「見たいウェブサイトが表示されない」「動画がよく止まって真ん中でぐるぐるマークが……」圏外でもないのに、インターネットにつながらないという経験をしたことはありませんか? それ、もしかしたら「パケ詰まり」かもしれません。
このパケ詰まりってどうして起きるのか知っていますか? その解消法は? 「高速大容量」が特長の5G時代でも起きるのでしょうか?
そんなパケ詰まりに関するギモンについて、ソフトバンクの担当者にアレコレ聞いてきました。
今回話を聞いた人たち
ソフトバンク テクノロジ―ユニット モバイル技術統括
モバイルネットワーク本部 無線設計統括部 エリア設計部 部長
橋本 信(はしもと・まこと)
1997年入社。
モバイルネットワーク監視・保守、監視システム構築、モバイルネットワーク展開計画策定などモバイルネットワーク置局設計に従事。
現在はエリアの展開計画・設計業務全般を推進
ソフトバンク テクノロジ―ユニット モバイル技術統括
モバイルネットワーク本部 無線開発統括部 無線技術開発部 部長
畠中 秀明(はたなか・ひであき)
2002年入社。
入社以来、モバイルネットワーク置局設計、ネットワーク容量管理、パラメータ設計、設備導入に従事。
現在は、無線機ソフトウェア開発・導入業務を推進
パケ詰まりとは、アンテナが立っているのにネットにつながらないこと。知っておきたい、主な要因や解消法
橋本「まず、パケ詰まりとは、携帯電話のアンテナの本数が十分に立っているのに、『動画再生が始まらない』『ウェブページの読み込みが終わらない』など、圏外ではないのに通信速度が極端に遅くなる現象のこと。通信速度が遅いため、データの転送処理が追いついていないことで起こります。
ちなみに、通信はデジタルの信号128バイトをひとつのデータのかたまりとして伝送受信しますが、パケットはその伝送の単位を指します。つまりパケ詰まりは『パケットが詰まっている』こと。このイメージとしては、車が多くて渋滞するとスピードがでないように、基地局と端末の間で伝送されるパケットが“遅く”なっている感じですね」
パケ詰まりの主な要因は2つあります。
人が多くいる場所で同時に携帯電話が使われる場合、つまり電波の干渉が発生しているときです。
① 人が多くいる場所で同時に携帯電話が使われる場合
畠中「つまり電波の干渉が発生しているときですね。トラフィック(一定時間内にネットワーク上で転送されるデータ量)が増加、多くのユーザが同時に使用することで、自分の信号(電波)が他ユーザーの信号に埋もれてしまう、いわゆる電波干渉が発生して電波品質が劣化する状態。例えば、通勤時の駅のホームや花火や野外フェスなどのイベントなどで起こりやすくなります。
② 基地局の切り替わりがうまくいっていない場合
接続する基地局の切り替わり(ハンドオーバー)時に失敗したり、再接続処理などによる瞬間的なデータパケットの紛失(パケットロス)をきっかけとして、「パケ詰まり」が発生することがあります。。乗り物などで移動中に起きる現象で、基地局切り替わりが失敗し、電波の品質が悪くなるケースですね」
パケ詰まりはスマホだけに起こるのですか?
橋本「通信機器であれば発生するものなので、家のWi-Fi機器やIoT家電でも、発生することがあります。 あと、端末も進化しているので昔のスマホより今のスマホのほうが、ハンドオーバーのときにパケットロスしづらいですし、それからアプリ側の原因があるかもしれません。パケ詰まり要因はひとつという単純なものではないですね」
パケ詰まりの仕組み
データの送受信が成立するためには、手順(プロトコル)が必要ですが、その手順であるTCP (Transmission Control Protocol)は、通信の信頼性を高めるために、データ送信のたびに無事にデータが到達したことを知らせるために確認応答(ACK)を行っています。TCPでは一定時間内に確認応答が帰ってこないと、「パケットロスが発生した」と判断してデータを再送するため、電波干渉が起きる、伝送路の中でこの再送信が行われます。
TCP通信では、信頼性の高い通信を提供するために、パケットロスに対する再送や通信相手がデータを受信したことを確認するACKに基づいて通信を行う。基地局装置の処理輻輳や電波環境変化にアプリケーションが動作するために必要なデータの、送受信の完了が遅延するため、利用者は「パケ詰まり」を体感する。
パケットロスはパケ詰まりとどう違うのでしょうか?
