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社会に役立つ技術の実用化に向けて。ソフトバンクで働く博士号取得者が学術奨励賞を受賞

ソフトバンクで働く博士号取得者が学術奨励賞を受賞。インタビュー

大学院の博士課程で所定の単位を取得した上で、博士論文の審査に合格して得られる学位「博士号」。博士号を持っている人は日本の人口割合で0.4%ほどしかいないとされています。そんな中、博士課程を修了してソフトバンクに入社した社員が、入社後から取り組んでいた研究内容が一般社団法人 電子情報通信学会に評価され、「学術奨励賞」を受賞しました。

目次

長谷川 拓哉(はせがわ・たくや)

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット 基盤技術研究室 無線技術研究開発部 無線制御研究開発課
長谷川 拓哉(はせがわ・たくや)

平川 昂(ひらかわ・たかし)

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット 基盤技術研究室 システムデザイン研究開発部 無線電力伝送研究開発課
平川 昂(ひらかわ・たかし)

  • 長谷川 拓哉(はせがわ・たくや)
  • ソフトバンク株式会社
    テクノロジーユニット
    基盤技術研究室
    無線技術研究開発部
    無線制御研究開発課
    長谷川 拓哉(はせがわ・たくや)
  • 平川 昂(ひらかわ・たかし)
  • ソフトバンク株式会社
    テクノロジーユニット
    基盤技術研究室
    システムデザイン研究開発部
    無線電力伝送研究開発課
    平川 昂(ひらかわ・たかし)

実用を見据えた実験的研究で得られる達成感と満足感。これからの社会を支える研究が評価され受賞

学術奨励賞とは、年に1度行われる総合大会もしくはソサイエティ大会で発表された論文の中から、極めて優秀な発表を行った研究者や技術者に授与される賞のこと。受賞者は全件数の1.5%ほどです。2人がどのような研究テーマで受賞したのか話を聞きました。

今回受賞した研究はどのような内容ですか?

長谷川 「私は現在、成層圏通信プラットフォーム(High Altitude Platform Station、以下「HAPS」)における無線技術の研究開発に携わっています。HAPSとは、高度約20kmの成層圏に無人航空機を飛ばし、地上のユーザーに対して通信サービスを提供することができるプラットフォームです。HAPSを活用した通信システムの中でも、地上に設置されるゲートウエイ局からの信号を、上空のHAPSで中継して広域のエリアを実現するのが『HAPS無線中継システム』です。

今回受賞の対象となった研究は、HAPSに搭載した無線中継装置から地上のユーザーに送信される信号の電力を一定に保ち、受信する端末の通信品質を安定させる仕組み『自動利得制御』について、検討を行ったものです。HAPS無線中継システムでは、HAPSからの送信電力が最大になるように制御することが重要ですが、機体の動きや姿勢によってHAPSからの送信電力に変化が生じるという課題がありました。この解決案として、新たなアンテナ構成および信号制御手法を提案しシミュレーションおよび実験によって効果を明らかにしたことが評価され受賞につながったと考えています」

実用を見据えた実験的研究で得られる達成感と満足感。これからの社会を支える研究が評価され受賞

平川 「私は、無線電力伝送の研究を行っています。無線電力伝送とは、IoT技術に利用されるセンサーを、ケーブルを使わずに遠隔で充電する技術です。例えるならばWi-Fiで充電できる、みたいな感覚ですね。実用化した場合、実現できるIoT技術の幅が広がることで生活が豊かになったり、センシング技術との組み合わせにより資源利用の高効率化ができるので、SDGsへの貢献も期待できます。

実用を見据えた実験的研究で得られる達成感と満足感。これからの社会を支える研究が評価され受賞

今回の研究では、整流回路を複数利用するとどうなるのか、さらにそのデータを詳細に調査して実現するための手法を提案しました。整流回路とは、携帯の充電器に使われるようなAC-DCコンバータと同じ役割で、電波を充電するための電力に変換するためのものです。この研究結果は、複数の整流回路を無線電力伝送に利用するときの電気的特性を正確に算出できるようになり、高効率化に貢献できます。この点が評価され、今回の受賞に至りました」

研究をする上で大変だったことはなんですか?

平川 「実際に測定するまでの準備が最も大変でしたね。測定に利用する回路から自動測定プログラムをも作成して実験を行っていました」

長谷川 「一番苦労したことは、繰り返し行った検証実験です。大学院までは、もっぱらペンと紙を使った机上計算やコンピュータを使ったシミュレーションといった理論研究が主で、実験的アプローチは今回の研究が初めてでした。例えば、実験装置の使い方、測定における雑音の影響、人的なミスなど、さまざまな原因で誤差が生じてしまうんです。実験に取り掛かって間もない頃は、なかなか期待通りの結果が得られず、四苦八苦した覚えがあります…。ただその分、出てきた結果と理論予測が一致しているのを見ると達成感と満足感に満たされました」

平川 「研究で扱う道具が繊細かつ高価なものが多いので、かなり神経を使いました(笑)。使い方を間違えると簡単に壊れてしまうので丁寧に、丁寧に使用していました」

研究で使わなくなった◯◯

高価な道具の1つ、整流回路

学術的価値だけじゃない。社会に役立つ野心的な研究がモチベーションに

学生の頃はどのような研究をしていたのですか?

