スマホやパソコンに、不要なメールや写真などがたまっていませんか? 実はいま、こうしたデータは「デジタルごみ」と呼ばれ、環境面で注目されているんです。ふだん身の回りに何気なくあるデータが、環境に影響を及ぼしているなんて驚きですよね。
そこで今回は、このデジタルごみを削減するプロジェクト「Digital Cleanup Day(デジタルクリーンアップデー)」を運営するNPO法人 WORLD CLEANUP DAY JAPANの代表理事 浅井孝夫さんにインタビュー。デジタルごみの概要や、すぐに取り組めるデジタルごみの減らし方などについて教えていただきました。
目次
教えてくれた人
NPO法人WORLD CLEANUP DAY JAPAN 代表理事
浅井 孝夫(あさい・たかお)さん
2018年、全世界で同じ日に清掃活動を行う活動「WORLD CLEANUP DAY」を主催するエストニアの環境NGO「Let's Do It World」と出会い、駐日エストニア大使館と日本・エストニア友好協会の協力を得て、「WORLD CLEANUP DAY」を日本初開催。以降、毎年9月に日本で「WORLD CLEANUP DAY」を開催し続けている。2022年、NPO法人を設立し、代表理事に就任。同年3月から毎年、「Digital Cleanup Day」を世界規模で実施し、デジタルごみの啓発活動も行っている。
気付かぬうちにたまっていく「デジタルごみ」が生み出す、目に見えない環境問題とは
「デジタルごみ」って、具体的にどのようなものなのでしょうか? あまり聞き慣れない言葉ですが…。
身の回りの不要なものを『ごみ』と言うのと同じで、デジタルの世界で使わなくなった不要なデータを『デジタルごみ』と呼んでいます。
ここ10年ほどでクラウドの技術がどんどん進化し、さらにコロナ禍を経てデジタル化が加速したことで、世界中で日々、大量のデジタルデータが生み出されています。
その中には、役目を終えて必要がなくなったものや、重複しているデータがたくさんあり、近年、デジタルごみとして認識されるようになってきました。
私たちが日常でやり取りしているあらゆるデータが当てはまる可能性がある、ということでしょうか?
そうですね。メールや写真、動画、アプリ、キャッシュデータなどがデジタルごみに該当し得ます。ただし、『ごみ』と言うと悪いもののように聞こえがちですが、あくまで先ほど挙げたようなもののうち、『いらないデータ』や『余分なデータ』のことを指します。デジタルデータやデジタル化自体が良くないという意味ではないので、誤解しないでいただきたいですね。
デジタルごみは英語で、デジタルウェイスト(Digital Waste)とか、デジタルトラッシュ(Digital Trash)と呼ばれ、環境問題に敏感なヨーロッパを中心に、解決に向けた取り組みが進んでいます。ただ、物質的なごみと違い、デジタルごみの問題はリアルでは目に見えないため、なかなか注目を浴びづらいのが現状です。
なぜデジタルごみが問題視されているのですか?
デジタルデータは、サーバーや複数のサーバーが結びついたクラウド上に保管されます。サーバーの稼働には膨大な電力が必要で、保管するデータの量が増えるにつれて、消費電力も増加します。結果として、地球温暖化の原因となるCO2(二酸化炭素)の排出量も増えてしまうんです。
なるほど。サーバーの稼働量を減らすためには、不要なデータをためないことが大切なんですね。
デジタル化の加速によって、データ量は年々増えています。2023年には全世界で120ZB(ゼタバイト)ものデータが生み出されました。1ZBが1兆GB(ギガバイト)ですから、どれだけ膨大な量なのかが分かりますよね。
2022年には、データ保存用に約7,000万台のサーバーが使用され、1台あたり1~2トンものCO2が排出されました。
1通のメール削除で4グラムのCO2排出を軽減? デジタルごみ削減に向け始まる取り組み
環境への負荷を考えると、デジタルごみの削減はとても大きな課題なんですね。
デジタルデータ全体のうち75%は、私たちが撮った写真や動画、メールなど、個人が作成したものです。ですから、一人一人がデジタルごみへ課題への理解を深めてデータを整理すれば、デジタルごみを減らすことは可能なんです。
なるほど。デジタルごみの削減に向けた取り組みには、どのようなものがありますか?