畠中「電波の品質は、同時に接続要求があって自分の信号が埋もれてしまう場合、つまり干渉で悪くなります。無線電波の品質が悪いと送るデータを見失ってしまい、データが欠けてしまう。また基地局切り替わりの瞬間に基地局と端末の間で同期外れを起こし、データをうまく送受信できなくなることでパケットを失う、つまりパケットロスが発生してしまうのです。
利用者側からすると、アプリケーションを起動するために必要な残りのパケットが受けられていない、つまりアプリケーションが動いていない状態を体感しているわけですが、伝送路ではパケットロスをきっかけに送受信に失敗したデータを再送していますが、これが輻輳(ふくそう)などにより再送データが遅延すると、アプリケーションが起動しないために待っている状態となり、利用者はパケ詰まりを体感します。パケットロスは、パケ詰まりのきっかけの1つなんです」
スマホでパケ詰まりが起きたときの対処法を教えてください。
橋本「『電源ON/OFF』や『フライトモードON/OFF』で再接続してみてください。ハンドオーバーの失敗でパケ詰まりとなっているときは、これで復旧すると思います。また再接続を行うことで基地局側で空いている周波数へ割り当てしてくれる動作が働きます。
ソフトバンクは多くの周波数を有しているので、ハンドオーバーの失敗によるパケ詰まりの場合は、より電波環境が良い周波数へ早めに移るようにします。また、イベントなどで多くの人が利用しているケースでは、あらかじめ臨時基地局を設置し、負荷分散や周波数の増強を行います」
パケ詰まりは5Gで緩和される? 5Gの要素技術であるMassive MIMOが有効なワケ
「高速大容量」「多接続」「低遅延」が特長の本格的な5G時代が到来し、IoT技術によってモノがネットに接続し自動運転車が実用化され、より信頼性の高いネットワークが求められる中、パケ詰まり現象に有効なのが、5Gの要素技術であるMassive MIMO(マッシブ マイモ)だと言われています。
Massive MIMOの特長や仕組み
MIMO(Multi Input/Multi Output)は、複数のアンテナを同時に使ってデータの送受信を行う技術のこと。Massive MIMOは大規模なMIMO、つまり送受信に使うアンテナを大幅に増やしたMIMOということで、通常は4本または8本である基地局のアンテナを、最大128本に増やします。
Massive MIMOには、次の2つの特長があります。
- ビームフォーミング
携帯電話は、同じエリアにいる他の携帯電話と基地局アンテナを共有して通信するため、利用者が多くなると通信速度は低下しやすくなりますが、Massive MIMOは「ビームフォーミング」という技術によって、電波を通信相手(携帯電話)に集中して向けることで、他の携帯電話・基地局との電波干渉を防ぎ、通信品質を向上できる特長があります。
- 空間多重方式
送信アンテナ数に応じて複数の情報信号(ストリーム)を同時に送信することにより、空間的にストリームを多重化して伝送する方式です。これによって、高めのスループットを維持できるため、パケ詰まりを避けるのに有効になります。
4G時代から先駆けて導入しているMassive MIMO。その経験を5Gでも生かす
4G時代から5G時代にかけて、パケ詰まりの起きる要因は変わってくるのでしょうか?
