「すべてのモノ・情報・心がつながる世の中を」というコンセプトを掲げ、SDGsの実現に向けて取り組んでいるソフトバンク。「SoftBank SDGs Actions」では、いま実際に行われている取り組みを、担当社員が自らの言葉で紹介します。25回目は、自動運転・隊列走行技術を用いたBRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)の実用化を目指した西日本旅客鉄道株式会社(以下「JR西日本」)との取り組みです。
話を聞いた人
ソフトバンク株式会社 法人事業統括 鉄道事業推進本部 事業企画統括部
渡辺 健二(わたなべ・けんじ)
2006年に日本テレコム株式会社(現ソフトバンク株式会社)入社。JRの駅ビルのシステム更改プロジェクトからJRに関わるようになり、その後、主にJR各社の通信事業以外のソリューションを担当する。
移動モビリティサービスが描く分断のない社会
われわれが目指している本格的に次世代モビリティサービスが実用化された社会では、移動がもっと容易になったり、例えば移動店舗が自宅の近くにやって来るなど、今後ますます高齢化が進む社会において、利用者の生活がより便利に、そして豊かになると思っています。
昼間は小型の車両を移動店舗として隊列でつなげてある場所で営業し、夜になったら車両を回収する、といったことも考えています。
移動手段、という意味で考えると、道路と比較して鉄道は、足の不自由な方や高齢者などからすると、線路を横断するために跨線橋(こせんきょう)やアンダーパスを通ることが難しいということもあります。鉄道の乗り換えも、利用者からするとかなり負担ですよね。道路であれば、比較的上下の移動も少ないので、乗り換えがスムーズになって高齢者・障がい者の利便性や安全性の向上につながりますよね。次世代モビリティサービスが目指すのは、そんな分断のない社会です。われわれは、そのような社会の実現に向けて、JR西日本と一緒に自動運転・隊列走行技術を用いたBRT(以下、「BRT」)の開発を行っています。
将来にわたって持続可能で利便性の高い地域交通を提供することを目指し、鉄道以外の新しい交通手段を創出する手だてとして、自動運転の取り組みを開始しています。各地域が「移動ニーズ」や「まちづくり」などの観点を踏まえてさまざまなモビリティを検討する中、選択肢の一つとなるような次世代モビリティサービスの開発に挑戦しており、地域のまちづくりや観光振興策などと連携して利便性を高め、事業性にも優れたサービスの実現を目指しています。
気仙沼線BRTではすでに専用道の一部区間で自動運転を始めていますが、一般道で時速40kmを超えるバスの自動運転は、ドライバーが不要となるレベル4の実現までに、かなりの時間がかかることが想定されていますので、自動運転・隊列走行BRTという次世代モビリティサービスの実現を私たちは目標にしています。
新しい交通手段を町の住民に受け入れてもらう
自動運転に関しては、先進モビリティ株式会社が2017年から新東名高速道路でトラックの隊列走行の実験を行っていて、時速80km、車間距離10mによる走行を実現していました。先頭車両はドライバーが運転しますが、後続の車両はドライバーが座っているだけ。安全のため運転席に座っていますが運転はしていませんでした。その技術を用いて、バスの隊列走行の取り組みを開始しましたが、バスには一般の乗客が乗っているため、トラックでの走行とは状況が全く異なります。車内転倒事故を防ぐために、急ブレーキや急ハンドルにならないようにすることも考えなければいけません。
BRTを利用するのは、その地域の住民の方々です。実用化に向けて、何よりも大切なのは、地域住民にBRTを安全な地域の交通サービスとして受け入れてもらうことです。
ソフトバンクがプロジェクトマネジメントを担うJR西日本との取り組みの次のステップとして、2023年11月から東広島市、JR西日本と広島大学の連携協定のもと、東広島市の公道で自動運転・隊列走行BRTの実証実験を行っています。この実証実験において、ソフトバンクは、自動運転システムの提供、自動運転に関するデータの取得と分析、車車間通信のための閉域サービスや高精度測位サービス「ichimill」を提供しています。
2024年1月、2月に住民の方を対象にした試乗会も開催し、機運を醸成することを目的に、市報での情報発信も実施しました。試乗会の初日には地元のテレビや新聞など、多くのメディアで取り上げられました。試乗会は予約受付開始後、約1,000人の枠がほぼ満席になり、世間からの高い関心がうかがえます。試乗後のアンケートを見ると、自動運転の必要性や安全性を感じた方も多かったようです。
