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近年、多くの業界でドローンの活用が進められています。建設業では点検作業での利用が進んでおり、屋根やマンションの外壁、橋や煙突、風力発電施設などの高所から、道路や鉄道まで、幅広くドローンが活躍しています。安価・安全・効率的とメリットの多いドローン点検は建設業のDXの切り札となり得る可能性を秘めており、今、注目を集めています。
本稿では、ドローン点検のメリットや活用できる場所、活用事例まで、ドローン点検の全貌を分かりやすく解説します。
インフラ老朽化問題は日本が抱える社会課題として大きな注目を集めています。2021年に起きた和歌山県の水管橋崩落は、インフラの老朽化がもたらした事故として大々的に報道されました。また、学校などの公共の建物の老朽化も進んでおり、天井ボードや外壁のコンクリート片が落下するなどの事故が相次いでいるほか、西日本豪雨では広島県の砂防ダムが決壊。東京都内でも年間10件を超える水道管の破損事故が起きています。さらに10年ほど前には、9名の命が失われた中央自動車道 笹子トンネル 天井板崩落事故も起きています。
老朽化したインフラを安全に利用していくためには、定期的な点検と修繕が欠かせません。近年では、こうした点検にドローンが活用されており、特に高所などの危険な場所での点検作業を安全かつ安価、効率的に行えるとして、多くの現場でドローンの利用が進められています。高所の点検を行う際、従来では多くの現場で足場を組む必要がありましたが、ドローン点検なら現場にドローンを搬入してしまえば、遠隔地から専門家が操作してドローンカメラにより点検作業を実施することが可能です。予算も人員も足りないインフラメンテナンスへの対策として、ドローン点検が注目を集めているのです。
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インフラ老朽化問題の現状と事故事例
少子高齢化による労働人口の減少が年々進んでいます。総務省統計局の2022年1月の調査によると、就業者数は前年比で32万人も減少したとされています。とりわけ建設業の高齢化に伴う人手不足は深刻な状況にまで追い込まれています。
一方、前述のようにインフラを初めとする多くの建造物は老朽化が進んでおり、点検とメンテナンスは不可避です。道路や橋、鉄道などの交通を支えるインフラから、私たちが日々過ごすビルやマンションの外壁、建物の屋根まで、世の中には点検が必要なインフラで溢れています。深刻な人手不足の中、膨大な数のインフラを従来の方法で全て点検することは事実上不可能と言えます。
こうした背景からもドローン点検の活用が注目を集めています。前述のように、ドローンの活用は現場作業を大幅に軽減させる可能性を秘めています。中央の基地からドローンの遠隔操作で点検作業が行えれば、限られた技術者が現場に足を運ぶ必要がなくなり、1日に点検できる現場の数が増加します。また、ドローンカメラにより撮影した映像をAIが解析することで、点検作業の効率化も期待されます。
さまざまな産業でのドローン活用を拡大することを目的に、航空法施行規則が2021年9月24日に改正され、ドローンなどの飛行規則が一部緩和されました。今までは国土交通大臣の承認が必要だった飛行区域でも、一定の条件下では許可や承認が不要となったため、建設業などを中心にドローン点検作業は今後ますます活用が進むと予想されます。
今回の航空法改正で緩和されたのは以下の2つの条件です。構想の構造物周辺でのドローン飛行と、人口密集地や夜間のドローン飛行について、内閣府が公表している資料の図を引用しつつ解説します。
まず、1つ目は「高層の構造物周辺の飛行」についての条件が緩和されました。従来は地表面などから150m以上をドローンが飛行する場合は国土交通大臣の許可が必要でしたが、今回の航空法改正では「高層の構造物から30m以内の飛行は許可不要」となりました。
次に「人口密集地や夜間の飛行」についての変更です。従来は人口密集地の飛行や夜間飛行、目視外の飛行、人や物から30m以内の飛行、農薬などの空中散布は、国土交通大臣からの許可や承認が必要でした。しかし、今回の航空法改正では「十分な強度の30m以下の紐でドローンを係留し、飛行区域を第三者立入制限とすれば、許可や承認は不要」となりました。
こうしたドローンに関する規制の緩和が進むことで、インフラ点検などの分野におけるドローンの活用が大きく進むと予想されており、今、多くの関係者がドローン点検に熱い視線を投げかけています。
