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空間IDを活用しロボットやドローンの移動を最適化。空間情報の整備に向けた実証実験

近年さまざまな分野でロボットやドローンの活用が検討されています。街や施設内を自律的に走行するためには、位置情報や建物、道路、屋内であれば入り口や通路といった空間情報をもとに作成した地図で移動ルートをあらかじめ設定する必要があります。

ロボットやドローンの普及を進めるため、空間情報を統一する規格として空間IDの整備が進められています。

空間IDの社会実装に向けた取り組みについて、ソフトバンクの担当者に話を聞きました。

教えてくれた人

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット統括 Chief Scientist室 ROS-SI推進課

栗本 健有(くりもと・けんゆう)さん

2019年入社。ソフトバンク内製ロボット「Cuboid」シリーズの開発およびロボットを用いた各種実証実験(屋内配送ロボットのエレベーター連携実証、屋外配送ロボット信号機連携実証)に携わる。

空間IDを活用したロボットの自律走行とデータ共有をソフトバンク本社で実験

2023年2月にソフトバンクの竹芝本社で、空間IDが付与されたマップをロボットの自律走行やARナビゲーションアプリに活用する実証実験が行われました。

実験の内容について教えてください。

ソフトバンクでは、デジタル庁から受託した「デジタルツイン構築に関する調査研究」の一環として、空間IDを活用したデータ共有に関する研究を行っています。さまざまな目的・用途に空間IDを試験的に利用して、その有用性や問題点を探ることを目的に実証実験を実施しました。

高精度3次元地図データを提供するダイナミックマッププラットフォーム株式会社、xRプラットフォームを提供する株式会社ビーブリッジ、ソフトバンクの3社による共同実験で、自律走行ロボットによる配送への活用、そして異なるマップを用いたアプリケーション(ARナビゲーションアプリ)とのデータ共有に関する検証を行いました。

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自律走行ロボットによる配送への活用ではどのようなことを行ったのでしょうか。

実験にはソフトバンクが開発した自律走行ロボット「Cuboid」を活用しました。

レーザー光の反射をもとに対象物までの距離を計測する「LiDAR」というセンサーを使って作られたロボット用のマップに、ロボットの出発地や目的地のほか、店舗やエレベーターの場所や停止可能位置、立ち入り禁止エリアなどの情報をひも付けました。

そうして作られたマップを使って実際にCuboidを走行させて、ルート生成の精度や、立ち入り禁止エリアをうまく回避できるかなどの実証を行いました。

ロボットの見えている情報の一部を可視化したマップ。緑と赤のボクセル(点)で建物内設備のポイントを指定。赤のボクセルには「使用不能」の情報を付与。

そもそも空間IDとは何ですか?

空間IDは一言で言えば、空間上のある領域を一意に、つまり重複することなく固有に示すIDのことで、経済産業省とデジタル庁が共通規格として提唱し、現在整備に向けた取り組みが進められています。

ある領域とは?

私たちの身の回りの3次元空間を決められたサイズに区切った「ボクセル」と呼ばれる立方体が単位として定義されています。

ボクセルのサイズは「ズームレベル」によって指定され、ズームレベル0は一辺が地球の円周程度の長さで地球全体をすっぽり覆う大きさ。ズームレベルが1つ上がるごとに一辺の長さが半分になっていきます。このようにズームレベルを変えることで、1つの国を覆う広大なエリアから、公園のゴミ箱のような数十センチ程度の大きさのポイントまで用途に合わせて空間を細かく切り分けることができるので、今回の実験のように店舗や停車可能位置など特定のポイントに固有の情報を付与することができます。

(左)「3次元空間情報基盤アーキテクチャの検討 報告書」(デジタル庁)を加工して作成

なるほど。私たちの周りのあらゆるポイントに目に見えないタグが付いているようなイメージですね。

そうですね。例えば、建物内で言うと階を移動するためのエレベーターホールの位置や混雑状況は、自律走行ロボットだけでなく、他にも施設案内などさまざまな用途共通で利用できる有益な情報です。

そういった空間情報を異なるシステム間でも活用できることを検証するための実験が、同時に実施したARナビゲーションアプリとのデータ共有実験です。

どのような内容ですか?

ロボットの自律走行実験で作成した空間IDにひも付いた空間情報データを、建物を管理する基盤システムを通してビーブリッジ社が提供するARナビゲーションアプリに共有し、実際にアプリに表示された経路に従って人が建物内を移動し検証を行いました。

スマホにARで表示されたルート上には、ロボットのマップ用に空間IDに付与したエレベーターの位置や立ち入り禁止情報などが表示されるなど、共有された空間情報をスムーズに活用することができました。

位置情報の共通言語として橋渡し役を担う空間ID

そもそもなぜ空間IDの整備が進められているのでしょうか?

空間IDは、スマホアプリやドローンの飛行、地上を走る自律走行ロボットなど、さまざまなアプリケーションで3次元空間上の位置情報を示す共通言語のような役割を果たすことが期待されています。

今回の実験でも使用した自律走行ロボットを例に挙げると、普段私たちが利用する道路の地図と違って、屋内では平面だけでなくフロアごとの違いや設置されている設備の情報も加味したマップが必要になりますよね。つまり3次元空間上のあらゆる情報を含んだマップが必要になります。

一般的に屋内ロボットのマップは、その建物独自の位置座標を取得して、エレベーターや設備の位置などの各種データをもとに作成されますが、マップには必ず座標値の基準となる原点が存在します。

しかし、同じ建物内で利用するロボットであっても、利用用途や制作する会社が違うと、ロボットごとにその基準が異なる場合があるんです。

(左)建物の設計図面データ(BIMデータ)を元に生成されたマップ (右)ロボットのLiDARを用いて作成されたマップ。どちらの画像も左下端点が原点として利用されると仮定すると、全く異なる位置が原点となり、マップの向きも異なっていることがわかります。

基準が違うと何が困るのでしょうか?

