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ビジネスに効く“声の出し方”とは? シチュエーション別にボイストレーナーが解説

ビジネスに効く“声の出し方”とは? シチュエーション別にボイストレーナーが解説

ビジネスコミュニケーション全体に占めるメールやチャットの割合は高いですが、重要な決定は依然として、電話や会議やプレゼンなど、口頭でのコミュニケーションによって行われることが多いです。

そこで今回着目したのが、「声」の重要性。

では、ビジネスにおけるさまざまなシチュエーションで、どのように声を使い分けると効果的なのでしょうか? また、「プレゼンで緊張する」「声が通らない」など多くの人が抱える悩みには、どう対処したら良いのでしょうか? アイドルにも指導する、ボイストレーナーの原田由佳さんに伺いました。

聞き手に与える影響を数値化した「メラビアンの法則」

1971年にアメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した概念で、話し手が聞き手に与える影響を、研究と実験に基づいて数値化したもの。内、38%を占める聴覚情報は、話し手が発する声のトーンや大きさ、話し方(口調)、話す速さ(テンポ)などを指します。

今回の登場人物

ボイストレーナー 原田 由佳(はらだ・ゆか)
京都造形大学、東京スクールオブミュージックなどで音楽講師を務める。アイドル、役者など数多くのアーティストのボイストレーニング、及川光博、大黒摩季などのアーティストのバックコーラス、CMソング(蒟蒻畑、ルックプラスなど)の歌唱、作詞、作曲などの作品提供を行っている。また、大黒摩季がオーガナイズするvocalLaboに所属しボーカリストの育成、メンテに力を注いでいる。

ライター 中村 洋太(なかむら・ようた)
1987年、神奈川県横須賀市出身。2011年、早稲田大学創造理工学部卒業。旅行情報誌の編集とツアーコンダクターとしての経験を経て、2017年よりフリーランスのライターとして活動。ソフトバンク、ユニクロをはじめ、様々なメディアで執筆するほか、モデルとしても活動している。現在は朝日新聞デジタルで連載中。

高級店のスタッフは、“低いトーンでゆっくり”話す

中村 新入社員として電話営業をしていたとき、上司から「もっと高いトーンで話せ」とか「もっとゆっくり話せ」と言われたことがありました。声のトーンやスピードによって、声の印象はどのように変わるのでしょうか?

原田 まず、高いトーンで速く話すと、明るい印象を相手に与えるんです。例えば街で偶然友達に会ったときを想像してみてください。「わあ! 久しぶり〜!」と、自然とそのような話し方になっていますよね。あるいは、新しいレストランが開店したとき。どんどん人を呼び込みたいから、「本日オープンです! いらっしゃいませ〜!」と、やっぱり高いトーンで速く話します。

中村 あまり意識したことはなかったのですが、確かにそうですね。

原田 元気いっぱいの印象を与えるので、『営業』するうえではとても大切な話し方です。

中村 なるほど。

原田 でも、例えば高級レストランに入って、同じ話し方で「ようこそ〜! いらっしゃいませ〜!」と言われたらどう感じますか?

中村 ちょっと安っぽく感じてしまいます(笑)

原田 そうでしょう? 3万円のフランス料理を食べて、ハキハキした声で「ありがとうございました〜!」って言われたら腹が立つじゃないですか(笑)。普通は「ご来店ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」と静かに言いますよね。つまり低いトーンでゆっくり話すことで、落ち着いた印象を与えられるんです。

中村 バッグや宝石のブランド店のスタッフも、そのような話し方ですね。

原田 この話し方は、丁寧で真摯な印象を相手に与えますから、ビジネスシーンでは『クレーム対応』などで効果的です。

声の効果を知り、場面に応じて使い分けましょう
同じ内容を話す場合でも、声の出し方(トーンやスピード)によって説得力を上げたり、信頼度を高めたりすることができます。つまり、声がもたらす効果を知り、場面に応じて使い分けることは、重要なビジネススキルのひとつといえるでしょう。

声のトーンと速さを4象限で表したもの

“安心感”や“説得力”を感じさせる、秘伝の話し方テクニックとは?

中村 今度は、高めのトーンでゆっくり話す場合を考えたいんですが、これって、どんなときでしょう?

原田 わかりやすいのは、保育園の先生が子どもたちに話すときです。
「じゃあ、みんなでこれから、お遊戯をします!」

中村 本当だ! トーン高めで、ゆっくりですね。これにはどのような効果が?

原田 相手に安心感を与えながら人にきちんと伝えたいときに効果的です。例えば、「みんなで、『アイアイ』を歌いましょう。じゃあ、先生の真似をしてね。アーイアイ!」って、必ず明るくゆっくり言うじゃないですか。早口で言われたら、子どもは聞き取れず、不安になってしまいます。特に、コールセンターの方などが『電話』で説明するときにはこういう話し方が大事ですよね。

低い声で速く話すと、会議の場でイニシアティブを取れる

中村 では、その対極の、低いトーンで速く話すのはどんな場合ですか?