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ドローンの規制・法律を解説 安全飛行へのカギは測位精度にアリ
ドローン点検には多くのメリットがありますが、点検作業が安全にできることは大きな意味を持ちます。建設業は全業種平均と比べても死傷者数が多く、中でも「墜落・転落」の件数はほかの労働災害と比べても突出して多いことが、厚生労働省の労働災害発生状況の資料に示されています。高所作業では毎年多くの死亡事故が起きており、インフラの老朽化に伴い点検やメンテナンスの需要は高まり続けていることからも、安全に点検作業が行えるドローンには大きな期待が寄せられています。
こうした中、2020年の航空法改正により、橋梁や煙突、ビルやマンションの外壁や屋根、風力発電施設など、人が近づくためには危険を避けられない場所の点検が安全に行えるようになりました。建設業は私たちの生活に欠かせない建物やインフラと密接に関わる重要な業界である一方、危険が伴う仕事として若手を中心に人手不足が深刻化しています。安全なドローン点検が進むことで、建設業につきまとう「危険」というイメージが少しずつ払拭されていくかもしれません。
ドローン点検は従来の点検方法と比べて、短時間で点検作業ができることも大きなメリットです。例えば橋梁の点検では、従来は橋の上からクレーンを伸ばして足場を作る橋梁点検車を使って点検作業を行う必要がありました。こうした特殊車両を現地まで運んで技術者が目視で点検を行う作業に比べて、ドローンによる点検は大幅な時間短縮が見込めます。国土交通省 北海道開発局の検証では、現場での作業時間が橋梁点検車点検は3時間かかるのに対し、ドローン点検では1時間と、約3倍の効率を示しています。
またこの例では、橋梁点検車点検を実施する場合、現場での3時間の作業に加えて作業員の移動時間も発生するため、1人の技術者が点検できる橋梁の数は1日に1~2基が限界です。一方、ドローン点検は短時間で点検が可能なため、1日で複数の現場を回ることも可能です。
もちろん、全てのインフラの点検作業にドローンが活用できるわけではありませんが、多くの高所の点検においてドローン点検は時間短縮につながるため、効率的な点検作業には欠かせない存在となりつつあります。
ドローン点検のメリットには、多くの人員を必要としないこともあります。上記の国土交通省の事例では、橋梁点検車点検には、点検作業員2名、運転手、オペレータ、安全管理者の計5名が関わっていました。場所によっては交通整理のための警備員も必要となるため、必要な人員はより多くなってしまいます。一方、ドローン点検はドローンパイロットなどを含む計4名で実施されています。
航空法改正でドローン規制が緩和された今、ビルやマンション、プラントや煙突などの建造物の点検などにもドローンの活用が広がっていくことでしょう。こうした建造物の点検も、従来は足場を組んだりロープアクセス技術を使ったりして技術者が高所での点検を実施してきました。こうした点検作業でも多くの人間が関わる必要がありましたが、今後はドローンパイロットを含む少人数での対応が可能となっていくと思われます。
コストを抑えられることもドローン点検の大きなメリットです。とりわけインフラ老朽化対策としての点検を省コストで実施できることは、社会課題の解決につながります。高度経済成長期に一斉に整備された日本のインフラの多くは老朽化問題を抱えていますが、予算不足を理由に多くの自治体が点検・修繕を進められずにいます。公共事業関係費が縮小される中、限られた予算でひとつでも多くのインフラの点検を実施しなければ、いつか大事故につながってしまうかもしれません。こうした背景から、ドローン点検によるコスト抑制に大きな期待が集まっています。
上記の国土交通省の事例では、橋梁点検車による点検は約198万円、ロープアクセスによる点検は約85万円かかったのに対して、ドローン点検では約50万円のコストで済んだとしています。ドローン点検は「安全・短時間・少人数・低コスト」と多くのメリットを持つ、期待の技術と言えます。
ドローンカメラが撮影した映像をAI (人工知能) が映像解析することで、点検作業を効率的に行えることもドローン点検のメリットのひとつです。AIは人間よりも遥かに早く多数の映像を確認して、異常が疑われる箇所を検知できるため、多数の現場で撮影したドローンカメラの映像をAIがまとめて解析し、人間の技術者のチェックをサポートすることで、効率的な点検が実施できます。
