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教えて斉田さん! 気象予報士が語る、天気予報の正しい見方や自然災害から「身を守る」ために必要なこと

教えて斉田さん! 気象予報士が語る、天気予報の正しい見方や自然災害から「身を守る」ために必要なこと

地震や台風、水害、猛暑、大雪。1年を通じて、自然災害のニュースが報道されない日はないのでは…と思うほど、全国でさまざまな自然災害が発生しています。いざ自然災害に遭遇したときに、より安全に対処するための知識を持ち合わせていますか?

ここ日本において、自然災害は対岸の火事ではなく、すぐそこにある危機として認識する必要があります。自然災害に対し正しく行動するための情報の取捨選択と防災意識の高め方を、気象予報士かつ防災士としても活躍する斉田季実治さんにお聞きしました。

人間が天気を予測する日がなくなるかもしれない? 気象予報の最新事情とは

プロフィール

気象予報士、防災士 斉田 季実治(さいた・きみはる)さん

1975年、東京都生まれ。北海道大学で海洋気象学を専攻し、在学中に気象予報士資格を取得。北海道文化放送の報道記者、民間の気象会社などを経て、2006年からNHKで気象キャスターを務める。現在は「ニュースウオッチ9」に出演中。日本気象学会会員。日本災害情報学会会員。著書に『いのちを守る気象情報』(NHK出版新書)『知識ゼロからの異常気象入門』(幻冬舎)。

まず始めに、近年の自然災害の中で、特に危険な災害は何だとお考えですか?

台風ですね。台風は、海水温が高いと勢力を増す性質があり、通常は本州付近まで北上すると勢力が衰えることが多いんです。ところが2016年、初めて東北の太平洋側に台風10号が上陸し、そのあとさらに北上して、北海道では橋が崩落するなどの被害が見られました。直近では昨年、台風21号が近畿地方を中心に甚大な被害を出しました。台風が非常に強い勢力を保ったまま上陸したのは、実に25年ぶりだったんです。

台風がなぜ危険かというと、災害の種類が多いからです。気象庁が伝える気象警報は、大雨・洪水・高波・高潮・大雪・暴風・暴風雪の7種類ですが、台風には、このうち雪に関するものを除く5種類が同時に発表されるおそれもはらんでいます。温暖化の影響もあり、今後は台風が強い勢力のまま日本に近づく機会が増えるといわれているので、十分に注意しなければなりません。

気象予報の精度は、近年どのくらい高まっているのでしょう?

予報の精度は、年々上がってきています。雨雲がどこにあるか観測する気象レーダーは1954年に運用が始まり、気象衛星「ひまわり」は1977年に打ち上げられました。まだ、50年ほどしか歴史がないんです。その50年のあいだに、さまざまな技術が発達したおかげで、いまは翌日の降水の的中率が9割近くに達しています。

台風予報の精度も上がっています。台風が進行したときに、暴風に見舞われる可能性がある「暴風警戒域」は、3日先までしか発表できませんでした。でも今年からは、5日先まで発表できるようになったんです。台風の中心位置の精度は、1980年代の24時間後の予報と、いまの72時間後の予報の精度が同程度。近い将来、もっと精度が上がれば、天気の予測はコンピュータに任せて、人間が考える必要はなくなるかもしれません。

間違えやすい災害知識は2つ

災害知識に関して、私たちが間違えがちな情報はありますか?

2つあって、1つは「大雨警報の基準」です。以前は、地域ごとに雨量の基準値を設けて、その値を超える場合に大雨警報が出されていました。しかし、いまは災害の起こりやすさを基準にして、警報を出す方向に変わっています。土砂災害であれば、土壌雨量指数というものを計算して、危険があると判断された場合に大雨警報が出される仕組みになっています。大雨警報は、単に「雨がたくさん降る」だけでなく、実はいのちを脅かす災害の危険性があることを知っておいていただきたいです。

土壌雨量指数

降った雨による土砂災害危険度の高まりを把握するための指標。降った雨が土壌中に水分量としてどれだけ溜まっているかを、タンクモデルを用いて数値化しています。大雨に伴って発生する土砂災害(がけ崩れ・土石流)は、現在降っている雨だけでなく、これまでに降った雨が土壌中に溜まることで引き起こされます。当然ながら、土壌中の水分量が多いほど、土砂災害が発生する危険性は高いのです。

もう1つは、「指定緊急避難場所に行くことだけが避難ではない」ということです。「住民の◯パーセントしか避難場所に行かなかった」というニュースを目にすることがありますが、実際には、避難場所に行く必要がない人もいるわけです。例えば、1mほどの浸水の場合、建物の2階以上にいれば安全ですよね。必ずしもその地域にいる人全員が避難する必要はないんです。

天気予報の正しい見方を知ろう。災害へ備えるために知っておくべきこと

災害に備えて、事前に確認しておくべき情報はありますか?