例えば、先ほども言ったようにエレベーターホールの位置や混雑状況は、共通で利用したい情報なのに、基準としている座標の位置や向きが違うことで、異なるマップ間で容易に共有することが難しい。

もちろん、それぞれのマップの原点の違いや、座標軸の向きのずれに応じて座標変換を行い、相手のマップの座標が示す地点を自分のマップの座標の値に補正することは可能です。しかし、何十階もある建物のフロアごとにその補正値を用意して管理するのは大変ですよね。

このような問題がロボットに限らず、ドローン飛行など空間情報を活用したさまざまな分野で起こることが予想されています。

そのように独自の基準でバラバラに管理されている空間情報を空間IDで変換してあげることで、お互いのマップが異なっていても、どこの場所を指してるのか分かるようになり、ロボットの導入や管理を効率的に行うことができるようになります。

効率的な管理とはどのようなイメージですか?

今回の実験でもロボットの走行ルート上に空間IDで立ち入り禁止エリアを指定しましたが、建物内の一部のエリアで催し物をやっていて、しばらくの間そのエリアのロボット走行を禁止させたい場合、現状の仕組みでは、その建物で走っているロボットの各ベンダーに設定を依頼し、ロボットの動作可能範囲を変更してもらう必要があります。この方法では非効率ですよね。

これを共通の空間情報として立ち入り禁止の情報を対象範囲のボクセルに空間IDで付与し、各ロボットが建物内の空間基盤システムを通じて情報を受け取るようにしておけば、建物管理者側は対象エリアのフラグを変更するだけで、一発で全てのロボットに対して指示ができます。このようにロボット間、システム間の裏側で橋渡し役(インデックス)として活躍できるのが空間IDというわけです。

空間IDの活用が自律走行ロボットの社会実装を加速する。多種多様なアプリケーションへの利用にも期待

今回の実験で感じた課題などはありますか?

地上を走るロボットに関していえば、基盤システムと一口に言っても建物そのものの情報など、半公共的なデータベースで管理するべきデータもあれば、屋内の施設情報や閉鎖エリアなど建物ごとのデータベースで管理するべきデータもあります。空間IDの社会実装に向けて、そういった区分けをどうするべきか、それを誰が管理更新するのかはこれからの課題だと思います。

また、ロボットに関しては目的地の位置情報だけではなく、作業に応じて停車した際に正面がどちらを向いているべきか、という情報も必要になる場合もあるため、そういった指定を含めた情報を組み込んでいく必要があると思います。

今回は実証実験ということで主に静的なデータを扱いましたが、商業施設などでは買い物客なども移動していますので、人流データと連携して、混んでるところは避けてルートを生成するなどの判断をロボット管制システムができるようになると良いですね。

これからさらに普及していくロボット社会には必要不可欠な技術というわけですね。

はい。ただ、空間IDは、3次元空間情報の有効活用に必要とされる多くの要素の一つでしかなく、単体で意味をなす概念ではありません。空間IDをインデックスとして利用したデータ管理・運用基盤の整備とともに、その基盤を用いた各種アプリケーションが拡充されていくことで、その有用性は高まっていくと思います。

そういった意味でも、共通基盤となるデータベースを誰がどのように運用するかという点が非常に重要となっています。

現在、空間IDの整備はどのように進められているのでしょうか。

実証において検証された応用例や発見された問題点を解消して、実際のサービスに寄り添った社会実装ができるように引き続き検証を進めているところです。

デジタル庁が主だって推進しようとしてるのは、ドローンや自律モビリティや地下埋設物管理への応用であり、今回の実証ではそれらが主な検証対象となりました。

しかし、共通インデックスとして空間IDを利用可能なデータベースが本格的に運用され、また多くのベンダーにとってアクセスがしやすいものとなれば、都市環境計画、災害対策といった多種多様な空間IDを活用したアプリケーションも増えていくことが期待されます。今回の実証で取り組んだARナビゲーションアプリなども良い例です。

今後の取り組みについて教えてください。

昨年度の実証においてソフトバンクが行ったロボットへの活用については、デジタル庁からも一定の評価をいただいており、今年度以降も空間IDの活用方法について探り、実際のサービスに利用していくことが期待されています。

屋内のロボットのみならず、2023年4月より法解禁された「遠隔操作型小型車」の自律走行への応用についても探っていきたいですね。

サービスロボット全般に関して言えば、ここ数年間で数多くの要素技術に関する実証実験がなされ、今まさに会社をまたいだ多種類のロボットを各種環境で活躍させるにはどのような規格やルールが必要かが議論されている過渡期にあります。こういった規格やルールが整備されることで、各ベンダーが独自開発しなければならない項目や頭を悩ませるような問題が減り、サービスロボットの導入コスト削減やより人に寄り添ったロボットの実現へとつなげられるのではないかと考えています。空間IDもその一環として、実証を続け、積極的に規格化や活用を進めていきたいと考えています。

人とロボットとの共生社会の実現へ。ROSシステムインテグレーター

ソフトバンクは、人とロボットが共存する社会の実現に向けて、自走式ドローンを活用した実証実験や、技術開発に取り組んでいます。

ROSシステムインテグレーター

(掲載日:2023年11月1日)
文:ソフトバンクニュース編集部