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北海道の離れた場所にある盲学校をデジタルが支援。ICT活用でつながる合同授業

デジタルツールのチカラの可能性に挑戦。北海道の盲学校4校で合同授業を実現

北海道内にある盲学校4校では、北海道教育委員会とソフトバンク株式会社の協力のもと、タブレット端末などのICT機器を学習に活用する取り組みが行われています。活動の一環で2021年12月から実施しているのは4校をオンラインでつなぐ合同授業。複数の盲学校がオンラインで同じ授業をする取り組みは、全国初です。

目次

デジタルツールを特別支援教育にも活用

北海道教育委員会とソフトバンクは、「特別支援教育におけるICT教育連携事業」を2021年4月から開始し、道内にある盲学校4校で、タブレット端末などのICT機器を活用して障がいを有する子どもたちの学習を支援する取り組み「魔法のプロジェクト」を推進しています。本事業の開始に伴い、北海道教育委員会と北海道立特別支援教育センターを通して、道内の4校(北海道札幌視覚支援学校、旭川盲学校、函館盲学校および帯広盲学校)への学習支援を行ってきました。

2021年から続けているこの活動のこれまでの成果や今後のチャレンジについて、担当者に聞きました。

話を聞いた人

佐藤 里美(さとう・さとみ)

佐藤 里美(さとう・さとみ)
ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 CSR本部 CSR企画統括部 CSR企画部 多様性推進課

プロジェクトの企画と運営を担当。東京大学先端科学技術研究センターにも所属しており、実践研究に必要なノウハウの紹介も行っている。

牧野 啓介(まきの・けいすけ)

牧野 啓介(まきの・けいすけ)
ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 CSR本部 地域CSR統括部 北海道・東北地域CSR部

北海道教育委員会との連携など現地対応全般を担当。

特別支援教育の現場を取り巻く現状と課題とは?

特別支援教育の現場を取り巻く現状と課題とは?

北海道における、盲の障がいを持つ児童の特別支援教育の現状と課題について教えてください。

佐藤

「北海道は広大で、特に冬は雪で移動が決して楽ではない地域と言えますが、その中に盲学校は4校のみです。この、広さに対して学校が少なく、距離が離れているという点は、教育を受ける上での一つの課題でもありますし、身体的な特徴のあるお子さんにとってその移動はなおさら大変だと思います。実際のところ、距離的な問題で通常の学校に通っているお子さんもいます。

全国的にも、視覚障がいのあるお子さんは減少傾向であり、全道でも1学年あたり10名未満。人数が少ないことから、学校によっては学年に1人だけのクラスもあります。そのような状態でずっと教育を受けていると、多様性を理解する機会がどうしても減ってしまうことが課題になっています。

さらに言うと、生徒数が少なくなると、1校あたりの先生の数も少なくなります。中学校と高校では専科の先生が科目を担当しますが、それぞれの特別支援学校に各教科の先生を配置することは難しく、1人の先生が複数の科目を受け持つ状況です。

このような教育現場に対して、タブレット端末などのICT機器を活用して支援しようという取り組みが『魔法のプロジェクト』です」

魔法のプロジェクト

魔法のプロジェクトとは、スマートフォンやタブレットなどの携帯情報端末を活用して、障がいや困難のある子の学びや生活を支援する実践研究プロジェクト。ソフトバンクと東京大学先端科学技術研究センターが2009年から共同で実施している。

支援のきっかけは何だったのでしょうか?

佐藤

「北海道の教育委員会の課長から、北海道の課題点とそれを改善するためのデジタルツールの活用について、魔法のプロジェクトから力を借りたいというメールをいただいたことがきっかけでした」

生徒の感想は「いろいろな意見が聞けて楽しい! 便利!」

生徒の感想は楽しい! 便利!

北海道での魔法のプロジェクトで、ソフトバンクは具体的にどのような支援を行っていますか?

牧野

「2021年度から開始した今回のプロジェクトでは、 iPad やPoccket Wi-Fiを貸し出すほか、アンテナの調整を行って電波環境の改善の支援などを行っています。デジタルツール活用の一環で4校をオンラインでつなぐ合同授業では、Zoomの活用や設置、運営のアドバイスもしてきました」

生徒の感想は楽しい! 便利!

4校で行った合同授業ではこれまで、音楽や数学、討論などを実施。約10名が参加し、多種多様な意見が飛び交いました。

生徒の皆さんは普段、どのようなツールを使って学習しているのでしょうか?

牧野

「視力の状態によってさまざまなツールを使っています」

生徒の感想は楽しい! 便利!