ハザードマップでお住まいの地域の危険性を知ることと、危険度分布など気象情報を活用することですね。危険度分布って、ご覧になったことはありますか?

いえ、見たことがありません。どこから見られるんでしょうか?

危険度分布は、気象庁のホームページから見られます。画像をクリックするだけで、土砂災害、浸水害、洪水の危険度がリアルタイムで表示されるんですよ。もし家の裏に崖があれば、土砂災害の危険度分布を見ることで「いち早く避難したほうがいい」といった判断をすることができます。

「大雨警報(土砂災害)の危険度分布」(気象庁ホームページより)

各地域の細かい気象情報を、マスメディアで伝えることはできません。皆さんが生活している地域にどのような危険があるか、避難するタイミングはいつか、そういったことをご自身で調べていただくことが、一番の「災害への備え」になると思います。

天気予報の正しい見方について教えていただきたいのですが、「はれ」や「くもり」などのマーク以外に、見ておくべき情報があれば教えてください。

天気のマークは、基本的には「はれ」「くもり」「あめ」「ゆき」の4種類です。天気予報の場合、そのうち2つを使って天気を表すんですよね。「はれときどきくもり、ところにより雨で雷を伴い激しく降る」という予報の場合、画面には「はれ」と「くもり」のマークしか表示されません。マークだけを見て外出すると「ゲリラ豪雨に遭った」「天気予報が当たらなかった」と思いがちですが、実は「ところにより雨で雷を伴い激しく降る」という予報が出されている、などのケースがあります。

視覚情報だけでなく、気象予報士の言葉に耳を傾けることが大切なんですね。災害を自分ごと化してもらうために、気象キャスターとして取り組んでいることはありますか?

避難の伝え方の改善に取り組んでいますね。昨年の西日本豪雨では、ある程度事前に災害状況が予測できていて、我々も伝えていたつもりだったにもかかわらず、あれだけ多くの方が亡くなり強いショックを受けました。伝わりやすい工夫をすることが、いのちを救うことにつながると考えています。

気象庁のホームページも、一般の人が見やすいように、昨年トップページのリニューアルが行われました。また、今年からは大雨の警戒レベルの運用がスタートしています。「警戒レベル4では全員が避難する」など、大雨の警戒レベルを5段階でわかりやすく表示することで、被害を防ごうという取り組みが進んでいるんです。

「気象警報・注意報」(気象庁ホームページより)

防災気象情報をもとにとるべき行動と、相当する警戒レベル

警戒レベル

とるべき行動

警戒レベル5相当

災害がすでに発生していることを示す警戒レベル5に相当します。何らかの災害がすでに発生している可能性が極めて高い状況となっています。命を守るための最善の行動をとってください。

警戒レベル4相当

地元の自治体が避難勧告を発令する目安となる情報です。避難が必要とされる警戒レベル4に相当します。災害が想定されている区域等では、自治体からの避難勧告の発令に留意するとともに、避難勧告が発令されていなくても危険度分布や河川の水位情報等を用いて自ら避難の判断をしてください。

警戒レベル3相当

地元の自治体が避難準備・高齢者等避難開始を発令する目安となる情報です。高齢者等の避難が必要とされる警戒レベル3に相当します。災害が想定されている区域等では、自治体からの避難準備・高齢者等避難開始の発令に留意するとともに、危険度分布や河川の水位情報等を用いて高齢者等の方は自ら避難の判断をしてください。

警戒レベル2相当

避難行動の確認が必要とされる警戒レベル2に相当します。ハザードマップ等により、災害が想定されている区域や避難先、避難経路を確認してください。

警戒レベル2

避難行動の確認が必要とされる警戒レベル2です。ハザードマップ等により、災害が想定されている区域や避難先、避難経路を確認してください。

警戒レベル1

災害への心構えを高める必要があることを示す警戒レベル1です。最新の防災気象情報等に留意するなど、災害への心構えを高めてください。

気象庁ホームページより)

「天気って楽しいんです」。天気予報に興味を持ってもらうことも私の役目

一般の方の防災意識や危機意識を高めるために、情報を発信する側に必要なことは何だと考えますか?

正常性バイアスというんですが、どれだけ危険と言われても「自分は何となく大丈夫」と思い込んでしまうのが人間です。テレビで注意喚起されているにもかかわらず、大型連休や年末年始には、毎年必ず山で遭難する人が出てしまいます。被害を防ぐために、まずは天気に興味を持っていただき、災害に対する意識を変えていくことが大切です。

天気が気にならない方はいないと思いますが、天気予報を気にしない方はいらっしゃいますよね。天気予報に興味を持ってもらうために、どんな工夫をすればいいか考えるのも、我々気象キャスターの仕事だと思っています。

例えば、どのような工夫が考えられますか?

