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「リフトアンドシフト」とは、情報システムをクラウド移行する手法の1つです。既存システムをそのままクラウドに置き換え(リフト)、徐々にクラウド環境に最適化(シフト)していく方式です。
本記事では、リフトアンドシフトのメリットとデメリット、クラウドリフト、クラウドシフトとの違い、かかる費用などを解説していきます。クラウド移行でリフトアンドシフトを検討している方の参考になれば幸いです。
「リフトアンドシフト」は、クラウド環境への移行戦略の1つです。
リフトアンドシフトでは、第1段階としてクラウドへ既存のアプリケーションをそのまま移行しつつ、第2段階でアプリケーションをクラウドへ最適化していきます。昨今、企業や官公庁にはクラウドファーストが浸透しつつあります。そのような中で、クラウド移行戦略の1つであるリフトアンドシフトは高い注目を集めています。
リフトアンドシフトを採用する最大の目的は、スムーズなクラウド環境への移行です。
アプリケーションの移行は大きな労力を伴います。特にオンプレミスからクラウドへの移行は、アプリケーションの検証に加えて運用面も全面的に見直す必要があります。リフトアンドシフトであれば、最初は移行先のクラウド環境でもオンプレミス環境と同一のアーキテクチャを利用できます。アプリケーション自体に大きな変更を加えずクラウド化が可能なため、移行にかかるさまざまなコストを抑制可能です。
このような背景により、クラウド移行戦略としてリフトアンドシフトを採用する企業が増加しているのです。
クラウドへの移行方法は、リフトアンドシフトの1つだけではありません。ここでは、代表的なクラウド移行戦略として、リフトアンドシフトを含む「6つのR」を紹介します。
| 移行方法 | 概要 |
|---|---|
リフトアンドシフト | オンプレミスで稼働するアプリケーションを、クラウドへ移行(リフト)した後に、クラウドへ最適化(シフト)する。 |
REPLATFORM | アプリケーションやデータベースなどを部分的にクラウドへ移行する。 |
REPURCHASE | アプリケーションやデータベースを(オンプレミスなどの)既存製品からSaaSなどの製品へ切り替えを行う。 |
REFACTOR | クラウドネイティブなアプリケーションにすべく、プログラムレベルでの改修を行う。 |
RETIRE | 不要となったアプリケーションやデータベースを廃止する。 |
RETAIN | クラウドへ移行せずにオンプレミス環境での稼働を継続する。 |
IDC Japan 株式会社※によると、は2026年の国内パブリッククラウド市場規模は2021年の約2.6倍となる4兆2,795億円まで成長すると予測しています。そのため、今後もアプリケーション基盤をクラウド環境へ移行する企業は増加していくでしょう。
しかし、「リフトアンドシフト」が常に最善のクラウド移行戦略となるわけではありません。企業は前述した「6つのR」の移行戦略について正しく理解した上で、自社に最適なクラウド移行の計画および実施が求められます。
リフトアンドシフトは「クラウドリフト」および「クラウドシフト」という2つの移行戦略から構成されています。
「クラウドリフト」は、オンプレミス環境などで稼働するシステムやアプリケーションを、そのままクラウドへ移行(リフト)します。アプリケーションプログラムなどの改修は行わずインフラレイヤーのみの変更となるため、影響範囲を限定できるという特徴があります。
一方、「クラウドシフト」は、クラウドサービスのメリットを最大限享受するために、既存システムやアプリケーションをクラウド環境に最適化すべく改修を行います。例えば、サーバレスアーキテクチャの導入などです。
つまり、リフトアンドシフトは「クラウドリフト」から「クラウドシフト」へと段階的に実現する移行戦略なのです。
クラウドリフトに関して理解を深めたい方は以下の記事がオススメです。
クラウドリフトとは?クラウドシフトとの違い、メリット・デメリットを解説
クラウドへの移行戦略として、リフトアンドシフトを採用する企業が増加しています。なぜならば、リフトアンドシフトはさまざまなメリットがあるからです。ここではリフトアンドシフトのメリットとして下記の4つを説明します。
リフトアンドシフトは、クラウド移行にかかる手間や時間を削減可能です。
