技術革新が続く現代社会。スマートフォンの普及やAI(人工知能)の発達により今後求められる技術や知識が変化していく中、経済産業省の調査によると2030年には約45万人のIT人材が不足すると予測されています。文部科学省は、IT人材育成の対策として、2020年度から小学校でのプログラミング教育を必修化し、1人1台学習用の端末を持つ環境を目指す「GIGAスクール構想」を打ち出しました。新型コロナウイルスの影響で自宅での学習が求められる中、教育のIT化/ICT化のニーズがますます高まっています。
プログラミングと聞くと、少し難しく感じられるかもしれません。しかし実際は、その基本となる考え方さえ身に付ければとても単純なものだとか。今回は、ソフトバンクでプログラミング教育に取り組む技術者、小島一憲に話を聞きました。
プログラミング教育が必修化となった原因は、世の中の急速なデジタル化を進めている私たちIT企業
まずは簡単に経歴について教えてください。
ITインフラ/ネットワーク部門の研究開発チームに所属し、データセンターのサーバーやネットワークの構築、IoTやAIを使った研究を主に行っています。社内の技術研修講師も行いながら、副業としてサイバー大学の講師も務めています。日本データセンター協会(JDCC)会員、そして情報処理学会でグループウェアとネットワークサービス研究会の運営委員として活動しています。
近年、プログラミング教育を取り巻く環境はどのように変化していますか?
いま、日本の教育には100年に一度の変革が起きようとしています。「国語」「算数」「理科」「社会」に加え、「英語」そして「プログラミング」が必修科目となるのです。ところが、学校の先生になるための「教職課程」に「プログラミング」を教える工程はない。電子黒板やタブレットなどデジタルデバイスの操作に不慣れな方も多くいるでしょう。私たちのように日常的にITに触れる機会が少ないご家庭においては、「プログラミングとはいったいどんなことを学ぶんだろう?」「何を準備すればいいんだろう?」という不安もあると思います。
なぜ、ソフトバンクがプログラミング教育に取り組むのでしょうか?
文部科学省や経済産業省とも話をしていますが、プログラミング教育に関しては官民が積極的に協業していこうという動きがあります。プログラミング教育が必修化された背景には、急速に進んだデジタル化の存在があり、その責任はスマホやタブレットを世の中に普及させて、5Gなどの通信を活用した高速で大容量なサービスを提供している通信会社にもあると考えています。私たちは、ITのプロフェッショナルです。日本一のIT企業として教育のデジタル化、プログラミング教育に貢献できることは何かと考え、プログラミング教室「SoftKids」を2017年から始めました。
プログラミングは手段にすぎない。本質は課題解決の基本となる「エンジニアリング思考」を身に付けること
「SoftKids」で子どもたちにプログラミングを教える上で、どんな工夫をしていますか?
プログラミング教育というと、「プログラミングを学ぶこと」が目的だと思われがちなのですが、プログラミングはあくまでアプリを作るというゴールを達成するための手段、スキルに過ぎません。子どもたちに教えている中で、プログラミングを覚える前に「エンジニアリング思考」を持つことが大切だと気づきました。エンジニアリング思考とは、さまざまな課題を解決するために必要な「理解」「分解」「構築」の3つのステップ で物事を考えることです。「何かをしたい」というゴールに向けて、それをちゃんと「理解」し、達成するためにはどのような要素が必要なのか「分解」して考え、ひとつずつ組み立てて「構築」することですね。
エンジニアであればおそらく無意識に行っていることですが、初めてプログラミングを学ぶ人がこれを理解しているのといないのとでは、その後の学びの効率に大きな差が出ます。この思考を身に付けると、途中の過程で失敗してもすぐに補正が効くようになるので、勉強や就職活動、そして仕事でのコミュニケーションなどに応用できて、さまざまな課題を解決する上で役立ちます。
どうしたら子どもたちは「エンジニアリング思考」を身に付けることができますか?
エンジニアリング思考を体験できるのが「あぷりつくーる」です。プログラミングとは、要は「いつ」「なにを」「どうする」の繰り返しなんですね。なので、それをそのまま「あぷりつくーる」のデザインに落とし込みました。通常プログラミングは英語で行いますが、子どもたちも分かるように平仮名で。「理解」「分解」「構築」という言葉は分からないかもしれませんが、「アプリをつくる」というゴールのもと「いつ」「なにを」「どうする」の繰り返しでちょっとずつ組み立てることを学び、エンジニアリング思考が自然に身に付くようになっています。
子どもだけでなく親も一緒に体験することで「どんなことを勉強するのだろう?」という不安を取り除く
「SoftKids」に参加した方からは、どんな反響がありますか?