近年では、AIによる映像解析の進歩は著しく、正確性が求められる医療用の画像診断でも画像診断医に迫る精度に至っていると言います。今後さらに画像診断技術が進歩することで、より正確で効率的な点検を実現することができるようになると期待されています。
また、ドローンは人が近づくことが困難な場所の映像を撮影したり、広範囲を撮影したり、高性能カメラや光学ズームを利用することで詳細で鮮明な情報が得られたり、赤外線カメラなどを搭載して特殊なデータを得られたりすることから、人の目だけでは実施しにくい点検も行うことができます。こうして収集した映像もAIの映像解析にかけられるため、幅広い点検をより効率的に行うことができるようになります。
建物の屋根は定期的な点検や修繕が必要です。常に風雨や紫外線に晒されている屋根材は、時間経過とともにに劣化が起こり、早期に検知・修繕しなければ雨漏りなどのトラブルを引き起こします。雨漏りは屋根だけでなく建造物の内部も劣化させてしまうため、家屋から工場などの施設まで、屋根は定期的なメンテナンスが欠かせません。
ドローンによる屋根の点検は、短時間かつ安全に詳細な点検が行えるだけでなく、屋根の上を人が歩かないため点検作業で屋根が痛んでしまうことも防げます。加えて足場を組む必要がないためコストも抑えることが可能です。また、ドローンが撮影した映像を通して、屋根の状態を依頼主が確認できる点も特長と言えます。
マンションの外壁や屋根の点検でもドローンが活躍します。マンションの外壁も屋根と同様、風雨や紫外線で劣化してひび割れやサビを引き起こすため定期的な点検が不可欠です。しかし、マンションは戸建てと比べて大きいため点検には大規模な足場を必要とし、長い工期と多くの費用が発生するため、入居者に修繕費が重くのしかかる仕組みになっています。
ドローンはこうしたマンションの定期点検の問題を解決できるため、マンションの点検作業への活用が進んできています。とりわけ、赤外線カメラを搭載したドローンでの点検は、目視では発見できないタイル裏の割れや欠損なども検知できるため、ときに打診よりも正確な点検が行えるとして注目されています。近年では、戸建てやマンションなどのドローン点検をサポートする企業も続々と増えてきており、さまざまなサービスが展開されています。
橋もドローン点検の強みが生かされる場のひとつです。多くの場合、橋は川や谷の上に掛かっているため点検作業には危険を伴い、橋梁点検車の利用や一時通行止めなどが必要でした。橋梁の老朽化は深刻とは言え、全国約72万橋もある道路橋に対し、従来の方法で一つ一つ人員とコストをかけて点検することは現実的ではありません。
一方、ドローンによる点検では、短時間・低コスト・安全な点検が行えるほか、橋の裏側など従来の方法では確認できなかった場所の点検も実施できるようになります。また、現場に最接近しなくても状況を確認できることから、災害などの緊急時にも迅速に橋の点検が行えることもドローン点検の強みと言えるでしょう。
ここまで説明してきた屋根や建物の外壁、橋などの建造物から、煙突やプラント、風力発電施設など多くの高所でドローン点検は活躍しています。身近な例では、鉄塔や送電線など電力供給を支える設備の点検や、ナイター照明の点検などにもドローンが活用されています。また、公の施設でドローン点検を活用した事例として、ダムの壁面の点検や、原油などの貯蔵タンクといった高所での活用事例も見られます。民間の施設の点検として、遊園地の観覧車の点検をドローンで行ったケースもあり、多くの高所でドローンの活用が進められていると言えます。
道路の中でも特に高速道路の点検はドローンが活躍できる場所です。通常の道路と異なり迂回路が少ない高速道路は、広範囲を通行止めにして点検作業を行うことは困難です。また、総延長9,200km以上もある高速道路の点検は効率的に行われなければならない一方で、山がちな地域や高架など点検に手間がかかる場所も多くあります。
こうした道路の点検を効率的に行うためには、少人数かつ短時間で点検作業が実施できるドローンが最適です。実際に、NEXCO東日本が2021年4月に発表した資料「NEXCO 東日本が目指す新たなモビリティサービスについて」では重点プロジェクトとして「ドローンを活用した交通状況や道路状態の点検」が掲げられており、高速道路の点検へのドローンの活用は進んできていると言えます。
代表的な高所である煙突もドローン点検が得意とするエリアです。工場や火力発電所などの施設で見られる煙突は熱や腐食で劣化するため、火災や事故を防ぐための点検は欠かせません。煙突は外部だけでなく内部の点検も必要なため、従来はゴンドラを架設して作業員が目視点検を行っており、多くの作業員と日程が必要でした。
