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誰もが生きやすい社会を。女性特有の悩みにテクノロジーで寄り添う「フェムテック」とは

モヤモヤを言葉にすることから始まる。誰もが生きやすい社会につながる「フェムテック」の話

近年、SNSやメディアで注目が集まっている「フェムテック」という言葉をご存じですか? フェムテック(Femtech)は、「フィメール(female)」と「テクノロジー(technology)」を掛け合わせた造語で、今世界から注目を集めている分野。「生物学的女性特有の健康課題をテクノロジーで解決しよう」とする製品やサービスのことを指し、その市場規模は2021年頃から急速に拡大し続けています。

今回は、女性特有の心身の悩みをテクノロジーの力で解決に導くフェムテックについて、その言葉が生まれた背景や私たちの身近にある具体例などを解説。日本・アジアのフェムテック市場のパイオニアであるfermata(フェルマータ)株式会社の村上さんにお話を伺いました。

Mari Murakami

教えてくれた人

fermata株式会社 ビジネスディベロップメント ディディビジョンディレクター

村上 茉莉(むらかみ・まり)さん

Dublin City University 卒業後に東京大学大学院で国際公共政策学を専攻。外資系コンサルティングファーム、スタートアップのコンサルティングファームでコンサルタントとして勤務し、新規事業の企画立案や立ち上げ支援、マーケティング戦略の立案支援などを実施。2021年9月よりfermataに参画し、企業向けのコンサルティング案件を担当している。

女性の心身の悩みをテクノロジーで解決する「フェムテック」とは?

女性の心身の悩みをテクノロジーで解決する「フェムテック」とは?

聞いたことはあっても、いまいちちゃんと理解できていない「フェムテック」という言葉。まずは、そもそも「フェムテック」とは何を指すのかを教えてもらいました。

早速ですが、「フェムテック」とは一体どういった意味なのでしょうか?

村上さん 「一般的な定義でいうと『生物学的女性に特有もしくは発生する可能性が高い健康課題に対するソリューション』。これまで言語化・可視化されてこなかった女性のモヤモヤを解決し、QOLを向上させるサービスやプロダクトを指します。

フェムテックという言葉は、2016年頃から欧米で使われ始めました。月経周期管理アプリを開発したドイツの起業家が、当時まだまだ男性率の高かった投資家たちに向けて、女性特有の健康課題を解決するサービスに対するニーズを説明するためにつくった造語なんです。

日本でフェムテックが急速に広まったのは、2021年頃からですね。もともと感度の高い方たちの間ではすでに話題でしたが、その年に新語・流行語大賞にノミネートされたり、大手衣料品メーカーから吸水ショーツが発売されたりしたことで、より認知が拡大しました。同年には経済産業省が『フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金』を立ち上げたことも手伝って、ここ2年ほどで日本のフェムテック市場の勢いが加速しています」

そうなのですね。フェムテックには、具体的にどのようなカテゴリがあるんですか?

村上さん 「『月経』『妊活・妊娠中』『産後』『更年期』などと分けられることが多いですが、それだけではありません。『メンタルヘルス』や『セクシャルウェルネス(性の健康)』なども、新たな製品やソリューションが求められている分野です。

ただ、カテゴリに捉われすぎると、課題の本質を見落としてしまうこともあります。例えば尿漏れは、以前は『更年期』にカテゴライズされがちでしたが、実は産後の方や10代にも悩んでいる方がいる症状なんです。このように複数のカテゴリをまたぐ課題は少なくないので、単にカテゴリで捉えるのではなく、一つ一つの課題単位で目を向けてみることが大切です」

私たちにとって身近なフェムテックの例を教えてください。

村上さん 「日本では、吸水ショーツや月経カップを思い浮かべる方が多いかと思います。また、月経周期管理アプリは実際に利用されている方も多いのではないでしょうか。

最近だと、『骨盤底筋をトレーニングするアイテム』も浸透しつつあります。これは昨年、厚生労働省が『一般医療機器』として販売できる枠組みを作ったことでも話題です。許可を受けた企業が届出したアイテムであれば、尿漏れに悩んでいる人が使えるアイテムであることをうたえるようになりました。何に効くのか、より分かりやすい表現ができるようになったため、商品を手に取る人も増えてきましたね」

クラリ カップ(月経カップ)

クラリ カップ(月経カップ)

一般的な原付と同様、自賠責保険への加入も必須

ケーゲルベル(骨盤底筋トレーニングアイテム)

今知っておきたい! 日本におけるフェムテックの現在地

2021年10月に開催された「Femtech Fes!」の様子

2021年10月に開催された「Femtech Fes!」の様子

フェムテックって、意外と前から身近にあったんですね。実際、日本のフェムテック業界は現在どのくらい進歩しているのでしょう?

