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【解説】なぜこんなにもめてるの? 「NTT法のあり方」問題の論点

「NTT法のあり方」問題解説

11月14日のNTT法に関する報道を受け、同日夜から15日朝にかけて、楽天グループ株式会社 代表取締役会長兼社長最高執行役員 三木谷浩史氏(以下、楽天・三木谷会長)、ソフトバンク株式会社 代表取締役社長 兼 CEOの宮川潤一(以下、ソフトバンク・宮川)、KDDI株式会社 代表取締役社長の高橋誠氏(以下、KDDI・高橋社長)が、相次いで「NTT法のあり方」に関する見解をX(旧Twitter)で投稿しました。

10月には2度にわたり「NTT法のあり方」に関する記者会見を行うなど、NTTとの意見の応酬が激しさを増しています。「NTT法のあり方」の何が問題となっているのか、簡単にまとめました。

目次

KDDI・ソフトバンク・楽天のトップが次々とX(旧Twitter)で見解を投稿

「NTT法のあり方」について、これまでにも、KDDI・ソフトバンク・楽天モバイルの3社は電気通信事業者や地方自治体など180者を代表する形で、10月19日と31日に記者会見を行っています。また、自民党および総務大臣に対して「連名要望書」を提出し、NTT法の廃止への反対の立場であり、より慎重な政策議論を行うことなどを要望しています。

その後、11月14日に「自民党が取りまとめている政府への提言原案に、NTT法の廃止を求めることが盛り込まれる」との報道がなされたことを受け、楽天・三木谷会長がX(旧Twitter)でこのような投稿を行いました。

三木谷 浩史 @hmikitani 2023年11月14日 午後8時30分

報道どおりだとすると、自民党の「甘利氏」をリーダーとするプロジェクト。『NTT法を廃止』して、国民の血税で作った唯一無二の光ファイバー網を完全自由な民間企業に任せるなど正気の沙汰とは思えない。携帯含め、高騰していた通信費がせっかく下がったのに逆方向に行く最悪の愚策だと思います。国民の通信の将来など全く考えてない。こんなことがまかり通ってはいけない。

これに返信する形で、ソフトバンク・宮川が6年ぶりにX(旧Twitter)で投稿。

宮川 潤一 @miyakawa11 2023年11月14日 午後10時36分

30年かけて40兆円もの国税で創り上げた日本の重要インフラを一企業に無償譲渡とは、贈与税を払ってもらいましょうよ! 東電の悲しい惨事は、国の重要インフラとして、その後も国税で支え続けています。今後大災害など有事の際に、通信インフラは誰がどう支えるのか?そこまで考えているのか?

さらに、宮川は続けてこのように投稿。

宮川 潤一 @miyakawa11 2023年11月14日 午後11時04分

三木谷社長だけに、政府との溝を作らせるのはアンフェアなので、私も久しぶりに投稿します。NTTが引き継いだ資産は国税で創り上げたものです、土地だけでも莫大な資産。まして地中に埋まる光ファイバーは、唯一無二であり国税を投下して、30年もかけて創りました。

宮川 潤一 @miyakawa11 2023年11月14日 午後11時10分

本来国が管理運営すべき重要インフラを、運営して頂く委託団体が特殊法人です。ですから特殊法人法があります。有事の際、東電のような惨事でも支えるのは当たり前で、国の重要インフラだからです。一民間企業の持ち物にしては決していけません。

宮川 潤一 @miyakawa11 2023年11月14日 午後11時16分

20年、50年先の未来に、どんな有事が起こるかわかりません。民間に引渡しするアセットとしては適正では無いことは明白です。国が責任放棄するのはダメです。未来の日本にとって取るべき選択では無いと、届かないのは残念ですが声をあげます。

翌朝にはKDDI・高橋社長も、2019年以来の4年ぶりにX(旧Twitter)で投稿しました。

高橋 誠 @makjob 2023年11月15日 午前7時17分

今回の議論
そもそも防衛財源の話がいつの間にか話がすり替わりNTT法廃止の話だけが一人歩きしている事に先ず違和感を覚える。

高橋 誠 @makjob 2023年11月15日 午前7時18分

三木谷さん宮川さんもおっしゃっている通り多額の血税で構築した光ファイバー等特別な資産を持つ特別法人たるNTTの義務を規定したNTT法を単純に廃止する事は、公正競争の観点、有事への対応の観点からもあってはならない。

高橋 誠 @makjob 2023年11月15日 午前7時25分

外資規制等、他の法律等でカバーすると言うのなら、それが出来ない限り廃止はしてはいけない事は明確にしておく必要がある。多くのものがNTT法の廃止に反対しているなか、強硬に押し通すことに疑問が残る。

宮川社長、KDDI・高橋社長が、長い間休眠状態にあったX(旧Twitter)アカウントを復活させてまで見解を主張しているこの「NTT法のあり方」問題。一体どのような問題が起こっているのでしょうか?

