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週20時間未満でも働ける「ショートタイムワーク」。障がい者の就労機会が拡大

週20時間未満でも働ける「ショートタイムワーク」。障がい者の就労機会が拡大

2030年には600万人を超える人材が不足すると言われている日本。一方で、働きたいという意欲はあるけれど、思うように働くことができない人も多くいます。ソフトバンクは、障がいにより長時間勤務が難しい人を対象に、週20時間未満から就業できる「ショートタイムワーク」を2016年から開始。 現在では子育てや介護、がん闘病などで長時間勤務が難しい方にもショートタイムワークの対象を拡大しています。

今年4月には「障害者雇用促進法」の一部が改正され、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者についても法定雇用率の算定対象になるなど、社会制度にも変化がありました。多様な人材が活躍できる短時間就業に関心が高まる中、ソフトバンクの担当者にショートタイムワークの取り組みについて話を聞きました。

  • 出典:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計 2030」

横溝 知美(よこみぞ・ともみ)

ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 CSR本部 多様性・情報化推進課

横溝 知美(よこみぞ・ともみ)

20時間未満で働く機会を創出「ショートタイムワーク」

ショートタイムワークは、障がいなどの事情により長時間勤務が困難な方が、週20時間未満から就業できる働き方で、東京大学先端科学技術研究センターの近藤教授が提唱する「超短時間雇用モデル」をもとに近藤教授とソフトバンクで仕組み化し、2016年からソフトバンクで導入しています。

ショートタイムワークとは

人を採用してから仕事を割り当てる一般的な日本型雇用の新卒一括採用方式とは異なり、先に仕事を決めてその業務ができる人を募集するため、例えば「語学力」や「分析力」のようなシングルスキルで活躍できるというのが大きな特徴です。苦手とする業務や他の人に分担してもらった方が生産性が上がる業務などを切り出し、ショートタイムワーカーに依頼することで、業務を依頼した担当者は空いた時間を自分のコア業務や新しい業務に充てる時間が創出でき、組織全体の生産性の向上にもつなげることができるというメリットがあります。

ショートタイムワークの考え方

長時間の勤務が困難な障がい者の雇用機会が拡大

ショートタイムワーク導入の背景には、障がいのある方が短時間から働く選択肢が少ないことや、キャリアを始める・リスタートするチャンスが少ないという課題がありました。日本型雇用は週40時間以上の労働が必要で職務定義がなく、長時間労働が可能で何でもできる人が求められがち。また、2016年当時の社会制度では、週20時間未満の雇用の場合は「障害者雇用率制度」の算定対象外となっていました。

障害者雇用率制度とは、雇用する従業員数の一定割合以上の障がい者の雇用を義務付けるもの。2024年4月の障害者雇用促進法の一部改正により、民間企業の場合、現状の2.3%から2026年4月をめどに2.7%に引き上げられることになった一方で、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者が、特例的な取り扱いとして、実雇用率上、1人をもって0.5人と算定されることとなりました。

雇用率の算定カウント数は、週の所定労働時間と障がいの種別によって分けられます。青枠部分が今回対象に追加されたところ。

雇用率の算定カウント数は、週の所定労働時間と障がいの種別によって分けられます。青枠部分が今回対象に追加されたところ。

横溝

「厚生労働省の労働政策審議会 (障害者雇用分科会)などが実施される中で、短い時間であれば働くことができる方が多くいるという声が上がり、週10時間以上20時間未満の労働者についても算定の対象に入れるべきだという議論に。それを受け、今回追加になったそうです」

さまざまな部門で活躍するショートタイムワーカー

ソフトバンクではこれまでに累計69人のショートタイムワーカーが81の部署に勤務(2024年3月時点)。2016年当初は郵便物の仕分けや書類のファイリングなどの事務サポートが中心でしたが、現在は、プログラミングや翻訳、記事作成などのスキルを生かした業務や、システム関連分野など幅広い業務で活躍しています。内訳としては、障がいのある方が57人、障がい以外の子育てや介護、がん闘病中などの理由で長時間勤務ができない方が12人。より多くの方に働く機会を提供すること、また、ある程度期限を設けることで次を考える機会を提供するという意味で、勤続期間は最長5年としています。

勤務部署(社内事例)

