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元自衛隊のメンタル教官に聞く、ニューノーマル時代のメンタルヘルスケアの極意【達人シリーズ第1回】

元自衛隊のメンタル教官に聞く、ニューノーマル時代のメンタルヘルスケアの極意【達人シリーズ第1回】

新型コロナウイルスの影響で、私たちの生活が大きく変わりつつあります。それは「仕事」においても例外ではありません。オンライン化やテクノロジーの浸透によって、仕事に求められるスキルやマインドにも大きな変化が今、求められています。

そこで本企画「達人シリーズ」では、さまざまな分野で活躍する達人たちに、ニューノーマル時代のビジネスパーソンのヒントとなるような話を毎回お聞きします。第1回は「メンタルの達人」として元自衛隊のメンタル教官・下園壮太さんに、ニューノーマル時代のメンタルコントロール術について教えてもらいました。

今回の達人は、元自衛隊のメンタル教官

下園さん

下園 壮太(しもぞの・そうた)

MR(メンタル・レスキュー)協会理事長、元・陸上自衛隊衛生学校心理教官。陸上自衛隊の心理幹部第一号として、長年にわたり、カウンセリングや心理幹部人材の育成に従事。2015年に自衛隊を退職。現在は豊富な現場経験をベースに、全国でカウンセリングや講演活動を行っている。

15分で信頼関係をつくる。元自衛隊メンタル教官の「極意」とは?

15分で信頼関係をつくる。メンタルの達人の「極意」とは?

自衛隊の「メンタル教官」とはどんな役職なのでしょうか?

自衛隊では指揮官が部隊をうまく運用し、部下に対してリーダーシップを働かせながら任務を達成していきます。当然、指揮官は現場のリーダーとして、部隊運用の方法や関係機関との調整など、考えなければいけないことがたくさんある。各隊員のメンタルヘルスなど、細かなところにまでエネルギーを割くことはなかなか難しいわけです。

そこで指揮官の負担を減らすために、必要な事項だけを上にあげる指示系統が自衛隊では確立されています。作戦、情報、広報、人事などさまざまな分野の専門家がいるわけですが、その中のメンタル分野の専門家として「心理幹部」というポストが位置付けられます。

私は陸上自衛隊の心理幹部の第一号。自衛隊内におけるメンタルケアの重要性やノウハウの普及に、試行錯誤しながら尽力してきました。

自衛隊時代の下園さん

自衛隊時代の下園さん

具体的に隊員へのメンタルケアが必要になるのはどんなときですか?

自衛隊は「みんな同じ釜の飯を食ってきた仲間」という意識がとても強い組織。例えばの話ですが、隊員が戦地や災害現場などの過酷な環境下で、同僚を失ったとします。そんなとき、同じ部隊の隊員たちへの衝撃は非常に大きく、場合によってはみんなが落ち込み、自責の念に駆られ、部隊が機能しなくなることも予想されます。

そういった場合にメンタル教官が現地に出向いてケアをするわけです。もちろん有事の場合に限らず、平時の細かなメンタルケアも行います。

一般的なカウンセリングと違うポイントはありますか?

自衛隊という組織では、現実的な活動を維持しなければならないということが前提にあるので、傾聴はもちろん、それぞれの人の問題解決に役立つ具体的な「アドバイス」をすることが、一般的なカウンセリングとは少し違う部分かもしれません。

しかし、アドバイスは見方によっては「ダメ出し」でもあるわけです。心が弱っている人にはしんどい部分もある。だからこそ、解決策を上手に提示するような「アドバイスを上手に行うスキル」がメンタル教官には求められます。

それは具体的にどんなスキルなのでしょうか?

一言でいうと、短時間で信頼関係を構築するスキルですね。

相手に心を開いてもらって、アドバイスをしても落ち込ませない関係性をその場でつくり上げる。初対面でちょっと話しただけでも「あ、この人とは馬が合うな」と感じることってあると思うのですが、そういう雰囲気を相手にパッと感じてもらう。

重要なのはコミュニケーションのリズム感です。表情や目線、うなずきの大きさや相づちを打つタイミング。そのあたりは徹底してトレーニングしますし、相手の話のリズムにしっかり合わせられる力量があれば、15分程度の対話でも相手の懐に入っていくことは可能です。

豆知識:アメリカ軍には兵士のメンタルケアをする牧師さんの部隊がある?

下園さん:教会に属さず活動する牧師のことを「チャプレン」というのですが、アメリカ軍には軍隊付きのチャプレンがいます。牧師には黙秘の権利があり、兵士も安心して相談できるため、兵士のメンタルケアの役割も担っています。私が心理幹部というポストに就いた際にも、1つのモデルケースとして参考にしていました。

コロナ禍で特に要注意。元自衛隊のメンタル教官が危惧する、うつになりやすい4つの要素とは?

