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成層圏通信プラットフォーム「HAPS」、世界初の光無線通信など商用化に向けた研究を加速 ―「ギジュツノチカラ HAPS技術の進化編」開催

成層圏通信プラットフォーム「HAPS」、世界初の光無線通信など商用化に向けた研究を加速 ー 「ギジュツのチカラ HAPS技術の進化編」開催

成層圏から通信ネットワークを提供するプラットフォーム「HAPS(High Altitude Platform Station)」の商用化に向けて、現在、さまざまな要素技術の研究開発が行われています。このほど、ソフトバンクでの開発の進捗や取り組みに関する説明会が行われ、HAPSの商用化に向けた新たなチャレンジとして、HAPSと低軌道衛星「LEO(Low Earth Orbit)」間の光無線通信の取り組みが発表されました。

HAPSの可能性を広げる光無線通信、世界初の技術実証へ

ソフトバンクが注力している先端技術について紹介するイベント「ギジュツノチカラ」。2024年4月に「HAPS 技術の進化編」と題する記者説明会が開催され、この日新たに発表されたのは、地上約20キロメートルの成層圏で滞空するHAPSと、地上2,000キロメートルの宇宙空間を飛ぶLEOを、光無線通信でつなぐ技術実証の取り組みでした。

光無線通信は、宇宙空間や宇宙と地球間など、宇宙用途では急速に実用化が進む技術。しかし、成層圏と宇宙の間ではこれが世界初の技術実証となります。取り組みの背景や実現に向けた研究開発の進捗をレポートします。

  • 2024年4月23日時点の公開情報に基づく。ソフトバンク調べ。

HAPSの可能性を広げる光無線通信、世界初の技術実証へ

地上局との通信での周波数帯域不足が課題

HAPSは、成層圏に飛行させた無人機体を通信基地局のように運用することで、山岳地帯や発展途上国など、通信ネットワークが整っていない場所にも安定したインターネット接続環境を構築するもの。地上からの通信ネットワークとHAPSを効率的に相互連携させることで、より広域なネットワークカバレッジを実現し、DXを支えるインフラや大規模自然災害発生時の復旧活動などにも活用が期待されています。

2020年秋に成層圏フライト中のLTE通信試験が成功し開発が加速しているHAPSですが、商用化に向けた課題の一つとなっているのが、HAPSと地上局との通信ネットワーク(フィーダリンク)です。

地上局との通信での周波数帯域不足が課題

HAPSがユーザーのスマートフォンなどから集めたデータは、地上局からインターネット網へ光ファイバーでつなぎます。しかし、海上や砂漠などでは地上局の設置が難しく、また、多数の地上局建設には時間やコストがかかります。その対応策として、他のエリアの地上局から衛星を経由してHAPSと接続する方法や、複数のHAPS同士を接続して成層圏でメッシュネットワークを構築して通信サービスを提供する取り組みが行われてきましたが、このメッシュネットワークで課題になるのが周波数帯域の不足です。

  • 複数の接続デバイスからなるグループが1つのネットワークとして動作する仕組み。

地上局との通信での周波数帯域不足が課題

例えば、1機で数百キロメートルのエリアをカバーするHAPSでは、多くのお客さまに通信を可能とします。しかし、HAPSと地上局のフィーダリンクにおいて、ある一カ所にトラフィックが集中すると、従来の電波による通信では周波数帯域の不足がボトルネックになることがこれまでの実証で分かっていました。そこで、電波と異なり、周波数帯の割り当ての制約を受けずに超高速通信ができる光無線通信によって、この課題を解決しようというのが今回の取り組みです。

光無線通信による通信ネットワークは、HAPSと低軌道衛星を光無線でつなぐことで地上局を不要とし、災害時の緊急展開に利用することや、成層圏でのメッシュネットワークを構築することで、HAPSが集めたスマートフォンなどからのデータを適切な地上局に下ろすことが可能になるだけでなく、電波を使った通信よりもはるかに早い超高速通信が可能になることが見込まれ、HAPSの可能性がさらに広がるものとして期待されています。

地上局との通信での周波数帯域不足が課題

双方向光無線装置を共同開発、成層圏での光無線通信に挑戦

一方で、光無線は宇宙用途ではすでに実用化されているものの、成層圏のHAPSに適用するには難しさもあるといいます。光無線はレーザーを使った通信で、ビームが非常に細いため、気象の影響を受けやすく、また、1対1での通信しかできないという制約があり、宇宙用途よりもさらに高度な光無線装置が求められます。

双方向光無線装置を共同開発、成層圏での光無線通信に挑戦

先端技術研究所の柳本教朝は、「難易度は高いが、光無線技術は宇宙分野で急速に実用化が進んでいる。日本は光学・光通信技術に関係するサプライヤーも多く、光無線に必要な要素技術を全て内包する恵まれた環境にある」として、最先端の光無線通信装置を持つ国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)と共同で、双方向光無線装置の開発を行っていることを明らかにしました。

ソフトバンクとNICTが共同開発した光無線装置の模型

ソフトバンクとNICTが共同開発した光無線装置の模型

株式会社アークエッジ・スペースが開発と運用を手掛ける6Uサイズの超小型人工衛星の模型

株式会社アークエッジ・スペースが開発と運用を手掛ける6Uサイズの超小型人工衛星の模型

HAPS-LEO間で2026年に通信実証計画

ソフトバンクは、HAPSでの光無線通信を実証するために、2026年には世界初となる低軌道衛星とHAPS間による10Gbpsの光無線通信の実証実験を行う予定。実証実験では、LEOの超小型衛星とHAPS、その他にも地上の小型局との通信や、どこかの地上局が天候によって使えなくなってしまった場合のサイトダイバーシティの検証のほか、高度3万6,000キロメートルにあるGEO(静止軌道衛星)との光無線通信リンクの検証などを行っていくことが計画されています。

HAPS-LEO間で2026年に通信実証計画

柳本は、「(成層圏は)人類がまだやったことのない領域なので、何が起きるかわれわれも分かっていない。これによって多数のノウハウが得られると考えており、より高速かつ安価で量産できるような光無線装置を作っていきたい。光無線によって宇宙や成層圏、地上を柔軟につなぐことができれば、お客さまは今どこと通信しているのかということを意識することなく、ノンテレストリアルネットワーク(非地上系ネットワーク)をお使いいただけるような世界が来るのではないか」と意欲を示しました。

商用化に向け、成層圏気象研究や制度整備も推進

商用化に向け、成層圏気象研究や制度整備も推進

HAPSが滞空する成層圏の気象に関する研究発表も行われました。成層圏は、雲がなく、比較的気流が安定し、地上の災害などの影響を受けることが少ないとされていますが、気象研究を通して、対流圏(地表と成層圏の間)ほどではないものの、強風や落雷、火山灰や低圧といった飛行に影響を与える気象現象が分かってきたといいます。

HAPSの機体はあらゆる条件に適用するように設計が行われていますが、より安定した通信サービスを行うには、いかに機体を揺らさずに飛行させるかが重要なため、既存の成層圏の気象データなどを活用し、ソフトバンクが独自のAI技術で気象データを分析するツールを開発したと紹介しました。

その他、要素技術の開発進捗として、さらなる飛行性能の向上に向けた機体の構造開発やHAPS専用モーター、アンテナ開発などの最新動向が報告されたほか、通信周波数の利用拡大や航空機の型式認証、国際運行ルールといった制度整備の進捗についても報告が行われました。

(掲載日:2024年5月23日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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