横溝

「ショートタイムワーカーの週あたりの労働時間における人数比では、約60%が今回の法定雇用率改正によって対象に追加された、週10時間以上20時間未満となっています。企業の中には、週10時間以上20時間未満で依頼したい業務のニーズがあるということだと考えます。企業側がショートタイムワークのような働き方を受容していくことで、ニーズに合った人材を適切な時間数で獲得できることは企業の人材不足解消にもつながっていくと考えます。今後は企業の雇用もさらに広がっていくのではないでしょうか」

週労働時間の人数内訳(2023年12月時点在籍14名※障がい者のみ)

小さな成功体験が働くことへの自信につながり、社会を支える側に

ソフトバンクでの最近の事例を教えてもらいました。

一つ目は、50代のAさん。強迫性障がい、広汎性発達障がい、社会不安障がいなどがあり、一般企業に勤めたのはショートタイムワークが初めて。 週1日4時間から出社し、動画内にある対象にタグづけを行うアノテーション作業が仕事でした。Aさんから、「今までは支援側と支援される側で立場がはっきり分かれていましたが、その垣根がないことに気づきました」というコメントが寄せられました。支援者である就労支援機関からも、「ショートタイムワークで働くようになって、自ら問題を解決しようという姿勢が見られ、目に見える成長を感じた」と、考え方や姿勢にも大きな変化があったことが報告されたそうです。ショートタイムワークを「卒業」したAさんは、その後、ソフトバンクで身に着けたスキルを生かし、一般就労しています。

事例①(Aさん)

二つ目の事例は、広汎性発達障がいで大学を卒業後も就職不安のため研究生として大学に在籍していたというBさん。週1日4時間、最初はアンケートの分析やまとめなど簡単な業務からスタート。最終的にはGAS(Google Apps Script)などのスキルを身につけたほか、積極的に自ら学ぶようになり、職場に必要な存在となったところ、ショートタイムワークを「卒業」して企業へ就職をされたということでした。

ショートタイムワークでの小さな成功体験が、ショートタイムワーカーにとっては収入や働くことへの自信、スキルアップにつながり、受け入れる企業にとっては生産性の向上や人材不足の解消、企業文化の醸成などにもつながっていく。多様な人々が社会参加や収入を得るというだけではなく、雇用する企業にとっても有用な働き方と位置付けられることが重要なポイントです。

ショートタイムワーク実施のメリット

横溝

「ショートタイムワークは障がいのある方を対象にスタートしましたが、 障がいのある方以外にもこのような働き方を希望する方が多くいるという声が寄せられています。子育てや介護、闘病中などさまざまな方を対象に、時間や場所、ライフステージなどに縛られず、誰もが自分らしく活躍できる環境を社会の中につくっていきたいです。社会の中で助けを受けながら生活をされている方が社会を支える側に回っていただけるような、そんな社会になったらと思います」

地域の眠れる人材が企業や地域で活躍する人材へ

地域の眠れる人材が企業や地域で活躍する人材へ

ソフトバンクは、ショートタイムワークという働き方を社会全体に広げるため「ショートタイムワークアライアンス」の活動を推進しています。地域や業界の垣根を超え、誰もが働きやすい環境づくりを目指すために2018年に発足され、参加団体は現在226団体に拡大しています。

2024年3月26日にアライアンス総会が開催され、厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課 課長補佐の細川拓郎氏から法定雇用率改正の概要説明が行われたほか、「超短時間雇用モデル」の提唱者である東大先端科学技術研究センター 教授の近藤武夫氏による講演や、岐阜市と西尾市からショートタイムワークの活用事例の報告が行われました。

近藤氏は、企業や自治体が地域で連携して、多様な人々が超短時間で活躍できる柔軟な働き方を生み出す地域システムに関する研究を紹介。岐阜市と西尾市からは、経験やスキルを生かして短時間で働くワーカーとのマッチングや女性活躍の事例が報告されました。

ソフトバンクは「ショートタイムワークアライアンスは、地域の眠れる人材が企業や地域で活躍する人材に変わる効果を生む」との考えの下、今後はさらに地域の企業とも連携した取り組みを推進していきます。

「ショートタイムワーク」を社会に普及させる

ショートタイムワークアライアンス

「ショートタイムワーク」の普及に取り組む「ショートタイムワークアライアンス」ではアライアンスに参加する企業・自治体などの間で事例やノウハウを共有し、ウェブサイト上で取り組みを紹介しています。

ショートタイムワーク
アライアンス

(掲載日:2024年5月17日)
文:ソフトバンクニュース編集部