コロナ禍で特に要注意。うつになりやすい4つの要素とは?

下園さんは元自衛隊のメンタル教官として、現在のコロナ状況下をどのように捉えていますか?

流行初期の段階から、「この状況は非常にうつになりやすい条件がそろっているな」と懸念を感じていました。というのも、うつになりやすい条件というのが4つあり、現在のコロナ状況下ではそれが非常にそろいやすくなっているんです。

  1. 疲労
    人間は変化に直面したときにエネルギーを大きく消耗する。引っ越しや昇進といった日常生活の変化でも精神は消耗してしまう。コロナ禍はこれまで直面したことのない世界規模の大きな変化のため、精神の消耗度合いも大きい。また日本全体が同じ状況下に置かれているので、自分が疲れていることを自覚しにくくもなっている。
  2. 不安感
    不安はダイレクトに生死に結びつくものほど強くなる。新型コロナウイルスは健康や生死にも関わる問題でもあるため、強い不安を抱いている人も多い。「いつ終わるかわからない」という先が見えない不安であることや、メディアやSNSを通じて過剰に不安をあおられたり、在宅勤務などで孤立しがちな状況もメンタル面への影響が大きい。
  3. 無力感
    新型コロナウイルスは有効な対処法がまだ確立されていないため、どのように対応すればいいのかがわからず、「無力感」にさいなまれている人も多い。いわば、日本全体が自信をなくしてしまっているような状況。
  4. 自責感
    過剰な自責感もうつになりやすい要素の1つ。新型コロナウイルスの場合、自分が誰かに感染させてしまうかもしれない、もしくはすでに感染させてしまったかもしれない、という自責の念を強く持ってしまう人もいる。万が一、人にうつしてしまったときに、世間から糾弾されてしまうという恐怖感もそれを助長してしまう。

自分の「モード」を自覚せよ! 疲労状態の3つのモード

自分の「モード」を自覚せよ! 疲労状態の3つのモード

そうした状況下でうまく自分のメンタルをコントロールする、元自衛隊のメンタル教官ならではの「達人の極意」みたいなものはあるでしょうか?

人間は好調時と不調時には、思考も感情も別人になってしまいます。重要なのは自分が今、どんなモードにいるのかを自覚すること。私はよく疲労状態には1倍モード、2倍モード、3倍モードがあると言っています。

疲労状態の3つのレベル

1倍モード(正常な疲労)
理性的な判断ができ、思考の切り替えや割り切りもパッとできる状態。冷静に問題解決にも取り組める。集中して日々の仕事に取り組み、モチベーションも高い状態。割合でいうと感情20:理性80。

2倍モード(疲労が蓄積している状態)
正常時より2倍傷つきやすく、2倍疲れてしまう状態。なんとか仕事はできるが、常に緊張しており、目の前のことに対応するだけで実は精一杯。不機嫌でイライラしたり、面倒な物事も避けたりしがちに。不眠や食欲不振など身体的症状も出はじめる。割合でいうと感情50:理性50。

3倍モード(ガス欠状態)
正常時より3倍疲れてしまう状態。また、傷つきやすさも3倍で、別人のようにネガティブ、感情的になる。他人からささいな指摘を受けても立ち直れないくらい落ち込んでしまうことも。仕事に集中できず、将来にも希望が持てなくなってしまう。割合でいうと感情80:理性20。

疲労状態の3つのレベル

なるほど。いつもと同じように仕事をしているのに、なかなか捗らないというときは、2倍モードに突入しているかもしれないのですね。

仕事のパフォーマンスは上がっていないのに、本人としては通常時より2倍しんどい。そこに周囲とのギャップがある。だから上司側も2倍モード、3倍モードの部下に普段通りの指導をしても逆効果なんです。本人的には風邪をひいてしんどいときに、筋トレをしなさいと言われているようなものですから。

重要なのは自分自身が「今、何倍モードなのか」を日頃から自覚すること。そしてマネジメントする側も「部下が今、何倍モードなのか」をしっかり観察し、状態を見極めて指導を行うことが必要です。部下の状態を見極める目を持つことは、上に立つ者に求められる重要な資質だと思います。

2倍モードや3倍モードにいるときは、回復までの時間も2倍、3倍とかかってしまう

2倍モードや3倍モードにいるときは、回復までの時間も2倍、3倍とかかってしまう

2倍モード、3倍モードにいる人はどうすればいいのでしょうか? 「休み方の極意」もお聞きできればと思います。

まずは休息して、疲労をしっかり回復させること。とにかく睡眠が一番大事です。趣味でストレスを発散することも大切ですが、若い人にありがちなのが、息抜きだと思って1日中激しいスポーツをしたり、夜通しゲームをしたりして、かえって疲れてしまう事態。