お父さんお母さんからは、「プログラミングは初めてなので挫折しないか不安だったが、とても楽しく取り組めていた」「もっと高度なプログラム学習に触れることができるSoftKidsを検討してほしい」といった声を、お子さんからは「初めてアプリを作れて楽しかった」「自分でゲームを作れて面白かった」「もっと難しいのも作りたい」といった声をいただいています。
完成したアプリには個性が出るので、色んな発見がありますね。子どもたちの感性って本当に豊かで、大人にはない発想があります。最近の子どもはよくゲームをするので、意外とプログラミングには抵抗なくすぐに慣れるみたいですね。「新しくプログラミング教育が必修化される」と聞いて不安に思っているのは、実は親や先生だったりするんですよ。
過去、親御さんだけに向けてプログラミング教室を実施したことがあるのですが、そこでよく聞いたのが「プログラミングを難しく考えすぎていた」という声。「何だ、こんなものか」と(笑)。 子どもだけではなく、親御さんも一緒に体験してもらうことで「一体自分の子どもが何を学ぶんだろう?」という不安を取り除くことができます。
プログラミングって、一般的に考えられているよりもシンプルなのですね。
実はいま、プログラミングはどんどん簡単になってきています。アメリカでは、「ノーコード」と言って英文でコードを書く必要がなく、まさに組み立てるだけでできるプログラミング方法が登場していて、これから日本でも流行ると思います。学校でも自宅でも、これまで紙と鉛筆で勉強していたのが、タブレットという便利なツールに変わり、プログラミングでより効率的に5教科を学んでいくというニューノーマルな学習スタイルになっていくと思います。IT人材不足の中で、テクノロジーによって徐々に効率的な学習が実現しつつありますね。
ソフトバンクのプログラミング教育への取り組み
「SoftKids」は、「デジタルの世界でのものづくりを教える」をコンセプトとして掲げ、活動しています。
ソフトバンクショップやショッピングモール、民間学童クラブや小学校など全国各地の施設で開催(現在は休止中)。小学生を中心に、幅広い年齢層の子どもたちが参加しています。新型コロナウイルス影響下の現在でもお問い合わせが来ており、オンラインでの実施を検討中です。
お問い合わせ:
情報格差(デジタルデバイド)をなくして、ソフトバンクのファンを増やしたい
ソフトバンクの「Technical Meister(テクニカルマイスター)制度」と、挑戦のきっかけについて教えてください。
挑戦したきっかけは、上司や周りのメンバーのススメです。会社への貢献度はもちろん、取り組みの先進性、外部での講演や特許・論文発表の実績などの審査を経て、2018年度(初年度)にテクニカルマイスターに認定されました。テクニカルマイスターには色んな人がいて、「論文を書いてAIの画像解析コンテストで世界3位になりました」とか「無線に人生賭けてます」とか「データベースのエンジンを開発してます」というような、変わり者がたくさんいます(笑)。
「Technical Meister(テクニカルマイスター)制度」とは
専門分野において、突出した知識・スキルを持ったエンジニアに与えられるソフトバンクの社内認定制度。さらなる能力の飛躍と活躍の機会を提供するために、本業と並行して自身の専門分野を自由に研究・開発することが認められている。2018年度にスタートし、2020年6月時点で認定者は23人。
主にどのような活動をしていますか?
チーム全体としては、ネットワークに関する外部講演やヤフーなどのネット事業者の方と情報交換をしたり、AI・IoT・ネットワークの技術を中心とした様々な研究開発をしたり、個人的には外部の協会や学会とやり取りをしたりしています。その傍ら、子どもへのプログラミング教育を行っています。エンジニアはエンドユーザーと接する機会がほとんどないので、「SoftKids」の教室は普段会社という環境にいる中では経験できない「お客さまから直接感謝の言葉を言ってもらえる貴重な時間」となっています。
今後、小島さんがソフトバンクで実現したい未来とはどんな世界でしょうか?
私が新卒でこの会社に入ったときから考えているのが、「世の中の情報格差(デジタルデバイド)をなくす」ということです。「都会と地方」「スマホを持っているかいないか」「Wi-Fiが家にあるかないか」など、情報格差というのは必ずどこかで生まれてしまいます。こうした経済的な事情に起因する格差をなくしたいのです。
「SoftKids」はたった4人で始めた取り組みですが、休みの日に役員が現場を見に来てくれたり、隣の部署の人がボランティアで講師を手伝ってくれたりと、今やたくさんの人に支えられています。この取り組みを始めたとき「やりたいです! 」と言ったら、周りは誰も反対せず「それいいね! 」と後押ししてくれました。私は、そんな文化を含めソフトバンクがとても好きです。会社の良さを論理的に語れます(笑)! だから、ソフトバンクのファンを増やしたい。
ソフトバンクの新30年ビジョン、つまり「300年続く企業」になるために必要なもの、それは「教育」だと思っています。なぜなら、教育への投資は自分の身になるし誰にも奪われることがないからです。いまの世代の子どもたちが、「あの時”SoftKids”で学んだのがきっかけで、エンジニアを志した」と、10数年後にソフトバンクに入社してくれたらうれしいですね。
第1回 STEAM教育EXPOに出展
SoftKidsは、9月16日(水)~18日(金)に幕張メッセで開催される【EDIX東京】 第1回 STEAM教育EXPO にて、エンジニアリング思考を体験できるブース出展を行います。ご来場される際には、ぜひ足を運んでみてくださいね。
-
- ※招待券(無料)を事前申請いただくか、入場料 5,000円/人 が必要になります。
-
- ※招待券(無料)を事前申請いただくか、入場料 5,000円/人 が必要になります。
(掲載日:2020年7月16日)
文:ソフトバンクニュース編集部