「全盲の場合は、通常の学校の教科書と同じ内容の点字教科書を使うことのほか、 iPad のVoiceOver機能を使って画面の情報を読み上げ再生したり、音声検索で分からないことを調べたりできます」

生徒の感想は楽しい! 便利!

「弱視の場合は、教科書や自作教材などのデジタルデータを見やすくしたり音声で読み上げたりすることが可能な iPad アプリ『UDブラウザ』を使って、教科書やプリントを読み込んだりメモを書き込んだりします。

教科書をPDF化して拡大教科書として使っている生徒も多いです。 iPad の画面拡大機能やピンチアウトの機能を使うことで、最も見やすい文字サイズを用いて学習することができています。従来の拡大教科書は、文字が大きく印刷された分厚い教科書。それが丸ごと iPad に入ったことで、『荷物が少なくなって良かった』という声を多く聞いています。音声検索ができることや、キーボードで早く入力できるのが楽しいという感想も寄せられています」

デジタルツール活用推進の一環で、これまで4回の合同授業を行ってきました。この活動の狙いについて教えてください。

佐藤

「学校の目的には、学習をすることもありますが、社会性を身に着けることもありますよね。いろいろな人たちのいろいろな考えを知って受け止めて、意見を出すというような。でもあまり人数がいないとやりにくい。そこを、4校をつなぎ、ある程度生徒の数を増やすことで、生徒たちが多様性に触れる経験値を積めていると考えています」

生徒の感想は楽しい! 便利!

合同授業に参加した生徒たちからは、どのような感想を聞いていますか?

牧野

「普段は少人数での授業なので、オンラインで他校の生徒たちと一緒に授業できて『楽しかった』『いろいろな人の意見が聞けて勉強になる。もっとやりたい』と、授業を楽しんでいる様子でした。違う意見に触れていい刺激になっているようです」

先生からの感想はいかがですか?

牧野

「『より伝える側の工夫が必要になった』という認識の変化が起きています。授業以外でも日常的に、学校間のコミュニケーションに活用しているそうですよ」

現場担当者として、これまでの取り組みを振り返っての感想をお願いします。

牧野

「生徒たちは、何のためらいもなく便利な道具としてICT機器を使いこなしています。必要だから、日常生活にも授業にも使う。とてもシンプルで迷いがありません。人はやらない理由をすぐに探してしまいがちです。私も見習い、日々チャレンジしていきたいと思わされました。この活動を継続して、もっと活用の幅を先生方と一緒に広げていきたいです」

解決すべき課題はまだある。目指すテーマはインクルーシブ教育

これまでの取り組みによって一定の成果が出てきていますが、今後さらにチャレンジしていきたいことはありますか?

佐藤

「さまざまな調整ごとをクリアしていただきながら、これまで4回の合同授業を実施しましたが、これをもっと日常化していくということです。道のりはまだ長いですが、少しずつでも近づいていけたらというのが私の思いです。

また、本来ならば専門的な支援を得ながら教育を受けるべき立場なのに、通学の問題でそれが受けられず通常の学校に通っている生徒たちとも、一緒に授業をしていければと願っています」

解決すべき課題はまだまだあるということですね。来年度も魔法のプロジェクトは継続されますが、どのようなテーマに取り組むのでしょうか?

佐藤

「来年度は、特別支援教育における課題のひとつであるインクルーシブ教育に取り組んでいきます。

日本では、障がいのある生徒は通常の学校の生徒と違う場所で教育を受けていますが、世界の他の国々では一緒に教育を受けており、実は日本は非常にイレギュラーな状態にあります。特別支援学校で専門的な手厚いケアができるという利点がある一方で、健常の生徒たちに障がいがある生徒のことを知る機会がないということ、また障がいがある生徒にとっても、同学年の健常の生徒と同じレベルの教育を受けられていないことが多いという点が課題になっています。

可能な生徒には、通常の教育にも参加していけるようにしたい。では何がそれを可能にするのか? その答えはテクノロジーだと思っています。魔法のプロジェクトはこれまで多くの子どもたちの困りを解消してきましたが、そこにとどまるのではなくて、本来その子が参加できるはずの場所に参加していく、そのような事例をつくり出したいと思っています」

「魔法のプロジェクト」では現在、2023年度の協力校の募集をしています(2023年4月6日まで)。詳細はこちらをご覧ください。

「魔法のプロジェクト」の
詳細を見る

(掲載日:2023年3月17日)
文:ソフトバンクニュース編集部