エネルギー消費の大きな「はしゃぎ系」とエネルギー消費の少ない「癒やし系」の趣味のバランスを取って、自分のエネルギー収支をうまく管理しながら、疲労を回復させていけるとベストです。普段、はしゃぎ系の趣味が好きな人でも、疲れているときは逆効果なので、そういうときに備えて癒し系の趣味もいくつか持っておくといいですね。

 

趣味の例

はしゃぎ系

スポーツ、旅行、筋トレ、カラオケ、ライブ観戦など

癒やし系

読書、自宅での映画・音楽鑑賞、散歩、盆栽など

ささいな雑談の中にこそ、メンタルケアのヒントがある

ささいな雑談の中にこそ、メンタルケアのヒントがある

リモートワークだと、社員のメンタルケアやマネジメントが難しい側面もあるかと思います。下園さんが「メンタルの達人」として考える解決策は何かありますか?

まず前提として、仕事を基本的に「人対人」で行うものであることを認識すること。仕事の悩みって、ほとんどが対人関係にまつわるものでしょう。
そういう意味でも、メンバー間の日常のコミュニケーションは大切ですが、リモート会議だと、最低限の仕事の話だけをして終わってしまいがち。オフィスにいれば仕事の話ついでに「昨日のあのニュース見た?」なんて、ささいなコミュニケーションもできますが、リモートだとなかなか難しい現状があると思います。

確かに……。オンラインミーティングのときは、必要最小限の話しかしていないかもしれません。

私は、ミーティングの本質は「内面交流」だと考えています。雑談もできないような状況では相手の考えが読めず、何気ない意見を下手に勘ぐったり、悪く捉えがちになったりもする。

ささいな雑談があるだけでも、メンタル面には効果的なのですね。

ミーティング時に1人1〜2分くらい時間をとって、昨日の良かったこと、悪かったこと、これから改善できそうなことを挙げてもらう。それは別に仕事のことに限らなくてもいい。「昨日、子供が初めて◯◯できてよかった」とか「介護している母の調子が悪くて心配」といった日常の話でも大丈夫です。そういった会話の中から、その人の今の状況や価値観を感じ取ることが大切なんです。

もうひとつ付け加えると、オンラインミーティングをやるときは、音声だけではなく画面に顔も映した方がいいですね。情報量が少ないと、人間は受け取った情報をネガティブに捉えがち。声だけだと相手の温度感がわからず、冷たく聞こえてしまうことって、よくありますから。ただ、2倍、3倍モードにいる人は「見られている」というストレスも大きい。そういう方には「カメラは切っていてもいいよ」という配慮も必要です。何事もバランスですね。

リモートワークの「オン/オフ」は時間と場所を切り替えよ!

ささいな雑談の中にこそ、メンタルケアのヒントがある

すごく参考になりました。あとリモートワークだと、なかなかオン/オフの切り替えが難しくて、ついダラダラと仕事をしてしまいます。そんなときはどうすればいいでしょうか?

物理的に場所を切り替えることは大事ですね。机の位置をちょっと変えてみたり、いつもと違うスペースで仕事をしてみたり、息抜きに30分程度近所を散歩してみたり。また、リモートワークはやろうと思えば際限なく仕事ができてしまうので、「19時以降は仕事をしない」と自分の中で時間的区切りをつけるのも有効です。

軍隊の話でいうと、昔は戦地への移動手段は主に船でした。戦地から帰るとき、1カ月くらいかけて船で移動し、その間に兵士は戦場モードからの切り替えができるわけです。でも今は戦地まで飛行機で数時間。そうすると戦場モードからなかなか抜けきれない兵士もいるようで、母国に帰っても戦地とのギャップに苦しむ人もいるようです。

最後に「メンタルの達人」として考える、ニューノーマル時代に必要な心構えを教えていただけますか?

これまでの既成概念にとらわれないこと。

「今までこうだったから」というのは、落ち着いていた時代の考え方に過ぎません。今は変化の時代ですし、先の展開も予想しにくい時代。とにかくフットワーク軽く、まずは前例のないことにもチャレンジしてみる。そんなマインドを持っておくことが大切なのではないでしょうか。

あと人間って自分では理性的に考えているようでも、意外と感情で動いていたりする。人間も根本のところは結局、動物なんです。そういう認識を持っておけば、ある意味で楽になる部分もありますし、メンタルコントロールを行う上でも大事な認識だと思います。

メンタルの達人が教えるニューノーマルのメンタルヘルスケア心得四箇条

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(掲載日:2021年1月20日)
文・編集:エクスライト
写真:山﨑悠次