こうした煙突の点検で注目されているのが垂直ドローンによる点検です。関西電力のプレスリリース (ITmedia) によると、煙突内を自律飛行するドローンを活用することで、1回あたりの点検期間を約90%短縮できたとしています。今後、煙突へのドローン点検の活用はこれまで以上に進んでいくことでしょう。
鉄道も高速道路同様に難所が多く、ドローン点検が活躍する場所です。都心部では住宅地や地下を走る線路が多く、地方では山間部を走る路線も珍しくなく、点検すべき鉄道施設は多様な環境に存在しています。
ソフトバンクのドローンサービス「SoraBase」でも鉄道の点検作業をサポートした実績があります。和歌山県の南海電鉄のドローン点検のレポート記事では、ケーブルカー乗り場とつながる急峻な地形に位置する駅舎や、山間部や橋梁を走る路線、線路上を走る架線などについて、効率的な点検作業が実施されたことを紹介しています。SoraBase(旧:SoraSolution)のAnalysisやドローンが備える自動航行を活用することで、インフラの設備点検を効率的におこなうことができます。地下鉄から山間の路線まで、鉄道の点検へのドローンの利用は広がりを見せています。
工業プラントでのドローン点検の活用も広がっています。多くの工業プラントは広大な敷地に広がっており、煙突や蒸留塔などの高所や高炉などの危険な施設が存在しています。また、点検のためにプラントを長期間停止しておくこともできないため、短時間で効率的に点検を進める必要があります。このように危険なエリアが多いプラント内を効率的に点検するためにドローンが有効なのは言うまでもありません。
経済産業省も、消防庁・厚生労働省と連携してプラント保安分野におけるドローンの活用促進に向けた活用事例集を取りまとめており、さらなる促進に向けて2021年には改訂版となる「プラントにおけるドローン活用事例集 Ver3.0」を発表しています。今後、工業プラントにおけるドローンの活用はさらに進んでいくことが予想されます。
2017年に施行された改正FIT法によりメガソーラー発電事業者は保守点検が義務化され、メガソーラーの点検の需要が高まっています。また、投資目的で設置されるメガソーラー発電設備は環境や経年の影響で発電効率が低下するため、定期的な点検で素早く異常を検知することが必要です。
こうした大規模な施設の定期的な点検には、前述のソフトバンクのドローンサービス「SoraBase」を活用した効率的なドローン点検が最適です。また、赤外線カメラを搭載したドローンを活用すれば、人の目だけでは検知できない異常箇所(ホットスポット)も検知することが可能です。
カーボンニュートラルに向けた発電方法として注目される風力発電施設は、安全のために定期的な点検が欠かせない一方、その巨大さゆえに点検の難易度は高く、従来の点検方法には危険が付き物でした。高所で回転するブレードをいったん停止してさまざまな角度から点検をするためには、高いコストもかかります。
一方、ドローン点検を活用する際にも風力発電施設は強風に晒されるリスクが付きまとうため、ドローンの操縦が難しいという課題を抱えています。風力発電施設でドローン点検を活用するならば、高度な自律飛行が可能なドローンを活用する必要があると言えます。難易度は高くとも、ドローン点検が活用できれば、短時間かつ安価に効率的な点検が実現できるため、風力発電施設でのドローン活用の期待が高まっています。
AI (人工知能) による画像診断は、ドローン点検の効率をさらに高める技術として欠かせません。インフラ点検などでは、各地で撮影した膨大な量のドローン映像を人が一つ一つ目視で確認していては時間がかかりすぎてしまいます。自動で異常を検知するAIの画像診断技術は、確認の効率を大幅に向上させるため、ドローン点検と切り離せない技術だと言えます。
ドローンカメラが撮影した映像をAIで正しく解析するためには、大量の学習データが必要です。サビや腐食、クラックなどの異常を、どれくらいの大きさのものを、どれくらいの精度で検出できるかは学習データの量と質で決まります。多くの学習データを与えることで、最終的にAIは人が見落とすレベルの異常を検知できるようになります。
もちろん、まだまだ人の目でなければ検知できない異常も多くあるため全てをAIに任せることはできませんが、一定の異常についてAIが検知してくれることで、人による確認作業の効率は大幅に向上するため、ドローン点検へのAIの活用は今後も進んでいくことは間違いありません。
