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宮田裕章と考えるヘルスケアデータ活用と「治療より予防」の未来型医療

【医療×ソフトバンク】宮田裕章と考えるヘルスケアデータ活用と「治療より予防」の未来型医療 【医療×ソフトバンク】宮田裕章と考えるヘルスケアデータ活用と「治療より予防」の未来型医療

みんなのチカラやアイデアをかけあわせて、社会を良くしていくために――。さまざまな社会課題について、ソフトバンクはどのように挑みつづけているのか。X PROJECTでは、ソフトバンクが創ろうとする今と未来を、多角的な視点からひもといていきます。

少子高齢化で労働人口が減少している日本では、増大する医療費をはじめ医療分野で多くの課題を抱えています。一方、日本は国民皆保険制度をはじめ諸外国と比べて保険制度が充実しており、安価かつ質の高い医療が身近に存在するため、ヘルスケアへの意識が薄く、事業としてヘルスケア分野に参入することが多くの企業にとって障壁となっている現状も。

しかし、世界に誇れるトップクラスの“質”を支え続けるために日本の医療現場が疲弊している事実は変わりません。そんな中、「テクノロジーを通じて社会を良くしていく」ことを命題に、ソフトバンクはヘルスケア分野に挑んでいます。

今回取り上げるのは、ソフトバンクの社内プロジェクトから立ち上がり、ヘルスケアサービスとして成長を続けている「HELPO(ヘルポ)」。このようなテクノロジーを活用したヘルスケアの未来について、データサイエンティストの宮田裕章さんにお聞きしました。

PROFILE

  • 宮田裕章
    MIYATA HIROAKI

    慶應義塾大学医学部教授

    1978年生まれ。専門はデータサイエンス、科学方法論。「データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う」ことをテーマに幅広い活動を行なっている。コメンテーターとしてさまざまなメディアにも出演。

なかなか進まない?日本のヘルスケア分野におけるDXの課題とは

医療分野におけるDXやデータ活用が世界的に進んでいますが、日本の医療DXの現状や課題を宮田さんはどのように見られていますか?

宮田

大きな課題として、多くの医療機関が“つながらない”状況にあることが挙げられます。各病院が持っているデータを共有したり、患者の医療健康データを集積して活用したりすることがほとんどできていないのです。

日本の場合、高度経済成長期に構築した旧来の技術やインフラに社会が過剰にフィットしてしまっていることが“つながらない”状況を作り出す一因にもなっています。旧来の技術やインフラが隅々まで行き渡り過ぎて、それを前提に社会が構築されているので、クラウドなどの新しいシステムを導入する際に複雑な手間や膨大なコストがかかってしまうなど、足かせにもなっているのです。マイナンバーカードを保険証化するなど国を挙げた新しい動きも出てきていますが、そうしたことも含めて、医療健康データを共有・集積して活用できるような “つながる仕組み” を作っていくことが急務となっています。

幸い、日本は国民の医療健康データそのものは多い国です。国民皆保険制度のもと、多くの人が簡単に医療にアクセスできるため、個別の診断・治療データは豊富にあります。また日本は健康診断の制度も充実しているため、多くの人が定期的に健診を受けています。これらのデータを有効活用できる仕組みさえ作れたら、日本の医療が飛躍的に向上する見込みはあります。

そのようにデータを活用した医療が実現することで、具体的に医療のあり方はどのように変わるのでしょうか?

宮田

これまでは患者も医者も、病気になるまで待っているのが一般的でした。病気になって初めて自分の健康状態が可視化され、そこから治療などの対応を考えていたわけです。現在の医療では、発症後に治療するだけでなく、データを活用することで早い段階で病気の予兆を発見し、事前に予防したり、進行を遅らせたりすることに力点が移ってきています。

そうしたことが可能になったのは、スマートフォンをはじめとしたデバイスが普及することで、健康状態の可視化がより低コストで行えるようになったからです。例えば、認知症は歩行速度が低下すると発症リスクが高まるとされています。日頃からスマホで日常の歩行速度を記録しておけば、その変化を察知して、発症前から予防対策が取れるようになるわけです。また、データを活用した予防医療がさらに進化すれば、病気の早期発見が診療時間の削減につながり、医師の過重労働や医療費増大といった問題の解決につながるかもしれません。

こうした流れを背景に、従来の製薬会社や医療機器メーカーといった企業だけでなく、さまざまなテクノロジー企業が続々と医療・ヘルスケア領域に参入してきています。

24時間365日、健康相談ができるヘルスケアアプリ「HELPO」

ソフトバンクもまた医療・ヘルスケア領域に貢献するテクノロジー企業として現在、子会社であるヘルスケアテクノロジーズを通じて、ヘルスケアアプリ「HELPO」の提供を行っています。ここからは「HELPO」の機能や特長、ヘルスケアアプリとしての可能性についてソフトバンクの担当者を交えて語っていきます。

HELPOの立ち上げ時より担当

ソフトバンク株式会社 ヘルスケア事業統括部 統括部長
兼 ヘルスケアテクノロジーズ株式会社 CSO

鴻池 大介(こうのいけ だいすけ)

「HELPO」はソフトバンクの子会社であるヘルスケアテクノロジーズ株式会社が提供するヘルスケアアプリ。チャットによる健康医療相談やオンライン診療の予約や受診、病院検索、一般用医薬品などの購入がアプリ上からワンストップで可能。2020年7月から法人・自治体向けにサービスを提供し、2022年12月からは個人向けにも提供を開始。

宮田

「HELPO」とはどのようなヘルスケアアプリなのでしょうか?