原田 相手に説得力を感じさせます。例えば、『相談』して承認を得たい場合や、『ディスカッション』でイニシアティブを取りたい場合などに効果的です。逆に大事な会議の場で、高いトーンでゆっくりと話していたら、「おいおいおい」と思われてしまいますよね。そうではなく、真逆の話し方で「こうこうこういうことがあって、こうしたいです。皆さんどう思いますか?」と言って、巻き込んでいかなきゃいけない。

中村 自分のペースに持っていきやすくなるんですね。

原田 そうです。ちなみに、ちょっとしたテクニックもありますよ。低いトーンでスピードよくしゃべってるんだけど、大事な箇所でいきなり止めるんです。急に話が止まると、人は「ん?」って思うじゃないですか。そこで間を置いて、「ですから、」と高いトーンで話し始めると、人は自然と聞き入ります。

中村 つまり同じプレゼンの中でも、ずっと一定のトーンやスピードで話すのではなく、緩急などの変化をつけることも重要だと。

原田 ええ。抑揚をつけることで話にメリハリが生まれて、より伝わりやすくなるんです。特に声優さんは抑揚のつけ方が上手なので、機会があればナレーションやアニメのアテレコを注意深く聞いてみるといいですよ。

Bリーグの動画配信サービス「バスケットLIVE」のナレーターを務める、人気声優・小野賢章さんに声の流儀を聞いてきた記事もぜひご覧ください。

原因は“緊張”にあり!? 良い声を出したければ、プレゼン前に「マーキング」をせよ!

中村 個人的な悩みがあるのですが、人前で話すときやプレゼン時に緊張してしまって、声がこもりがちになるんです。

原田 「声がこもる」「届かない」という方は多いですが、これって実は、普段から声を出していないからなんですね。家族とか、隣にいる人とか、「半径2メートル範囲に届けばいい声」しか出してない人が、やっぱりこもっちゃう。そういう人は、1カ月だけでいいから、毎日意識してちょっとだけ大きな声を出してみてほしいんです。

中村 習慣化することが大事だと。

原田 はい。あとはプレゼンに向けての徹底的な下調べや準備。それが緊張をなくします。初めての会場で話すのであれば、必ず早めに行って、自分が立つ壇上に立ってみる。私はこれを「マーキング」って呼んでいるんですけど(笑)。
壇上に立って、言いたいことを1回イメージするだけで、もう“初めて”の場所じゃなくなります。できれば誰かに座ってもらって、その人の前で話してみたり、会場を1周してみたり、そうした準備が緊張を解きほぐし、声の質に良い影響を与えます。人は経験のないことに対して恐怖心を覚える生き物ですから。

1対1で話すときは、相手の左目に向かって目力を込める
目をはっきり開けて、目に力を込めることは重要です。「伝えたい!」という気持ちは目から出ますから、こもってても、どもってても、伝わります。相手の左目に話すと、「イメージ」や「直感」など人間の情緒的な部分をつかさどる右脳に届くので、相手は感覚的に話の内容を理解してくれます。

と、スゴい目力で話す原田先生

通る声を出すために、すぐに実践できるトレーニング5選

次は、通る声を出すためのストレッチ方法やトレーニング方法を教えてもらいます。全てやる必要はないので、できることから試してみてくださいね。

トレーニング① 20回ジャンプ!
陸上選手もスタート前にジャンプしますよね。あれは体幹を真っ直ぐに整えるためなんです。良い声には姿勢が重要です。

トレーニング② グルグルと高速で肩を回す「マエケン体操」
肩甲骨を動かすことで血流も良くなりますし、胸鎖乳突筋(首から肩に繋がる筋肉)もリラックスします。胸鎖乳突筋に力が入った状態だと、喉が締まり苦しい声になってしまうんです。

トレーニング③ リンパ&舌マッサージ
リンパが通っている鎖骨と胸骨の間をさすって、マッサージします。「肋間神経痛」というのがあるくらい、ここは神経が固まりやすい場所なので、血流を良くして温めます。また、普段話す機会が少ない人は舌が硬くなっているので、舌を引っ張ったり、歯茎に沿って回したりするのがオススメです。舌が固まると、声がこもりがちになり、滑舌も悪くなります。

トレーニング④ ナ行、ラ行、タ行で滑舌を良く
「られりるれろらろ」「たてちつてとたと」「なねにぬねのなの」を繰り返す。このトレーニングによって表情筋も鍛えられて一石二鳥です。

トレーニング⑤ 重心を下げて腹式呼吸
話す直前には、一度息を全部、シューっと吐き切りましょう。身体は縮こまらずに、骨を真っ直ぐ伸ばした状態で。吐き切ったところで息を止めると、お腹が真空パックみたいになります。その状態で、力を抜いて息を吸うと、ファーっと空気が入りますよね。横隔膜が引っ張られて、お腹に空気が入りやすくなるんです。同時に重心も下がっています。

