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Z世代によるZ世代のためのサービス開発。独自のアプローチで掘り起こされた未来の価値観

Z世代によるZ世代のためのサービス開発。独自のアプローチで掘り起こされた未来の価値観

ソフトバンクのプロダクト本部 UX企画統括部では、産学連携の試みとして、2021年度から千葉大学のデザインマネージメント研究室と共にZ世代向けのサービス開発を進めています。連携にあたりサービス開発プロセスにさまざまな工夫を取り入れ、提案に至るまでの成果を上げた今、約2年半にわたる取り組みを振り返りながら、そのユニークな試みについて担当者に聞きました。

水澤 一葉(みずさわ・かずは)

ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 UX企画統括部 統括部長

水澤 一葉(みずさわ・かずは)

本プロジェクト推進責任者

上野 直哉(うえの・なおや)

ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 UX企画1部 兼 UX戦略室

上野 直哉(うえの・なおや)

本プロジェクトリーダー

大西 望生(おおにし・のぞみ)

ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 UX企画2部

大西 望生(おおにし・のぞみ)

本プロジェクト副リーダー

田中 美昴子(たなか・みほこ)

千葉大学大学院 デザインマネージメント研究室

田中 美昴子(たなか・みほこ)さん

 

新しい価値観を求めて。当事者主導によるサービス開発への挑戦

少し時期をさかのぼった2020年頃、UX企画統括部は社内で「Project U」という新しい取り組みを開始しました。近年、人々が求めるものが「モノ」から「コト」へ移り変わり、「コト」によって得られる感動や喜びである体験価値に重きを置かれるようになってきています。この体験価値を提供するためにはお客さまを深く理解し、真の課題を捉えた商品やソリューションを企画する必要があるということから、「あなた = U(you)」のための企画を作るという意味が込められたプロジェクトです。

新しい価値観を求めて。当事者主導によるサービス開発への挑戦

「あきらめることをやめよう。」というビジョンと「あなたの明日を心地よく。」というミッションの下、キッズ向けやシニア向けをはじめとしたソリューションを着々と打ち出す中、新たな領域への一手としてZ世代へ向けたソリューションに着手することに。Z世代をより深く理解するため、当事者と一緒に考えるCo-Design(コ・デザイン)という手法を取り入れ、加えて新しい感性や発想を取り入れるチャレンジを行うべく、千葉大学のデザインマネージメント研究室 渡邉慎二教授が率いる研究室との連携がスタートしました。

ソフトバンクは、全体プロセスの設計からプロジェクトの全体管理、学生による調査・分析などの行程において必要に応じたレクチャーやフィードバックなどを担当。2023年度にはサービス化を見据えた実用化プロジェクトを進めています。連携開始から2年目まではコロナ禍だったこともあり、活動のほとんどがオンライン会議サービスを介して進められていきました。

上野

「産学連携のCo-Designは、われわれ企業とZ世代のユーザーの間に、Z世代の当事者でもある学生の皆さんが入り、具体的なプロセスを進めていく座組みです。まずは、われわれが持つUXデザインのノウハウを一からレクチャーするところから始めました。全体の進め方やインタビューの流れ、質問の深掘りの仕方、分析方法など、具体的な手順や方法を含みます。もともとデザイン思考を持つ学生の皆さんなので、スムーズにプロジェクトを進めることができました」

新しい価値観を求めて。当事者主導によるサービス開発への挑戦

ソフトバンク担当者としてもZ世代からZ世代に調査してもらう今回の座組みは初めてのことで、研究室メンバーとの連携作業は、試行錯誤の毎日。さまざまな資料やツールを駆使してレクチャーし、調査してきた結果を報告してもらい、分析内容についてフィードバックし、というサイクルを毎週のように繰り返していき、都度ブラッシュアップしながら連携の形が確立していきました。

新しい価値観を求めて。当事者主導によるサービス開発への挑戦

サービス化前から熱狂的なファンを作り出す。Z世代の特殊な価値観がより鮮明に

サービス化前から熱狂的なファンを作り出す。Z世代の特殊な価値観がより鮮明に

長期的な取り組みに向け設計された全体プロセスの下、まず着手したのは、Z世代の価値観を探ること。投稿後24時間以内に削除される特徴を持つことから、多くのZ世代が「より日常的な」写真や動画の投稿をしているInstagram のStories機能に注目し、リアルな日常が伺える投稿を収集します。さらに個別インタビューを実施して投稿前後の心情を深掘りし、Z世代特有の価値観を導き出していきました。

