普段から通っているクリニックで高度な治療が受けられるようになると、わざわざ大きい病院へ転院せずに済んで便利ですよね。2021年7月から8月にかけて、ソフトバンクの5GネットワークやVR・AR・3Dプリンティング模型などを活用した歯科治療の遠隔手術支援の実証実験が、東京と大阪間で行われました。最新技術を用いて遠隔地から実施されたインプラントの手術支援の狙いはどこにあるのでしょうか?
クリニック依存度が高い歯科医のスキル習得を、遠隔地からサポート
医療分野では、AI(人工知能)を活用した医療システムの開発などさまざまな技術革新が行われています。遠隔地からの手術支援は、医師間の技術的な格差や、実用化に向けた事前検証の実現が難しいという問題から、なかなか取り組みが進まずにいました。
今回の実証実験は、「高速・大容量」という5Gの特長と、3Dプリンティング技術とXR(Extended Reality)技術を組み合わせた遠隔手術支援の実用化に向けた試みです。
実証実験の狙い
①経験豊富な医師による遠隔指導で、どこからでも高度なスキル習得を可能に
②患者の3Dプリンティング模型を用い、本番さながらの術前トレーニングを実現
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VR(Virtual Reality・仮想現実)やAR(Augmented Reality・拡張現実)、MR(Mixed Reality・複合現実)などの、仮想世界と現実世界を融合し、新たな体験を創出する技術の総称
経験豊富な医師による遠隔指導で、どこからでも高度なスキル習得を可能に
現在、若手歯科医らの診断・治療技術は主に勤務先のクリニックにいる経験豊富な医師との対面指導によって培われています。遠隔地からの手術支援では、場所の制約を受けずに、経験のある指導医による術前から術後までのトータルサポートが期待できます。
なかでも、インプラント手術は難易度が高いとされています。勤務先のクリニック以外の医師から遠隔指導を受けることで、若手歯科医の技術習得に役立ち、クリニックでの対面指導への依存の軽減が期待できるほか、普段から通っているクリニックでより高度な治療を受けられるという患者側のメリットもあります。
患者の3Dプリンティング模型を用い、本番さながらの術前トレーニングを実現
インプラント手術の術前に行う画像検査では、CTやMRIで取得する2次元データを用いるのが一般的です。今回の実証実験では、患者のデータを基に作成した、より精密な3DモデルをXR空間上に再現することで、これまで目視が困難だった神経や顎骨を可視化。高精細なVR・AR映像は非常に大きなデータで構成されていますが、「高速・大容量」という特長を持つ5Gの活用により、複数のデバイスに遅延なく安定して届けることができます。
また、実際の患者と等サイズの3Dプリンティング模型もあわせて使うことで、これまで実現が難しかった本番の手術に近い環境での手術前のトレーニングを実現。さらに安全で精度の高い手術を行うことが可能になります。
実際の患者さんの治療・手術を行うことが、若手歯科医の主な技術習得の場であるといった課題の解消にも役立つとのことです。
全て遠隔地から実施。手術前シミュレーションから実際の手術支援まで
実証実験は、東京と大阪をつなぎ、3つのステップで進められました。
実証実験の流れ
実施内容 | 東京側 | 大阪側 | |
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ステップ① | 患者の3DモデルとXRを活用した事前トレーニング | ソフトバンク本社(竹芝) | 5G X LAB OSAKA |
ステップ② | なんばアップル歯科 | ||
ステップ③ | 映像を通した手術本番のリアルタイムサポート | なんばアップル歯科 |
ステップ①②患者の3DモデルとXRを活用した事前トレーニング
VR空間上で患者の顎骨(がっこつ)のCTスキャンデータから生成した3Dモデルを使い、症例の検討と手術手順を確認する事前レクチャー。ステップ①では過去に手術を受けた患者のデータ、ステップ②ではステップ③で実際にインプラント手術を受ける患者のデータを基にして作成された3Dモデルが使用されました。
離れた場所にいる指導医と若手歯科医らは、VRデバイスを装着することで、VR空間で患者の3Dモデルを見て、手術前のトレーニングをすることができます。VR空間では、3Dモデルだけでなく、自分の手や大阪にいる若手歯科医のアバターも確認できるのが見て取れます。
その後、患者のデータを基に作成した3Dプリンティング模型を用いて、実際の手術環境に近いトレーニングへ移行。東京側の指導医が映像を確認しながら手術へのアドバイスを行います。
執刀医は、指導医の助言だけでなく、AR空間で顎骨や神経の3Dモデルを確認する介助者からのサポートも受けられます。
ステップ③いよいよ手術本番。映像を通したリアルタイムサポート
手術本番では、東京にいる指導医が、執刀医の視点、介助者の視点、手術台などに固定した外付けカメラの複数台の映像を切り替えて確認しながら、大阪の執刀医らにアドバイスを行いました。
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ソフトバンク本社(東京・竹芝)、大阪「なんばアップル歯科」間で実施。
手術の録画映像と、今回使用した3Dプリンティング模型やXRツールを活用することで、より多くの若手歯科医が手術のシミュレーションを行うことが可能になるそうです。
実際に手術支援を受けた若手歯科医らは、「従来はCTスキャンの画像を確認して手術を行うところを、3Dプリンティング模型を用いた事前シミュレーションで細かい指導をしてもらっていたので、自信を持って本番の手術を行うことができた」「遠隔地からの指導も、特にタイムラグを感じることはなくスムーズに受けられた」とコメント。
実証実験で指導医を務めた株式会社Dental Predictionの宇野澤元春医師は、歯科領域における遠隔手術支援システムについての期待を表しました。
宇野澤「医療の現場では、学びの場と実際の臨床の場がかけ離れているという現状があります。特に、高度なテクニックが必要とされるインプラント手術は、クリニックにとっても大事な症例で、通常経験豊富な医師が担当するため、若手歯科医が技術を学ぶ機会も乏しくなりがちです。遠隔地から手術前シミュレーションを行うことで、場所にとらわれずに、経験のある指導医からの技術習得と、実際の症例データのみならずビッグデータを活用したさまざまな手術の疑似体験も可能になるので、患者さんは安全に、医師は安心して治療に臨めます」
5G X LAB OSAKA
ソフト産業プラザTEQSに開設した、5Gを活用する製品・サービスの開発を支援するためのオープンラボです。
5G環境での開発・検証と5G活用事例のデモを体験できるほか、ビジネスサポートも実施しています。
本実証実験に参加した企業
- Holoeyes株式会社
遠隔指導・手術支援ツールの提供を担当
- 株式会社Dental Prediction
3Dモデルおよび3Dプリンティング模型の作成、遠隔地からの診断・指導・トレーニング・手術支援を担当
(掲載日:2021年9月15日)
文:ソフトバンクニュース編集部
先端技術で日常生活が劇的に変わる時代へ
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