のアイデアをビジネスプランに練り上げることは、日ごろSBイノベンチャーで扱う事業構築のプロセスとの違いはありますか?
学生のメンタリングを行う上で難しいと思ったのは、ビジネスの仕組みづくりという部分です。社会人の場合、長期的に事業を継続する前提で、仕組みとして価値を提供し続けられるビジネスプランを考えますが、学生にとっては想像しづらかったように思います。例えば、「後輩に引き継ぐとしたら、どういう状態で引き継げばいいか?」というような問いかけから、継続性のある仕組みづくりを意識してもらいました。
学生目線の問いかけで、想像しやすいように導くのですね。
学生にも社会人にも言えることですが、メンタリングではとっぴなアイデアや面白い視点を引き出すと同時に現実に引き戻すような作業をします。5年、10年先にどのようなビジョンを描くのかという夢を持ちつつ、一方では、実現に向けて今何をすべきかを現実的に考えることが必要です。学生ならではのアイデアの芽をつぶしたくないという気持ちとのせめぎ合いですね…。
自由な発想から、顧客視点に持っていくことと、事業を継続すること。この2点が重要なのですね。現実と理想をどのようにすり合わせ、ビジネスプランに落とし込んだのでしょうか?
そのプロダクトによってどのくらいコスト削減できるのか、どのくらい環境に影響が出るのかを、まずは数字で出してみました。数字で見える化することで、具体的にその数字をどう作っていくか、どう仕組み化していくかが見えてきます。
非常に納得しました。数字にすると実現性が見えやすいですね。最後にSBイノベンチャーで培ったメンタリングのノウハウを、今後どのように役立てていきたいですか?
まずアグリテック甲子園をはじめ、今後もこのような新規事業創出につながる取り組みに積極的に参画することで、ゼロイチで事業を生み出すことが当たり前な世の中になってほしいという思いを持っています。
われわれは社内外問わず、新規事業を推進したいという方々のメンターを担当しています。その事業の成功確度を上げることに対し貢献していき、SBイノベンチャーとしても新規事業の創出をリードしていくことで、社内起業の文化を日本に根付かせていきたいです。
SBイノベンチャー株式会社は、ゼロからイチの新規事業を一気通貫で遂行する伴走役として、社内起業制度の運営ノウハウを社内外に提供しています。
(掲載日:2023年2月21日)
文:ソフトバンクニュース編集部
アグリテック甲子園のこれまでの取り組みや第2回大会については、ホームページで詳細をご覧いただけます。