平川 「現在と同じく無線電力伝送に関する検討をしていました。主に基礎的な回路動作の解析を行っていました。今やっている内容とほぼ同じですね。学生時代の考え方や経験がそのまま現在の研究の助けとなっています」

長谷川 「今とは違い、物理学を専攻していました。この世界がどうなっているのか、という疑問が根本にあり、宇宙空間がどこまで広がっているのかどういう構造をしているのか知るために宇宙論を研究していました」

研究開発に注力している企業も多くある中で、なぜソフトバンクに入社したのでしょうか?

学術的価値だけじゃない。社会に役立つ野心的な研究がモチベーションに

長谷川 「大学院卒業を前にして一度立ち止まったときに、それまで取り組んできた研究と比べてもっと直接的に人の役に立つ研究をしたいと考えるようになりました。企業で行われている研究について調べる中で、ソフトバンクのHAPS事業について知りました。世界で誰も実現できていないHAPS通信システムの研究開発に取り組む野心的な姿勢に惹かれて入社したいと考えるようになりました。入社後、実際にHAPSの研究開発ができる部署に配属され、うれしかったのを覚えています」

平川 「学部時代から研究していた無線電力伝送を実用化するには、通信という業界が主導しなければいけないということを感じていたころ、研究室の先輩がソフトバンクでプロジェクトを立ち上げ主導していると知り、魅力的に映りました」

入社してから研究にはどのような変化がありましたか?

長谷川 「学生と比べてメリハリをつけて仕事ができるようになり、研究しやすくなったと感じます。
学生の頃は、研究の成果を出すためにがむしゃらに取り組んでおり、土日も関係なく研究することが当たり前でした。一方ソフトバンクでは、スピード感を持ってゴールから逆算してプロジェクトを進めているので、私も安心して休日は趣味のサイクリングを楽しむことができています。それが気持ちのリフレッシュにつながり、高いモチベーションを維持して仕事に取り組めていると感じます」

長谷川さんの趣味はサイクリング

平川 「学生との大きな違いは、やはり給与が発生する、というところです。見返りがあるというのは研究をする上で大きなモチベーションとなっています。また、単純に実験設備についても会社の方がそろっているというのも研究のしやすさに一役買っていると思います。研究内容の変化としては、学術的な価値さえあれば良いのに対し、会社に入ってからは特許化などを見据えることが重要になりました。学生時代よりも研究背景をより感じるので、これもモチベーションにつながっています。総じて、会社に入ってからの方が研究に身が入るようになりました」

研究を通して培った強みを生かし、新たな分野に挑み続ける

今後の展望を聞かせてください

長谷川 「HAPSを用いた移動通信システムの実現に向けて、研究開発の立場から貢献し続けていきたいです。また、将来的には国家プロジェクトなどの競争的資金の獲得や、自分の強みである物理学の知識を生かして、物理と通信の両方が関係する学際的領域の研究にもチャレンジしてみたいし、いつか違う分野でも博士号が取れたら… とも考えています」

平川 「無線電力伝送技術の実用化が最も達成したい目標ですね。IoT社会の実現を目指す上で、センサーへの給電方法は避けて通れない大きな課題となっています。その課題を突破し、現実とリンクしたより革新的な情報社会の実現に貢献したいです」

強みを生かし、さらなる分野に挑み続ける

長谷川 「博士号は『足の裏の米粒』と例えられることがあります。取らないと気持ちが悪いが、取っても食べられない、ということです。ただ、近年は基礎研究の重要性が見直されています。企業によっては優先的に採用するといったところも出てきたように感じます」

平川 「長谷川さんも言う通り、現在日本においてはまだそれほど重要視されていない資格です。ただ、博士号は、その人が技術を修めていることを客観的に証明すると同時に、海外でエンジニアとして議論をする上での前提条件になっています。取得には苦労も伴いますが、私は価値があるものだと信じていますし、今後社会全体として博士課程取得者の価値を再認識され、重要な資格になっていくと思います」

実用を見据えた実験的研究で得られる達成感と満足感。これからの社会を支える研究が評価され受賞

長谷川 「そして何より、研究のことだけを考えて生活するのはとても楽しいです。自分の人生を振り返ってみても、充実した時間でしたね。少しでも興味がある方には挑戦してもらいたいです」

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(掲載日:2023年5月17日)
文:ソフトバンクニュース編集部