クラウドもドローン点検に欠かせない技術です。ドローンが撮影した映像をクラウドに送信することで、本部の技術者から現場の担当者まで複数人で共有しながらリアルタイムに映像確認ができるようになるほか、点検結果をクラウド上で管理でき、AIによる画像解析を実施したり、管理用アプリケーション上でレポートを共有できたりします。また、事故などによりドローンの機体が破損してしまった場合でも、クラウドにデータが送信されていればデータが失われることはありません。
ソフトバンクのドローンサービス「SoraBase」も、ドローンが撮影したデータをクラウド管理することで、業務効率化をサポートするシステムを有しています。現在では多くのドローン撮影サービスがクラウドと連携しており、AIの活用と合わせて今後もこの流れはとどまることはないと思われます。
RTKとは、Real Time Kinematicの略で、衛星を活用して高精度の位置情報の取得を実現する技術として注目を集めています。ドローン点検で求められる自動航行の精度を向上させるためにRTKは効果的です。
RTKはドローンの正確な飛行を実現するため、狭所のドローン点検や外壁などに近い位置での飛行、煙突などの高精度な自律飛行が求められる現場、決まったルートを巡行する定期点検などでは大いに活躍します。
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5Gもドローン点検を補助する技術として重要です。5Gは高速・大容量・超低遅延を実現する通信技術であり、自動車の自動運転などを中心に産業分野でも大きな注目を集めています。ソフトバンクでも建設業での5Gの活用を進めており、トンネル工事を5Gで安全に行うための実証実験、建設機械の5Gを活用した自律制御の実証実験、橋の振動データの5G通信による健全性監視など、多くの結果を残しています。
ドローンの遠隔操作ではわずかな遅延が事故につながる可能性があるため、より安全に安定した飛行を実現するためにも5Gは注目されています。まだ新しい通信技術であるためドローンへの5Gの活用は道半ばではあるものの、今後利用が拡大していくと思われる技術だと言えます。
ドローン点検は、従来の点検方法と比べて費用を抑えやすい傾向にあります。従来の点検では、建物の周辺に足場を組んだり、橋梁点検車などの特殊車両を使ったり、ゴンドラを架設したり、ロープアクセスなどの危険を伴う作業が発生したり、こうした作業に伴う交通整理が必要となったりと、費用が多くかかる作業を避けられませんでした。一方、ドローン点検はドローンパイロットなどを含む少人数で実施でき、従来の点検に比べると大掛かりな機材も必要ないため費用を抑えることができます。
具体的な費用については、ドローン点検サービスの提供会社ごとに開きがあるため明記を避けますが、例えば前述の国土交通省 北海道開発局の事例では、橋梁点検車による点検が約198万円に対し、ドローン点検は約50万円とおよそ1/4の費用での実施が実現されていました。条件や提供会社によっては必ずしもドローンが費用を抑えることにつながるとは限らないものの、大掛かりな準備が不要な分、コスト削減に繋がりやすいといえます。
ここからは国土交通省のドローン活用事例の中から、5つの事例を読み解いてご紹介します。
まずご紹介するのは橋梁の定期点検へのドローン活用です。2019年に行われた橋梁などの定期点検においてドローンを活用した結果、通行規制なしでの点検に成功。道路利用者の利便性を失わずに、低コストで人の近接目視と同等の診断が可能だとしています。
今後は、災害発生時などを見越して、発着地から現場までドローンが自動で飛行移動し、自動で調査を行ってから戻ってくる技術や、降雪時に遠方まで夜間飛行する技術などの開発が期待するとされています。
参考リンク)
ドローン活用事例(道路局) | 国土交通省
鉄道では、列車運行のない夜間に点検作業が行われており、特に負担の大きいトンネルや橋梁などの点検作業の効率化・省力化に向けてドローンが活用されています。例えば、東京メトロでは地下鉄のトンネル内の点検をドローンが行っています。また、JR東日本では線路設備のドローン点検の実証実験が行われたほか、JR北海道では橋梁のドローン点検の実証実験が実施されています。JR九州では、豪雨や台風で起きた土砂流入や橋梁の流出などの被災状況の確認にもドローンの空撮が活用されました。
今後は、トンネル内など非GPS環境下での自律制御の安定化や、航続距離・航続時間などの延伸に期待するとされています。
参考リンク)
ドローン活用事例(鉄道局) | 国土交通省
