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1台の自動運転バスが、町全体を変えていく。宮田裕章と迫る、日本流の自動運転のあり方

1台の自動運転バスが、町全体を変えていく 宮田裕章と迫る、日本流の自動運転のあり方 1台の自動運転バスが、町全体を変えていく 宮田裕章と迫る、日本流の自動運転のあり方

渋滞緩和や交通事故の削減、過疎地域での移動手段の確保など、さまざまな社会課題の解決策としても期待される自動運転。その先陣を切るのがソフトバンクの子会社であるBOLDLY株式会社と、新技術を社会実装するための研究・開発を行う先端技術研究所です。
自動運転を通じて描く未来像について、データサイエンティストの宮田裕章さんと共に迫ります。

PROFILE

  • 宮田 裕章
    MIYATA HIROAKI

    慶應義塾大学医学部教授

    1978年生まれ。専門はデータサイエンス、科学方法論。「データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う」ことをテーマに幅広い活動を行っている。コメンテーターとしてさまざまなメディアにも出演。

BOLDLY株式会社

ソフトバンクの100%子会社。自動運転技術などを活用して移動にまつわるあらゆる課題解決に貢献することをミッションに、自動運転車両の運行管理システムを開発・提供するほか、自治体などと連携して自動運転バスの普及に取り組んでいる。

BOLDLY株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
佐治 友基(さじ ゆうき)

ソフトバンク 先端技術研究所

「新しい技術を早期社会実装するために研究・開発を行う」ことを目的に、5G/6Gや自動運転、HAPSなど、先端技術を活用した社会課題の解決に取り組む組織。

先端技術開発部 自動運転システム開発課 課長
山科 瞬(やましな しゅん)

地域に根ざしすぎて「自動運転バスにしか乗ったことがない」子も!?

宮田

BOLDLYは現在、自動運転バスの普及に取り組んでいると聞きました。具体的にどのような取り組みを行っているのか教えてください。

佐治

全国各地の自治体と連携し日本で唯一、自動運転バスの導入に成功し、すでに約3年の安定稼働を達成しました。その中でも現在、特に大きな手応えを感じているのが茨城県境町での取り組みです。

鉄道の駅がない境町は、住民の方々が高齢になって車が運転できなくなると買い物や病院へのアクセスが難しくなってしまったり、高齢化による人手不足で公共交通機関であるバスのドライバー確保が年々難しくなったりしている課題を抱えていました。これは今、多くの地方自治体が抱えている課題でもあります。

鉄道駅がない!! バスのニーズ拡大 高齢単身世帯増加・免許返納 バスドライバーの採用難  高齢化・二種免許取得 →自動運転バスNAVYAARMAの導入へ

(境町は鉄道駅がないことに加え、高齢化によるバスニーズの高まりとドライバー不足などの背景が存在していた)

佐治

そこで私たちは町からの委託を受けて、2020年11月から自動運転バスの運行を始めました。安全性など確認しながらルートを拡大し、車両も増やしており、2023年現在までに累計17,000人以上の方々に利用されています。町民間でのSNSを通じた口コミが増えて、友人や近所の方を誘って乗車してくれる方も多く、地域に根付いた存在になったことを実感しています。地域の子どもたちの中には自動運転バスの方が先で、人が運転する通常のバスにまだ乗ったことがないという子もいるようです。

宮田

自動運転バスがそこまで地域に根ざした存在となっているのは驚きです。自動運転バスだからこそできるアイデアや工夫を、町民を巻き込みながら考えていくことで、さらなる地域活性化にもつながりそうですね。

自動運転が生み出す価値は移動だけにとどまりません。自動運転車は運転席が必要ないので前方を含めた360度のビューを確保できますし、そうした強みを活かしながら、移動を全く新しい体験へと変える可能性を秘めている。例えば、風光明媚(ふうこうめいび)な景色を楽しみながら車内で食事を楽しんだり、景色と連動した映像を車内に流したりすることで、あらゆる場所を没入感の高いエンターテインメント空間にできるかもしれない。さらに自動運転バスの動力をEVや水素にすることで、災害時の非常用電源としての活用なども期待できます。

そのようなアイデアを地域の強みや特性を活かしながら実現できれば、これまでにない新しい発想の町づくりや景観づくりも可能になると思います。

車内の様子。運転席がなく360度のビューを確保

(車内の様子。運転席がなく360度のビューを確保)

佐治

実際に境町では子どもたちが自動運転バスを夏休みの自由研究のテーマに取り上げてくれるなどDX教育的な面に貢献しています。自動運転バスの運行区間で路上駐車が減るなど、住民の意識改革にもつながる効果も出ています。

自動運転バスを遠隔監視するオペレータは通常のバス事業に従事する人たちの平均年齢よりも若い世代が集まっており、女性の比率も高いです。また自動運転バスの導入や運行に関わるさまざまな業務を地元の交通事業者やベンダーに移管するなどして、地元の人材育成にも力を入れています。

技術的に言えば、東京に置いたセンターから自動運転バスを一括でコントロールすることも可能です。しかし私たちは、各地域で長年交通を担ってきた地元の交通事業者や関係者の知見やノウハウを活用させていただく形のほうが、よりスピーディかつ円滑な自動運転の導入のためには有効と考えています。

宮田

自動運転バスを核とした地域振興に住民が主体的に参加しながら、事業費の一部も地元に還元される。そんな良い循環が生まれているわけですね。自動運転のような新しい技術だからといって中央集権的に制御するのではなく、地域で長年培われてきたノウハウをリスペクトしながら、それを有効に活かそうという考え方も素晴らしいと思いました。

境町での取り組みについて、実際の住民の方々の声を動画にまとめています。ぜひご覧ください。

日本の自動運転普及に、いま必要なこととは?

