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なぜ、半導体メーカーとソフトバンクが組んだのか。AI × 5Gで進化したミライを魅せる研究施設「AI-on-5G Lab.」

なぜ、半導体メーカーとソフトバンクが組んだのか。AI × 5Gで進化したミライを魅せる研究施設「AI-on-5G Lab.」

2022年夏、半導体メーカー・NVIDIAとソフトバンクが合同で研究施設「AI-on-5G Lab.(エーアイ・オン・ファイブジー・ラボ)」を開設する予定です。「AI-on-5G Lab.」が目指すのは、AIと5G技術を組み合わせて作る、新しいイノベーション。ソフトバンクと半導体メーカーが合同で研究施設を設立することに、どんなメリットや狙いがあるのでしょうか。ソフトバンクの担当者に話を聞きました。

話を聞いた人

堀場 勝広(ほりば・かつひろ)さん

ソフトバンク株式会社
テクノロジーユニット 先端技術開発本部 ネットワーク研究室 室長代行
堀場 勝広(ほりば・かつひろ)

AIと5G技術をかけ合わせると、何が実現できるの?

今回NVIDIAとソフトバンクが合同で開設する予定の「AI-on-5G Lab.」では、いったい何が実現するのでしょうか。そのほとんどのメリットは、AIを活用してDX(デジタル・トランスフォーメーション)を目指す企業に向けられたものです。

AIと5G技術をかけ合わせると、何が実現できるの?

一つ目の利点は、AIをあらゆる場所で働かせられるようになること。5G技術によってAIを使える領域が広がるため、これまで時間がかかっていた作業も短縮することができるようになります。二つ目の利点は、ヒューマンエラーを減らすことによる作業の効率化です。企業が自らの事業に特化した形で導入するエンタープライズ5Gの活用事例を検証することで、その具体的な活用方法やメリットを検討しやすくなるそうです。

「例えば、エンタープライズ向けの5Gを導入している工場などでは、通信をほとんど行っていない夜間帯に、MECに集積された情報をAIが学習するためのコンピューティング資源として活用することで、工場の生産性向上を図ることができるといったメリットがあります。いずれは、AIを搭載したアプリケーションを開発する企業に向けて、5Gネットワークを用いたテスト環境を提供することも視野に入れたいですね」

ソフトバンクが提案する法人向けの5Gサービスについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

なぜNVIDIAと? それぞれの強みが織りなすシナジー

AIと5G技術をかけ合わせることにメリットがある一方で、この2つの技術の統合は簡単にはできません。5Gネットワーク上でAIの機能をスムーズに働かせるためには、「①ハイレベルなモバイルネットワークシステム」「②AIマネジメント/アプリケーション」「③新しいクラウドコンピューティングの構築」といった、3つの複雑な技術への深い理解が必要とされるからです。

この3つの分野に関する知識すべてを持ち合わせている企業はほとんどいないという背景が、今回ソフトバンクとNVIDIA合同の研究施設「AI-on-5G Lab.」開設の裏側にあります。

堀場さん

「こうした多様な技術に対する知識を持ち、一社で実現するのは非常に大変です。ソフトバンクは、AIのマネジメントや基礎的な技術に強いNVIDIAと連携し、クラウドネイティブな5Gネットワークを提供するMavenirなどの技術を活用しながら研究施設『AI-on-5G Lab.』を設立する理由はそこにあります」

vRANとMEC。鍵となる2つのテクノロジーで可能になること

NVIDIAとの連携でできるようになることの一つは、vRAN(仮想無線アクセスネットワーク)やMEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)を活用した新しいネットワーク環境の整備です。このネットワーク環境の特長は、しっかりとしたセキュリティや高い拡張性、ほとんど遅延がないところ。AIと5G技術の統合に重要な役割を果たすこの2つの技術のおかげで、AIと5G技術を1つのシステム上で一緒に動作させ、1つのプラットフォームで効率的な処理ができるようになります。

vRANとMEC。鍵となる2つのテクノロジーで可能になること

vRANは、NVIDIAが提供するGPU(画像処理装置)が活用されており、サーバー上にソフトウェアで通信機器を構成できるといった特長があります。今まではシステムをアップグレードする際にハードウェアを新しく交換する必要がありましたが、vRANによりハードウェアを同等の機能を持つソフトウェアに変換することで、その必要がなくなり大きくコストを削減することが可能になります。ソフトウェアのおかげでさまざまなアプリやサービスに対応できるといった柔軟性も高まります。

もう一つの技術であるMECは、簡単にいうとコンピュータの処理とソフトやアプリを最終的に使用する消費者を近づける仕組みです。これにより遅延が解消され、これまでの方法に比べて、処理速度の向上や伝送コストの軽減、セキュリティリスクの低下といったメリットが生まれます。また、vRANのために搭載されたGPUをMECで共有することで、高度なAIの推論や学習にも利用することができます。

キーワード
  • MEC…Multi-access Edge Computing(マルチアクセスエッジコンピューティング)の略。ユーザ―の端末近くにサーバーを分散的に配置することを指す。従来の通信経路を物理的に省略するため、遅延が少なくなる
  • vRAN…virtual Radio Access Network(仮想無線アクセスネットワーク)の略。インターネットの通信処理に使われるハードウェアの機能を、汎用のサーバ内で仮想化することで、ハードウェアなしで通信処理を行えるようにする技術
  • GPU…Graphics Processing Unit(画像処理装置)の略。高精度の画像生成・処理に長けている半導体プロセッサで、ゲームや映像制作以外に、近年ではデータ分析やAI分野でもよく耳にする単語

いずれは私たちの生活を変えるかもしれない

こうした複雑な技術を結集させたのが「AI-on-5G Lab.」。すでにDXに取り組む企業は、安全な5G環境で、仮想測位システム(VPS)やバーチャルリアリティ(VR)、拡張現実(AR)といった最新AIアプリケーションのテストを行うことができるそうです。スマートリテールや工場自動化などの事例にもソリューションが適用される可能性があります。

いずれは私たちの生活を変えるかもしれない

堀場さん

「5GとMEC上でAIアプリケーションが実装されれば、私たちの暮らし方も大きく変わるかもしれません。例えば、大きなHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が必要なARやVRも、5GとMECで複雑な計算の負荷を軽減できればデバイスを軽量化できるので、小さな眼鏡をかけるだけで楽しめるようになるかもしれません。他にもカメラの画像から屋内の正確な位置もAIで推測できるので、スーパーに行ったときに、その人の買い物リストに応じてARで店内誘導してくれるような未来がやってくるかもしれませんね」

Beyond 5G/6Gに向けた12の挑戦「AIのネットワーク」

「AI-on-5G Lab.」は、ソフトバンクが2021年に公開した「6Gに向けた12の挑戦」の一つである「AIのネットワーク」の開発検証を行う場として活用が見込まれています。また、2019年からGPUを活用した仮想基地局の技術検証に取り組んでおり、AI技術とネットワークが融合したMEC環境を実現していきます。

Beyond 5G/6Gに向けた12の挑戦「AIのネットワーク」

(掲載日:2022年2月7日)
文:ソフトバンクニュース編集部