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「充電し忘れ」がなくなる未来。若き研究者が語るワイヤレス充電の可能性

「充電し忘れ」がなくなる未来。若き研究者が語るワイヤレス充電の可能性

スマホを台に置くだけで充電できるワイヤレス充電が普及し始めましたが、実はワイヤレス充電の技術は、私たちの生活で使っているモノにもう活用されていたり、ワイヤレス充電にいろいろな種類があることをご存知ですか? また、今後ワイヤレス充電の技術がさらに進化して世界中に広がると、とても便利な未来の生活が実現するとか。

そこで、ワイヤレス充電の現在や未来について、ソフトバンクで研究を進めている、若手テクニカルマイスターにインタビューしました。

長谷川直輝

テクノロジーユニット 無線技術研究開発部 ワイヤレスシステム研究開発課
長谷川 直輝(はせがわ・なおき)

実は日々の生活で使う“アレ”も、ワイヤレス充電を使ってた! あなたは知っていましたか?

ケーブルを使わずに電力を送ることを、「ワイヤレス電力伝送」と呼び、それを充電に利用するのが「ワイヤレス充電」。「まだまだワイヤレス充電の普及は未来の話でしょ?」なんて思っている方も、SuicaやPASMOといった、交通系ICカードを使ったことがあるのではないでしょうか?

実はICカードをカードリーダーにかざす瞬間、カードリーダーからICカードにワイヤレスで電力が送られているんです。他にも、電動歯ブラシや電気シェーバー、コードレス電話などを使っている方も多いと思いますが、そこでもワイヤレス充電の技術が使われています。

交通系ICカードイメージ

他にも、電力を送る方式にはいくつか種類があります。

 

特徴

主な利用例

電磁誘導方式

~数cm程度まで高効率安定して電力を送ることができる。

交通系ICカードやコードレス電話などで使われている。

磁気共鳴方式

~数m先まで電力を送ることができる。

駐車中の電気自動車などでの利用が想定されている。普及に向けて研究中。

マイクロ波方式

~数m先の複数の機器に電力を送ることができる。

複数のIoTデバイスの同時充電、稼働中のドローンや無人飛行機、宇宙太陽光発電所などでの利用を想定し、ソフトバンクで研究中!

スマホに使われているのは、電磁誘導方式

iPhone 8以降などのスマホで対応している伝送方式は電磁誘導方式で、ワイヤレス充電規格「Qi」とも呼ばれています。この方式の仕組みや、メリット・注意点については別の記事で紹介しています。

長谷川直輝

これから、ワイヤレス充電は私たちの生活にどんどん必要になってきます。なぜなら、5Gが実用化されると、IoTデバイスと呼ばれているインターネットに接続して情報をやり取りする機器の数は、2035年には1兆個を超えると予想されています。

私たちが身につけるいろいろなものが、インターネットに接続するために電力を要求するようになるんです。そんな時代に、全てのデバイスを線でつないで充電するのは、とても面倒くさいですよね。

IoTデバイス数の想定推移

IoTデバイス数の想定推移

すでに私たちの身近に広がっているワイヤレス充電ですが、今後もっといろいろな分野に採用されると、生活がより便利になると言われています。ソフトバンクでは、そんな未来を実現するために他の方式よりも有利だと考えられる、マイクロ波方式のワイヤレス充電の研究をしています。

マイクロ波方式が5G時代の充電問題を解決する?! 課題はないの?

なぜソフトバンクでマイクロ波方式のワイヤレス充電の研究をしているのか。そのメリットや課題は? そして、世界にこの方式が広がれば、どんな未来が実現するのか。ソフトバンクでこの研究を進めている、若手テクニカルマイスターに聞いてみました。

そもそも、なぜソフトバンクでワイヤレス充電を研究しているのでしょうか?

長谷川直輝

私が研究しているマイクロ波方式というワイヤレス充電は周波数が300MHzから300GHzの電波を使うのですが、携帯電話もその範囲と重なる周波数の電波を使用しています。ソフトバンクは、無線通信分野のノウハウを持っているので、研究をするうえでいろいろと活用できる技術やメリットがあると感じています。将来的に、携帯電話用の基地局や電波を使って、いろいろなデバイスの充電もできるようになるかもしれません。

街中でのワイヤレス充電イメージ

街中でのワイヤレス充電イメージ

マイクロ波方式は他の方式と比べて、どんなメリットや課題がありますか?

