年々需要が高まり普及が広まってきているAI。ソフトバンクでもさまざまな部門の業務にAIが活用されています。
実際はどのようなところでAIが使われていているのか、またAI技術者の育成などについて、ソフトバンクの社内システムのAI化を担う、AIエンジニアリング部の山田に話を聞いてきました。
ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット
技術戦略統括 AI戦略室 AIエンジニアリング部 部長
山田 聡(やまだ・さとし)
AIエンジニアリング部のミッションを教えてください。
山田:まずAIエンジニアリング部があるAI戦略室というところは、東京大学などと設立したBeyond AI 研究推進機構※の運営や発展をさせていくというところが一番大きなミッションです。その中でAIエンジニアリング部は、30名ほどいるメンバーのうち8割ほどが入社5年以内という若いチームで、主に自然言語処理、画像処理、OCRのそれぞれの領域でAIの内製開発に取り組んでいます。社内システムのAI開発から始まり、徐々に外販での提供も始めているところです。
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「Beyond AI 研究推進機構(旧:仮称「Beyond AI 研究所」)」設立の経緯は、こちらの記事で詳しく紹介しています。
画像処理を活用した鉄塔の錆検知
具体的に内製でどのような開発をしているのでしょうか?
山田:AI画像処理の領域では、まだ実運用前で精度を測っている段階ですが、鉄塔の錆びを検知するAIを開発しました。ドローンで撮影した鉄塔の写真から、「すごく錆びている」「けっこう錆びている」「錆びそう」といった箇所を認識して、錆びレベルの塗り絵をしていく仕組みで、セマンティックセグメンテーションという技術を応用しています。
全体のシステムの仕組みとしては、ドローンで撮影した画像を鉄塔管理のシステムに送信、それをAIの画像解析API※に送り、結果を鉄塔管理のシステムに返すといった感じです。AI導入の際には、このような構成を取ることが多く、システムと連携して結果を返せるようなAPIも私たちが内製で開発しています。
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API(Application Programming Interface):ソフトウエア同士が情報をやりとりするために使用するインタフェースの仕様。
OCRを活用した書類の自動読み取り
山田:書類などに書かれている文字を読み取るOCR※では、社内の経費精算の際、申請内容と証憑の内容があっているのかを目視確認していたところにAIを導入して、口座番号と請求額をシステムに自動反映しています。手で書き写す必要がなく、間違っていた場合は直せばいいだけなので経理担当者の作業削減につながっています。こうしたOCRの技術を使って書類の自動認識システムを他にも開発していて、社外のお客さまからの引き合いも多い分野でもあります。
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OCR(Optical Character Recognition):光学文字認識。契約書など手書きで書かれた文字を読み取ってデジタル処理をする技術。
自然言語処理を活用したチャットの自動応答
山田:公式サイトのお客さま向けのチャットサポートでは、お客さまからの質問を自然言語処理という技術で分析して、適切な回答を選ぶという仕組みを作っています。「来月の請求額はいくら」という質問の場合、実際に請求額をデータベースから読み取るところは別のシステムで実装しているので、「請求額についての質問である」と判断するエンジン部分のAPIを開発しています。また、社内向けにもチャットサポートがあり、さまざまな社内の手続きなどについて回答する仕組みを提供しています。
AIが得意なのは曖昧性のある物事の判断
運用が始まった後もメンテナンスなどが必要ですか?
山田:チャットボットの場合だと、適切な回答を保つためメンテナンスをするというのがすごく重要で、そのための管理画面もわれわれが作って提供しています。管理画面から情報を更新して、回答を選択するAIのエンジンの部分に反映させることができるようになっていて、追加された新しい学習データから新しいモデルを作って中身を入れ替えるといったことが定期的に行われているという形ですね。
導入を希望する目的としてはどのようなことが多いのでしょうか。
山田:社内の案件でいうと、AI導入の目的としてご相談いただくことが多いのは人件費削減や工数削減です。ただ、全てAI化できるという訳ではなくて、AIを導入するとなると、システム化のコストがかかってくるのと、より賢いAIを維持したければメンテナンスを結構頑張る必要があるので、導入したもののトータルで見るとあまりコスト削減にならなかったということもあります。また、99パーセントの精度を仮に達成したとしても、99パーセントでは導入できないというケースもあります。
信頼性が高いことを求められるような局面では、今の段階での導入が難しいところではありますが、これは今後の研究課題としてやっていかなければならないと思います。
どのような作業がAI化に向いているのでしょうか。
山田:自動化するという点ではRPAやAIが考えられると思いますが、AIが得意なのは曖昧性のある判断を自動化するということですね。例えば、農作物の仕分けをする場合、ダメージ具合をみて出荷する・しないの判断をするとか。そういった曖昧性をシステムに取り扱わせることができるのがAIの本質だと思います。
AI戦略室としては、Beyond AI 研究推進機構の運営と発展がミッションということでしたが、その中にあるAIエンジニアリングはどのように関わっていますか?