サービス化前から熱狂的なファンを作り出す。Z世代の特殊な価値観がより鮮明に

田中さん

「調査対象も調査するわれわれも学生同士であることを生かし、特定の対象者に張りついて観察したり、かなり突っ込んだインタビューをしたりすることで、Z世代の本音を聞き出しました。それらのマッピングやグルーピングを繰り返し、より具体的で共感できる価値観を特定できたと思います」

サービス化前から熱狂的なファンを作り出す。Z世代の特殊な価値観がより鮮明に
サービス化前から熱狂的なファンを作り出す。Z世代の特殊な価値観がより鮮明に

上野

「調査対象の近くで観察する手法は『エスノグラフィー』と言います。通常のプロジェクトではインタビューで深く聞いていくことが多いのですが、今回は本人も気付いていないささいな行動からもヒントを得たかったため、この手法がマッチしました」

今回のユニークな取り組みのうち代表的なものが、「N1分析」をサービス開始前に行ったことでした。「N1分析」とは、特定の顧客1人を徹底的にリサーチする手法で、通常は開始済みのサービス改善に用いられるといいます。

上野

「特定の1人の課題を追究することがZ世代をより鮮明に理解するのに役立つのではとの考えから、N1分析をサービス検討段階に前倒す取り組みをしています。今回のプロジェクトにおいてもN1の発見をマイルストーンとして設定しました。具体的には課題の仮説を設定し、課題を持つ人にインタビューした内容から、現実に存在しそうなペルソナ(架空のユーザー像)を作成。その後はサービス案を練り、ストーリーボード(ユーザー体験をストーリーで描写したもの)に起こして、ペルソナの該当者に対してストーリーボードの内容を簡易検証し、ブラッシュアップする… といったことを繰り返しました。その過程で当事者の課題が解消し、熱狂的なファンになってもらえた人をN1として定義しました」

サービス化前にスピーディにその価値を検証していくというステップも、工夫されたポイントです。「MVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト)検証」といって、初めからテスト製品を作るのではなく、製品イメージがつく簡易的なものを用意してテストしていくというもの。労力をかけて作った製品をベースに検証してしまうと後戻りが難しくなることを避けるために有用な手段とされ、今回の産学連携の取り組みにマッチしていたため、取り入れることになりました。

田中さん

「MVP検証の一例として、友人とのドライブ中のBGM問題を解決するサービスのMVPを作成しました。自分を表現できるような好きな曲と、友人受けする曲との間に差があり、流したい曲を流せずにモヤモヤする気持ちに着目し、みんなで曲候補を出してランダムに選曲するサービスです。このサービスを体験してもらうために、研究室の一角にドライブ中の車内を再現した環境を用意して検証を行いました」

サービス化前から熱狂的なファンを作り出す。Z世代の特殊な価値観がより鮮明に

こうして導き出された価値観をもとに、Z世代の諦めていることを解決する「未来の価値観」として、6つの理想の未来像を定義。それぞれに対するユニークなソリューション提案が行われました。なぜ「諦めていることの解決」が必要なのか。自身を含むZ世代を次のように分析しています。

田中さん

「私たちZ世代は、小さいころからデジタルデバイスが身近にあり、オンラインで人とつながることへの抵抗がありません。四六時中どっぷりデジタルに漬かった環境にいるからこそ、特殊な価値観が生まれているのではないか。そういった環境を当たり前と思うがゆえに、Z世代には多くのわがままやあきらめが存在しているのではと思います」

サービス化前から熱狂的なファンを作り出す。Z世代の特殊な価値観がより鮮明に

上野

「新たな未来像を作り出す過程で、『自分らしくいたいが、既存の価値観では自他共にありのままを認めづらい』という、解像度の高いZ世代のインサイト(本人も気づいていない本音)を知ることができました。作成した未来像も、学生の皆さんのリアルな感覚が盛り込まれた刺激的なものばかりです」