鴻池

「HELPO」の大きな特長として24時間365日、いつでも医師や看護師、薬剤師に相談できる「健康医療相談」機能と、平日夜間や土日でもスマホから手軽に受診できる「オンライン診療」機能があります。
「健康医療相談」は日常生活における不調や健康面で気になること、子育てや食生活改善など幅広いアドバイスを受けることができ、具体的な症状がある場合は病院を受診する目安や、何科を受診すべきなのかといった相談にもお応えします。
診療が必要な際も簡単な操作ですぐに受診ができるオンライン診療をご用意していますので、忙しい就労層や小さなお子さんがいるご家族でも使いやすい設計となっています。

健康医療相談の様子

宮田

いつでも専門家から健康維持のためのサポートやアドバイスが受けられるのは、すばらしいですね。今はわざわざ病院に行かなくても、ヘルスデータをもとに受診は必要ないと判断できるケースもあります。「HELPO」が提供しているような健康医療相談やオンライン診療がさらに充実していけば、医療リソースをより必要なところへ割り当てることや、重篤な人が高度で専門的な診断や治療をスピーディに受けられることも可能になるかもしれません。病院での混雑や待ち時間も減ることでしょう。

そもそも、インフルエンザなどにかかった人が病院を訪れることは、高齢者や持病を抱えている人がたくさんいる空間に足を踏み入れることを意味します。感染リスクを考えると、こうした状況はあまり好ましくないとも言えます。軽度な症状の場合、いずれはオンラインでの診療後、薬がドローンですぐにマンションのベランダまで届く、なんて時代も来るかもしれません。

鴻池

「HELPO」もすでに、オンライン診療の予約から実際の診療、決済や処方箋の発行、薬の配送まで、アプリ一つで完結できます。例えば慢性疾患の場合、薬をもらうためだけに定期的に病院を訪れる必要がなくなりますし、今後はスマホでバイタルデータを取得し、体調変化や病気の予兆の発見につなげるような機能も取り入れたいと思っています。

宮田

いいですね。今はスマホやウエアラブル端末から脈拍や血圧、心拍数や呼吸数などのバイタルデータを取得する技術がどんどん進歩しています。それによって今後は病気の予兆を早めに把握し、医療側が事前に何かしらのアプローチを取ったり、あらかじめ準備をしたりしておくことも可能になるでしょう。症状が出てからあわてて病院を探し、実際の受診まで何日も待たされる、なんてこともなくなるかもしれません。

“生”にまつわる多様な豊かさを実現する社会を目指して

鴻池

「HELPO」は個人の健康に関わるPHR(Personal Health Record:個人の健康・医療・介護に関する情報)を集積することで、健康増進や生活改善、最善の治療に役立てることも目指しています。PHRのデータとこれまでの医療費や処方箋の情報をかけあわせれば、将来の疾病を正確に予測できるようになるかもしれません。

宮田

そのようなデータの連係・活用はどんどん進めていただけたら、私としてもうれしいですね。もう一つ、私が「HELPO」のようなサービスに期待しているのは、医療のパーソナライゼーション(個別化)です。同じがんでも年齢や体質、遺伝子の型、これまでどのような治療を行ってきたかによって、投薬や治療法は変わってきます。すでに今、そのような患者一人ひとりに合わせた医療の個別化は始まっていますが、ユーザのパーソナルデータを集積・活用することで、さらに個別最適化したきめ細やかな治療が可能になるでしょう。

鴻池

「HELPO」ではサービスコンセプトとして「あなたに寄り添うホームドクター」を掲げており、今後はデータの連係・活用を推進しウェルネスとメディカル、デジタルとリアルの垣根を無くすヘルスケアサービスへと進化させていきたいと考えています。本日はサービスを提供する立場としても非常に示唆に富むお話ばかりで、今後のサービス開発にもぜひ生かしていきたいと思います。ありがとうございました。

宮田

今後「HELPO」のようにパーソナルデータを集積し、ユーザー一人ひとりに自然なかたちで寄り添い、サポートしてくれる仕組みやサービスは世の中にどんどん増えていくでしょう。

理想的なのは、個別最適化した医療が受けられるだけではなく、もっと手前の段階から、その人が楽しく、その人らしい生活をしていれば、自然に健康的な暮らしにもつながっているという状態です。あるいは、病気や障がいを抱えていても、それが人生の妨げにならず、その人らしく生きられるという状態。そのような“生”にまつわる多様な豊かさを実現するためにも、パーソナルデータの活用は重要なカギを握ると思いますので、「HELPO」の今後の普及・進化にも大きな可能性を感じています。

日本の医療分野におけるさまざまな課題をデジタルの力で解決すると共に、世界トップクラスの日本の医療を次世代に引き継ぐため、医療・ヘルスケア分野における挑戦を行うソフトバンク。「HELPO」はそうした挑戦の代表的サービスとして、2022年冬から法人だけでなく個人向けにもサービスの提供を開始しました。「HELPO」を通じて人々のヘルスケアに関する意識を変えて行くと同時に、健康増進や医療資源の最適化、国民皆保険の維持など、ソフトバンクは医療・ヘルスケア分野におけるさまざまなテーマに今後も挑み続けていきます。

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