2020年5月に「すべてのモノ・情報・心がつながる世の中を」というコンセプトを掲げ、SDGsの取り組みを強化したソフトバンク。いま実際に、どのような取り組みが行われているのか、担当社員が自らの言葉で事例を紹介します。第4回は、AIやIoTを活用して水を再生処理し、持続可能な水インフラの構築を目指すWOTA社との取り組みです。
今回、話を聞いた人
ソフトバンク株式会社
法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部 第一ビジネスエンジニアリング統括部 次世代水インフラプロジェクト
上野 明理(うえの・あかり)
新卒入社後は法人事業部門に配属され、デジタルマーケティング推進などに携わる。入社5年目からIoT案件のコンサルティングを担当。IoTに関する見識を深め、2017年に立ち上がったデジタルトランスフォーメーション本部へ異動。現在は次世代水インフラプロジェクトのプロジェクトリーダーを務めている。
日本がこれから直面する「水道インフラ維持」の課題
私はソフトバンクと資本・業務提携をしているWOTA株式会社と連携して、次世代水インフラプロジェクトを推進しています。
「人と水の、あらゆる制約をなくす。」というビジョンを掲げるWOTAは、AIやIoTを活用した先進的かつ独自性の高い水処理技術を持つ企業。両社で協力しながら、日本が抱えている水に関する社会課題の解決に取り組んでおり、これはSDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」につながるプロジェクトと言えると思います。
WOTA株式会社
独自の水処理自律制御技術を基盤に、自律分散型水循環システムの開発を手掛けている。2021年5月10日にソフトバンクが資本・業務提携を発表。ソフトバンクは公衆衛生ソリューションの1つとして水循環型手洗い機「WOSH」を提供している。
少し余談になりますが、日本企業はSDGsの他の目標と比べて、目標6への取り組みを本格的に実施できている企業が少ないという話をよく耳にします。確かに日本で普通に暮らしていると、水で不自由を感じる機会は少ないですよね。「日本は水資源に恵まれており、大きな課題は存在しないのではないか?」という印象を持っている方も多いのではないでしょうか。
私も、WOTAと出会うまではそう考えていました。しかし、日本を支えている水道インフラは、実は大きな転換期に差し掛かかっているんです。
最近「水道管が破裂して断水が発生している」というニュースを目にすることがあります。主な原因は、高度経済成長期時代に整備された水道インフラの老朽化です。本来ならば、耐震補強など水道インフラを補修・更新しなければならないのですが、水道料金収入だけではそのコストを賄えない自治体が数多く存在します。
現在、日本の水道事業を維持するコストは年間で約10兆円と言われています。一方で水道料金収入は約6兆円。不足分には地方債や国庫支出金などの税金が投入され、なんとか水道インフラを維持されている状態です。今後、日本で人口減少や過疎化などが進んでいけば、水道料金を大幅に値上げするか、それができなければ破綻するか、という状況にまで追い詰められています。
また、水道インフラを維持する浄水場などで働く技術者も不足し始めており、属人的な運用に頼らない、より効率的な運営が求められています。いま、日本の水道インフラは大きな岐路に立っているんです。
安全かつ最適に水処理を行うためのデータを蓄積中
水道インフラの課題解決につながるのが、WOTAのコア技術であるIoTやAIを駆使した水処理技術です。WOTAが独自開発したIoTセンサーで水質項目を計測すると、AIがビッグデータを基に最適な再生処理プロセスを導き出します。再生処理率は98%以上。水は周囲に飛び散ってしまったり、蒸発してしまったりするので、実質的な再生処理率は100%に近いと言えるでしょう。
また、センサーの計測データはWOTAのクラウドに学習データとして蓄積されるため、最適な再生処理プロセスを導き出すAIのアルゴリズムは常に進化を続けています。つまり、さまざまなシーンで生まれる排水を、安全かつ最適に再生するノウハウが蓄積され、水処理の効率化につながるんです。
現在、ソフトバンクでは公衆衛生ソリューションとして、WOTAの水循環型手洗い機「WOSH」を販売していますが、WOSHに搭載されたセンサーのデータもAIを進化させる貴重な材料として活用されています。
WOTAの水処理技術を活用すれば、技術者不足に悩む水処理施設の効率化だけでなく、既存の水道インフラから独立した水供給システムを構築することができます。地域や家庭単位の小さな浄水場を作るようなイメージですね。
人口減少で水道インフラの維持コストを賄えない過疎地域や、水道インフラの敷設が難しい島しょ部、自前の水道管の維持に課題を抱える民間のリゾート施設などには非常に有効ですし、俯瞰的に見れば、日本全体の水道インフラの最適化につながっていくと考えています。
解決すべき水の課題に、真正面から対峙する
次世代水インフラプロジェクトは、まだ道半ばです。ただ、解決すべき社会課題に真正面から向き合っている自負はありますし、自分や家族が将来安心して暮らせる地球にするための取り組みなので非常にやりがいを感じています。
たまに「なぜ通信事業者のソフトバンクが、水の事業をするのですか?」と言われることがあるのですが、「Beyond Carrier」戦略の下で、従来の通信事業者の枠を超えて、さまざまな産業分野で革新的なサービス創出に取り組めるのは、ソフトバンクの大きな強みだと思います。他社との共創、DXの取り組みによって社会課題に対峙できることにも誇りを持っています。
そう遠くない未来、水道インフラの課題が深刻になったときに「ソフトバンクがいて良かった」と皆さんに感じていただけるよう、人が生きていく上で必要不可欠な水の課題に対峙していきたいと思います。
ソフトバンクのマテリアリティ④「テクノロジーのチカラで地球環境へ貢献」
ソフトバンクは、SDGsの達成に向けて6つのマテリアリティ(重要課題)を特定。そのうち、SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」を踏まえた「最先端テクノロジーによる新しいビジネスモデルの展開」では、最新のテクノロジーを活用し、気候変動への対応・循環型社会の推進・自然エネルギー普及に貢献することを目指しています。
(掲載日:2021年9月22日)
文:ソフトバンクニュース編集部