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商用利用を見据えて、プロフェッショナルとして最新技術を評価する|ソフトバンクの研究開発

商用利用を見据えて、プロフェッショナルとして最新技術を評価する|ソフトバンクの研究開発

ソフトバンクのDNAである「挑戦」と「進化」。通信事業者の枠を超えた革新的なサービスを生み出し、時代を変える企業を目指す上で鍵となるのが「研究開発」です。今回は、ソフトバンクの主要事業である通信の技術評価などを行っているChief Scientist室の筒井室長に話を聞きました。

筒井室長一

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット
技術戦略統括 Chief Scientist室 室長
筒井 多圭志

机上や実験の段階で、商用化を見据えて技術を評価する

Chief Scientist室が担っている役割について教えてください。

われわれのミッションを一言でいうと「新しい技術の評価」です。評価という言葉にはやや表層的な響きがあるかもしれませんが、純粋な評価だけをしているわけではありません。当社が新しい技術を用いてサービス提供することを見越して、設備投資に見合ったリターンを生み出すことができるのか、サービスの運営に耐えうる実用性があるのかを判断するための評価を実施しています。

どのような技術を評価しているのでしょうか?

メインは無線通信技術で、その中でも電波伝達や通信エリア構築に関する評価が多いですね。例えば、5Gでは新たに「Sub6」「ミリ波」と呼ばれる周波数帯を使用しています。ソフトバンクが使用する周波数帯では「3.9GHz帯」がSub6、「29GHz帯」がミリ波に該当するのですが、これらを通信に利用できるように伝達させるのは非常に難しいんです。

3.9GHz帯は電波がほとんど回折しないので、低周波数帯のような通信エリアを作るために、複数ユーザーとの同時通信を可能にする三次元ビームフォーミングを実現したものが5Gで使われています。この仕様変更が5Gに盛り込まれたことにより、Sub6で広範囲の通信エリアをカバーすることが可能になりました。5Gの中でも肝となる技術です。

5Gが実際の通信で利用できる目途が立ったということですね。

三次元ビームフォーミングは1つの基地局で多数のアンテナを利用します。ユーザーごとに専用の電波を割り当てる「SDMA(Spatial Division Multiple Access:空間多重通信)」と呼ばれる技術で、ユーザーが多い都市部でも多数同時接続が可能になります。Sub6を広範囲をカバーするマクロ基地局で実用化できたこと、そして多数同時接続が5Gの主要な特長であり、5Gのほとんど全てと言っても過言ではありません。

元々5Gにはさまざまな要求仕様が存在していたのですが、SDMAはモバイル通信の世界でかなり初期の段階から実現したい技術とされていました。

Chief Scientist室では早くから三次元ビームフォーミングを用いたSDMAに取り組んでおり、その技術を取り入れた「Massive MIMO」など、4Gの段階から実現できていたものもあります。

結果的にわれわれが先行して取り組んでいたMassive MIMOは5Gでも主要な技術になりました。5Gは通信エリアの構築方法がこれまでと大きく異なり、一朝一夕で作れるものではないので、大きなアドバンテージになったと考えています。

通信に魔法はない。着実な進化を積み重ねることが大切

通信

将来を見据えて研究していたことが、現在の5Gに生かされているんですね。

万能のようなイメージが持たれている5Gですが、そもそも科学技術に魔法などありません。モバイル通信の分野では早くから、ほとんど唯一と言っていいほどの課題があって、それはMassive MIMO、コヒーレント伝送方式によるSDMA、複数基地局との通信を最適化するCoMP(Coordinated Multi-Point)の実現です。私はこれがアルファでありオメガ、つまり通信の進化の全てだと思っています。

われわれは当初から課題を絞り、集中的に取り組んできました。Sub6でのSDMAの実現、特にゼロフォーシングという通信方式で電波の干渉を抑制する技術の実装などは、その代表例ですね。基地局同士の通信エリアが重なるセルボーダーにおいて、複数基地局とのデータ通信をコーディネートした上で最適化しています。

通信の進化では、こうした地道な世代を重ねる開発、改良の総合力の積み重ねが必要になってくるんです。「通信に魔法はない」と信じて地道に取り組んできた成果が、5Gで生かされています。

通信の進化は積み重ねや総合力が試されるんですね。

ところで、5Gで使われているもう1つの周波数「ミリ波」はさらに難易度が高いんです。28GHz帯などのミリ波は、電波を道路面や壁面などで散乱させることが難しく、衛星通信でも利用されている帯域のため出力制限がかかっています。安易に通信基地局を作っても電波は視界に入る範囲ぐらいにしか届きません。

三次元ビームフォーミングを利用しても回折や散乱が期待できず、電波が届くのは直接見渡せるところと一部の物陰に限定され、通信サービスとして成立させるには相応のノウハウが必要になります。

ミリ波は、扱いが非常に難しいんですね。

一方で、5Gで定義されていない70~100GHz帯は路面などでの散乱が期待できるので、考慮すべきパラメーターはたくさんあるのですが、ストリート状の通信エリアを構築できる可能性に期待しています。現在、机上検討など基礎的な検討を行っているところです。こんなふうに、われわれは机上検討の段階で電波伝達や通信エリアの構築方法をチェックして、その後の大規模な設備投資に耐えうるかを評価しているんです。

70~100GHz帯というとBeyond 5G/6Gでしょうか?