国連加盟国の90%で実施されているグローバルな清掃活動『WORLD CLEANUP DAY(ワールドクリーンアップデー)』の一環として、2020年から『Digital Cleanup Day(デジタルクリーンアップデー)』という取り組みが始まりました。これは、個人や企業が持っている不要なデータ=デジタルごみを、全世界で一斉に削除するアクションです。
2023年末までに170の国と地域から約87万人が参加し、約1,270万GBのデータが削除され、年間約3,169トンものCO2排出を抑制できました。
個々人が削除したデータは少なくても、積み重なると大きな成果を生むんですね。
1通のメールで排出されるCO2は平均4グラム。これは電球を6分間点灯させるのに相当するCO2排出量です。ですから、1人の力は意外と大きいと思いますよ。
確かに! 企業単位で取り組めば、もっと大量のデータが一気に削除できそうです。
Google 社が休眠アカウントの削除を実施したり、ウェブサイトを軽いデータで作ることでページの読み込みにかかる電力を減らそうとしている企業があったりと、欧米を中心にさまざまな動きが出てきています。サーバー稼働にかかる電力を抑えることでコストカットしたいという企業側の狙いもあるのでしょうが、いずれにせよ環境負荷を減らすことにつながっていますから、良い取り組みだと思います。また、サーバーの稼働にかかるエネルギーを、発電時にCO2排出量が少ない再生可能エネルギーにする取り組みも進んでいます。
環境だけでなく家計や生活の質向上にも効果的。5つのデジタルごみお掃除ポイント
私たちが気軽に取り組めるデジタルごみの減らし方を、浅井さんに教えていただきました。
①不要な画像、メール、アプリの削除
ベストショットを撮るために何十枚も連写した写真や、メモ代わりに撮った写真など、見返してみると必要のない写真が画像フォルダにたくさんたまっていませんか? 迷惑メールや、使わなくなったアプリも放っておくといつの間にか増えてしまいますよね。
国際エネルギー機関(IEA)の調査によると、全データの90%以上は保存後、3カ月を過ぎるとアクセスされていないとのこと。3カ月をひとつの目安に、スマホやパソコン内のデータを整理すると良いかもしれません。不要なメルマガを配信停止にするのもおススメです。
スマホアプリの整理方法は、こちらの記事で詳しく解説しています。
②キャッシュデータの削除
キャッシュとは、アクセスしたウェブサイトなどのデータを一時的にスマホやパソコンに保存する仕組みです。これにより次回以降の読み込みが速くなりますが、一方でキャッシュがたまりすぎるとストレージを圧迫し、消費電力が増えてしまう可能性があります。スマホやパソコンのキャッシュを定期的に削除することで、デバイスの動作を軽くし、消費電力を抑えることにつながります。
Androidで※デフォルトのブラウザ「Google Chrome」のキャッシュを削除する場合、Google Chrome アプリを開いて、画面端の丸3つのマークをタップし、「閲覧履歴データの削除」で必要な項目を選択して実行しましょう。アプリごとのキャッシュの削除は、「設定」から「アプリ」に進み、キャッシュデータを削除したいアプリの「ストレージとキャッシュ」内の「キャッシュを削除」をタップします。
iPhoneやiPadでデフォルトのブラウザ「Safari」のキャッシュを削除する場合は、「設定」から「Safari」を選択し、「履歴とWebサイトデータを消去」から実施しましょう。
- ※
Androidのバージョン14の場合
③使っていないSNSアカウントの削除
SNSのアカウントで、現在使用していないものがあれば、削除を検討してみてはいかがでしょうか。
④大人数へのデータ共有はメールではなくクラウドで共有
10MBのデータをメールに添付して5人に送ると、受信者のメールフォルダに10MBのデータが保管され、自分も含めて合計60MBになります。代わりに、クラウドにデータをアップロードしてURLを共有すれば、1つ分のデータ量に抑えることができます。
⑤データのアップロード期間を短く設定
ファイル共有サービスを使ってデータを送る際、長期間データをクラウド上に保管しておく設定にすると、保管期間中はサーバーの稼働が必要になります。なるべく短期間に設定して、早めに相手にダウンロードしてもうようにするといいでしょう。
デジタルごみ削減のメリットは環境面だけじゃない。「自分のために」できることから始めよう
教えていただいたデジタルごみを削減する方法は、電力の消費量を減らすことになるので、節約にもつながりますね。
そうなんです。デジタルごみを減らすことは、環境だけでなく、お財布にもやさしいんですよ。先述の通り、スマホやパソコンの負荷を減らせるので、『動作が遅くてページが開きづらい…』といったことも防げます。
『大人数へのメールのデータはクラウドで共有』するやり方なら、うっかりメールの宛先を間違えてしまったときや、誤ったデータを送ってしまった時も、クラウド上のデータを削除すればいいだけなので、セキュリティ面でも安心です。
環境面だけでなく、自分にとっても良いことが多いんですね。
自宅を整理整頓すると暮らしやすくなるのと同じように、身の回りのデータを整理することで、生活の質が上がると思います。定期的なデジタルごみ掃除で、必要なデータを見つけやすくなれば、効率もアップすることでしょう。
『環境保護』と思い過ぎると、なかなか自分ごととして捉えにくかったり、データをやりとりすること自体に罪悪感を覚えたりと、マイナス面を意識してしまいがちです。でも、『自分の生活をよくするため』と思えば取り組みやすいし、デジタルとのより良い付き合い方を考えるきっかけにもなるはずです。
デジタルは私たちの生活に欠かせないもの。その利便性を存分に活用しつつ、個人レベルでできることを、まずは『自分のために』始めてみてはいかがでしょうか。
(掲載日:2024年5月27日)
文:佐藤葉月
編集:エクスライト
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