近年、耳にする頻度が高くなってきた「サステナビリティ」「SDGs」などの言葉。持続可能な… といったニュアンスがあることはざっくり知っているけれど、具体的な定義までは答えられない、という人も多いのでは? その一方で、ビジネスパーソンからは「サステナビリティ経営」というワードが熱い注目を集めているそう。持続可能な経営、それは果たしてどんな意味を持ち、なぜ注目されているのでしょうか。
今回は、サステナビリティ経営やESG投資に詳しい、経営戦略・金融コンサルタントの夫馬賢治さんに、サステナビリティ経営の概要、「SDGs」「ESG」といった考え方との関連、さらには世界から見た日本のサステナビリティ経営の現在地などについて教えていただきます。
目次
教えてくれた人
株式会社ニューラル代表取締役CEO、経営戦略・金融コンサルタント
夫馬 賢治(ふま・けんじ)さん
サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業。サステナビリティ経営・ESG投資ニュースサイト「Sustainable Japan」運営。環境省、農林水産省、厚生労働省のESG委員や国際会議での有識者委員を歴任。『ネイチャー資本主義』(PHP研究所)、『ESG思考』(講談社+α新書)、『超入門カーボンニュートラル』(講談社+α新書)など著書多数。
- Twitter:@KenjiFuma
- 株式会社ニューラル
企業価値を高める近道? 「サステナビリティ経営」に注目が集まるわけ
推奨されていることはなんとなく知っているものの、どこか当事者意識を持てない「サステナビリティ」という言葉。サステナビリティが世界で推進されている背景や、ビジネスパーソンから注目を集める理由について、夫馬さんにお聞きしました。
サステナビリティが推進され始めた背景
世界で「サステナビリティ」という言葉が広まり始めたのは、2000年代後半。地球資源の枯渇や環境問題への危機意識が進む中、文明や経済システムの持続可能性を問う声が欧米企業から上がり始めたのが発端です。2015年には、国連総会が「17のゴール・169のターゲット」から構成される国際目標「SDGs」を採択。これに伴い、日本でもサステナビリティという言葉が普及していきました。
「サステナビリティという言葉に、一般消費者が当事者意識を持つのはなかなか難しいかもしれません。しかし、環境や社会の問題は、私たち消費者の生活に直結します。例えば、電気・ガスなどエネルギー価格や、食品価格の高騰もその一つです。サステナビリティ経営に関心を持つことは、自身の生活を守ることにもつながるんですよ」
サステナビリティ経営とは? 企業がサステナビリティに注力する理由
サステナビリティ経営とは「環境・社会・経済の3つの観点において、持続可能な状態を実現する経営」のことです。企業がサステナビリティ経営に取り組むメリットは2つ。1つ目は経営・事業の持続可能性の向上。環境・社会・経済を持続可能にする長期的な目標を持つことで、企業は将来の機会やリスクを予見し、長期的に事業を成長させることができます。
2つ目は、機関投資家などのステークホルダーからの評価向上。サステナビリティ経営によって企業の将来性への期待が高まると、資金を調達しやすくなったり、顧客の獲得につながったりします。また、企業に務める従業員にとっても、労働環境改善という大きなメリットが得られ、ひいては優秀な人材の獲得に結び付いていきます。
「現在、多くの企業が、投資家から事業変革を迫られています。環境問題や社会問題に対して取り組んでいけるのか、それによって利益を生み出せるかなど、長期的なパフォーマンスが問われているのです。そして、サステナビリティ経営を進めるべきは、経営層だけではなく、企業で働く全てのプレーヤーです。つまりは危機意識を持っている従業員が多いほど、企業の動きも速くなります。実際に多くのグローバル企業では、末端の従業員までサステナビリティという言葉が浸透し、取り組みも活発化しています」
サステナビリティ経営はどのように進んでいる?