村上さん 「現在は、日本企業の市場に対する解像度が上がり、だんだんと月経以外の課題にも取り組む企業が増えてきている印象です。

例えば、ある寝具メーカーは、マット型のセンサーによって就寝中のバイタルデータを取得できる技術を持っています。その技術でホルモンバランスと睡眠の関連性を研究し、その結果をもとに、女性の睡眠状況を改善するプロダクトの開発に取り組んでいます。

また、フェムテックをきっかけに『女性だけではなく社会全体で向き合うべき課題がたくさんある』ということが、少しずつわかってきたように思います。妊活や不妊治療は、双方が当事者となって取り組むものですし、そもそも同性カップルが取り組む妊活もあります」

さまざまな方向に波及しているんですね。

村上さん 「ジェンダーも性的志向も人それぞれなので、多様なカップルが使用できるアイテムも増えてきました。指に装着して用いるタイプのコンドームや、性交痛を軽減できる『Ohnut(オーナット)』という製品は、異性カップルも男性同士のカップルも使用できます。これらは性生活のさまざまな課題を解決するソリューションとして、パートナーとのより良い関係を築く手助けにもなりますよ」

今知っておきたい! 日本におけるフェムテックの現在地
今知っておきたい! 日本におけるフェムテックの現在地

一方で、海外のフェムテック市場では現在どのようなことが起きているのでしょうか?

村上さん 「欧米では日本よりも数年早く市場がスタートしているので、その分進んでいる面もあります。スタートアップが多く生まれる文化のある国では、プロダクトの開発やリリースのスピードも早いですね。でも、早いからといって必ずしもいいわけではなく、効果や安全性がしっかりと議論・確認されているものなのかは、自分たちで見極める必要があります。これは日本でも同じことです。

おりものから妊よう性(妊娠できる力)を読み取れるデバイスや、経血をラボに送って疾患の可能性を予測できるサービスなどは、日本よりも海外の方が多いように感じます」

女性だけではなく、誰もが生きやすい社会を目指して

女性だけではなく、誰もが生きやすい社会を目指して

フェムテックは「ダイバーシティ経営」「ESG投資」「SDGs」といったキーワードと並んで語られることも多いですよね。

村上さん 「確かに、以前は『ダイバーシティ経営』『ESG投資』『SDGs』の観点から、『フェムテックに取り組めば企業ブランディングの向上につながる』という考え方をする企業も多かったかもしれませんね。

しかし、フェムテックはあくまでモノやサービス。それを用いる人の考え方が最も重要です。最近は、真剣に『みんなが働きやすい社会を作るために、まずはこれまで見過ごされてきた女性の課題解決に取り組みたい』という使命感を持って私たちにお問い合わせをくださる企業が増えてきています」

フェムテックを生かした企業の福利厚生の例を教えてください。

村上さん 「女性の健康課題に関する勉強会やセミナーの開催、吸水ショーツや月経カップの支給、低用量ピルや卵子凍結の費用負担を福利厚生として導入している企業があります。しかし、それらがどのぐらい社員のエンゲージメントやQOL向上に寄与しているかがわかるのは、あと数年先のこと。『導入して終わり』にならないように、本当に社員に求められているのか、真の課題は何かといった、定期的な見直しやブラッシュアップが必要です」

女性だけではなく、誰もが生きやすい社会を目指して

私たち消費者がフェムテックの発展に貢献したいと考えたとき、どのような方法がありますか?

村上さん 「一番は、自分の中だけで我慢してきたことを『モヤモヤする』と声に出していくことです。周りの人に言うのでも、SNSで発信するのでもいい。周囲にそういう話をしにくければ、弊社のコミュニティでお話しすることもできます。そうした声から次なる課題が見つかったり、それを解決する新しい製品やサービスにつながったりするので、当事者の方々の声は何より大切なんです」

フェムテックは今後、どのような価値を創造していくでしょうか?

村上さん 「私たちに今見えている課題は、氷山の一角です。その一角が見えるようになったことだけでも、これまでの歴史の中で声をあげてきた人たちが残した大きな成果ですが、まだまだ潜在ニーズは大きくて深いと考えています。そういったニーズを一つ一つ丁寧に言語化し、企業のモノづくりにつなげていくことが、私たちの役目です。

今フェムテックとして取り組んでいるヘルスケアの課題が、さまざまなジェンダーの方にも波及し、さらに広い範囲で課題の解決につながることを信じています」

女性の健康課題をテクノロジーの力で解決するフェムテック。今やその課題は女性だけのものではなく、社会全体で取り組むべきものになっているんですね。今まで「我慢するしかない」と思っていた不快やモヤモヤも思い切って言葉にしてみることで、誰もが生きやすい社会への一歩になるかもしれません。

(掲載日:2023年1月15日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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