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アウトドアの知識が災害時の力に。もしものときに生きる防災キャンプ体験

アウトドアが災害時の力に。もしものときに生きる防災キャンプを体験

いつ起きるかわからない災害。せっかく防災グッズをそろえたけど、実際に使ったことがない…。防災対策としてまず何から始めれば良いのかわからない… という方も多いはず。そこでキャンプの知識を生かして防災を楽しく学ぶことができる「スタディトレッキング®」をやってみませんか? アウトドアやキャンプの知識は、万一の災害時に生かすことができます。

今回は、アウトドアライフアドバイザーの寒川一さんに、防災に役立つスタディトレッキングの基本ステップを教えてもらいました。いざという時に備えてアウトドアの知識を身につけましょう!

  • スタディトレッキングはUPIの登録商標です。

目次

教えてくれた人

寒川一(さんがわ・はじめ)さん

寒川 一(さんがわ・はじめ)さん
1963年生まれ、香川県出身。アウトドアライフアドバイザー。UPIアドバイザー。アウトドアでのガイド・指導はもちろん、メーカーのアドバイザー活動や、テレビ・ラジオ・雑誌といったメディア出演など、幅広く活躍中。特に北欧のアウトドアカルチャーに詳しい。東日本大震災や自身の避難経験を経て、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルを教える活動を積極的に行っている。

初心者でも大丈夫。まずは「知る」ことから防災を初めてみよう

Study(学ぶ)とTrekking(山歩き)という2つの言葉から名づけられた「スタディトレッキング」。その名のとおり、自然の中を歩きながら、アウトドアや防災のスキルと知識を身につけるワークショップです。寒川さんがインストラクターとなり、月に1度、鎌倉のアウトドアショップで開催されているワークショップは、野山の歩き方、湧き水の見つけ方、地形や風の読み方など、座学とフィールドワークを交えて半日ほど行います。その中で、湧き水からくんできた500ミリリットルの水を浄水し、火熾しをして、その日のランチを作って食べる、というミッションを自らの手でクリアします。

寒川さん

「人間は、体温が低下した状態が3時間続いたり、3日間水分を摂らなかったりすると、生命の危機に直面します。つまり、いかなる時も体温を維持し、水分を確保しないといけません。そのためにスタディトレッキングでは浄水・火熾し・煮沸を基本にプログラムを組んでいます。自ら熾した火で温かい食事を作って体内に取り入れることで、一連の体験がよりリアルな感覚として身につくはずです」

初心者でも大丈夫。まずは「知る」ことから防災を初めてみよう

スタディトレッキングをやってみたい! という人に向けて、寒川さんはまず「なぜスタディトレッキングをやるのか、何のためにワークショップに参加するのか、目的を持って参加してほしい」と言います。実際に火熾しや浄水を始めようと考えている人に、こんなアドバイスをくれました。

寒川さん

「まず現実的な注意点として、火熾しをする場所は、各自治体に問い合わせて確認しましょう。あとは、近隣のコンセンサスを取ることも大切。いくら自治体のルールでOKでも、ご近所に迷惑がかかりやめてほしいと言われたら、火熾しはできないです。個人的には、たき火を許可しているキャンプ場で練習するのが一番おすすめです。浄水するためにどこで水をくんだらよいのかは、近隣の川などであれば、化学物質が含まれているかなど、自治体に問い合わせたら教えてくれることが多いですよ」

また、強風注意報や乾燥注意報が出てる時は火熾しを行うのはNGです。その他にも、時間帯や近隣で洗濯物を干していないかなどの状況も含めて判断しましょう。

初心者でも大丈夫。まずは「知る」ことから防災を初めてみよう

これらを始める前の心構えとして、「自分の町について知ることが防災の第一歩」だと寒川さんは続けます。

寒川さん

「僕は防災のワークショップで地方に行くこともあるのですが、まず自分たちの街を説明できますか? と聞くんです。東西南北に何があって、海まで何キロメートルくらいで、人口はどのくらいで、こういう電車が走っていて、とか。自分の住んでいる場所の風土気候や、土地の歴史を知るのは重要です。

災害に備えるのは最終手段の話で、もっと足元にある深いところを見つめてみてください。自分の地点と周りの環境が頭に入っていないと、いざという時どっちに行けばいいのか、とっさに判断できません。なので、まずは自分たちの地域、自分の足元をよく知ろうという意識を持ってみてください」

火熾しから食事作りまで。スタディトレッキングの基本を体験してみた

火起こしから食事作りまで。スタディトレッキングの基本を体験してみた

「浄水」「火熾し」「煮沸」。今回は寒川さんにレクチャーしてもらい、通常半日ほどかけて行うスタディトレッキングの中でも、基本となる3ステップを編集部スタッフが体験。プチミッションに挑戦します!