脇や肩に力が入って締まっていると胸式呼吸になってしまい、たくさん空気を吸えない。

脇や肩を開くと、重心が下がることで腹式呼吸になる。

あいさつ、アポ取り、プレゼン… ビジネスで代表的なシチュエーションの声の出し方を実践

あいさつ、アポ取り、プレゼン、謝罪、とビジネスで代表的なシチュエーションごとの声の出し方を原田先生にレクチャーしていただきながら実践してみました。

① あいさつ編:元気な印象を与える

中村(改善前)「はじめまして。ソフトバンクニュースの中村洋太と申します。よろしくお願いします」

中村(改善後)じめまして。フトバンクニュースの中村洋太と申します。ろしくお願いします

  • トーンを上げて、明るく元気に!
  • ボリュームも上げる
  • 名前が最重要。一瞬間を空けてからハッキリと話す
  • 最後までしっかりと言い切る!

まずジャンプを20回しましょう(笑)! 全体的にトーンと声のボリュームも上げ、明るく元気な声で。特に、覚えてもらうためにも名前を言う直前に一瞬間を空けて、ハッキリ言います。最後の「よろしくお願いいたします」で下がらない。しっかりと言い切って終わります!

② アポ取り編:安心感を与える

中村(改善前)「例の企画の件で、ご説明にお伺いしたいと思いますが、来週の水曜日か木曜日あたりはいかがでしょうか」

中村(改善後)企画の件で、ご説明にお伺いしたいと思いますが、来週水曜日木曜日あたりはいかがでしょうか」

  • トーンを高く、少しゆっくり目に
  • 座っているときも姿勢が重要。頭をまっすぐ
  • 最後の「いかがでしょうか」で下がらないように

意識するのは、トーンを高く、明るい声で。そして少しゆっくり目に。電話なので座りながら話すときもありますが、前かがみにならずに頭をまっすぐにしましょう。目的となる「お伺い」をハッキリ言い、「来週の水曜日か木曜日」も強調しましょう。最後の「いかがでしょうか」で下がらないように。終わりまでしっかり言い切ります。

「Good job!! その調子よ〜♪」

③ プレゼン編:説得力を与える

中村(改善前)「大事なポイントは3つあります。品質、コスト、デザインです」

中村(改善後)大事イントは3ります。品質コストデザインです

  • 伝えたい人の目をしっかり見る
  • 「大事な」は明るいトーンで!
  • 「あります!」と最後までしっかり言い切る

5歳児に話しかけるようなイメージで、且つ、相手の左目を見て話してください。「大事な」は低くならないよう、明るいトーンで。「だ・い・じ」はダダダダっと流れるような言い方にならないよう、しっかり発音します。「3つあります」の「す」で油断して、抜けるような言い方になると、「3つあります(よね?=isn’t it?)」と、問いかけるような印象が残ってしまいます。自信を持って、「3つあります!」と言い切りましょう。また、3つのポイントの違いが出るように、「品質」「コスト」「デザイン」はそれぞれ少しだけ言い方を変えて、1単語ずつ余白を空けるといいですよ。

④ 謝罪編:真摯な印象を与える

中村(改善前)「この度は、御社に多大なるご迷惑をおかけしてしまいました。心よりお詫び申し上げます」

中村(改善後)の度は、御社に多大なるご迷惑をおかけしてしまいましたよりお詫び申し上げます」

  • ゆっくり話しましょう
  • 胸に手を当てて、その場所に響かせるように
  • 噛みやすいフレーズは大げさにゆっくり、ハッキリ!

「本当にごめんなさい」という気持ちを出すときは、ゆっくり言います。「ほんとごめんなさい!」と勢いよく早口で言ったら、誠意が伝わらないですよね? 人の心に届けたいので、片手を胸に当てて、胸に響かせながら話してみてください。そして「多大なる」をゆっくり、ハッキリ。「おかけしてしまいました」も流れるような言い方になりやすいので、目を開けて、大袈裟にゆっくり言いましょう。

声のトーンやスピードで、相手に与える印象がガラリと変わることや、メンタル面が与える影響の大きさに驚きました。指導を受けているうちに、声に対するコンプレックスが徐々に薄まり、自信を持てるようになってきました。立ち振る舞いや顔の表情も変わってくるような気がします。

ソフトバンクでは、声の出し方やスピードなどを元に拍手の量でプレゼンスキルを評価してくれるVRプレゼン研修も行っています。

拍手の量で自分のプレゼンスキルが分かる! VRで学ぶプレゼンテクニック

拍手の量で自分のプレゼンスキルが分かる! VRで学ぶプレゼンテクニック

(掲載日:2019年10月30日)
文:中村洋太(フリーライター)
撮影:鈴木大喜
監修:原田由佳
協力:東京スクールオブミュージック&ダンス専門学校