山田:具体的な連携というと今後の話になりますが、先にお話したような内製開発で培った技術やノウハウを生かして、Beyond AI 研究推進機構での機械学習に関する基礎研究の応用として実装部分を支援するとか、数年内での事業化を見込んだ研究開発。あとは、私どもの部門で抱えている技術的な課題などを共同研究のテーマとして提案し、共同で研究していくというような動きも今後できればと思っています。
セキュリティ分野からAIエンジニアへの転身、そしてテクニカルマイスターへ
AIの開発に携わる前は、セキュリティ部門に所属していた山田は、フリーエージェント(社内公募)制度でAI開発部門に異動。その後2020年に、ソフトバンクの認定制度であるテクニカルマイスター※にAI・ディープラーニングの領域で認定を受けました。
テクニカルマイスター制度とは
専門分野において、突出した知識・スキルを持ったエンジニアに与えられるソフトバンクの社内認定制度。さらなる能力の飛躍と活躍の機会を提供するために、本業と並行して自身の専門分野を自由に研究・開発することが認められている。2018年度にスタートし、2020年6月時点で認定者は23人。
なぜセキュリティ部門からAI開発のチームに異動しようと思ったのですか?
山田:セキュリティの部門で働いていた当時、タブレットでの静脈認証といって、タブレットのカメラに手をかざしてその手の模様で個人識別するシステムの導入を担当していまして、当時はAIという言葉は使われなかったですけど、AIのようなもので技術的にも近しい性質の研究開発に関わっていました。またちょうどその当時、私の個人的な勉強の中で機械学習があるということを知り、デモを動かしてみたんです。写真に写っているものを車であるとか分類するようなものだったんですけど、その性能の良さに衝撃を受けたことでAIチームに参加したいと思ったのがきっかけですね。
その後、現在のAIの内製開発に携わり、テクニカルマイスターのコンセプトに「社内の第一人者」とういうところがあったので、ぜひ認定を受けたいと思い応募しました。
若手エンジニアたちの情熱を大切にしたい
所属部署は若手が多く活躍しているということですが、後進の育成にあたり重視しているポイントがあれば教えてください。
山田:AIの分野は新卒の獲得競争が激しいところにも表れているように、即戦力が強い分野だと思うんです。大学で研究していた人たちが、その知識を使って現場の前線で働くことができる可能性がとても高いので、個人のスキルに合うような仕事にアサインすることがすごく大切だと思っています。
AIの開発をするということは、人並み外れた情熱でいろいろ調査をしたり、実験したりしないと良いものができないと思っているので、その人が今モチベーション高く取り組めることは何かをいつも気にしています。
社内の勉強会や部内研修にも力を入れていて、専門分野はそれぞれの専門性や情熱、やりたいことを生かすようにしつつ、システムの実運用やシステム化におけるノウハウなどは積極的に教えるようにしています。そこが補完できれば、それぞれの専門性に加えて社会人としてのベースラインが整うので、独り立ちできるように早く育てることを意識して育成していますね。
山田さんが今後AIで実現したいことはありますか?
山田:今後さらに技術が発展すれば、機械に任せられる要素がどんどん増えいくと思うので、そこをわれわれのような、部門が拾い上げて実際にシステムにしていくことで、人間でなければできない本当に重要な、なるべくクリエーティブなことにフォーカスできるようなビジネス環境を作るお手伝いができればいいなと思っています。
そういう意味ではあまり壮大な未来みたいなイメージではなくて、なるべく段階的にどんどん便利な世界を現実にデプロイしていくというところが一番やりたいことですね。
(掲載日:2021年3月16日)
文:ソフトバンクニュース編集部
ソフトバンクの研究開発
「Beyond Carrier」戦略で生み出す新しい体験や暮らしの実現に向け、ソフトバンクは、通信をベースとしたさまざまな先端技術の研究・開発に挑戦し続けています。