前述の通りクラウド移行にはさまざまな戦略がありますが、プロジェクトによってはそれらの戦略を利用せずに、クラウドリフトおよびクラウドシフトを同時に行うケースも存在します。このようなケースは、プログラムの大規模な改修が必要になり、同時にクラウド環境での運用ルールも整備していく必要があります。また、クラウドに対する知見がない企業はノウハウも蓄積されていないため、作業や整備に多くの時間を費やすことになります。
一方でリフトアンドシフトで進めると、「クラウド環境への移行 → アプリケーション最適化」のように段階的な対応が可能です。これにより、第1段階でクラウドの習熟度向上が期待できる上に、クラウド移行のノウハウを貯めながら移行できるため失敗しにくいでしょう。
リフトアンドシフトは、BCPに有効です。
日本は災害大国といわれ、豪雨による洪水や土砂災害、地震や火山噴火などさまざまな災害が発生するリスクを有しています。企業はそれらの災害と常に隣り合わせであることを認識し、万が一が発生した場合でも事業を継続するための計画(BCP)を立てておく必要があります。
一般的にクラウドベンダが所有するデータセンターは、災害などに対して堅牢であり、一般的なオフィスに比べて安全に作られています。サービスによっては複数のデータセンターで分散することもできるので、さらに安全に構築することができるでしょう。
このように、リフトアンドシフトによりアプリケーションをクラウド環境へ移行しておけば、比較的コストをかけずにBCP対策を実現できるでしょう。
リフトアンドシフトにより、障害や運用の負担を軽減できます。
アプリケーションの動作環境は、複数の階層で構成されています。オンプレミスの場合、インフラストラクチャーからアプリケーションに至るまで、全て自社の責任下で運用します。アプリケーションに障害が発生した場合は、全階層に対して調査および復旧作業を行う必要があります。これは企業にとって大きな負担となります。
一方、リフトアンドシフトによりクラウドへ移行した場合、インフラ層はクラウドベンダが運用します。そのため、障害発生時は復旧作業や運用の手間は減るでしょう。
リフトアンドシフトにより、スケールアップあるいはダウンが容易となります。
Webサイトの開発や運用に携わる人であれば「自社のWebサイトに対するアクセスが急激にスパイクした」という経験をお持ちかもしれません。例えば、インフルエンサーが自社製品をSNSで紹介したなど、急激なアクセス上昇は予期せずに到来するものです。
このようなとき、サーバのスペック増強や台数増加などの対応をとる必要があります。オンプレミスの場合、物理的な機器を購入した上でサーバが配置されている場所へ出向き、手作業で交換せねばなりません。全ての対応が完了するためには、多大な時間や労力を要します。
一方、クラウド環境へ移行した場合、クラウドベンダが提供するWebコンソール上から容易にスケールアップあるいはスケールダウンが可能です。「必要なときに必要なだけ」利用できるのは、クラウドならではのメリットといえるでしょう。
リフトアンドシフトにはさまざまなメリットがあります。ただし、いくつかの課題も有しています。ここでは、リフトアンドシフトの課題について解説します。
セキュリティ対策の重要性は、オンプレミスであろうがクラウドであろうが変わりません。クラウドのインフラ自体は非常に強固なセキュリティ対策を実現しています。また、サーバ室やデータセンターへの入館権限の管理なども必要なく、クラウド上で簡単に設定できるようになります。そういったメリットもありますが、管理者の設定を誤ってしまうと自社のデータが公開されてしまうというリスクもはらんでいます。
やや古い情報となりますが、過去には米国国防総省がクラウドサービスの設定を誤っていたことにより、個人のSNSなどから情報を収集していたことが露呈したという報道もありました。このような機密性が高い情報を扱う組織でも、クラウドのセキュリティに関するミスを犯してしまうリスクがあるということは、あらためて認識しておくべきです。
設定1つで公開されるようなリスクでは無く、リアルでは定義しにくかったような、例えばDCへの入館時の権限のせいげんなども、クラウドではリソースごとに定義出来るようになるし、ユーザーごとに柔軟な設定が可能になります。クラウドの方がより適切な管理が出来るようになります。
その上で、そう言った課題への対処を怠ると落とし穴があるケースもあるよと言うのはよいと思います。
このようにクラウドのセキュリティ面は、企業にとっても大きな課題といえます。
クラウドシフトを終えるまでに一定のコストと期間を要する点も課題の1つです。
一般的に、クラウドリフトは短期間で完了しますが、クラウドシフトにはクラウドサービスに関する深い知識が必要となります。クラウドシフトを実施するためには大幅なアプリケーションの改修を伴うことが多く対応に時間も要します。クラウドシフトを終えるために、経営陣をいれた推進体制を整えておくことが大切です。