NTT法の「廃止」は反対、「改正」は賛成

前提として、NTT法の廃止に反対の意見を主張しているのは、KDDI・ソフトバンク・楽天モバイルの3社だけではありません。電気通信事業者や地方自治体など全国180の企業・団体が賛同し、要望書に名を連ねています。また、NTT法の見直しについて反対しているわけではなく、「NTT法の廃止には反対だが、改正には賛成」の立場。研究成果の開示義務の廃止など、時代に合わせた「改正」は必要としながらも「廃止」が問題だという見解です。

それでは、NTT法が廃止された場合、どのような問題が危惧されるのでしょうか?

現在も続く意見の応酬

2023年10月19日、31日の2度にわたり、KDDI・ソフトバンク・楽天モバイルの3社が180者を代表する形で記者会見を行われています。そこで特に重要な項目として説明されたのが、「公正競争」「ユニバーサルサービス」「外資規制」の3項目です。

※ 詳しい説明はプレスリリースや資料、過去のソフトバンクニュース記事などをご確認ください。

(1)公正競争 「電気通信事業法だけでは不十分。NTT法がないと実効性に欠ける」

公正競争が損なわれると、料金の高止まりやサービスの高度化・多様化が停滞してしまうことにつながります。NTT側は電気通信事業法でも公正競争を担保できると主張していますが、3社はNTT法の廃止によって、NTT東西とNTTドコモの合併など、NTTグループ企業の一体化が進んでしまうとの懸念を表明。加えて、特別な資産の譲渡等が可能になることに伴って、電気通信事業法の設備シェアに基づく規制逃れなど実効性を欠く懸念があることから、NTT法による広範な規制と電気通信事業法による規制の両輪が、公正な競争の維持に必要であると主張しています。

(1)公正競争 「電気通信事業法だけでは不十分。NTT法がないと実効性に欠ける」

(2)ユニバーサルサービス 「全国あまねくサービス提供するには、強制力のあるNTT法が必須」

全国あまねく電話サービスを提供するユニバーサルサービスも見解に乖離(かいり)があります。NTT側はユニバーサルサービスの対象を「加入電話(約1,350万回線)、光電話は含まない」と主張。これに対し3社は、これはあくまで電気通信事業法のユニバーサルサービス制度においての位置付けであり、NTT法によってNTTの責務として全世帯への電話サービス提供が義務付けられていることを踏まえれば、NTTが電話サービスを提供すべき対象は「全世帯(6,000万回線相当)、光IP電話を利用中のユーザーも含む」と反論。また、離島や僻(へき)地などの不採算地域でのサービス提供・維持も保障できなくなる懸念があり、NTTが撤退できないようにする強制力のあるNTT法が必要であると主張しています。

(2)ユニバーサルサービス 「全国あまねくサービス提供するには、強制力のあるNTT法が必須」

(3)外資規制 「特別な資産を保有するNTTだからこそ、NTT法で守られるべき」

NTT法では外資比率が3分の1以下に定められています。NTT側は外資規制の実現方法について、外為法など他の方法で検討すべきと主張。それに対し3社は、公社から承継した土地、局舎、電柱のほか、全国に張り巡らせた光ファイバー網といった特別な資産を保有するNTTは、経済安全保障の観点からも、NTT法による外資規制が必要であるという見解を主張しています。

(3)外資規制 「特別な資産を保有するNTTだからこそ、NTT法で守られるべき」

その後も、11月7日には3社の主張に対しNTTが考えを発表。これに対し11月14日、KDDI・ソフトバンク・楽天モバイルの3社が連名で反論しました。

(4)海外との比較 「海外とは競争環境が違う。廃止したいならNTTは資本分離を」

NTTは主要諸外国の規制状況を例に挙げ、特殊法人法が廃止されていることを説明。これに対し3社は、海外では国営事業者や市場支配的な事業者は資本分離等の構造的措置が為されているが、日本は旧国営事業者であるNTTに対して十分な構造的措置(資本分離)がなされず支配的地位を維持している。競争政策や競争構造など、特殊法人法(=NTT法)を廃止する前提条件が整っていないと主張しています。

(4)海外との比較 「海外とは競争環境が違う。廃止したいならNTTは資本分離を」

(5)公社承継資産 「公社承継資産は100%NTTに帰属している」

NTTは、民営化の際に公社が保有している資産は、株主である政府やその他民間の株主に帰属すると主張。これに対し3社は、公社の承継資産はNTT東西が所有しており、そのNTT東西はNTT持株会社の100%子会社であることから、会社が解散するまでは株主に帰属しているとは言えないと反論しています。NTTの主張に対し、2024年3月期の第2四半期決算説明会で宮川社長は「この継承資産が株主のものというのは、どこか『NTT自身は直接関係ない』といった主張に聞こえた。公社継承資産を有していることの重要性、当事者意識が希薄しているようで非常に残念」と述べています。

(5)公社承継資産 「公社承継資産は100%NTTに帰属している」

このように「NTT法」を巡る双方の見解は平行線をたどり、現在も意見の応酬が続いています。

元はと言えば、政府が防衛費予算捻出のためにNTT株の売却益を防衛財源に充てる案として検討された話でしたが、報道によるとこの案は見送られる見通しで、いつの間にかNTT法廃止の議論だけが一人歩きしている状況。国益や国民生活への影響を念頭に置いた慎重な議論を求めたいところですね。

(掲載日:2023年11月17日)
文:ソフトバンクニュース編集部