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身近な野草「葛(クズ)」を活用して、地球環境保護と伝統文化の保全に貢献

身近な野草「クズ」を活用して、地球環境保護と伝統文化の保全に貢献

夏から秋にかけて、野山や道路、河川敷などに生い茂る葛(クズ)を目にすることがあるのではないでしょうか。葛は繁茂力が旺盛なことから「グリーンモンスター」とも呼ばれています。

この葛を原料にした伝統工芸品に「葛布(くずふ・かっぷ)」があります。日本三大古布のひとつに数えられ、昭和30年代には多数の葛布商がありましたが、時代の変化に伴い、現在は2軒だけになってしまいました。

この伝統工芸を後世に伝えていくために、静岡県掛川市と企業や大学、一般市民などが連携した取り組みが始まり、ソフトバンクも葛の利活用を応援しています。

日本三大古布「葛布」とは

日本三大古布「葛布」とは

葛は山野に自生するマメ科の植物で、葛布は葛のツルから取り出した繊維を織り上げた布のことです。
日本3大古布の一つで800年余の歴史があり、静岡県の掛川市を中心に伝承されています。
軽くて丈夫で光沢が美しいという特徴があり、鎌倉時代には、蹴鞠(ケマリ)の鞠袴(マリバカマ)に用いられるなど、貴族に愛される工芸品でした。

毎年1月4日に下鴨神社で行われる「蹴鞠」

毎年1月4日に下鴨神社で行われる「蹴鞠」

江戸時代になると東海道の掛川宿の繁栄とともに葛布も栄え、武士の裃地(カミシモジ)、乗馬袴地、道中合羽地などに使用された他、参勤交代の諸大名のお土産品としても珍重されました。

現在、掛川の手織葛布は静岡県の郷土工芸品に指定され、壁紙や掛け軸、手提げバッグ、日傘、草履などに加工されています。

日本三大古布「葛布」とは

採取から織りまで全てが手作業で行われ、自然をそのまま活かした素朴な感触と、優雅で落ちついた光沢を兼ね備え、しっとりとした雰囲気を作る葛布は、欧米でも人気を博しました。

葛布を使ったすだれ。差し込む光がやわらかい

葛布を使ったすだれ。差し込む光がやわらかい

しかし、コストの安い外国産が出回るようになり、掛川市に40軒ほどあった生産業者は現在は2軒だけに減少。葛布を後世に残し伝えていくために、産業の継承と人材の育成が急務となっています。

葛布が出来るまで

葛布が織り上げられるまでの工程はすべて手作業です。原料となる葛の蔓(ツル)は、6月~8月にかけて山野に自生しているものを採取し、それを釡で煮てから流水に浸し、発酵させ、洗って不要な部分を取り除き、さらに洗って天日に干してやっと葛布繊維が出来上がります。
この繊維を縦に細く裂いたものを結び合わせ1本の長い糸の束(葛つぐり)を作り、緯糸(よこいと)に葛つぐり、縦糸(たていと)に綿糸や絹糸を合わせ葛布が織り上げられます。

葛布が出来るまで

葛布を後世に残す「葛利活用コンソーシアム」を設立

オンライン形式で行われた設立式

オンライン形式で行われた設立式

2021年3月、掛川市の伝統文化である葛布産業を後世に残すとともに環境保全活動に貢献しようと、市内外の26企業・団体(2021年8月末現在)による「葛利活用コンソーシアム」が設立されました。

掛川市、掛川観光協会、掛川商工会議所、ソフトバンク株式会社、多摩美術大学、鈴与株式会社、中日本高速道路株式会社、中部電力株式会社などが参画し、葛を活用して工業製品を開発・販売・使用することで、環境保全につなげるとともに、売り上げの一部を葛布産業の後継者育成に役立てることを目的としています。

葛布を後世に残す「葛利活用コンソーシアム」を設立

有用植物でもあり有害雑草でもある葛の二面性を生かす

葛は昔から日本人に身近な野草として万葉集にも詠まれ、有用植物として、葛粉、葛布、葛根湯(かっこんとう)など、さまざまな形で利用され、地球環境面でも、二酸化炭素を取り込んで育ち、多方面で有益性に秀でています。

その一方で、生命力が強く道路・鉄道・河川敷などのあらゆる場所に繁茂し、植栽木や電柱、電線、フェンスに絡みつき、景観や生態系を阻害したり、植栽木の生育を妨げたり、災害の原因になるなど、深刻な雑草害を引き起こしています。

フェンスにからみついて伸びる葛

フェンスにからみついて伸びる葛

そこで、葛の有用植物と有害植物の二面性を生かす、循環型の環境貢献の取り組みとして「葛利活用コンソーシアム」が設立されました。

葛利活用コンソーシアム会長で掛川葛布事業協同組合の小崎隆志組合長にお話をうかがいました。

「歴史ある掛川の葛布産業を後世に残すにあたり、葛のさまざまな利活用を検討しました。コンソーシアムでは、グリーンモンスター化した葛をペレットに加工し、紙製品の原料とする他、あらゆる観点から利活用して製品を作り、それを使用することで、環境保全活動に貢献するとともに、売り上げの一部を後継者育成支援金として活用し、葛布産業を担う人材の育成に取り組んでいます。
葛布は長い工程をかけ、丹精込めて織り上げています。より多くの方に掛川葛布の良さを知っていただき、歴史ある葛布産業を後世に残したいと思っています」

葛利活用コンソーシアム会長で掛川葛布事業協同組合の小崎隆志組合長にお話をうかがいました。

ソフトバンクも地域の自然環境と伝統工芸の保全に協力

ソフトバンクと掛川市はICT包括連携協定を締結し、ICT活用に加え、地域の自然環境と伝統工芸の保全などの面でも協力することで、「希望が見えるまち、誰もが住みたくなるまち掛川」の実現を目指しています。

葛利活用コンソーシアムに参画し、高速道路などから刈り取られた葛の葉や茎を一部使用したSDGsの名刺を採用。これまで焼却処分するしかなかった未利用資源の活用によって二酸化炭素の排出や、パルプ使用量の削減という環境施策につながる他、この紙費用の一部が葛布などの文化的活動保護にも活用されています。

地域に根差した伝統文化。掛川で800年前から織られてきた手織物は、循環型の環境貢献の取り組みによって、未来へと続いていきます。

SDGsの目標「11、12、13」

今回ご紹介した内容は、SDGsの目標「11、12、13」に対し、SDGsの達成と社会課題解決を目指す取り組みの一つです。

(掲載日:2021年9月2日)
文:ソフトバンクニュース編集部