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未来の充電はワイヤレスに。電力の世界に変革をもたらす無線電力伝送

スマートフォンにタブレット、スマートウオッチにイヤホン、携帯ゲーム機など、年々増えて行く身の回りの電子機器、日々の充電だけでも一苦労ですよね。
そういった身の回りの電子機器だけでなく、家庭や街中のあらゆるものにセンサーや通信デバイスが搭載されるIoTの世界では、無数にある機器への安定的な電力供給が必要不可欠です。

2021年10月、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の「Beyond 5G研究開発促進事業」で、ソフトバンクのワイヤレス電力伝送開発の取り組みが研究課題として採択。携帯電話の基地局を活用したワイヤレス電力伝送の社会実装に向けて、京都大学・金沢工業大学と共に産学連携で研究開発に取り組んでいます。

あらゆるものがネットワークにつながるBeyond 5G/6Gの世界の到来に向け、ワイヤレス電力伝送が担う役割について、ソフトバンクのテクニカルマイスター 長谷川直輝に話を聞きました。

長谷川直輝

テクノロジーユニット 基盤技術研究室 システムデザイン研究開発部 無線電力伝送研究開発課 課長代行
長谷川 直輝(はせがわ・なおき)

目次

身の回りに溢れる1兆個ものセンサーをどうやって充電するのか?

まずはじめに、ワイヤレス電力伝送とは何でしょうか。

普段皆さんが身の回りの家電などを充電するとき、コンセントやUSBにケーブルでつないで充電しますよね。
ワイヤレス電力伝送は、電源がない場所でも電波を使って機器に電力を供給できる仕組みです。

ワイヤレス電力伝送が必要とされる背景はどういったものがあるのでしょうか。

今、皆さんの身の回りにあるスマートフォンや持ち物などに取り付ける紛失防止の追跡タグといったデバイスには、さまざまなデータを検知して、そのデータをサーバーに送信したりするセンサーやチップが入っています。こういったセンサーがもっと増えていき、2035年にはその数が1兆個を超える、といわれています。

1兆個… 。想像もつかない数ですね。

Beyond 5G/6Gの世界に向けて内閣府も未来社会のコンセプト「Society 5.0」で、リアルとバーチャルを高度に融合させた社会の実現を提唱しています。世の中のさまざまな情報をデジタル化し、データの収集や相互に通信できる環境の構築が必要とされるため、あらゆるものにセンサーを搭載しなくてはなりません。

そこまでIoTセンサーが増えてくると、どんな問題が起きるのでしょう?

センサーも電子機器ですから、当然電力が必要になります。最近は、スマートビルディングなど、センサーがふんだんに使われた施設などもできていますが、やはり配線が大変だという話をよく聞きます。

個人が所有する数個程度のデバイスであれば家でケーブルにさして充電で済みますが、それが1兆個という規模になると、電源が届かない場所に設置する機器なども出てきます。ただそこに置くだけで利用できるデバイスがないと、バーチャルとリアルを高解像度に融合させていく世界の実現は難しい。

ならば、ケーブルではなく電池などで駆動させようという考えもあると思います。1年間もつ電池だとして、例えば1個2個であれば1年に1-2回交換すればいいかもしれない。でもそれが1兆個となったとき、日々膨大な数の電池を交換しなくてはならない、電池交換のコストという課題が生まれるんですね。

それを解決するのが携帯電話の基地局から電波を使って電力を送ることで、電源ケーブルがなくても遠く離れた場所から給電ができるワイヤレス電力伝送という技術です。

通信・電力伝送・ハードウエアのエキスパートによる最強タッグ。産学連携で挑む国家プロジェクト

現在、国家プロジェクト(以下「国プロ」)である「『Beyond 5G研究開発促進事業』に係る令和3年度新規委託研究の公募」の一環として、ワイヤレス電力伝送の開発に取り組んでいるそうですが、どのような経緯で受託したのでしょうか。

2021年4月ごろからNICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)が、Beyond 5G/6Gのコア技術の研究開発を「『Beyond 5G研究開発促進事業』に係る令和3年度新規委託研究の公募」として募集していました。われわれの研究は、その中の「拡張性を実現する技術」という分野の取り組みで、「完全ワイヤレス社会実現を目指したワイヤレス電力伝送の高周波化および通信との融合技術」として応募し、2021年10月に研究課題として採択されました。

今までワイヤレス電力伝送を単体で制度化するという話はあったのですが、通信の拡張機能としてワイヤレス電力伝送を実装するという提案をしたのはわれわれが初めてで、そういう意味で非常に新しいチャレンジングなテーマになります。

京都大学、金沢工業大学との共同研究とのことですが、それぞれどのような役割なのでしょうか?

京都大学はワイヤレス電力伝送を40年以上研究してきていて、日本国内のワイヤレス電力伝送研究をけん引してきました。また、金沢工業大学は、ワイヤレス電力伝送で電力を受け取るデバイスのアンテナや半導体回路で先進的な研究をしています。

基地局のアンテナからデバイスに集中的に電波を送るための制御技術など、ワイヤレス電力伝送技術そのものの研究開発のエキスパートである京都大学と、受け取った電波を高効率に電気エネルギーに変換するレクテナ回路などアンテナ・半導体回路研究に特化した金沢工業大学、そしてわれわれソフトバンクが持つ通信技術を絡め研究をすることで、電力伝送・ハードウエア・通信を融合させた非常に強力なタッグになっていると思います。

今後研究はどのように進むのでしょうか。

2024年までに基礎検討を完了させる予定で、実証実験を経て6Gが出てくる2030年ごろには実際の社会実装に向けた準備を整えていくイメージです。まずは室内で利用できるWiFiのようなところから始めて、最終的には基地局から街中に普及させていくストーリーになるのではと考えています。

ワイヤレス電力伝送の社会実装に高周波帯「ミリ波」が最適な理由

基地局のアンテナから電力を送る、ということですが普段私たちが使っている携帯の電波とは何か違うのでしょうか?

