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助け合えばみんなが助かる。「多様な旅行者」になりきって共生社会をゲームで学ぶ

助け合えばみんなが助かる。「多様な旅行者」になりきって共生社会をゲームで学ぶ

「多様性やダイバーシティについてよく耳にするけれど、難しそうでなかなかイメージがつかめない」「障がいのある人を助けたいけれど、どうしたらよいかわからない」そんな経験はありませんか?

ソフトバンクでは、障がいの有無に関係なくいきいきと働くことができる環境づくり「ノーマライゼーション」を推進しています。障がいのある人やお年寄り、子どもの困りごとに気付き、どうすればみんなが共に楽しめるか、「ワンダーワールドツアー」というカードゲームによる疑似体験を通して共生社会について学ぶ研修が行われました。どのような学びが得られるのか取材してきました。

日本の共生社会の現状を知る

この日行われた研修は、「ワンダーワールドツアー」というカードゲームを通して楽しく共生社会を学ぶというもの。講師を務めるのはゲームの開発者でもある高橋真(たかはし・ちか)さん。会社勤めの傍らワンダーワールドツアー製作委員会 代表の他、NPO法人アクセプションズ 理事、みんなで就学活動実行委員会 代表を務め、さらに大学院で研究を行うなど共生社会の実現を目指してさまざまな活動を行っています。高橋さんにはダウン症と注意欠陥多動性障害(ADHD)と難聴の障がいがあるお子さんがいるそうです。

ゲームに先立ち、高橋さんが日本の共生社会の現状についてクイズ形式で紹介しました。

日本の共生社会の現状を知る

「日本で共生社会を実現すべきと考えている人は何パーセントだと思いますか?」
「共生社会の実現度を10点満点で採点すると何点と回答したでしょう?」

日本リサーチセンターなどの調査によると、約9割の日本人が「共生社会になったらいい」と考えている一方で、共生社会になっているかを10点満点で採点すると、約8割の人が5点以下と回答。また、18歳を対象にした調査で、障がいのある人と接したり働いているのを見たことがないと回答した人が約4割、障がいのある人を助けたことがない人は5割以上との結果で、実際は共生社会になっていないのが現状なのだそうです。

「ゲームを通じてさまざまな特性を持つ人たちと助け・助けられる経験をし、共に過ごす楽しさを知ってこの状況を変えていきたい」と、高橋さんはゲーム開発の背景と願いを語りました。

「多様な旅行者」になりきるゲームで疑似体験

「多様な旅行者」になりきるゲームで疑似体験

「ワンダーワールドツアー」は、プレイヤーが障がいのある人やマイノリティーの人を模した「多様な旅行者」になりきって、多様なメンバーと共に架空の国を旅行し、助け合いながら時間内にミッションをクリアするカードゲームです。

「小さい4歳の子ども」「両手とも小指だけ使える」「環境に恵まれていない」「声を出さない」など合計11種類の何らかの特徴がある旅行者となって、その特性に従ったふるまいをしながらプレイします。

ゲームのゴールは、ミッションカードに示された「行き先」「すること」「持ち物」という3種類のカードを全員が集めること。

「多様な旅行者」になりきるゲームで疑似体験

プレイヤーが小さい4歳の子どもの場合は、背が低くてカードが取れないという設定のため、他のプレイヤーがカードを取ってあげる。耳が聞こえない設定のプレイヤーにはジェスチャーや文字に書いて伝えるなど、ミッションをクリアするためにはプレイヤー同士がお互いの特性を理解し、協力することが必要です。

「多様な旅行者」になりきるゲームで疑似体験

イヤホンをしているのは耳が聞こえにくい旅行者(写真奥)、カードを手持ちしているのは意思を伝えるのが苦手で自分からカード情報が言えない旅行者(写真左下)という設定。

イヤホンをしているのは耳が聞こえにくい旅行者(写真奥)、カードを手持ちしているのは意思を伝えるのが苦手で自分からカード情報が言えない旅行者(写真左下)という設定。

プレイヤーはカードを引いたり交換したりして集めていきますが、カードの中には旅行中に起こるいろいろな出来事を示す「思い出カード」も含まれています。このカードを引いたときは、ツアーメンバー同士が手話であいさつしたり、みんなでパレードに参加したりと、カードに書かれたさまざまな指示を実行します。