サステナビリティ経営を語る際によく登場する、「CSR」や「ESG」といった言葉。これらの違いを解説し、サステナビリティ経営に積極的な企業の見分け方についても探っていきます。
CSRからESGへ。企業に求められるのは「事業」と「社会貢献」の両立
これまで企業は「CSR(企業の社会的責任)」の名の下に、社会貢献活動に取り組んできました。利益を追求するだけでなく、環境問題や人権問題への対応などさまざまな社会的責任を果たすべきというのがCSRの考え方。日本では2000年頃から取り組む企業が増えました。
一方、現在CSRへの注目は鳴りを潜め、代わりに「ESG」を掲げる企業が増えてきています。ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字を取った言葉。本業を通じて社会や環境にインパクトを与えながら「長期的な利益」も同時に追求していく点が、CSRとの違いです。投資家の間では「ESGの観点が薄い企業は事業構想にリスクを抱えており、長期的成長が期待できない」と考えられています。
「多くの企業は投資家からの反応を注視しつつ、ESGを主なアプローチ手段として、サステナビリティ経営を推進しています。そういった企業には大きく分けて3つ、共通の推進テーマがあります。
- カーボンニュートラル
温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、プラスマイナスゼロを実現することです。 - ネイチャーポジティブ
気候変動以外の環境問題について、環境負荷をプラスマイナスでプラスにしていくことです。 - 格差の是正
これ以上、経済格差が不当に広がらないように、低所得者層を経済活動の中に組み込み、積極的に支援していくことです。最近では、国内の経済格差に強く目が向けられています。
これら3つのテーマを軸に、ポジティブインパクトを起こしながら、より収益性、いわばリターンが得られる事業モデルを考える必要が出てきています」
ESGについてこちらの記事で詳しく解説しています。
サステナビリティ経営に積極的な企業の特徴
企業がサステナビリティ経営を実践しようとすると、現状と目指すべき状況との間に大きなギャップが見えてきます。そのギャップを埋めるために、従来型の経営のあり方を見直し、変革していけるかどうかが、投資家の評価ポイントになります。
「サステナビリティ経営をうたっていても、実際に具体的なアクションをしていなければ、投資家や顧客からは評価されません。つまり、将来的に投資を受けられなくなり、事業が縮小したり衰退したりする可能性があるということです。企業がサステナビリティ経営をどのように実践しているか、ある程度の情報は各社のウェブサイトから得ることができます。例えば、投資家向けの説明資料が該当しますね。その企業がどのような状態を『サステナブル』と定義し、どの程度のスピード感で何を変えていくのか、具体的な計画が記載されているか否かが一つの判断材料になります。最近は、ウェブサイトのグローバルナビゲーションに『サステナビリティ』『ESG』といった項目を設置している企業もありますね。それらを見れば、より詳細な情報を得られるかもしれません」
推進に積極的な企業の特徴まとめ
ここで、サステナビリティ経営にしっかりと取り組む企業をどのように見分けていくべきか、企業のコーポレートサイト(あれば、投資家向け資料)でチェックすべきポイントをおさらいしておきましょう。
- サステナビリティという言葉をどのように解釈し、どの程度のスピード感で推進していくつもりなのかといった、「目標」や「スケジュール」の具体性
- 「サステナビリティ」「ESG」という言葉がページ内で使われているか
- 実体を伴わない「グリーンウォッシュ」状態になっていないか
グリーンウォッシュの見分け方
グリーンウォッシュとは、エコや環境に良いイメージとして使用される「グリーン」と、うわべだけといった意味を持つ「ホワイトウォッシュ」を掛け合わせた言葉。実体を伴わないのに「持続可能性」「生分解性」「環境配慮」などを掲げ、あたかも環境に良い取り組みをしているように見せかけることを指します。
また、環境配慮をしているのは一部商品だけにもかかわらず、全部の商品が該当しているように見せかける「すり替え」もグリーンウォッシュの一種。海外では、すり替えを行った企業が政府から処罰されたケースもあります。「買い物は企業への投資」と言いますが、私たち消費者も、企業がどのような姿勢でサステナビリティに取り組んでいるか、チェックする目が必要です。
世界各国の企業は、さまざまなアプローチでサステナビリティ経営を実践し、その概況を自社のウェブサイトで積極的に発信しています。そのような中、日本企業のサステナビリティはどの程度進んでいるのでしょうか。
日本企業×サステナビリティ経営の現在地。私たちにできることは?
