ソフトバンクで5GやBeyond 5G/6G、自動運転といった先端技術の研究開発を行っている部門が、CEO直下組織の「先端技術研究所」 として2022年4月に新たなスタートを切りました。研究所設立に至った経緯や担う役割、今後の構想について、所長の湧川隆次に話を聞きました。
ソフトバンク株式会社 先端技術研究所
所長 湧川 隆次(わきかわ・りゅうじ)
“自前主義” からの脱却。産学官とのオープンな連携で、スピード重視の研究開発を
先端技術研究所ではどのような研究を行うのでしょうか。
基礎・応用・共同の3つのフェーズで研究を行っていきます。5GやBeyond 5G/6G、HAPSのような未来の通信技術などの基礎研究を基に、ネットワーク、エンジニアリング、デジタルアートなどで使われている基本技術を、他分野で活用できるような応用研究を行います。例えば、主に自動運転のための技術と思われている「自己位置推定(自分の位置情報を推定する技術)」が、実はメタバースでの位置測定にも応用できるなど、同じ技術でも活用方法は無限大の可能性を秘めているんです。国や大学と連携してそういった技術の共同研究を進め、基礎から応用まで、実用化に向けた連携を行っていく予定です。
基礎・応用・共同、3つのフェーズで研究を進める上で重視していることは何ですか。
実用化までのスピードですね。われわれの事業領域である通信インフラやソフトウエア技術は、今や社会システムに欠かせない技術になりました。技術も社会もすごいスピードで進化している中で、研究開発に5年、10年も費やしていたら、技術が完成したときには社会のニーズも変わってしまっていますよね。
組織の規模を大きくしたり活動範囲を広げすぎたりすると、意思決定に時間がかかりやすくなってしまいます。スピードを重視するためには、これまでのように全て自社だけで研究を行う “自前主義” から脱却する。国や大学が持つ先見性を活用してオープンに協業していくことが、研究期間の短縮につながり、時代や社会のニーズにフィットした成果につながっていくと考えています。
共同研究がスピードアップの鍵になるんですね。主にどのような機関と共同研究をしているのですか。
主に大学や国の研究機関、企業と進めています。大学は学術的に専門性が高い一方で、われわれ通信キャリアのように実際の通信ネットワークを運営していないので、リアルの世界で何が問題になっているのか実態をつかめていないことがあります。そこに、ソフトバンクがリアルな課題を持ち込んで、解いてもらう。難しい問題ほど研究に時間がかかるため、研究のフェーズによっては、共同研究やジョイントベンチャーなどパートナーという形で協力してもらうのがいいと思っています。
研究開発は未来への投資。多くの方にわれわれが目指す未来を知ってほしい
今回、なぜ「先端技術研究所」を設立するに至ったのでしょうか。
研究開発は未来への投資、ソフトバンクがどこへ向かっているかの “羅針盤”です。投資家が企業の価値を測るための一つの指標と言っても過言ではありません。ソフトバンクは「Beyond Carrier」戦略を掲げ、通信事業の枠を超えた社会プラットフォームの開発・普及に取り組んでいます。「先端技術研究所」が独立した組織として幅広く研究開発を行うことは、「Beyond Carrier」戦略を推進していく上で重要な役目を担っていると思っています。
先端技術研究所が担う重要な役目とはどんなものですか?
事業のための研究開発だけではなく、研究発表を行ってその先進性をアピールすることもわれわれのミッションの1つです。ソフトバンクに研究・技術開発のイメージを持っている方は多くないと思いますが、ADSLや光、モバイル通信など新しい分野に次々と取り組んできたソフトバンクでは、以前から事業の一環として研究開発が行われていました。
未来の事業を見据え、研究開発の先進性や、通信を超えた領域への取り組みを積極的に発信し、これまで世間から見えづらかったソフトバンクの研究開発という領域をアピールしていきたいです。
真に役立つテクノロジーの社会実装を
研究を通して社会にどのような貢献をしていきたいですか?
日本は先進国の中でも、技術が社会実装されにくい国です。例えば、ライドシェアがまだないのは日本くらいですよね。優れた技術が存在するのに、社会実装するハードルが高い、という状況を変えていきたい。ブロードバンドや移動体通信事業、iPhone を日本で初めて取り扱うなど、これまでにもソフトバンクは新しい領域を開拓する社会的役割を担い、それを実現してきました。ソフトバンクの研究所として、新しい技術の社会実装を目指し、社会に貢献したいと考えています。
もちろん新しい技術を発見して開発するのがゴールではありません。いずれ社会で実際に使われることを目指して研究開発に取り組むことが重要です。事業貢献のためにビジネスモデルや事業計画を作成するなど、研究所の活動範囲としてはかなり広くなると思います。システムの運用や実装、商用化をする技術部門や、顧客や社会のニーズを理解している営業など他部門と研究の初期段階から連携して、優れた技術をお客さまに受け入れてもらえるような体制をつくっていきたいですね。
研究から事業計画までとなると、人材にも幅広いスキルが求められそうですね。
今の時代、プログラミングなど技術開発スキルのある優秀な人材は山ほどいます。だからこそ、最初に未来を見据えた問題提起ができることが大事。問題の本質を理解することがとても重要で、最初の設定を間違えてしまうと、それに対してどんなに活動しても良い成果は生まれせん。
“特定の技術領域への投資”をすることではなく、“社会課題の解決”を目的にすれば、そのために必要となる最適な技術の開発に取り組めるようになるなど、捉え方を変えるだけで活動の質が変わってきます。社会のこの部分を良くしていこうと、研究活動の出口を考えられる人材を育てていきたいですね。
これからの技術で、注目しているものはありますか?
5G関連のサービスはもちろんですが、将来に向けて注目しているのは量子コンピューターですね。用途特化型のCPUやGPU、スパコン(スーパーコンピューター)の先にあるのが、量子コンピューター(QPU)だと思っています。このようなパラダイムシフトが起こりそうな技術はとても楽しみですね。処理能力が桁違いの技術がうまく実用化されれば、これまで解けなかった問題が全く違う角度から解決されることもある。そこに対して、ソフトバンクがどう絡むことができるか、ということをよく考えています。
ソフトバンクが目指す通信キャリアの枠を超えた事業展開による企業価値の最大化、成長戦略「Beyond Carrier」に先端技術研究所も貢献していきたいと考えています。従来の研究開発は、知りたい欲求から始まる「発明(Invention)」がほとんどでしたが、現代では「革新(Innovation)」という意味合いが強くなっています。革新は、既に存在している技術と技術の組み合わせで起こります。通信領域における長期的な基礎研究に加えて、別の価値を生み出せる研究にも取り組んでいきたいですね。
(掲載日:2022年7月22日)
文:ソフトバンクニュース編集部