今回挑戦するプチミッション

水を浄化し、自分で熾した火でお湯を沸かして、非常用ドライフードとインスタントコーヒーを作る

STEP1 浄水

寒川さん

「安全な水を得るには浄水と煮沸がセット。まずは浄水器を使って水のゴミを取り除きます。いわゆる除菌ですね。これだけでは目に見えない菌などが取り除けたかわからないので、必ず煮沸が必要になります。この作業が殺菌です」

まず浄水に使うのは、小さな浄水器。ペットボトルに水をくんできたら浄水器をセットします。

この浄水器は人工透析にも使用される、0.1ミクロンの穴が無数に空いたフィルターが内蔵されており、小型ながら38万リットルもの浄水が可能なアイテム

この浄水器は人工透析技術などを応用したもので、0.1ミクロンの穴が無数に空いたフィルターが内蔵されており、小型ながら38万リットルもの浄水が可能なアイテム

あとは水を浄水器に通すだけで、浄水が完了。煮沸のために使用するケトルに直接浄水した水を注いでいきます。

ペットボトルをギュッと押すだけで簡単に浄水完了。ここまで問題なくクリアです

ペットボトルをギュッと押すだけで簡単に浄水完了。ここまで問題なくクリアです

STEP2 火熾し(火おこし)

続いて、浄水した水をさらに煮沸するために火を熾します。ここで使うのはメタルマッチがセットになった小型のナイフです。

寒川さん

「災害時、ライターのガスがなくなったり、マッチがぬれたりしたら使い物にならないですよね。でも、メタルマッチは金属なのでぬれても大丈夫ですし、繰り返し使うことができます。このメタルマッチにナイフの背を45度の角度で当てて、メタルを削り取るように擦ることで、火花が発生します」

ナイフの背で棒状のメタルマッチを削り、火の粉を発生させて着火します

ナイフの背で棒状のメタルマッチを削り、火の粉を発生させて着火します

火を熾こすには小枝や落ち葉、薪などが必要では? と思いますが、寒川さんがどの家にもある火熾しが可能な燃料を教えてくれました。

寒川さん

「牛乳パックは燃焼温度が高く、燃えカスも出づらいのでとてもいい燃料になりますよ。ティッシュや割り箸、雑誌、新聞、チラシなどでもOKです。燃料の下準備が終わったら、フワッと重ねるようにセッティング。空気を入りやすくすることで燃焼が促されます」

まずは着火しやすいように燃料の土台を作成。寒川さんのレクチャー通り、今回は牛乳パック、割り箸、ポケットティッシュを燃料に。それぞれ裂いたり折ったりして、空気が入りやすい状態に仕上げました。

牛乳パックやティッシュは、紙のボソボソとした繊維が出てくるように手で裂くのが着火率を上げるコツ

牛乳パックやティッシュは、紙のボソボソとした繊維が出てくるように手で裂くのが着火率を上げるコツ

その時々の風を読み、風がある場合は体で土台を覆うようにします。風上から火の粉を落とし、いざ着火!

その時々の風を読み、風がある場合は体で土台を覆うようにします。風上から火の粉を落とし、いざ着火!

STEP2 火起こし

寒川さんのお手本。あっという間に着火しました!

STEP2 火起こし

思ったより大きな火がつき、歓声が。火が出たらすばやくケトルの上部を取りつけます

思ったより大きな火がつき、歓声が。火が出たらすばやくケトルの上部を取りつけます

STEP2 火起こし

STEP3 煮沸

火がついたら、煙突効果により短時間でお湯を沸かすことができる二重構造のケトルをセッティング。水を煮沸していきます。

寒川さん

「2〜3分間沸騰状態を保つことで、水に残った菌が殺菌されます。このケトルにはホイッスルがついているので、ホイッスルが鳴りやむまで火にかけましょう」

火が消えないよう燃料の牛乳パックを連続して投入。煙突効果により炎が上がってくるので、必ず風上から燃料を入れるのがポイントです。

500ミリリットル程度の水を沸騰させるには、牛乳パック2枚、割り箸3膳が目安

500ミリリットル程度の水を沸騰させるには、牛乳パック2枚、割り箸3膳が目安

出来上がり!

ケトルのホイッスルが鳴りやみ、煮沸が完了。これで飲み水を確保できました。最後に非常用ドライフードとドリップコーヒーにお湯を注いで、本日のランチが完成!