冒頭の段落でもあった通り、サステナビリティ経営の評価が高い会社は「従業員にとっても働きやすい会社である確率が高い」ようです。日本企業のサステナビリティ経営は、果たしてどの程度進んでいるのでしょうか。
新興国のスタートアップ企業が勢いを増している
日本には2010年代に「サステナビリティ」という言葉が入ってきました。現在、先行してサステナビリティに取り組み始めた欧米企業との差は縮まってきています。その一方で、ASEANや韓国、インド、メキシコなどの企業が勢いを増しているのも事実なのだとか。これらの国々では日本に比べてはるかに速いスピードでサステナビリティ経営の実践が広がっているといいます。
「新興国では革新的な技術を持つスタートアップが次々立ち上がっています。例えば、インドのスタートアップでは、大豆由来の植物性ゆで卵の開発に成功。このような新しい技術にはグローバル企業がいち早く目をつけ、多大な資金が集まります。やがて国境を越えたイノベーションとして、グローバル企業のビジネスまでも変えていくということが実際に起こっていますね」
日本企業の取り組みにも、注目すべきポイントは多いのだそう。夫馬さんにその事例を聞いてみました。
「最近、私が特に注目しているのは、日本の飲料メーカーです。現状とのギャップを分析し、具体的な経営目標を掲げている大手メーカーも出てきましたね。飲料メーカーの一番の問題は原材料であり、農業や酪農における環境破壊が長年指摘されてきました。今後は、原材料の転換などでネイチャーポジティブを目指す企業が増えるのではないかと予測しています」
世界のビジネス市場で注目を集める「B Corp」
「B Corp(Bコープ)」とは、2006年にアメリカで発足した非営利団体「B Lab」によって作られた認証のこと。環境や従業員、地域社会に対して組織哲学をもって運営している企業が対象で、有名グローバルアウトドアメーカーなどが認証を受けています。日本でB Corp認証を受けている企業は、2023年3月時点で20社未満ですが、環境や社会の観点から高いレベルの経営を行っていることの証明になるため、創業時からB Corp取得を目指すスタートアップ企業も増えています。
サステナビリティ経営を応援するために個人ができること
環境や社会の問題は生活に直結しており、将来的に私たち消費者への影響も避けることはできません。つまり、サステナビリティ経営を実践する企業を応援することは、自分の生活を守ることにもつながるのです。では、一体どのように応援していけばいいのでしょうか?
「気に入った商品やサービスを提供してくれる企業には、長く事業を続けてほしいですよね。そのためには、消費者が商品やサービスに対する感想をきちんと届けてあげることが大切だと思います。例えば、商品を使っていて気になったことや疑問点、あるいは良いと思ったポイントなど。『環境配慮』と表記のある商品であれば、具体的な取り組みについて聞いてみるのもいいですね。そのような声が集まれば、経営レベルでの改善につながり、企業の持続可能性も高まっていくのではないでしょうか」
企業が持続的に発展していくため、そして、人々が豊かな生活を続けていくために、推進が急がれるサステナビリティ経営。夫馬さんが言う通り、最近ではサステナビリティ経営の目標をウェブサイトに掲げる企業も増えてきました。サステナビリティ・ESGサイト調査の評価を見てみるのも一つの手。まずは、身近な企業の取り組みを知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
(掲載日:2023年3月16日)
イラスト:小林ラン
文:佐藤由衣
編集:エクスライト
「すべてのモノ、情報、心がつながる世の中を」をコンセプトに、持続可能な社会の実現に向け、企業活動や事業を通じて、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいるソフトバンク。
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