長谷川直輝

メリットは、Massive MIMOなどのソフトバンクが持っているアンテナの技術を活用することで、複数のデバイスを充電することが可能な点です。マイクロ波以外の方式は、基本的に1台のデバイスしか充電できないので、今後IoTデバイスの数が爆発的に増えた時に、マイクロ波方式はとても有利になると考えています。課題は、現時点ではまだ充電効率が良くないことです。

私は、この点を解消するための研究を行っています。最近提案した新技術は、電子情報通信学会の『若手奨励賞』を受賞することができて、マイクロ波方式のワイヤレス充電実用化に一歩近づけたのではないかと感じています。

一般社団法人電子情報通信学会 アンテナ・伝播研究会 若手奨励賞

若手奨励賞を受賞した長谷川さん

一般社団法人電子情報通信学会は、さまざまな企業や大学などで、電子・情報・通信に関する研究社・技術者たちが、研究結果や知識の交換や、事業の振興を図るための団体。この団体が、優れた研究成果を発表した35歳以下の若手研究者に対して贈るのが若手奨励賞です。 長谷川さんが新たに開発した技術は、送電アンテナの大幅な簡易化や低コスト化が可能になることから、マイクロ波形式のワイヤレス充電実現への大きな一歩として期待されます。

長谷川さんは「若手奨励賞」を受賞された他にも、入社年次最速で社内の「Technical Meister(テクニカルマイスター)」制度の認定を受けたと聞きました。

長谷川直輝

大変ありがたいです。「Technical Meister制度」には、若手奨励賞受賞後に上司から「応募してみたら」と言われて挑戦し、認定いただきました。結果を出せば年齢に関係なく技術力を評価され、私のように何かやりたいことがある人間にとってはいろいろな事にチャレンジするチャンスも多く、非常に理想的な環境にいると思っています。
Technical Meister制度

専門分野において、突出した知識・スキルを持ったエンジニアに与えられるソフトバンクの社内認定制度。さらなる能力の飛躍と活躍の機会を提供するために、本業と並行して自身の専門分野を自由に研究・開発することが認められている。2018年度にスタートし、2020年6月時点で認定者は23人。

ワイヤレス充電がもっと進化して普及すると、どんな便利な未来が実現するのでしょうか?

長谷川直輝

電話やインターネットは、スマホやWi-Fiの登場で、家の中も外も気にすることなく、ワイヤレスで使うことができるようになりました。同じように、電気もワイヤレスで送れるようになると、世界各地や宇宙で発電したエネルギーを、遠く離れた場所に届けられるようになります。電気コードや電線はなくなり、森や海、砂漠のど真ん中など、これまで電気が届かなかった場所でも、快適に生活することが可能になるかもしれません。

また、成層圏からスマホに電波を届ける無人飛行機や、荷物を配送するドローン、自動運転車などが動いている最中にも電気が送れるようにもなり、だれもが想像していないような世界が実現するかもしれません。そういった未来を実現するのが、私の夢です。

大きくすてきな夢ですね。そんな夢に向かって研究を続けられるモチベーションを教えてください。

長谷川直輝

自分の場合は、ワクワクする気持ちです。研究は、世界中のだれもが正解を知らないようななかで、これができる、これが正解かな? と見つけていくことだと思っています。そして、研究を通じて何かを見つけることができれば、将来こんなすごい世界になるんじゃないか、と示せると思っています。そこに、すごくワクワクしたんです。

そう言いながらも、大学院の修士課程から博士課程に進んで研究を続けるか、迷った時期もあります。でもその時、博士課程の先輩から「自分の余命が1年と余命宣告されたときに、今取り組んでいる研究を続けたいか」と聞かれたんです。「余命1年でも、研究を続けてワクワクしていたい」と思ってしまい、今も研究を続けています(笑)。

最後に、今後の抱負を教えてください

長谷川直輝

ワイヤレス充電は、充電効率や安全性の基準など、まだまだ研究などを進めなくてはいけないことが多い分野ですが、マイクロ波方式の充電装置は、実はもうアメリカで発売され始めています。早ければ10年後には、世界中でマイクロ波方式のワイヤレス充電が実用化されているかもしれません。全ての人が無意識に電気を使えるようなワイヤレス充電社会の実現を目指して、一つずつ実績を積み上げていきたいと思います。

ワイヤレス給電コンテスト

「ワイヤレス充電をより身近に感じてもらいたい」と、ミニ四駆(小型の自動車模型)をワイヤレスで充電しながら走らせるイベントの実行委員としても活動

(掲載日:2020年9月10日)
文:ソフトバンクニュース編集部

ソフトバンクの事業を支える先端技術

先端技術で日常生活が劇的に変わる時代へ

次世代通信技術「5G」によって、人と人だけでなく、あらゆるモノとモノがつながるIoT時代が本格的に到来します。

先端技術を用いた新たなサービス・ソリューションの実現に向け、さらなる技術開発に取り組んでいます。