手前にある「思い出カード」にはゲームを盛り上げ旅の思い出につながるような事も書かれています。

手前にある「思い出カード」にはゲームを盛り上げ旅の思い出につながるような事も書かれています。

「プライドパレードに参加する」という思い出カードを引き、カードに書かれた指示通り笑顔で手を振る参加者たち。

「プライドパレードに参加する」という思い出カードを引き、カードに書かれた指示通り笑顔で手を振る参加者たち。

手助けやコミュニケーションの工夫をしながらミッションをクリアすることを目指す中で、障がいのある人や子どもの困りごとなどに気付き、どうすればみんなが共に楽しめるかを学び考えることができる仕組みになっています。

共生社会のコミュニケーションやルールへの気付き

ゲーム終了後、「旅行者」としての感想やゴールするために工夫したことなどを参加者が共有しました。

共生社会のコミュニケーションやルールへの気づき
  • 欲しいカードをあらかじめ情報共有して見える化し、みんなが気にかけられるようにした
  • 不要なカードをよけてカードを取りやすく配置するなど、みんながやりやすくなる工夫をしたのがよかった
  • お互いに助け合うことで多くのことができ、その人だけでなくそれ以外の人も助かって過ごしやすくなることが分かった
  • 皆が違った特性をもっていると、それが当たり前で普通になり、自然と助け合いや配慮が出来ると思った

参加者たちは、してほしいことや困りごとが見えていないと助けられないことや、「暗黙のルール」ではなくみんなが心地よいルール作りが奏功したといった体験や気付きを得ていました。

障がいの「医学モデル」から「社会モデル」へ

最後に高橋さんは、共生社会に向けた基本的な考え方として、障がいのある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障がいの社会モデル」を理解することが大切だと指摘しました。

障がいの「医学モデル」から「社会モデル」へ

これは、障がいの「医学モデル」が障がいを個人の心身機能による個人的な問題と捉えるのに対して、「社会モデル」は障がいは社会と個人の心身機能の障がいがあいまって作り出されているものであり、その障壁を取り除くのは社会の責務であるとし、社会全体の問題として捉える考え方です。

「社会モデル」は2006 年に国際連合で採択され、日本では2011 年に改正された「障害者基本法」においてもこの考え方が採用されるなど、障がいの概念は「医学モデル」から「社会モデル」へと変化しています。

本研修を企画したソフトバンクの人事本部で障がい者雇用を担当している伊藤は、「今回の研修では、疑似体験ができるカードゲームによって、楽しみながら共生社会に対する理解が深まっている様子がうかがえました。社会の基盤となるインフラを提供しているソフトバンクが取り組む意義を感じてもらえたのではないかと思います」と手応えを語りました。

社会インフラを担う企業として共生社会を学ぶ

今回の研修講師でゲーム制作者でもある高橋真さんと、研修を企画したソフトバンク株式会社 コーポレート統括 人事本部で障がい者雇用を担当している伊藤香織(いとう・かおり)が、研修を振り返って対談しました。

疑似体験をしておけば実際の場面で役に立つ

伊藤 「改めてゲーム開発のきっかけを教えていただけますか」

高橋さん 「ゲームで社会問題を解決するコンペティションがあったのがきっかけです。最初に応募したときは短時間雇用モデルを社会に広めていく目的のゲームを作ったのですが、駒の数や仕様の関係でプロトタイプのみを作り、商品化しませんでした。

2回目は、大人も子どもも出来るシンプルな構成のカードゲームにしようと考えて、共生社会をテーマに作ったのがこの『ワンダーワールドツアー』です。

社会インフラを担う企業として共生社会を学ぶ

きっかけはコンペがあったからということになりますが、私も娘も生きやすい社会になってほしいと思って、それを理解するには講義よりもゲームで体験するほうが体感しやすく、ゲームというツールを使って理解してもらえたらいいなと思いました」

伊藤 「ゲームであっても疑似体験であっても、経験しているとしていないでは全然ちがいますよね。目の前に支援を必要としている人が現れたときに、どうしたらいいかの1歩が出やすくなる」