現在われわれが行っている研究では、5Gの主力として利用される高周波帯である「ミリ波」を活用した電力伝送を想定しています。

ミリ波については、こちらでかんたんに解説しています。

既存の低い周波数でも電力を送ることは可能ですが、すでにたくさんの事業者に使われていて、98%以上の無線局が6GHz以下の周波数で存在しているため、新たにワイヤレス電力伝送の周波数として利用するには、干渉などの問題でやりにくいところがあります。

ミリ波であればそういった問題は起きないのですか?

ミリ波はまだまだ利用されている事例が少ない周波数帯域なので、まずはそこから始めることによって社会実装のハードルをできるだけ下げていきたいという意図もあります。また、ミリ波はBeyond 5G/6Gの主力周波数として注目されていて、今後通信も高い周波数帯に移行が進んでいくという状況も踏まえ、ワイヤレス電力伝送自体もやはり高い周波数をターゲットにしていくのは自然な流れではないかと思っています。

さらにもう1つの理由として、電波は基本的に波紋のように広がっていくのですが、高い周波数を使うと、ある特定の方向だけに強い電波を飛ばしやすいという性質があります。いわゆるビームフォーミングというものなのですが、イメージで言うとスポットライトのように特定の演者さんだけを光らせることが高い周波数だとやりやすいという性質がありますので、そういう特性をうまく使ってあげることによって、特定のデバイスだけに効率よく電波を飛ばすことができる。

将来的には、携帯電話の電波のような形で、ワイヤレスで契約してる端末だけにスポットライトのようにビームを向けてエネルギーを送ることもできるのではないかと思っています。

  • スモールセル:建物の内部など電波が届きにくい場所などサービスエリアを補完するために、出力が低い基地局でカバーする狭いエリアのこと。端末から基地局までの距離を近づけることで電波の干渉を軽減し、より高速な通信を実現する手段としても用いられている。

電力の世界も固定からモバイルへ。通信キャリアの知見が「通信と電力の融合」を加速させる

先ほどから「通信と電力の融合」というキーワードが出ていますが、どういった点が特長なのでしょうか。

2022年5月に、日本国内では920MHz、2.4GHz、5.7GHzのISMバンドを利用したワイヤレス電力伝送が世界に先駆けて制度化されました。これから、多くの領域でワイヤレス電力伝送の商用利用が普及し始めると考えています。しかし、まだまだ多くの制限があり、ワイヤレス電力伝送を広く普及させるためにはもうひと工夫必要だと考えています。

今回の取り組みの特長は、全国に網羅された通信の帯域を使って電力伝送を行うことでワイヤレス電力伝送用に新たに周波数帯を確保する必要がなく、かなり広いエリアで社会実装ができるようになる、ということ。
また、今の基地局はユーザーが通信してないとき、機能を省エネのために制御する機能があるのですが、その時間は何も使われていない、ある意味無駄な時間が生じているともいえます。その時間を利用することで、普段は基地局として稼働している設備を有効活用して機能拡張ができる。

つまりBeyond 5G/6G用の基地局の整備と同時に、自然に電力伝送もできるようになるので、新たに電力伝送用の基地局を立てる必要がなく、非常に効率的に普及させることができると思います。

ソフトバンクだからこそ果たせる役割や意義はどんなものがあるのでしょうか。

やはりソフトバンクがこれまで行ってきた、デバイスと基地局をつなげる、通信をオペレートするという部分が非常に大きい。その知見を使って電力も通信と同じようにオペレートできれば、電力の世界が大きく変わってくるんじゃないかなと思ってます。

今電力というのは、家庭ごとの契約で、家のコンセントで個人が給電・充電をして使うのがあたりまえの時代。それがワイヤレス電力伝送が普及することで端末ごとに電力契約をして課金できるようになる。今までの電力利用のあり方とは違う全く新しいインフラとして成立するのではと感じています。
かつて、インターネットが固定回線からモバイルに変化していったのと同じように、電力の世界も変化していく。そういった意味でソフトバンクがこれまで行ってきたことと非常に親和性が高いと思っています。

技術者として、この研究を通してどんな世界を実現させたいですか?

これは私の個人的な妄想なのですが、どんどんIoTデバイスが増えてきて、これから非常に高感度な社会がやって来るといわれていますが、高感度になるのはいいんだけど、高タスクの社会にならないか、ということ。要するに自分の身の回りのデバイスを管理するためだけに生きなきゃいけないような時代になることを懸念しています。

モノに振り回されるような人生は嫌なので(笑)

そういうものをなくしたいという思いはあります。そんな世界を実現するために電力給電というタスクに関してはワイヤレス化をして無意識的に成立するような世界にしたいな、というのが個人的な思いですね。

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(掲載日:2022年6月22日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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