ドライバー不足の中、バスの運行本数を増やすことは難しいですが、自動運転・隊列走行BRTであれば大量輸送が実現でき、ドライバーを増やさずにバスを増やすだけで輸送力を増やせます。東広島市のブールバールと呼ばれる西条駅と広島大学間は、交通の利便性が向上することにより、路線周辺の住民が増え、にぎわいが増すことが期待されています。
自動運転の品質(速度制御、横ブレなど)の課題確認、信号や白線認識状況を分析し、次年度以降の実験に役立てています。住民の利便性を考えて、さまざまな車両の順番を自由に組み合わせられるよう、乗り物・サービスとしての実用化を見据えた実験でした。
1秒の遅延も許されない。ズレをなくすために課題を一つずつ解決
東広島市の実証実験では、日本の公道で初めて、複数の車両をつなげた連節バスの自動運転を実施しました。また、異なる車種の組み合わせで、バス車両の自動運転・隊列走行ができました。
以前、実証実験を行った滋賀県野洲市のテストコースは、道路は平たんで植栽がなく、手動運転車や歩行者など他の交通がないなど、走行環境が整っていましたが、東広島市では、一般道で坂道、そして道路際に植栽があり、他の交通との共存状態で対応の難しさがありました。他にも、下り坂の終わるところでは道路(路面)、カーブでは道路際の植栽をそれぞれ障害物として認識してしまうので、一つ一つ対策を講じることの必要性も感じました。
BRTの車両の位置測定は、ソフトバンクの衛星(GNSS:Global Navigation Satellite System)を使った高精度測位サービス「ichimill」を使っていますが、高架橋の下を走るときなどは、どうしても衛星からの電波が受信できません。一時的にichimilが使えないときに、他の測位方式に切り替えるなどの必要性もあると気付きました。また、隊列走行のときは、車同士の通信が1秒以上遅延すると、車間維持に支障が生じる可能性があるので、車を止めるように条件設定しています。普段、スマホを使っているときは、通信している基地局が変わることは、気にならないと思いますが、自動運転の場合はそれが致命的になる。要は、1秒の間に、前を走行する車が急ブレーキをかけた情報が後続車に伝わらないと追突事故の可能性が高くなってしまう。だからこそ、低遅延であることが肝です。
現時点での自動運転技術は、単に走ったり曲がったりの制御はできるようになっていますが、障害物検知などの安全面では発展途上という段階です。特に、シートベルトを装着しない人が乗車するバスの自動運転では、乗客の安全も考慮する必要があります。バスが時速60kmで走っている場合、乗客の車内転倒事故を防ぐために、低い減速度(0.15G以下程度)にせざるを得ず、前方100m先に障害物があるかどうか、見極める必要があります。また、加速直後の減速や、減速直後の加速は、乗客の体感的には急ブレーキや急加速となり、乗客にとっては快適でないですし、不安になりますよね。逆に、安全のために、あまりにもゆっくり走ると他の一般車両の通行を邪魔することになってしまい、地域住民にとって自動運転バスが受け入れがたいものになってしまうなど、一般道での実用化に向けてはまだ技術的に課題があります。
乗り物は絶対なくならない。加速する無人化の中で安全を確保する
利用者が安心・安全に利用できる次世代モビリティの実現に向けて、一番重要なことは、実験中に事故を起こさないこと。また、自動運転・隊列走行では、通信が重要であり、通信事業者として安定した通信を提供することが大事であると思っています。特に、自動運転・隊列走行では車車間通信が必須なので、車両同士が直接通信するための通信は、実用化のめどを付けたいと考えています。
全ての車両が自動運転になれば事故がほぼなくなる。それまでは、自動運転と手動運転車が混在している状態です。高齢化やドライバー不足などがすでに顕在化しており、今後も待ったなしで大きくなっていく課題なので、少しでも早く役に立ちたいと思います。街づくりを含めてすぐに自動運転で変えられるものではありません。いつの間にか生活に根付いて当たり前になっているものです。
BRTに関わる中で、地方が抱える交通の課題が深刻であることをより強く感じるようになりました。自動運転はいろいろな要素技術の組み合わせによって成り立つものなので、ソフトバンクが自社で自動運転システムを開発・提供することは、かなりハードルがあると思っています。ただ、今後、乗り物はドライバーや車掌など乗務員が同乗しない自動運転化が進んでいくと思われますので、無人の乗り物を安心してご利用いただくために、例えば、バス車内の乗客の動きなどから車内トラブルを自動で検知するというような技術などを含め、検討していきたいです。
(掲載日:2024年4月18日)
文:ソフトバンクニュース編集部
ソフトバンクのサステナビリティ
今回紹介した内容は「DXによる社会・産業の構築」に貢献することで、SDGsの目標「1、2、3、8、9、11、17」の達成と社会課題解決を目指す取り組みの一つです。