ビジネスの明日を拓く次世代通信「5G」さらなる高速通信へ。

日経コンピュータ 2017年8月11日号掲載より抜粋したものです。

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暮らしや仕事に「通信」が欠かせないものとなった現在、4G/LTEに次ぐ「第5世代移動通信システム(5G)」への注目は日増しに高まっている。様々な要素技術の検証が進められている中、それらを現行の通信サービスにいち早く取り込み、ユーザーにメリットを提供しているのがソフトバンクだ。同社は、人が密集したスタジアムや繁華街などでの通信改善のほか、新たに提供を開始する企業向けのIoT基盤でも、すでに5Gの特性を踏まえた提案を行っている。キーパーソンに、取り組みの最新動向を聞いた。

「ユーザーありき」の姿勢で5Gの技術を現行サービスに投入

ソフトバンク株式会社
先端技術開発室 室長
IoT事業推進部 副本部長
博士(政策・メディア)
湧川 隆次氏

スマートフォンの高機能化や多様なアプリケーションの登場と相まって、モバイル通信のトラフィックは増加の一途をたどっている。そんな中、現行の4G/LTEを革新する次世代の移動通信システムとして期待されるのが「第5世代移動通信システム(5G)」だ。 「高速化・大容量・多接続・低遅延」という4つの特性を備えた5Gは、無線通信を使った様々な新しいことを可能にする。例えば、4K/8Kの超高精細映像や、リッチなVR(仮想現実)コンテンツをモバイルでストレスなく観られることはその1つ。車・電車での高速移動時にも途切れないため、従来よりも一層多様なシーンでモバイル体験を享受できるようになるだろう。

この5Gが日本で商用化されるのは少し先の2020年ごろ。それまでは、無線基地局・端末機器の研究開発、政府による5G向け周波数帯割り当てや、移動通信システムの標準化団体である3GPP、ITU-Rなどによる国際標準化の動向などを待たねばならない。そこでソフトバンクは、様々な5Gの要素技術を現行の4G/LTEサービスに取り込むことを基本方針に据えた、「5GProject」を推進している。

「5Gの研究を通じて得た知見を、すでに提供中のサービスの改善に積極的に生かします。2020年を待たず、部分的にでも、次世代型通信の可能性をいち早く体感していただこうというのが当社のスタンスです」とソフトバンクの湧川 隆次氏は述べる。

5G Projectの第1弾としてすでに提供中なのが、5Gの要素技術の1つである「Massive MIMO(マッシブ マイモ)」を用いたサービスだ。Massive MIMOは、基地局に大量のアンテナとビームフォーミングなどの技術を実装することで、通信のつながりやすさを大きく改善するもの。道路に例えると、複数ユーザーが1本の道を走っていた従来の状況に対し、Massive MIMOではユーザーごとに専用道路を割り当てるため、車が増えても渋滞が起こらず、走行速度を落とさずに済むようになる。

「駅や繁華街に隣接した基地局を中心にMassive MIMOを適用し、基地局当たりのアンテナ容量を増やしています。これにより、大勢が集まる場所でも快適にネット接続が行える4G/LTE環境を提供しています」(湧川氏)。2016年9月の開始以降、都市部を中心に対象エリアは順次拡大しているという。

5Gの特性とソフトバンクの取り組み

5Gの特性とソフトバンクの取り組み

5Gの強みを生かせば、これまで不可能だった様々なことが可能になる。その一例として、ソフトバンクは自動車の隊列走行の実証実験を2018年3月から開始予定だ。

IoTや自動運転、遠隔医療などビジネスの可能性が大きく広がる

また5Gは、ことビジネスの世界に大きな革新をもたらす。多接続・低遅延といった特性は、IoTや車の自動走行、遠隔医療といった、現在注目を集めるテクノロジーとの親和性が高いからだ。「工場内に設置した無数のセンサーからデータを吸い上げて分析したり、自動車の自動走行をミリ秒単位の低遅延で安全に制御するといった、4G/LTEでは実現不可能なことが5Gでは可能になります」と湧川氏は言う。

5G Projectでは、こうしたビジネス領域に向けたサービスも展開している。5Gの要素技術の1つである「NBIoT」を活用することで、従来のIoT向け通信に比べ、低コスト・低消費電力での多接続を可能にするサービスがその一例である。

このサービスは、RFIDタグによる倉庫内での商品管理や、工場内の部品管理など、大量のデバイスの同時接続が必要になる活用方法を想定したもの。「さらに今後は、クラウド基盤を含めたIoTプラットフォームサービスも展開していきます。通信を軸に、幅広いソリューションを用意することで、IoTやロボットといった、今すぐビジネスに取り込める技術の範囲を広げる。これも当社が5GProjectで目指すことの1つです」と湧川氏は強調する。

さらなる技術の実証研究も推進 迅速な商用サービス開始をにらむ

もちろん、先進技術をいち早くユーザーに提供するためには、その土台をつくるための研究開発も当然欠かせない。同社は、5Gの標準化に向けた新技術の開発や、既存技術の応用といった取り組みも積極的に進めている。

一例が、自動車における低遅延通信の実証研究だ。2017年5月、ソフトバンクは総務省が公募した「高速移動時において1ms(1/1000秒)の低遅延通信を可能とする第5世代移動通信システムの技術的条件等に関する調査検討」を受託。現在、実証開始に向けた準備を進めている。

「現在の物流業界は、運転手不足や輸送効率向上といった課題を抱えています。その解決策として期待されているのが、有人車両1台が複数の無人車両を従えて走る『隊列走行』です。当社は、自動運転技術を扱うグループ企業のSBドライブとの連携によって、隊列走行に必要な車両間および車両と運行管制センター間の低遅延通信を、実用可能レベルに持っていくための検証を行っていきます」と湧川氏は述べる。

また、通信技術だけでなく、ネットワーク自体の構造に関する新たなアプローチも検証を進めている。例えば、先の隊列走行などでは、わずかな通信の遅延が安全上の重大リスクとなる。そこで同社は、車両となるべく近い場所でデータの一次処理を行う「エッジコンピューティング」の手法を取り入れることで、5Gの性能をより一層引き出すことを目指している。「無線区間だけでなく、基地局から先の通信のあり方についても5Gに向けた最適化を進めています。お客様のビジネス要件を見極めながら、将来的にはこれも商用化を目指したい」と湧川氏。実験を通じて5Gのノウハウを積み重ね、周波数帯の割り当て後、サービスを迅速に提供開始できる体制を整えていくという。

5G時代がやってくれば、有線と同等の高速・大容量かつ低遅延な通信がケーブルレスで実現できるようになる。企業の情報システム部門にとっては、他社との差別化を図るために、5Gをどう使うかが問われることになるはずだ。「2020年はすぐにやってきます。十分な知見を蓄えておくためにも、今取り組みを始めて損をすることはありません。最適な活用方法を、当社とともに考えていきましょう」と湧川氏は最後に語った。

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