仮説・PoC・理解…。繰り返しの価値追求によりユニークなサービス案が誕生

2年目にあたる2022年度には、事業化検討に着手することになった既存2案と、研究室メンバーから提案があった新規2案の、計4案の企画が進行。サービスの世界観はどうか? どんな体験価値が得られるのか? 画面遷移はどうすべきか? などを具現化すべく、何度もPoC(概念実証)を繰り返し、サービス像が徹底的に磨き上げられます。

仮説・PoC・理解…。繰り返しのサービス価値追求によりユニークなプロダクト案が誕生

2021年度から進めている既存2案はフォアキャスティングというデザインプロセスの手法で進めていましたが、新規2案はバックキャスティングという手法で進めることに。フォアキャスティングは現在の課題からあるべき姿を見つける手法で、バックキャスティングは、実現したいビジョン(未来)を起点に現在の解決策を模索していく手法です。

仮説・PoC・理解…。繰り返しのサービス価値追求によりユニークなプロダクト案が誕生

大西

「フォアキャスティングは基本のデザインプロセス手法です。一からCo-Designのレクチャーをする中で、まずはベースの手法を用いて開発を進め、一定の成果を得られました。学生の皆さんはとても積極的で、2021年度に提案したサービスの他に新しい案も作ってくれたので、別の手法も試してみることにしたのです」

2022年度の活動報告では、「アクティングアウト」という手法を用いてサービスの説明が行われました。アクティングアウトとは、開発者が製品やサービスを使用するシーンを寸劇のような形で演じること。UI(ユーザインターフェース)の特徴だけでなく、サービスの世界観や、得られる体験・価値を感じてもらいやすいという効果が期待できます。

スマートウオッチのデータを共有し合い、体力が減ってきた仲間に休憩を促し合うサービスを紹介するアクティングアウト

スマートウォッチのデータを共有し合い、体力が減ってきた仲間に休憩を促し合うサービスを紹介するアクティングアウト

4件のサービス案をもとに、ソフトバンクでは2023年度から事業化サービスの絞り込みを開始しました。調査やさらなるPoCを継続し、来期以降に向け商用版アプリの開発を目指しています。プロジェクト開始時から全体を統括してきた推進責任者は、これまでの活動をこう振り返りました。

水澤

「今回の取り組みは、Co-Designが1番の肝でした。研究室の皆さまと密に連携し、彼らがハブとなってユーザー層の学生へアプローチする体制は予想以上の効果が生まれました。調査する側とインタビュー対象が友人や知り合い同士という近い関係性であることから、次のミッションが課されてから1週間足らずでインタビューが実施され、その結果報告が戻ってくる。さらに、より本音を話してくれやすいといったメリットもありました。調査会社を使った通常のリサーチでは考えられないスピード感とクオリティです。われわれだけでは知り得なかったリアルなZ世代像と、彼らならではのサービス案ができあがったと思います」

ターゲットに近い当事者がサービス開発することの意義を学会で総括

これまでの取り組みの総括として、2023年6月24日に、第70回 日本デザイン学会 春季研究発表大会での合同発表が行われました。

ターゲットに近い当事者がサービス開発することの意義を学会で総括

「Z世代向けのサービス開発における共創型プロセスの研究」と題した一連の発表では、研究室とソフトバンクが取り組んだ共同開発の全体像や、分析・調査のアプローチ方法、具体的な事例などを紹介。N1分析を前倒して実施するなどの工夫を加えたサービス開発手法により、リアルなユーザー感覚を反映し、熱量の高いファンを獲得できる可能性を持つサービスを開発できたと評価しました。
また、連携プロジェクトをきっかけに研究室から2023年にソフトバンクへ入社した西部愛裕美は、今回の学会での発表が評価され、グッドプレゼンテーション賞を受賞。「学生時代から企業と一緒に活動できたことは貴重な経験になりましたし、早期に熱量の高いファンを見つけるプロセスなどが評価されたことがうれしいです。このプロジェクトでの学びをソフトバンクでの業務に生かしていきたいです」と喜びを語りました。

このプロジェクトで開発されたアプリのサービス化に向け、現在も準備が進められています。どんなサービスが登場するのか、楽しみですね。

(掲載日:2023年10月10日)
文:ソフトバンクニュース編集部