日本の自動運転普及に、いま必要なこととは?

宮田

一般的に日本はアメリカや中国と比べると自動運転の普及が遅れているとも言われますが、ソフトバンクの先端技術研究所の目線からそうした現状をどのように捉えていますか?

山科

日本で自動運転の実用化や普及が進まない大きな理由として、コストと安全性の問題が挙げられます。現状のタクシーやバスの代わりに自動運転車を導入するとなると、やはりコストがかかってしまう。加えて日本はアメリカや中国と比べると、安全性の基準が非常に高く、自動運転を導入する上でも高度な安全対策が必要とされるため、それが裏目に出て普及が遅れる要因にもなっています。

日本でも特定の条件下ではありますが、2023年4月からようやく自動運転レベル4(遠隔監視などの限定された条件下で、車内に運転手を必要としない自動運転)が解禁され、国も補助金を出すなど全国各地で自動運転の普及を進める動きが活発化してきました。

とはいえ、自動車メーカーやバス・タクシー会社にとって、今の自動運転車はコストがかかる上、事故を起こしたときのリスクも大きいため、ビジネスとして成立させるのがなかなか難しい現状は依然あると思います。

宮田

自動運転のさらなる普及を考える上では、ある一定の条件下では安全基準を緩めたりするなど、柔軟な環境整備や制度設計を行うことが必要だと思います。まずは特定のエリアで現実的に可能なレベルから実証実験を始め、自動運転を前提にしたインフラやルールをしっかりと整備する。そこで積み上げたデータや実績を活かしながら、横展開していくことができれば、自動運転のさらなる普及にもつながっていくのではないでしょうか。

佐治

BOLDLYが行っているのも、まさにそのような取り組みです。日本での自動運転の実用化は難しいという声もある中で、私たちは既存の法律、技術、ビジネスモデルといった所与の条件下でできることを模索し、自動運転バスを活用したビジネスモデルや地域活性化のあり方を探求してきました。境町での成果は、そうしたこれまでの取り組みが結実した象徴的な事例だと考えています。

宮田

イノベーションといっても、全くのゼロから新しいものは生み出せません。今あるものを組み合わせて、新たな道を切り拓く挑戦の積み重ねの先に、イノベーションはある。そのためには泥臭い交渉や調整、試行錯誤も不可欠です。BOLDLYや先端技術研究所をはじめ、先陣を切って自動運転の社会実装に取り組むソフトバンクの姿勢は素晴らしいと思います。

ソフトバンクならではの技術を活かして、モビリティ革命を

ソフトバンクならではの技術を活かして、モビリティ革命を

山科

自動運転の普及が進むアメリカでは今、緊急車両が通行や消火活動するときなど、想定外の対応に苦労するケースが多いといいます。そうした想定外にもうまく対応するには、自動運転システムがもっと賢くなる必要があります。

ただ、そのために車両により高度なGPUを搭載すると、バッテリーもより高価で高性能なものが必要になり、コストはさらに上がってしまいます。車両の性能に頼るばかりではなく、それ以外のインフラ部分や通信側でサポートする発想も重要になっています。

そこで私たちは、ソフトバンクが得意とする技術を活かし、自動運転の運行業務の完全無人化を目指すプラットフォーム開発にも取り組んでいます。

宮田

確かに全てを車両側、ハード側に委ねる必要はないですよね。例えば緊急車両が通る際に道路の信号を最適化する仕組みや、何かしらの異常を検知した際に自動運転車を緊急モードにするなど、外部から自動制御することは十分可能だと思います。

山科

そうですね。 AIの分野では今、マルチモーダルな生成AIが日進月歩で進化していますし、そうした最新の技術も取り入れながら、より安全でコストのかからない自動運転システムを作るべく、これからも研究開発を進めていく所存です。

人の介在によって地域公共交通としての役割を果たせる 自動運転技術を活用した交通サービスの在り方≒完全無人運行 ゴールは 住民の移動の自由 交通事業社事業の継続 自治体低コスト運営 三方よし

佐治

そうした最新技術も取り入れつつ、住民や交通事業者、自治体の皆さんがハッピーになれる「三方よし」の自動運転交通サービスを実現するのがBOLDLYの理想です。ソフトバンクの子会社であると同時に、ベンチャー企業でもある私たちが先陣を切って事例をつくり、そこでの知見やノウハウを社会に還元することで、2030年に1万台規模の自動運転車が走っている社会の実現を目指します。

宮田

これまで日本の移動を担っていた自動車メーカーや交通機関、輸送運送会社、そして地方自治体とソフトバンクがタッグを組むことで、どのようなモビリティ革命が未来に起きるのか、お二人の話を伺いさらに楽しみになりました。

少子高齢化が急激に進む日本において、地方や過疎地では今後、交通インフラの維持が難しくなり、移動手段に困る方がますます増えていく可能性があります。そんな移動に困っている人を自動運転サービスによってゼロにする。自動運転を軸に新たな価値を生み出し、地域の活性化にもつなげていく。そんなモビリティ革命をソフトバンクは通信、AI、IoTなどのテクノロジーを駆使して、これからも強力に推進していきます。