チェーンを持ち上げて慎重にお湯を注いでいく

チェーンを持ち上げて慎重にお湯を注いでいく

STEP3 煮沸

今回使用したのはシリコン製の食器。コンパクトに折り畳めるので防災バッグに入れても場所を取らない優れもの

今回使用したのはシリコン製の食器。コンパクトに折り畳めるので防災バッグに入れても場所を取らない優れもの

「防災のワークショップということを忘れるほど、自分で一から火をつけることや、自分で飲み水を作ること、そこから食事を作り食すことに、楽しさと喜びが芽生えました!」と編集部スタッフも笑顔に。

スタディトレッキングの体験に使用したアイテム

今回使用したのは、「UPI LIFELINE SUPPORT PACK」。アウトドアライフアドバイザーである寒川さん監修のもと、普段のアウトドアライフでも災害時でも役立つアイテムが厳選されています。寒川さんいわく「アウトドアアイテムは人類の叡智(えいち)の結晶」。機能性が高い上に、雨や雪でも壊れないタフさも兼ね備えており、コンパクトで洗練されたアウトドアアイテムは、キャンプ時はもちろん非常時も私たちの生活を支えてくれます。

今回の体験で使用したアイテム

右から

  • ソーヤー / ソーヤー ミニ SP128(ポータブル浄水器)
  • モーラナイフ / エルドリス ネックナイフキット(ファイヤースターターとパラコードがセットになったもの)
  • ケリーケトル / トレッカー 0.6L ステンレス(二重構造のケトル)

キャンプのスキル・知識はすべて防災につながる。寒川さんが伝えるスタディトレッキングの可能性とは?

今回寒川さんにはスタディトレッキングの基本の部分を教えていただきました。空前のキャンプブームとなり久しい近年、実際にアウトドアのスキルがどのように防災につながり、災害時に生きるのでしょうか? 寒川さんの考えをお聞きしました。

寒川さん

「アウトドアのスキルはどれをとっても生きることにつながると思います。例えばキャンプは、ライフラインがない場所で、自分が主体となって能動的に衣食住を組み立てるということ。道具を持ってキャンプ場に行くだけでは何も起こらないですよね。テントを立てたり、水をくんできたり、調理の下準備をしたり、すべて自分で展開しないと寝ることもできない、普段の暮らしとはまったく違うものです。そのため、インフラもストップしてしまう災害時に生きないスキルや知識はないと思います」

災害時のインフラ復旧には平均で3週間程度かかると言われています。しかし、災害時の混乱のなかで3日以内に持続的に飲める水を確保することは簡単なことではありません。今回学んだような『浄水』『火熾し(火おこし)』『煮沸』の知識や経験があれば、断水が起きたとしても慌てずに対応することができます。

キャンプのスキル・知識はすべて防災につながる。寒川さんが伝えるスタディトレッキングの魅力とは?

寒川さんいわく、ワークショップの参加者の半数はアウトドア未経験者。特に、災害が発生したときに子どもを守るために防災を学びたいという女性の参加者が多いのだとか。そんな参加者たちも、ワークショップが終わる頃には、とても明るい表情で楽しんで防災を学んでいる様子がうかがえるそう。

寒川さん

「大げさに言えば、 “これで生きられる”  “生きる術を手に入れた” と思われる方は多いです。経験のない方がメタルマッチで火熾しするのですが、やはり最初はうまくつかないんですよね。でも、何度もやっているうちにコツをつかんで、火がついた瞬間の表情や感情は、子どもも大人も関係なく、喜び以外の何物でもないと感じています」

2023年2月に行われた鎌倉のお寺での浄水ワークショップの様子

2023年2月に行われた鎌倉のお寺での浄水ワークショップの様子

寒川さんが行ったワークショップの中には、町内の川の水を浄水・煮沸してカップラーメンを作って食べる、というユニークな企画も。その参加者からは、防災スキルを学ぶ喜びの声だけでなく、「これからの子どもたちが生きていくために川の水を大切にしなければ」という環境意識向上の声も上がったそう。

2022年11月に行われた世田谷区町内会浄水ワークショップでの様子

2022年11月に行われた世田谷区町内会浄水ワークショップでの様子

現在自治体では災害時に自主避難を促す所も増えているそう。いざという時に自分や周りの人たちを守るためにも、日頃から自主的に防災について考え、実践してみましょう!

(掲載日:2023年3月10日)
写真:山野一真
文:飯嶋藍子(sou)
編集:エクスライト

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