高橋さん 「そうなんです。知っていると知らない、体験していると体験していないという差は大きいです。研修でもお話したように、18歳時点で障がいのある人と触れ合ったり助けたりしたことがない人が5割程度いるわけです。接するのは何だかこわいし恥ずかしいので、じゃあゲームを通じて疑似体験をしたら実際の場面に直面したときに緊張しないかもしれないし、気持ちも分かるかもしれないし、一緒に過ごしたら結構楽しいと分かってくれるんじゃないかと思ってゲームという手段を使いました」

疑似体験をしておけば実際の場面で役に立つ

伊藤 「以前、発達障がいの役を体験したことがあるのですが、特性について文字でいろいろ書かれていても、なかなか分からないですよね。コミュニケーションが苦手というのは、いったいどう苦手なのか。目の前にいる本人に聞いてもいいものなのか… ということもあると思います。でもゲームの場合、聞かないと進まないから聞くじゃないですか」

高橋さん 「ええ、実は聞かれたほうが助かるというのが、逆の立場で分かるわけです。接するほうも旅行者になった側も疑似体験できるように、ゲームカードもさまざまな工夫をしています」

「できない」という表現を使わない

伊藤 「ゲーム制作にあたってはどのような工夫をしたのでしょうか」

高橋さん 「いろいろ工夫をしていますが、まず、旅行者のカードを見ていただくと分かるのですが、『できない』という表現を使わないことを意識しました。例えば、『見えない』ではなく『音で世界を知る』、『声が出せない』ではなく『身ぶり手ぶり』、『聞こえない』ではなく『よく見る』のように表現しています。できないということではなく、伝え方に工夫が必要になるということで、良い面に目が向くようにしています」

「できない」という表現を使わない

高橋さん 「他にも、LD(学習障害)のような伝わりづらい障がいの疑似体験や、高齢者や幼児など障がい以外のマイノリティの体験ができる設定もしています。

また、『思い出カード』では、多様性の発見、助けが必要な場面、分かりやすい表現について考えさせるものなどの他、写真を撮ったりパレードに参加したり、楽しくポジティブになるような工夫も入れています」

「できない」という表現を使わない

疑似体験した人の目線になって街を歩いてみてほしい

伊藤 「研修の様子を見て思ったのは、みんなが楽しそうだったということです。今日の参加者はさまざまな部署に所属している初見の人たちなんですが、あれだけ仲良くなれるので、異なる人たちが集まって何かをしなければというときの最初のチームビルディングにもなるし、共生社会も学べるという一石二鳥の効果があると感じました。高橋さんとしては、今後このゲームの活用について、思い描いているようなことはありますでしょうか」

高橋さん 「まずは家で遊んでほしいと思っています。それと、ソフトバンクさんのような社会のベース、インフラを作る会社の方に体験していただくと、UX・UIを意識したサービスにつながっていくのではないかと期待しています。

もう一つは、小中学校の道徳や総合の授業などで使われるようになっていくと、ゲームをした後に子どもたちが疑似体験した人の目線になって、見え方が変わるのではないかと思うんですよね。

『なんで日本語標識しかないんだ』とか『ここを渡るのは怖いね』と、たぶん自分が住んでいる街の見え方が変わると思うんです。子どもたちがそういう視点に気づくと、その子どもたちが大人になったときにそれが当たり前の世界になってくるのではないかと思います。

ですので、家庭の中、社会的な役割や責任を持っている企業、将来を創る子どもたちに体験してもらうことで、社会のベースが変わっていくといいなと思っています」

伊藤 「たしかに、若いうちに触れておくという意味は大きいですね。ソフトバンクも社会インフラを担う企業として、引き続き共生社会の実現に向けて取り組んでいきたいと思います。今日はありがとうございました」

疑似体験した人の目線になって街を歩いてみてほしい
ワンダーワールドツアー

「ワンダーワールドツアー」

共生社会の実現に向け、いろんな特徴をもった旅行者になりきり、多様なメンバーと一緒に旅行に行きミッションを時間内にクリアするゲームです。ゲームを通じてマイノリティの人の疑似体験ができ、互いに助け・助けられる経験ができます。また、このゲームをすることで触れ合う機会の少ない人たちと一緒に過ごす楽しさも知ることができます。
https://www.inclusive-game.com/

(掲載日:2024年3月6日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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