「天気って楽しい」という気持ちを喚起することですね。映画『天気の子』には私の友人の雲研究者(荒木健太郎氏)が監修に入っているんですが、積乱雲の形や天気図などが、細かいところまでリアルに描かれています。あの映画を観て「こういう雲は危険なんだ」って知ってもらうだけでも、すごく意味があると思います。

私は今年、「星空案内人」という資格を取りましたが、満天の星空を見るためには、気象条件が良くないといけないんです。天体観測でもアウトドアでも、何でもいいですが、日常的に空を見る習慣が身に付くと、災害の危険を察知しやすくなると思います。各地に公演に行ったとき「気象情報を何で得ますか?」と質問すると、数年前まではテレビで情報を得るという方が多かったんです。でも、ここ数年はネットと答える方が多くなっています。気象キャスターとしては、習慣としてテレビを見ていただき、より具体的な情報をネットで調べていただくことをおすすめします。組み合わせて使うことで、より確実な情報が得られるようになると思いますよ。

ソフトバンクニュースでは以前、「VR防災体験車」を使用した、東京消防庁の防災訓練を記事にしました。VR防災体験車には、最新のバーチャルリアリティ技術が用いられていて、ほぼ実体験に近い形で災害時の恐怖を味わうことができます。このような、テクノロジーを使った防災の啓蒙については、どう思われますか?

そういった施設で災害の疑似体験ができるのは、とてもいいですね! 災害の恐怖はテレビの映像で知ることもできますが、実際に体験した方が、より自分ごと化できる気がします。VR防災体験車、私も体験してみたいです。

「いのちを守るための情報を発信したい」。斉田さんが考える、気象予報士の役割と仕事の流儀

斉田さんの著書『いのちを守る気象情報』(NHK出版新書)には、「子どものころから空を眺めるのが好きだった」と書かれていますが、気象予報士を志したのはいつ頃だったのでしょうか?

東日本大震災以降、「未然に防ぐ報道」の必要性が見直されましたが、私がテレビ局に入社した当時のテレビ報道というのは「災害が起きてから伝える」というのが当たり前のスタンスでした。報道記者として現場に行く立場なのに、ただ事実を伝えるだけで何もできないことが歯がゆくて…。いのちを守るために、防災に役立つ情報を伝えたいという思いがあり、気象キャスターの道を選んだんです。

天気を伝えるプロはたくさんいますが、専門家以外で防災について語れる人材は、それほど多くありません。報道記者時代には地震の特番の制作に関わったこともあり、気象と防災を絡めて語れることは、私の強みといえるかもしれません。

普段、どのような資料を使って天気を予測していますか?

私たち気象キャスターは、皆さんが目にする地上の天気図だけでなく、上空1,500mや5,500mの空の断面図を見て天気を予測します。頭の中で、断面図を立体に起こし、これからどういうふうに天気が動いていくかをイメージするんです。ひと口に雨の予報と言っても、「どのくらい雨雲が発達するか」「どの地域に降りそうか」などを分析し、気象予報士同士で擦り合わせを行います。

気象・防災のプロという立場で、さまざまな仕事に取り組まれていると思います。最後に、ご自身の仕事の流儀を教えてください。

「いのちを守るための情報を発信したい」という思いで、私はこの仕事を選びました。興味を持って天気予報を見ていただくために、ときにはかぶり物をかぶることもありますし、さまざまな場所に取材に行って、気象情報がどのように活用されているか、今後どう活用できればいいかを聞いて回ることもあります。天気予報は、当てることが目的ではなく、その予報を基に人の行動を促すことが目的です。その目的のために、できることは何でもするというのが、私の仕事の流儀です。

天気への興味・関心が、いのちを守る備えになる

自然災害は人の力が及ばない規模で、私たちの日常生活を脅かします。しかし、自然災害から身を守るための情報を、私たちは自ら取得することができます。「天気に興味を持つことが、いのちを守る備えになる」と、斉田さんは語ってくれました。対岸の火事ではなく、災害を自分ごととして捉え、防災意識を高める一歩として気象情報を知ることは、非常に有意義なことだと知ることができました。

『いのちを守る気象情報』斉田季実治著(NHK出版新書)

いのちを守る気象情報

台風、大雨、地震、火山など8つの大きな自然災害について、その基本メカニズムや予報・警報の見方、さらにそれをどう実際の行動に結びつけるかに焦点を当て解説。斉田さんの気象に関する伝えたいことが込められた気象情報入門書。

『いのちを守る気象情報』をチェックする(Yahoo!ショッピング)

スマホを活用した防災関連のアプリやサービスをまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。

地震、津波、台風、大雨… いざという時に役立つアプリやサービスをまとめてチェック! スマホを活用した防災まとめ

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(掲載日:2019年8月28日)
文:佐藤由衣
編集:エクスライト
撮影:山野一真

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