船舶の貨物倉内や、洋上風力発電設備などへもドローン点検の活用が見られます。閉鎖空間である高さ20mの船舶の貨物倉内で損傷状態の自動判別についての実験や、洋上風力発電設備で高さ130mの高所のブレードの微小なピンホールの検知技術についての実験など、海事分野へのドローン点検の活用に向けた動きが進んでいます。今後はドローンに搭載される各種センサー類の性能向上に期待するとされています。
参考リンク)
ドローン活用事例(海事局) | 国土交通省
港湾などのインフラ維持管理のための点検にもドローンの活用が進んでいます。インフラ維持管理の効率化を目指し、作業時間の20%短縮を目標に、ドローンやAIによる港湾施設の3Dデータ化や自動点検システムの開発が進められています。ドローンとAIを活用することで目地開きや段差、ひび割れなどを自動抽出し、港湾管理者の維持管理業務の効率化を目指しています。
今後は、海面の乱反射による衝突防止センサーの誤動作を防止する機能や、着水を防止する機能、天候の制約を少なくする技術などの開発に期待するとのことです。
参考リンク)
ドローン活用事例(国総研) | 国土交通省
河道閉塞(天然ダム)や砂防ダムの点検作業へのドローンの活用も進められています。国土交通省の資料では、飛行ルートをプログラムしたドローンを目視外で自律飛行させ、天然ダムや砂防ダムの点検を実施したとしており、高度な技術と特別な許可を必要とする「レベル3飛行」によるインフラ管理の全国初の取り組みとして紹介されています。
今後は、実運用に堪える手引きを作成し、この技術を災害時の河道閉塞の緊急調査や、全国の砂防ダムの点検などに活用を広げたいとしています。
参考リンク)
ドローン活用事例(国総研) | 国土交通省
ソフトバンクのドローンサービス「SoraBase」は、目視点検の確認作業をドローンで自動化し、点検作業の効率化を実現するサービスです。ドローンをビジネスで活用するために必要な機材から、管理用アプリケーション、導入や運用のサポート、飛行の申請、取得したデータのAI分析、レポート管理まで、ソフトバンクがワンパッケージで提供することで、簡単かつスピーディにドローン活用ができるサービスとなっています。スピーディにドローン活用をスタートしたい企業様や、詳しい技術者が社内にいないため信頼できるサービス提供者に全てを任せたい企業様に最適なドローンサービスとしてご好評をいただいています。
また、「ichimill」と連携した高精度の飛行も可能で、サビやクラックを検知するAIも備えているため、高品質なドローン点検が実現できます。導入実績も豊富で、鉄道の線路や駅舎の点検製鉄所における大規模施設点検などの業務で活用いただいています。
「ichimill(イチミル)」は、誤差数センチメートルの高精度な測位を可能とするサービスとして注目を集めています。準天頂衛星みちびきなどのGNSS (Global Navigation Satellite System) から受信した信号と、ソフトバンクが所有する全国3,300ヵ所以上の基地局を独自基準点として利用してRTK測位を行うことで、広域かつ高精度な測位を実現しています。また、独自基準点が受信した信号を基に補正情報を生成し、ソフトバンクのモバイルネットワークを通してドローンなどに搭載されたGNSS受信機に送信することで、誤差数センチメートルの高精度なリアルタイム測位を可能としています。
「ichimill」はドローンの自動航行だけでなく、自動運転やMaaS、農業機械の自動走行、果てはスポーツ分野など、幅広い産業で利用が進んでいます。鉄道の検査業務などのインフラ点検での活用実績など、導入事例も豊富です。ソフトバンクのドローンサービス「SoraBase」とあわせての利用も進められており、ドローン点検を検討中の企業様にお勧めしたいサービスです。
ドローン点検への注目がにわかに高まりつつあります。近年ではドローン点検の市場に参入する企業が続々と増えており、RTKなどの飛行の精度を高める技術も進歩してきています。2021年には改正航空法でドローンに関する規制が一部緩和されたため、ドローン点検へのニーズは今後ますます高まることが予想されています。
低コストで、安全かつ効率的に、少ない人数で点検が実施できるドローンは、既存の点検方法の課題を解決する切り札となり得ます。今や産学官が競い合うように技術開発や実証実験、制度整備などを進めており、多くの場所でドローンが働く姿が見られるようになりました。
今後、ドローン点検の活用がさらに進み、多くの現場で利用されるようになることで、インフラ老朽化問題などの重大な社会課題が解決に向かうことを願っています。
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