まだ入り口論のところなのでどうなるか分かりませんが、通信基地局の構築方法も現在と全く違ったものになると思います。現在は基地局の周囲が通信エリアになっていますが、6Gでは粗面散乱を利用して道沿いに通信エリアが構築できるのではないかと期待しています。といっても、まだ机上検討の段階なので、電波伝搬実験などを通して今後検証を進めていく予定です。

70~100GHz帯よりもさらに高い周波数帯になると、もはや光に近い特性を持つようになります。基地局の通信アンテナはLEDパネルそのもの、あるいはLEDパネルを流用したものになるのではないかと考えています。ダウンロード専用になりますが広告用のLEDパネルのようなものがアンテナとして最も適切なのでしょう。ただ、これが実現するのは7Gあたりになると思います。

無線として通信するより普通にLEDディスプレー、あるいは夜間になりますが、ビルの壁面などを利用したプロジェクションマッピングのプロジェクター、デジタルサイネージ、それに準じるものをアンテナとして流用した方が効率的で現実的になるはずです。

未来の巨大産業「ロボット」に関する技術評価も実施

通信技術以外では、どのような分野の技術評価をされていますか?

通信技術以外で取り組んでいる主要なプロジェクトとしては、技術評価の一環として将来的に巨大産業となるロボットに関する研究開発を行っています。まだ小規模ではありますが、ロボット用のソフトウエアプラットフォームであるROS(Robot Operating System)で動作するロボットを製造・販売しているんです。

ロボットの研究開発は取り組むべきことが山ほどあり、それは明確にレイヤー分けされている必要があります。現在われわれができているのはロボットの土台の部分だけ。簡単に参入できると思っていたものの電気的なトラブルを克服できなくて、5年近くの歳月を費やしましたが、近い将来上下する胴体や腕も作るつもりです。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資しているロボットベンチャーFetch Roboticsの後塵を拝しているので、これから頑張っていきたいですね。

ロボットの研究開発で大切な点は何でしょうか?

やはりレイヤーを意識することですね。例えばROSロボットである以上、形態が違っていたとしてもプログラムを大きく変更することなくアプリケーションを動作させられるべきです。それがオペレーティングシステム、あるいはプラットフォームというものが存在する意義ですから。

また、実機がなくても、プラットフォーム上でシミュレーショができたり、動作結果を統一された座標系でレコーディングしたり、プレイバックできたりしないといけません。さらに情報はオープンソースで、参考文献も揃っていて、誰もが容易に学習できなければならないと思います。

つまりロボットとアプリケーションは、明確に上下分離されていないとダメなんです。ロボットが変わったからといってアプリケーションを書き直すなんて、とんでもない話ですからね。このようなプラットフォーム上のロボットがあって、さまざまなアプリケーションが誕生していくことが可能になるわけです。

実際にどのような研究開発をしているのですか?

ロボットの研究開発は現在ちょうどコーチビルダー(馬車を作っていたメーカー)から自動車メーカーが生まれてきたときのような黎明期にあります。なんとかマーケットに首を突っ込めないか、豆腐の角に頭をぶつけながら試行錯誤をしているところです(笑)。

われわれが開発している「Cuboidくん」という自律走行型ロボットは、荷物配達などを目的としてビルのエレベーターに乗る実証実験に参画しています。エレベーターに乗るロボットは欧米にはありますが、これはエレベーターを改造して乗せているわけです。われわれが取り組んでいるのは、ちゃんとAPIを作ってロボットが自動でエレベーターに乗るという本格的な未来を見据えた実証実験なんですよね。

現在はソフトバンク本社ビルがある竹芝周辺で実証実験のために規制緩和していただいており、一般道で走行試験を行っているところです。ロボットの研究開発というビッグタスクの中で、分野を絞って一つ一つ着実に進めているイメージですね。

実験の様子

今後はどのようなことにチャレンジしていく予定ですか?

まずは、さまざまな業務ロボットの土台としての完成度を上げていくこと。それから、現在も小規模な生産は行っているので、試験的な商用に供することができればと考えています。デザインについてもよりかわいく、広く受け入れられるよう検討を重ねているところです。

デザイン

デザイン開発では株式会社Final Aimにご協力をいただいています

また、研究開発の一環として、ロボカップ@HOMEやWorld Robot Summitのフューチャーコンビニチャレンジにも参加しようと準備しています。コンビニチャレンジはコンビニエンスストアの商品陳列・廃棄のタスクをロボットに行わるものですが、棚から商品を取るだけとはいえ商品の認識から商品を安定して掴めるアームの設計まで意外と扱う内容が幅広く、奥深く、大変なんです。

コンビニチャレンジ

これから巨大産業になるロボット産業において、われわれは小規模なコーチビルダーのようなものですが、スクラッチで全てを自前で開発できる体制を構築しています。また、独立性が高く、自由度が高い部署なので、各メンバーにも比較的大きな裁量が与えられていると思います。そんな環境下で省庁の補助金を活用したり、先端研究のプロジェクトに参画させていただきながら、産業育成に役立っていきたいと考えています。

(掲載日:2021年3月29日)
文:ソフトバンクニュース編集部