橋本「扱うデータ量やネットワーク側の通信速度は異なりますが、基本的には要因は同じだと思います。2G、3G、4G、5Gに合うデータ量と通信速度が共にリンクしているので、5Gだからといってパケ詰まりが無くなることはなくて、むしろパケ詰まり対処の難しさとは戦っていくことになると思います。
今後は5Gの特長である多数同時接続で多数のセンサーやIoTモジュールなどからの通信要求があるなど、優先的なトラフィックが発生する場合は、スマホに割り当てる無線リソースが絞られることが要因のパケ詰まりが発生する可能性があると思います」
5G時代のパケ詰まりには、Massive MIMOが有効と聞きました。なぜでしょうか?
畠中「Massive MIMOの特長でもある2つの技術によって通信や周波数の効率を上げることができるので、パケ詰まりにも有効に対応できます。例えば、人が多い場所で、たくさんの通信が発生してアクセスが一斉に集中したときは、スマホ利用者のアクセスそれぞれに対して専用の経路を用意する『空間多重』の技術を使い、トラフィックを分散することで、パケットロスの機会を軽減することができます。
また、『ビームフォーミング』という技術によって、基地局の大容量化が可能なので、電車などの移動環境にも適用したネットワーク容量を確保することができるのです。ちなみに複数のアンテナを用いるMassive MIMOは、ひとつの回線にアクセスが集中することで起きる輻輳は起きにくいという特長もあります」
5G時代はリッチコンテンツも増えると思いますが、パケ詰まりの要因はどのように変わってくるのでしょうか?
橋本「新規に割り当てられた5G周波数は高い周波数帯であり、帯域幅が広い事が特長です。ひとつの基地局がカバーするエリアが少なくなり、複数基地局で分散され1局集中が避けられるので、パケ詰まりの頻度は下がるかなと。その一方で、基地局の切り替わりが多くなることを考えると、ハンドオーバーが頻繁に発生し、パケ詰まりの可能性が多くなるという事もあると思います。また5Gでは、よりリアルタイム性を求めるものもありますので、パケ詰まりの定義は4Gとは変ってくるのかなとも思います。いずれにせよ、5Gの基地局建設においては、想定されるパケ詰まりに対応する対策をそれぞれに打っています」
5Gエリアを拡大し、スマホ以外の要求値にも応えるネットワークの設計とは?
4G時代と5G時代に行ったネットワーク設計での重視点は何でしょうか?
畠中「4G時代は、広く、人が多くても輻輳しない、特にスマホに対してのネットワークが必要でした。これからは、スマホだけではなく機器間通信や工場などのニーズに対応する、新たなネットワーク設計が必要です。5Gの特長である『超高速』『多数同時接続』『超低遅延』という、これまで以上に要求値の異なるトラフィックミックスに対して、ネットワークとして柔軟に対応できるセル設計、設定デザイン、機能開発が求められると思います。
橋本「ソフトバンクは、23万局というロケーションの豊富さと、複数の周波数を持っている冗長性を生かす事ができます。5Gは広げていくのが難しい周波数帯ですが、LTEで運用している低い周波数をうまく使い、さらに需要が多いところは帯域幅が大きい高い周波数帯を組み合わせて、広い5Gエリアを創っていきたいと考えています」
パケ詰まりに強い、ソフトバンクが目指す今後のネットワーク作りについて教えてください
橋本「4G時代にいち早くMassive MIMOを取り入れて運用ノウハウを蓄積してきたように、これまで積み上げ経験してきた大事なものやノウハウをベースに継続性を持ちつつ、進化していくことが大事だと思います。要求は高くなっていきますが、常に新しいものを取り入れ、信頼性・可用性の高いネットワークのデザインにチャレンジしていきたいと思います」
ヒト・モノ・コトをつなぐ通信で、新たな可能性を
空気や水と同じように、誰もが意識せずに通信を利用できる未来へ。ソフトバンクは常に技術革新に挑戦し、通信をベースにした新しい技術を提供しています。
(掲載日:2020年10月8日)
文:ソフトバンクニュース編集部