リフトアンドシフトは、移行計画がうまくすすまない可能性があります。
企業によっては「まずはリフトをして落ち着いてから、シフトを実施する」といった計画でクラウドへの移行を進めるケースがあります。ただ、実際にシフトを進めようとした場合にさまざまな制約により計画が停滞してしまうケースや、クラウドに対する知見をもたないため実現可能な計画自体が立てられないケースもあります。
このようにリフトアンドシフトは、クラウドに関する高度なスキルが求められる点は課題といえるでしょう。
リフトアンドシフトを進めるためには、必要なコストを把握しておくことが重要です。ここでは、イニシャルとランニングという2つの観点で解説します。
イニシャルコストとして、以下があげられます。
自社にクラウドのスキルをもつ人材がいない場合、知見があるベンダに移行作業を依頼する必要があります。それらのベンダに対する費用もコストの1つです。オンプレミス環境構築にかかるイニシャルコストと比較すると圧縮できるケースが多いでしょう。
ランニングコストでは、以下があげられます。
クラウドリフトが長引くと、オンプレミスとクラウドの費用が2重にかかってしまうため、クラウドリフトは早めに終えてオンプレミスを解約できるようにしましょう。解約に関しては下記のコストが想定されます。
データセンターや回線などは違約金が発生しないように解約告知時期の確認を事前に行いましょう。
移行する前に、利用予定のクラウド上に本番と同じ検証環境を作りましょう。クラウドの特性上、本番と同じ環境を作りやすい点もメリットです。
次にクラウド環境をテスト利用してみましょう。
オンプレミスからクラウドへの移行は、アプリケーションにさまざまな影響を及ぼします。そのため、まずは重要度が低いアプリケーションが利用している仮想サーバをクラウドへ移行することをおすすめします。このフェーズを実施することで計画段階では抽出できなかった課題を見つけられるでしょう。
クラウド環境のテスト利用が完了したら、いよいよリフトの実施です。
まずはクラウドへのリフトを行い、段階的にアプリケーションのクラウドシフトを進めていきます。クラウドリフトで滞ってしまうと、クラウド化のメリットを最大限享受できません。そのため、改修ポイントを洗い出した上で優先順位や費用対効果をもとに対応順を決定し、計画的にアプリケーションの最適化を進めることが重要です。
クラウドリフトを実施すると、クラウド基盤でのアプリケーションの運用がスタートします。
業務を円滑かつ的確に推進するためには、クラウド環境における運用体制、運用ルールの制定が必要不可欠です。クラウドの効果を最大化するためにも、定期的に運用を見直しつつコスト削減や運用効率化を模索しましょう。
クラウドリフトでオンプレ環境からクラウドへ移行した後は、よりクラウド化のメリットを受けられるようにクラウドシフト(既存システムの改修や新規開発)を行いましょう。既存システムの改修や新規開発をクラウドで行うことにより、ハードウェアの調達が不要になり、システムを拡張・縮小したいときに設定一つで柔軟に対応できるようになるため、システム管理者の運用負担を削減することができます。
最後はクラウドネイティブなシステム基盤の構築を検討しましょう。
クラウドネイティブとは、クラウド環境を前提としたアプリケーションの形態を指します。例えば、サーバ構築および運用が不要となる「サーバレスアーキテクチャ」は、クラウドネイティブを実現する手法の1つです。コンテナやマイクロサービスなど、クラウドに関するさまざまな技術を活用しながらソフトウェア開発や運用を行うため、クラウドのメリットを最大限享受できるようになるでしょう。
今回の記事ではリフトアンドシフトについて解説しました。
リフトアンドシフトはクラウド移行戦略の中でも比較的単純な方法です。以下のようなケースはリフトアンドシフトが適している例です。
上記のケースに合致する場合は、リフトアンドシフトによるクラウド移行を検討する価値があります。
移行先となるクラウドサービスの選定として、まず初めにメガクラウドと言われている5大パブリッククラウドがまず思いつくかと思います。5大パブリッククラウドもそれぞれ特長が異なるので「5大パブリッククラウド比較ガイド」を参考にしてください。
【関連記事】パブリッククラウド比較 AWS・Azure・GoogleCloud・Alibaba Cloud・IBM Cloud
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