ソフトバンクと国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所（以下「森林総合研究所」）は、将来の「スマート林業」の実現に向け、電動ロボットが林業で担える作業を検証するための実証実験を開始。6月28日に、電動四足歩行ロボットが荷物を積載し、坂を上り下りするデモンストレーションが公開されました。
林業におけるさまざまな問題の解決と、脱炭素の両方を目指す
日本のさまざまな産業で人手不足や脱炭素化が課題となっていますが、林業も例外ではありません。林業では、人工林を伐採した跡地に再び苗木を植えることで、木材の安定供給や森林を適切な状態に保つための「再造林」が重要になるそうです。ところが、傾斜地の多い日本の山林では機械の活用が難しい上、危険な作業現場など従事者にかかる大きな労働負荷など、多くの問題に直面しているといいます。そこでソフトバンクと森林総合研究所は、ロボットを使うことによりどのような課題に対応できるか、共同で実証実験を行うことに。2021年度に実施した電動四足歩行ロボットの歩行実験を踏まえ、2022年度の実証実験として、6月28日に荷物を積載した状態で勾配を上り下りする様子が報道陣に公開されました。
また本実証実験は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構（以下「NEDO」）から受託した、「NEDO先導研究プログラム／農山村の森林整備に対応した脱炭素型電動ロボットの研究開発」として、脱炭素での林業の実現も目標とします。
デモンストレーションは、森林総合研究所（茨城県つくば市）の敷地内に設けられた試験場を山林に見立てて実施。米Ｂoston Dynamics社製の四足歩行ロボット「Spot(スポット)」に林業で運搬する荷物に見立てた水の入ったペットボトル6本（約12kg）を背負わせ、足元が悪く25度の傾斜がある坂を上り下りする様子が公開されました。今後の実験では、Spotはソフトバンクの高精度測位サービス「ichimill(イチミル)」の位置情報を活用して、定められたルートを自動で歩行する機能などの開発に取り組みます。
実証実験の中からロボットにできることを検証する
同日の記者向けの説明会で、森林総合研究所 研究ディレクターの宇都木玄氏（写真右）は、日本の林業が置かれている状況を説明しました。それによると、日本の木材資源は豊富にあるものの、国際的な価格競争などにより国内需給率が40％程度に低下し、必要な伐採ができず再造林が難しくなっている状況だといいます。加えて、きつい傾斜や切り株を越えての作業は人でないとできない一方、需要低下による雇用維持の難しさや、少子高齢化による担い手不足のため、山林の管理もままならない悪循環に陥っていると指摘しました。長期的な解決策は、国内の木材供給力の強化により、再造林ができる循環にしていくことが重要になりますが、問題は山積している状況です。
こうした課題への解決策のひとつが、ロボットの活用です。宇都木氏は「走破性が高く、多機能に使える機械の開発が必要で、さらに小型で脱酸素に向けた電動化が必須。最初は人の作業の手伝いから始め、見回り、森林管理の自動化、人の安全確保、そしてそれらの連携による全自動化」などが考えられ、今回の実証実験での検証が重要と強調します。そしてソフトバンクに対しては、「一次産業でのロボットの具体的な活用ポテンシャルを明らかにしていただくとともに、その実用に向け、通信を含めた課題検討を先導していっていただきたい」と期待を寄せます。
ソフトバンクの持つ最新の技術で林業の問題を解決していきたい
ソフトバンクから出席したコーポレート統括 CSR本部 地域CSR企画室 室長の安東幸治は、「日本の林業は岐路に立たされているが、最新の技術で解決できることは多い。当社は2030年までのカーボンニュートラル実現を掲げており、林業でも二酸化炭素の排出を削減した形での作業環境を作っていきたい。また、通信を含めた最先端の技術を使うことで林業自体を活性化したい。今回の実証実験では、四足歩行ロボットを実際の造林地で使うことで、何ができて何が難しいのかを検証する」との抱負を述べました。
実証実験は今後、つくば市と北海道下川町で計2回の実施が計画されており、ロボットがどのように稼働できるかの研究のほか、衛星通信や長距離・広範囲をカバーするWi-Fiなど複数の手段を用いた通信環境の構築や検証を行っていく予定です。
今回の実証実験に関する詳細は、以下のプレスリリースをご覧ください。
スマート林業の実現に向けて、電動四足歩行ロボットを荷物の運搬などに活用するための実証実験を実施（2022年6月28日 ソフトバンク株式会社）
（掲載日：2022年7月6日）
文：ソフトバンクニュース編集部
